人事評価制度を十分に機能させ、従業員の納得感を高めるためには、個々の能力やモチベーションを引き出し、目標達成に向けて主体的に行動できるように促すパフォーマンスマネジメントが欠かせません。
この背景のもと、今回ご紹介する三井化学様では、当社の提供するe-ラーニングをご導入いただき、効果的なパフォーマンスマネジメント研修やボスマネジメント研修を展開。評価制度の運用改善や、コミュニケーションの質の向上、さらに従業員エンゲージメントの向上などに繋げられました。本インタビューでは、人事部の片寄様、山根様、労働組合の大内様に、これまでの経緯や研修内容、成果などをお伺いしました。
――まずはじめに、貴社の人材戦略について簡単にお聞かせいただけないでしょうか。
片寄様:弊社では、事業ポートフォリオ変革の追求、ソリューション型ビジネスモデルの構築、サーキュラーエコノミーへの対応強化、DXを通じた企業変革、経営基盤・事業基盤の変革加速という5つの戦略をVISION2030として掲げ、それらに連動した人材戦略を実行しています。
具体的な内容は、「求める人材の獲得・育成・リテンションを徹底すること」、「人材のエンゲージメントを向上させること」、そして「人事ガバナンスを整え、人的資本価値を社内外に発信すること」の3点です。なかでもエンゲージメント向上に関しては、業績評価の見直しなどを通じて、全社的に取り組んでいます。
――エンゲージメント調査を実施したそうですが、結果はいかがでしたか?
片寄様:2021年に実施したエンゲージメント調査の結果をもとに改善の余地が大きい領域を抜き出したところ、最上位となったのは「業績管理=評価制度」でした。また第2位の「総報酬と認知」に関しても、評価の公正さや透明性が課題となっているため、評価制度を見直す必要があると判断した次第です。
――新たな評価制度について具体的な内容をお聞かせください。
片寄様:制度の目的として「評価制度により、自分の長所と改善点が明確になる」というところを目指すとともに、それを実現する方策として「日頃の行動の把握およびフィードバックの具体性強化」や「改善点をフィードバックする方法の習得」を推進しています。また、フィードバックの前段階として、上司評価を記入した業績評価シートを返却することで透明性の向上を図ったり、これまで曖昧だった行動評価の基準を具体化したりといった取り組みも行っています。
――評価制度を見直すにあたって、評価する上司の役割に変化はありましたか?
片寄様:ライン管理者に期待する役割についても、いくつか見直しました。例えば、部下と期中の対話を頻繁に行い、目標達成や成長を後押ししたり、部下の意見をしっかり傾聴したり、対話や傾聴で気づいたことを都度フィードバックするといったことに比重を置くようにしています。
年一回の目標設定・評価だけでは十分ではありません。有効なのは期中のタイムリーな対話です。部下の職務遂行を対話やフィードバックを通じて支援・軌道調整する、そうした通年のパフォーマンスマネジメントを強化しています。
――それが本日のテーマであるパフォーマンスマネジメント研修というわけですね。ではここからは研修概要およびフィードバック演習についてご紹介いただけないでしょうか。
山根様:パフォーマンスマネジメント研修は、「新評価制度の目的の説明」、「新評価制度のプロセスの説明」、「評価演習」、「フィードバック演習」という4部構成とし、いずれも動画視聴という形式をとりました。
ただフィードバック演習のみ動画視聴に加え、オンラインでの集合研修(計34回)も実施しました。研修の実施時期は、2022年9月中旬から翌年1月までの4カ月強。対象者は、昨年度までの研修を受講済みの方も含め、全評価者としています。
――フィードバック演習で特に注力した点は何ですか?
