「目の前の業務は淡々とこなすが、新しい挑戦はしようとしない」
「いつも仕事に7割程度の力で取り組み、目標達成に対する意欲も低い」
――こうした"受け身"な社員を、社内で見かけることも多いかもしれません。仕事へのモチベーションが低い社員には、共通の原因が考えられます。それは「キャリアデザイン」がうまくできておらず、将来のビジョンを描けていないことです。自分の可能性や将来の展望を見つけられないまま、意欲を失ってしまう人材も珍しくありません。だからこそ、企業がキャリア設計を支援し、社員の前向きなマインドセットを促す必要があるのです。
そこで今回は、『二流を超一流に変える「心」の燃やし方』の著者でいらっしゃる野田稔教授(明治大学専門職大学院)をお招きし、効果的なキャリアデザインの手法についてうかがいました。野田教授の語る「"未来逆算"のキャリアデザイン」とは、一体どのようなものでしょうか。
本稿は、前半で「キャリアデザイン」の流れや方法について解説し、後半で野田教授によるキャリアデザイン論を紹介します。キャリアデザインについて基礎から応用まで理解できる【特別版】となっていますので、ぜひ最後までお付き合いください。
※セミナーの詳しい内容については、ダウンロード資料(無料)よりお読みいただけます。
キャリアデザインとは、将来なりたい姿を実現するために、職業人生を設計することです。
具体的には、「何年目までにどんな役職に就いておきたいのか」「何歳までにどんなスキルを身につけるべきなのか」といった細かい将来設計を立てていきます。キャリアデザインは職業人生の節目に行われることが多く、「5年ごと」「昇格後」「定年前」など企業によってタイミングはさまざまです。新しいキャリアデザインを設計することで、明確な目標に向かって努力できるようになるため、社員のモチベーション向上が期待できるでしょう。
キャリアデザインの意味や企業がキャリデザインを支援するメリットやデメリット、具体的な手法などの概要は「【手法例つき】キャリアデザインの正体とは?目的・メリットを解説します」で詳しく解説しています。
近年、社会状況の変化に伴って、キャリアデザインの重要性が高まっています。
ここでは、キャリアデザインが注目されている理由について4つの観点から解説します。
最近では市場競争の国際化や消費者ニーズの多様化、テクノロジーの進化など企業を取り巻く環境が目まぐるしく変化しています。こうした社会状況では、社員が身につけたスキルが早期に陳腐化してしまう可能性も高いです。そのため、企業として社員にキャリアデザインを促すことで、外部環境の変化や求められている役割を自覚させることができます。結果として、時代に合わせたスキルや知識を柔軟に習得するよう社員に促せるでしょう。
今まで日本で当たり前とされていた終身雇用は、あくまで右肩上がりの経済成長を前提とした雇用制度でした。ただ、不景気やGDPの低成長を背景に、制度の維持が難しくなっています。そうなると、社員が定年まで一社にとどまることが通例ではなくなり、転職や再就職が当たり前になるでしょう。そのため、人材一人ひとりがキャリアデザインによって自律的にキャリアを形成していく必要があるのです。企業としても社員にキャリアデザインを促すことで、自社で働く意義や目的を再確認してもらえるため、離職防止を図る効果が期待できます。
日本では健康寿命が延びており、ある調査では「2007年に生まれた子どもの半数が107歳より長く生きる」と推計されています(※)。長寿化に伴い、当然1人当たりの働く年数も延びることになるでしょう。実際、定年は65歳まで延長され、2021年からは70歳までの就業確保が企業の努力義務となりました。このようにキャリアステージが長くなっている分、人材一人ひとりがより長い目で見てキャリアを設計していく必要があります。企業としても、社員にキャリアデザインを促すことで、自社での長期的な雇用や活躍を図りやすくなるでしょう。
※参考:人生 100 年時代構想会議 中間報告|首相官邸ホームページ(PDF)
