社員のパフォーマンスの向上やキャリア支援を目的に、1on1ミーティングを導入している企業も多いと思います。ただ、やり方によっては「毎回ただの雑談で終わってしまう」「上司からの一方的な指導で、部下が委縮してしまう」という事態に陥りかねません。そこで今回は、1on1ミーティングで効果を出すためのポイントや最適なテーマについて解説します。「1on1ミーティングがなぜ必要か」から分かりやすく紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
そもそも1on1ミーティングとは、どのような形式の面談なのでしょうか。
ここでは、混同されがちな「評価面談」との違いも合わせて解説します。
1on1ミーティングとは、部下と上司が1対1で定期的に行う面談のことをいいます。週1回・隔週1回・月1回などのペースで実施され、1回の面談当たり30~60分の時間が設けられることが一般的です。1on1ミーティングでは、部下に「普段の業務で悩んでいること」や「キャリアを実現するための課題」などについて話してもらいます。あくまで上司は部下の意見に対して傾聴・共感に徹し、本人の自己解決をフォローするのが特徴です。
1on1ミーティングには、上司と部下のコミュニケーションを活性化させることで、部下の心理的安全性を高めたり、自律的な成長を促したりという目的があります。1on1ミーティングは米国のシリコンバレーで広く実施されている育成手法ですが、日本ではヤフー株式会社が先駆けて導入したことで数多くの企業へと浸透しました。
1on1ミーティングと混同されがちな人事手法に「評価面談」があります。評価面談とは、上司が部下に人事考課の結果を伝え、改善に向けてアドバイスする面談のことです。1on1ミーティングが週1回・隔週などの高頻度で行われるのに対し、評価面談は四半期に1回・半期に1回という長期スパンでしか行われません。また、1on1ミーティングではエンゲージメント向上や自律性の促進などが目的となるのに対し、評価面談は評価の通達と振り返りが目的です。面談のゴールや期待する成果が異なるため、それぞれの目的を理解したうえで導入することが大切でしょう。
正しい「キャリア面談と1on1」が部下のやる気を引き出す
1on1ミーティングを実施することで、企業にどのような利点があるのでしょうか。
ここでは、大きく3つのメリットについて解説します。
コミュニケーション頻度が増えることで、上司・部下間の信頼関係が深まるのが大きなメリットです。両者が良好な関係を築ければ、部下がアイデアを出しやすくなったり、スピーディに報告・相談できたりという効果が期待できます。社員間の連携がスムーズになることで、組織全体の生産性を向上させることにもつながるでしょう。
1on1ミーティングは、「経験学習モデル」という成長のフレームワークを効果的に実践できる手法でもあります。経験学習モデルとは、教育理論家のデビット・コルブ氏によって提唱された理論で、「経験→内省→教訓→応用」のサイクルを通じて人材の能力を高められるというものです。つまり、人は日常業務のなかで経験したことを振り返り、そこから何らかの教訓を導き出すことで、ほかの業務にもスムーズに生かせるようになるということです。
社員のなかには、業務上の失敗・成功体験を誰にも共有できず、内省できていない人も多いかもしれません。だからこそ、1on1ミーティングを導入することで、上司が相談に乗りながら部下に対して経験の振り返り・教訓化を促せるようになります。経験学習モデルを効率良く回すことで、部下の成長もあと押ししやすくなるでしょう。
上司との交流が促されることで、部下は「自分のことをしっかり見てくれている」と感じられるようになります。結果的に会社への愛着や貢献意欲(エンゲージメント)が高まることも、メリットと言えるでしょう。ちなみに、「上司に不満がある」「人間関係が合わない」というのは離職理由としてよく挙げられる内容です。そのため、1on1ミーティングで組織内のコミュニケーションを良好にすることで、定着率の向上も期待できるでしょう。
なぜ1on1ミーティングはさまざまな企業で導入が進んでいるのでしょうか。