山根様:まず動画視聴においては、ローパフォーマンス状態にある社員をフィードバック対象と想定し、ネガティブフィードバックを行うことに注力しました。理由としては、ハイパフォーマンス状態だった人材も環境や期待する役割が変わることでローパフォーマンス化し得るからです。また、期待する役割と成果にギャップが生じている部下に改善を促すネガティブフィードバックは、評価者にとって難しいからです。
もう1つ注力したのは、オンライン集合研修において、受講者同士の学びの促進した点です。集合研修ではロールプレイを実施したのですが、日々のフィードバックで実践できるように、事務局でシナリオを用意せず、各参加者の実際の部下を対象にフィードバックするという想定で行いました。
――動画視聴、オンライン集合研修それぞれの具体的な内容をお聞かせください。
山根様:動画は、冒頭「人事部長メッセージ」にてフィードバック演習を行う意義・目的を伝えた上で、「はじめに」「ローパフォーマンスとは」「パフォーマンス別のアプローチ」「上司が変えること」「本人が変えること」「業績改善に向けたマネジメント」「まとめ」という構成としました。なかでも「ローパフォーマンスとは」と「業績改善に向けたマネジメント」については、マンパワーグループの既存コンテンツを当社目的に合わせカスタマイズしました。
一方、オンライン集合研修に関しては、動画の視聴後に受講していただくことを想定しており、構成は、「チェックイン」「フィードバック演習(動画)の復習」「ネガティブフィードバックのコメント」「ロールプレイング」「実践に向けて」といった内容となっております。研修の特徴として、単に講師の話を聞くだけではなく、現場の課題を受講者同士がチャットで共有したり、部下との面談を想定したロールプレイングを行ったり、講師とのQ&Aセッションで疑問や不安を解消するなど、インタラクティブに学びを深められるような形に設計しました。
――実際に受講した方々の反響はいかがでしたか?
山根様:研修終了後に受講者にアンケートを取ったところ、フィードバック方法の理解度については99.7%の受講者から「非常に理解できた」または「概ね理解できた」と回答がありました。また、ギャップが生じている部下へのフィードバックについて、職場で実践できると感じるかと質問したところ、95.8%の受講者に「実践できる」または「概ね実践できる」と回答いただきました。具体的には「学んだ内容を即実践してみたいと感じた」、「面談は育成の場だと認識を改めることができた」といったコメントが見られました。
――パフォーマンスマネジメント研修の今後の取り組みについてお聞かせください。
山根様:効果検証に関しては、現在、23年度のエンゲージメント調査を実施しており、また労働組合のほうでは毎年、全組合員対象の目標設定面談アンケートを実施中です。
評価制度の運用改善に関しては、以前よりマイナス評価が増えてはいるものの、依然として、中心化傾向が残っているため、各人の等級に応じた高い目標設定や、よりメリハリある適正な評価など、更なる運用浸透を図っていきたいと思います。
また、ネガティブフィードバックをはじめ、対話を通じた行動変容を起こすためには、評価者のスキル向上が不可欠ですので、研修を継続・拡充させていきます。さらに評価される人の心構えも行動変容の上では重要ですので、今後は労働組合ともさらに協働しながら取り組んでいきたいと考えております。
――続いて労働組合の取り組みについてお伺いしたいと思います。さきほど目標設定面談アンケートを実施されているとのお話がありましたが、こちらはどのような内容でしょうか?
大内様:目標設定面談アンケートは、全組合員を対象に毎年9月頃に実施している取り組みで、業績評価制度における組合員の納得度を把握し、会社に改善要請を行うことで、より良い制度運用に繋げることが目的です。結果については、労使協議にて報告と改善要請を行い、支部ごとの取り組みも実施しています。
――その中でフィードバック面談はどのように位置づけられているのでしょうか。また、実際のアンケート結果についてもお聞かせください。
大内様:フィードバック面談は前年度の評価を通知する際に上司-部下間で行うもので、評価結果とあわせて、評価された行動や今後取り組むべき改善領域について対話を行う場です。重回帰分析の結果からも、エンゲージメントや社員の働きがいに影響する重点課題と捉え、理由付きフィードバック面談の実施率100%を目指して毎年労使で確認、改善に取り組んでいます。こうした取り組みの結果、5年前と比べ、理由付きフィードバックの実施率は14ポイント、評価への納得度は6ポイント向上しました。
――労働組合では被評価者訓練も行っているそうですが、これはどのような取り組みですか?