共働き世帯が増えたり、副業・兼業やリモートワークが浸透したりするなかで、人材一人ひとりの労働観が多様化しています。例えば、「高い収入を得るより、ワーク・ライフ・バランスを重視したい」「極力出社はせず、在宅勤務で働きたい」「社会貢献のできるようなビジネスに携わりたい」などさまざまです。こうして労働観が多様化する時代では、企業がキャリアの主体となって一律にマネジメントすることは困難でしょう。そのため、社員に自分の価値観に沿ったキャリアデザインを促し、自律的なキャリアを形成してもらうことが重要になっています。
キャリアデザインを実施する際には、どのような流れで行えばよいのでしょうか。
ここでは、一般的なキャリアデザインの流れを「4つ」のステップで紹介します。
まずは社員に、過去の職歴や業務内容を振り返ってもらいます。具体的には、「いつどの業務で成果を挙げられたのか」「逆に、成果を挙げられずに悔しい思いをしたことはあるか」「ライフイベントでの転機はいつだったのか」などを内省してもらいましょう。過去の振り返りを通じて、社員に自分の行動特性や課題を理解してもらえます。
続いては、自分の持っている能力や知識、仕事における価値観、組織内での役割、外部環境の変化などを分析してもらいます。その際は「WILL(したいこと)」「CAN(できること)」「MUST(期待されていること)」というフレームワークを活用すると、スムーズな自己理解につなげられるでしょう。上司や同僚からあらかじめ意見をもらったり、360度評価を行ったりすることで、より客観的で正確な自己分析を行うことが可能です。
Will Can Mustのそれぞれの意味や、従業員のWill Can Mustを満たす方法は、「Will Can Mustとは?3つにズレがある人材への企業の対処法」で詳しく解説していますので、ご一読ください。
過去のキャリアや自分の強み・価値観などを踏まえて、「将来どうなっていたいか」というキャリアの到達地点を考えてもらいます。この際、1~2年先の短期的なスパンで考えてしまうと、キャリアにあまり変化が起こらないケースもあるでしょう。そのため、「3年後」や「5年後」、「10年後」などのように長期的な視点でなりたい姿を想像してもらうことが大切です。
最後は将来なりたい姿を踏まえて、細かな行動計画を立ててもらいましょう。その際、理想像と現在のギャップを確認し、足りないスキルや能力を洗い出すことも大切です。そのうえで、「1年後には営業として商談力を身につけ、月○○件の成約を目指す」「3年後までに宅建の資格を取得する」といった目標を立ててもらいます。また、転職や結婚などのライフイベントも考慮することで、より具体的な行動計画を立ててもらえるでしょう。
企業はどのような方法で、社員のキャリアデザインを行えばよいのでしょうか。
ここでは、キャリアデザインを実施する効果的な手法について紹介します。
キャリアデザイン研修とは、人材育成の専門家による指導のもと、自己分析から将来のキャリア設計、行動計画の立案まで一貫して行われる研修のことです。一般的には「キャリアプランニングシート」と呼ばれる表に行動計画を可視化できるため、日常業務にも活かしやすいのが特徴といえます。また研修は1~2日かけて行われることが多いため、社員に業務から離れてじっくり内省を促せるのも利点でしょう。
詳しくは「キャリアデザイン研修の効果とは?効果を最大化させる4つのポイント」をあわせてご一読ください。
キャリアコンサルタントとは、職業選択や能力開発の相談に乗る専門職のことです。
社内にキャリア相談窓口を設置し、キャリアコンサルタントを配置することで、いつでも社員のキャリアデザインを実施できるようになります。キャリアコンサルタントは自社の人事社員が資格を取って任命される場合もあれば、社外に依頼するケースも少なくありません。社外のキャリアコンサルタントは自社とは関係のない第三者なので、社員も社内のしがらみを気にすることなく、気持ちを打ち明けやすいのがメリットと言えるでしょう。
社員にキャリアを設計してもらったあとは、それを実現できるように企業として支援する姿勢が重要です。
ここでは、キャリアデザイン後の代表的な支援方法について紹介します。