ここでは、1on1ミーティングが注目されている背景について解説します。
現在は「VUCA」(※)ともいわれ、社会の変化が激しく、先読みが難しい時代です。こうした状況においては、社員一人ひとりに時代の変化を敏感に察知させ、より柔軟なスキルアップを促すことが欠かせません。その点を踏まえ、1on1ミーティングを通じて社員に定期的に内省を促すことで、スピーディな成長をサポートできるでしょう。
また、1on1からメリットを得られるのは決して部下だけではありません。上司側にとっても、部下から組織に対する意見やアイデアをタイムリーに聞き出し、業務改善につなげられます。上司ひとりでは察知できない市場や顧客ニーズなどの情報にも、より敏感にキャッチアップできるようになるでしょう。このように上司・部下が密に連携をとりながら組織のアップデートを図れるという理由から、1on1ミーティングを導入する企業もあります。
※VUCA:「Volatility(変動的)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧さ)」の頭文字をとったもの
近年は終身雇用の崩壊によって人材の流動化が進み、転職や再就職が当たり前になりつつあります。さらに現在は少子高齢化で人材の母数が減り、人手不足に悩んでいる企業も少なくありません。人材1人当たりの役割が大きくなるなか、優秀な社員に離職されてしまうのは企業にとっても大きな痛手になるでしょう。そのため、1on1ミーティングによって組織の人間関係を良好にし、定着率を高めることは非常に重要な取り組みだと言えます。
近年は成果主義の社風へ切り替えるため、「ジョブ型雇用」の人事制度を導入する企業も増えてきました。ジョブ型雇用においては、キャリア形成の主体が企業ではなく「社員」になります。つまり、ジョブ型雇用を導入する際は、「キャリアは自分主導で考え、主体的に能力を高めていく」というキャリア自律の考え方を社員に習得させる必要があるのです。その点、1on1ミーティングは社員に自身のキャリアについて内省を促す効果が期待できます。そのため、キャリア自律の浸透を図る目的で1on1ミーティングを導入する企業も少なくありません。
ジョブ型雇用については「ジョブ型雇用は導入すべき?田中研之輔教授に聞く「日本型雇用におけるキャリア開発の課題」」をあわせてご一読ください。
「いざ1on1ミーティングをするにしても、部下と何を話せばいいか分からない」という上司の方も珍しくありません。そこで本章では、1on1ミーティングの代表的な会話のテーマを紹介します。ちなみに1on1ミーティングは部下の抱えている悩みを解消し、安心感の醸成や中長期的な成長につなげるための場です。そのため、「部下が話したいこと・解決したいこと」を最優先しながら、その都度柔軟にテーマを決める姿勢が求められます。
最も代表的なテーマとして、業務における悩みや課題があります。部下のなかには「業務でうまくいかないことがあるけれど、なかなか相談できる相手がいない」と悩んでいる人も少なくありません。そこで上司が直接相談の相手になってあげることで、部下のモチベーション低下を防ぎ、パフォーマンスの改善にもつなげられます。
<テーマの例>
◆業務上の悩み・業務がうまく進んでいない原因
◆自覚している弱みや伸ばしていきたい強み
◆同僚や組織に対して感じていることや要望
上司が部下のキャリアにおける希望を聞き、積極的に支援することも大切です。社内でのキャリア展望がより明確になることで、部下のモチベーションが向上したり、定着率の改善につながったりという効果が期待できます。
<テーマの例>
◆今後描いていきたいキャリア・数年後になりたい姿
◆最もモチベーションの上がる仕事について
◆キャリアを実現するうえで障壁になっていること・解決すべきこと
社員のなかには「健康状態に不安があるものの、周囲には気軽に話せない」という人もいます。そのため、上司が真摯(しんし)に相談に乗り、解決に向けてフォローすることも大切です。特にメンタル面の不調は、急な退職につながりかねません。定期的に面談を行っておくことで、業務の割り振りや配置などの対応策も施しやすくなります。
<テーマの例>