大内様:我々専従の役員が講師となって、組合員向けに、業績評価制度全般や目標設定、評価方法に関する教育を行っています。東京支部では期初の目標設定と、期末の業績評価の時期、あわせて年2回実施しています。その中で理由付きフィードバックの重要性を伝え、次の目標設定や能力開発に繋げましょうと呼びかけています。
良いフィードバック面談には双方向のコミュニケーションが必要になるため、組合員各人が面談に臨む際のワンポイントレッスン等も実施しています。面談のなかで組合員が主導すべきポイントや、上司との認識の不一致が起こる要因、対策としての考え方などを伝えています。
組合員アンケートのなかで「理由付きフィードバックがあったか、なかったか」という設問がありますが、結果をもとに行ったヒアリングから興味深いことが分かりました。「面談がなかった」と答えた組合員の約7割は、面談そのものの実施有無というよりも、「上司-部下間の認識の齟齬」と「納得度の不足」によって、フィードバックが無いと感じていたのです。これは会社が行う評価者訓練においても共有してもらっていますが、組合員側が留意できる点でもあります。フィードバック面談の進め方として、評価結果の通知など導入部分は上司が主導し、その後の具体的な事実のすり合わせに関しては、部下が主導して行っていくことを推奨しています。
――労働組合の取り組みとして、今年1月に“ボスマネジメント”セミナーを開催されたそうですね。こちらはそもそもどのような経緯で行ったのでしょうか?
大内様:毎年行っている目標設定面談アンケートの自由記述を見てみると、「結局は上司の好き嫌いでしょ」、「期待していません」といった辛辣なコメントも少なくありません。私自身、果たして上司のフィードバックに納得できない組合員の声と向き合えているのか、上司と部下のコミュニケーションの質を向上させ、働きがいを高めることはできないか、といった問題意識を抱えていました。
そうした中、評価者向けの「パフォーマンスマネジメント研修」にオブザーバーとして参加しました。その実用的な内容に感銘を受け、この内容は評価者だけではなく、組合員たちにもぜひ聞いてもらいたいと思ったことがきっかけです。
そこで「評価者と共通のコンセプトをインプットすることで、相互理解と対話を促進する」、「ネガティブフィードバックを受け止め、自己成長とWillの実現に向けて上司との健全な対話ができるよう支援する」、「様々な属性の受講者が現場で活かせる実用的なマインド、スキルを学ぶ」という3つのコンセプトを立て、マンパワーグループの難波先生に組合員向けの研修企画を依頼しました。
――セミナーの内容や期待効果などを教えてください。
大内様:期待効果として、上司との共通認識に基づくコミュニケーション上の悩み解決や、上司との良好なコミュニケーションによるスムーズで納得性ある業績評価、自己成長に向けた対話の促進などを挙げました。カリキュラムとしては、キャリアマネジメントの考え方やボスマネジメントの考え方などを、非常に具体的な内容でレクチャーいただきました。
――受講者の満足度はいかがでしたか?また、どのような反響やフィードバックがございましたか?
大内様:東京支部の組合員の1割強が手挙げで参加し、年代・職群・職種を見ると幅広い属性の方が参加してくれたのですが、受講者アンケートでは総合満足度が90%となりました。印象に残ったポイントなどを質問したところ、「『できない』のではなく『やらない選択をしている』はまさにその通りでハッとさせられた」、「時代が変わることを前提に、変化についていけるよう常に学び続けることの大切さを学んだ」など、前向きなフィードバックが得られました。このセミナーの効果や残課題は次年度のアンケート等で確認して、次なる取り組みに繋げていきたいと考えています。
――本日は貴重なお話ありがとうございました。
企業名:三井化学株式会社
ホームページ:https://jp.mitsuichemicals.com/
三井化学株式会社 人事部 片寄 雄介様/山根 真佑佳様
三井化学労働組合 大内 幸実様
●ネガティブフィードバック講座eラーニング
ローパフォーマーが発生する要因や組織内に与える影響を理解するとともに、行動変容・業績改善に向けた、適切なコミュニケーション手法を学習します。
https://mpg.rightmanagement.jp/tm/development/career/e_learning/details10.html
●部下(被評価者)向け キャリアマネジメント&ボスマネジメント eラーニング
部下側にフォーカスし、今の時代に求められるキャリアの考え方、上司とのコミュニケーションのポイントを学習します。
https://mpg.rightmanagement.jp/tm/development/career/e_learning/details12.html