柔軟な異動制度を設けることで、社員に理想の職種や部署に就いてもらうための支援ができます。例えば、「社内公募制度」は役職や職種を社内で公募して、異動の希望者を募る制度です。また、社員が自らの経歴や能力を公表し、希望の部署に売り込む「社内FA制度」もあります。「いつでも自分の意思で仕事を選択できる」という環境であれば、社員のモチベーションも高めやすく、社内の流動化によって適材適所も図りやすくなるでしょう。
理想のキャリアを求めて自社を離れたものの、戻ってやり直したいという社員も少なくありません。その際、社員のカムバックを歓迎するのが「ジョブリターン制度」です。ジョブリターン制度とは、介護や育児で職場を離れたり、キャリアアップのために転職したりした社員を再雇用する制度のことをいいます。企業としては出戻り社員のキャリア形成を支援できるだけでなく、採用や育成の費用を抑えられるというメリットも得られるでしょう。
社員のなかには、理想のキャリアをかなえるために今の働き方を変えざるを得ないという人もいます。そのため、柔軟な勤務制度を設けておくことも、社員のキャリア形成支援につながるでしょう。例えば、時短勤務やフレックスタイム、在宅勤務などの制度を設けることもひとつの手段です。また、副業・兼業を許容することで、社員に社外活動を通じたスキルアップも促せます。企業としては、多様な労働観に対応する姿勢を持つことが大切です。
1on1ミーティングとは、上司と部下が定期的に1対1で行う面談のことです。業務で悩んでいることや今後の進路についてなど、キャリアに関してさまざまな振り返りを行う場として活用されています。例えば、キャリアデザインで決めた行動目標の進捗を確認したり、目標達成のために何ができるかを話し合ったりすることが可能です。上司が定期的に部下の相談に乗ることで、キャリアデザインの内容をより実現させやすくなるでしょう。詳しくは「1on1ミーティングで何を話すべき?効果を高めるためのテーマ・ポイントを解説!」をあわせてご覧ください。
ここまでは、キャリアデザインの流れや方法について解説してきました。本章からは、先日開催された野田稔教授のセミナー『期待されるミドルシニアの活躍』より、効果的なキャリアデザインについて抜粋して紹介します。
――キャリアという言葉は、「積み重ねた職歴」を意味する言葉です。ただ、野田教授はより実りのある職業人生を設計できるよう、キャリアという言葉を再定義しています。新たな定義とはどんな内容なのでしょうか。
キャリアというのは、過去に通ってきた道のりのことをいいます。ただ、今現実に働いている身からすれば、過去のことを根掘り葉掘り聞かれるより、未来の話をする方が生産的です。そこで野田教授は、未来志向型で「キャリア」という言葉を再定義しました。それが、「働くことを通じて志を実現する成長のプロセス」です。特に重要なのが、「志の実現」、つまり「WILL(やりたいこと)」を成し遂げることです。また、やりたいことを実現するには当然ながら新たな能力を身につける努力が必要なので、「成長のプロセス」という定義にしました。
では、なぜ「仕事」ではなく「働く」と定義したのでしょうか。ここには、大きな意味があります。というのも、長野県の伊那地方では、「仕事」という言葉と「働く」という言葉を明確に使い分けているそうです。「仕事」はお金を稼ぐための業務を意味し、「働く」は「傍(はた)」を「楽(らく)にする」活動を意味します。つまり、「働く」には、仕事以外にも地域のお祭りに参加したり、家事をしたりという社会活動全般が含まれるということです。副業・兼業が当たり前となっている今では、社外での活動も含めてキャリアを考えるべきでしょう。
――野田教授いわく、理想のキャリアをうまく実現している人には"ある特徴"があるそうです。その特徴とは何なのか、成功者の事例も踏まえながら紹介します。
キャリアというのは、バックキャスト(未来から逆算で考える思考法)で設計すべきだと考えています。「将来組織でこのように見られたい」という理想像があるのなら、そこに到達するにはどうしたらよいかを考え、先取りして学習や行動を実行するのです。その結果、誰よりも先に次のフェーズへ進むことが可能になるでしょう。