◆身体的・精神的に悩んでいること
◆業務のなかでストレスに感じること
◆組織内の人間関係について思っていること
部下のことをより深く理解するためには、ハラスメントにならない範囲でプライベートについて話をしてみることも大切です。何気ない日常の出来事・趣味の話であれば、部下も身構えることなく気軽に話し始められるというメリットがあります。そのため、業務外の話は場の雰囲気を和ませるためのアイスブレイクとしても最適です。
<例>
◆最近プライベートでうれしかったこと
◆週末の過ごし方や趣味について
◆業務以外で楽しいと思える瞬間
1on1ミーティングの効果を高めるためには、どのような点を意識すればよいのでしょうか。
ここでは、1on1ミーティングを成果につなげるポイントを大きく5つ紹介します。
そもそも上司・部下が1on1ミーティングの意義を理解していないと、何のために実施しているかが分からず、途中で形骸化しやすくなります。そのため、まずは1on1ミーティングの目的と重要性を明らかにし、全社的にメッセージを発信することが重要です。「能力開発につながる」「キャリア形成に生かせる」と社員一人ひとりがメリットを自分事化できれば、上司も部下もより前向きに1on1ミーティングに向き合えるようになるでしょう。
1on1ミーティングを実施すると決めたら、継続して行うことが大切です。コミュニケーションが習慣化することで、部下が上司に対して迅速に相談したり、意見を述べたりできる文化が自然と育まれていきます。そのため、「毎週金曜日13時~」といったようにあらかじめ日程を決め、定期的に開催できるよう工夫することがポイントです。上司・部下ともに業務の忙しい時間帯や曜日を避けることで、無理なく習慣化させやすくなるでしょう。
1on1ミーティングにありがちな課題として、「上司が自分の意見を押しつけてしまい、部下が委縮してしまう」というものです。あくまで1on1ミーティングは部下の自律的な課題解決を促す場なので、部下を主役にし、できるだけ上司は「傾聴」に徹するようにしましょう。例えば、適度に相づちを打ったり、部下の意見に共感を示したりしながら、部下に気持ちよく話してもらえるよう配慮します。上司が一方的に指導するのではなく、「同じ目線で一緒に解決策を考える」という姿勢を持つことで、部下の素直な想いも引き出しやすくなるでしょう。
1on1ミーティングで話す内容は、部下のキャリア展望や価値観を知るために有効な情報です。そのため、1on1ミーティングで話したことは必ずメモに書き留めておくことも重要でしょう。部下の意見や希望を理解しておくことで、業務の割り振りや新規プロジェクトへの抜てきなどの場面で有意義に活用できます。またログを残しておけば、次回の1on1ミーティングの際にスムーズに振り返りができ、部下の変化を把握しやすくなるでしょう。
1on1ミーティングの成果を高めるためには、上司の面談スキルが欠かせません。例えば、部下の話を引き出して解決へ導く「コーチング」、部下の行動を正しく評価する「フィードバック」などのスキルが必要です。そのため、事前に管理職向けの研修を実施し、上司の面談スキルを高めておくことも大切でしょう。上司が正しいコミュニケーション方法を身につけておくことで、部下に対してよりスムーズに行動変容を促せるようになります。
効果的なフィードバックの方法については以下のお役立ち資料でも紹介していますので、ぜひ合わせてお読みください。
お役立ち資料|現場のパフォーマンスを高めるネガティブフィードバックとは?
変化の激しい時代において、社員の自律性を高める1on1ミーティングの重要性はさらに増していきます。特にジョブ型雇用を導入する場合には、社員のキャリア自律が急務です。
そこで当社では、ジョブ型雇用の導入時における1on1ミーティングの重要性について動画をご用意しています。「1on1ミーティングで部下と何を話せばよいのか分からない」「年上部下との接し方に迷っている」などの疑問に分かりやすくお答えしています。ぜひ1on1ミーティングの導入をご検討の方・1on1ミーティングの成果を高めたい方は、下記より動画をご覧ください。無料で視聴可能ですので、ぜひお気軽にご活用ください。