これは、当校のゼミに通っていたある研究者の話です。彼は研究者として十分な成果を挙げ、今後はより大きな仕事に挑戦したいと考えていました。ただ、大規模な研究を行うためには研究チームを組む必要があり、組織をまとめるためのマネジメント能力やリーダーシップが自分には不足していると痛感していたのです。
そこで彼は30代で一念発起し、チームビルディングを学ぶために私のゼミの門をたたいてくれました。彼は当校で学んだことを会社でも活かし、だんだんと周囲から認められるようになります。結果として、在学中に研究チームをひとつ任され、さらに新規事業開発室というより大きな研究のできる部署に栄転できたのです。彼は未来から逆算し、自分の能力不足に早めに気づいて行動したからこそ、理想のキャリアに到達できたのだと思います。
2つ目の例は、あるキャリアコンサルタントの話です。そのキャリアコンサルタントは、同僚が進路に迷っている様子を見て、彼らを助けたいと思い必死にキャリア開発について勉強しました。そして、会社に進言して「キャリア相談室」を開設し、初代室長に任命されたのです。これも自分のやりたいことを信じ、先取りして行動した成功例と言えます。特に50代や60代は、後進に席を譲る必要があります。その際、ただ役職を退くだけでは、その後のモチベーション低下を招きかねません。だからこそ、自分で新たな椅子を作り出すことも大切なのです。
――キャリアデザインは、先の長い20~30代の若年層にのみ必要なものという誤解も少なくありません。野田教授は、「ミドルシニアにこそキャリアデザインは必要である」と語ります。その真意とは、何なのでしょうか。
今は平均寿命が延びており、人生100年時代ともいわれています。長寿化の現代においては、50代は折り返し地点でしかありません。「50代からじゃ遅い」と考えてしまうのは、きっと60歳(※)という定年を意識してしまうからです。現在では70歳までの就業確保が企業に義務付けられていますし、実際のところ75歳や80歳まで活躍し続けている人もいます。ミドルシニアから新たなキャリアをデザインすることは、決して遅くはないのです。
※60歳という定年表記について......2012年より65歳までの雇用確保措置が企業に義務付けられているため、定年が65歳の企業もあります。
では、企業としてミドルシニアの人材を活躍させるにはどうしたらよいでしょうか。ある大手企業では、3つのポイントを実践しているそうです。それが「待っていないでとりに行く姿勢を持たせる」「会社の外に活路を見出させる」「心の自走ペダルを持たせる」というものです。それぞれについて説明すると、まず1つ目は......
※この続きは、セミナー資料でご覧いただけます。無料でダウンロード可能ですので、お気軽にご活用ください。
※ミドルシニア社員を活躍させる方法について詳しく知りたい方は、「【専門家に聞く】ミドル・シニア人材を活躍させる"3つ"の鉄則とは?」も合わせてお読みください。
社員の年代によって目指すべき目標が変わるため、キャリアデザインの方法も異なります。そのため、社員のフェーズに合わせて最適なキャリアデザインの支援策を実施することが大切です。当社では、30代・40代・50代・定年前をはじめ、年代ごとに効果的なキャリアデザイン研修サービスを提供し、人材の充実したキャリア設計を支援しています。キャリアデザインについて課題をお持ちの際には、当社までお気軽にお問い合わせください。
ライトマネジメントのキャリア開発は、企業向け研修のなかでも圧倒的に高い採用実績を誇るソリューションです。
組織内で自分の役割や期待されていること、強みを理解した上で、そのキャリアプランを行動計画に落とし込み、自発的な向上心を磨きます。また、経営環境の変化などにより、期待通りのパフォーマンスを発揮できない方に向けた再活性化プログラムもご用意。20~30代の若年層のほか、40代・50代の中高年層の意識改革・行動変容に幅広く貢献しています。
キャリア開発の具体的な取り組み方法や成功させるポイントついてはこちらのEbookで解説します。あわせてご覧ください。