「働かないおじさん」――意欲の低いミドルシニア人材が、そのように呼ばれることも増えてきました。
実際、40~60代の人材は出世に限界を感じた結果、気力低下に陥ってしまうケースも珍しくありません。今後はさらに少子高齢化が加速するため、ますます人材の高齢化も進んでいくのが実情です。だからこそ、社内の大部分を占めるミドル・シニア社員をどう活躍させるか、苦心している企業も多いのではないでしょうか。
(注)「働かないおじさん」とは__
働いていないように見える、もしくは給与に見合った生産性が出せていない従業員の通称(本稿での「働かないおじさん」は、年齢・性別を限定するものではありません)
そこで今回は、キャリア論の第一人者でいらっしゃる野田稔教授(明治大学専門職大学院)をお招きし、ミドルシニア人材を活躍させる手法について詳しくお話をうかがいました。「ミドルシニアに勇気を出させる方法とは?」「効果的な越境的学習のすすめ」など、人事担当者必見の内容となっています。
ちなみに本稿は、前半でミドルシニア人材の実態や活性化の施策、後半で野田教授による「ミドルシニアを活躍させる3つの鉄則」や「ミドルシニアのマインドセットを促す方法」を紹介します。ミドルシニア人材の活性化について基礎から応用まで理解できる特別版となっていますので、ぜひ最後までお付き合いください。
※セミナーの詳しい内容については、ダウンロード資料(無料)よりお読みいただけます。
少子高齢化の影響を受けて、社内の高齢化を実感している企業も多いかもしれません。総務省統計局の調査(※1)によれば、労働力人口(※2)のうち約47%が40~60代となっています。つまり、人材の約半数がミドルシニア層というのが実情です。そのため、ミドルシニア社員の活性化は企業にとって重要な課題だと言えます。
※1参考:平成 29 年就業構造基本調査 結果の概要|総務省統計局(PDF)
(40~60代の割合は、有業者・無業者含む総数[表内1]より計算)
※2:労働力人口とは、15歳以上の人口のうち、就業者と失業者を合わせたもの(総務省統計局による定義)
ミドルシニア人材の活躍がなぜ企業にとって、非常に重要なのでしょうか。
ここでは、ミドルシニア社員の活性化が急がれる理由について、時代背景も踏まえて詳しく解説します。
ミドルシニア層というのは、キャリアに限界を感じ「キャリア・プラトー」に陥りがちな年代です。キャリア・プラトーとは、組織内での昇格や昇進に行き詰まり、気力が低下してしまっている状態を指します。「プラトー=高台(Plateau)」という言葉どおり、まさにキャリアが高台に乗り上げ停滞してしまっている状態です。社内の高齢化によって、今後このようにキャリアの停滞期に陥る人材が増えると予想されます。だからこそ、ミドルシニア社員に対して新たなキャリアの可能性を提示し、動機づけできるかどうかが企業に問われているのです。
ミドルシニア人材がキャリアの停滞期に陥る原因や活性化の方法については、お役立ち資料にて詳しく解説しています。
お役立ち資料:ミドルシニアはなぜキャリアに停滞感を覚えるのか?
少子高齢化が招く最たる影響として、若手人材の採用難が挙げられます。労働市場において若年層の母数が少なくなるため、当然ながら採用も難しくなるでしょう。結果として、社内の高齢化はますます進むことになります。若手人材が少なくなる分、いかにミドルシニア層の生産性を上げられるかが企業の命題と言えるでしょう。
ミドルシニア層に対して企業が目を向けがちな理由は、給与が割高であることです。一般的に中高年層においては、賃金カーブの傾きが労働生産性カーブを上回るため、賃金が割高になってしまうと算出されています(※)。長期的な採用難の可能性も考えると、いかにミドルシニア層を持続雇用し、生産性を高めていくかが課題です。
※参考:わが国における賃金変動の背景:年功賃金と労働者の高齢化の影響|日本銀行(PDF)
人生100年時代といわれるとおり、長寿化によって人材一人ひとりのキャリアは長期化しています。実際、現在すでに65歳まで定年が延長され、令和3年4月からは「70歳までの就業確保」が企業の努力義務(※)となりました。今後は、定年延長や再雇用によって就業を継続する社員も増えていくことになるでしょう。だからこそ、企業はいかにミドルシニア層の人材に活躍を促し、組織の中核を担ってもらえるかが問われています。
※参考:パンフレット(簡易版):高年齢者雇用安定法改正の概要|厚生労働省(PDF)
ミドルシニア社員の活性化に向けて施策を考えるうえで、課題となる要素も少なくありません。
ここでは、ミドルシニア人材の活躍を阻む「壁」について解説します。
施策を行うには、当然ながら予算確保や社員に向けてのメッセージ発信が欠かせないため、経営層の協力が不可欠です。ただ、先読みのできない社会情勢のなか、経営層にはさまざまな経営課題が山積しており、なかなかミドルシニア層の現状に目を向けられないケースも考えられます。そのため、まずはミドルシニア層の不活性問題がいかに社内のパフォーマンス低下につながるか、経営層に問題提起することから始める必要があるでしょう。
いくら企業側から活性化の施策を打ち出しても、ミドルシニア社員本人が諦めていては意味がありません。実際、ミドルシニア社員のなかには「会社の決めた業務をこなせばいい」「定年まで会社に残れば安泰」と考える人もいます。ただ、経済の低成長によって終身雇用が崩れつつある今、決して雇用の安定が約束されているとは言えません。こうした層に対しては、「自分のキャリアには自分で責任を持つ」というキャリア自律の考え方を浸透させる必要があります。健全な危機感を持たせることで、本人の行動変容につながりやすくなるでしょう。
すべてのミドルシニア社員に対して、最適なポストを与えられることが最善の結果です。ただ、不景気によって管理職のポストを削減したり、「役職定年」を設けて中高年層に早めの引退を促したりする企業も少なくありません。そもそも役職が減っている状況においては、ミドルシニア社員に自ら新しいポスト・職域を開発してもらう必要があります。自発的に仕事を生み出し、自ら活躍の場を広げる努力を本人に促すことも大切なのです。
ミドルシニア社員を活躍させるには、どのような方法があるのでしょうか。ここでは7つの施策を紹介します。
ミドルシニア社員は、年齢や能力の衰えを理由に、可能性を閉ざしている場合もあります。そのため、キャリアデザインの機会を設け、職業人生を設計し直してもらうことも有効でしょう。キャリアデザインとは、WILL(したいこと)・CAN(できること)・MUST(期待されていること)を踏まえて、将来の目標や達成に向けた行動計画を立てることです。これにより、「本当は挑戦したいと思っているのに諦めていること」や「ほかの職種で活かせる意外な強み」が分かることも珍しくありません。企業がキャリアデザインの結果を考慮し、本人に適した人事配置を考えることもできます。また、本人に新たな可能性に気づいてもらい、モチベーションを引き出すことも可能です。詳しくは「「"未来逆算"のキャリアデザイン」が社員を変える?専門家の語るキャリア設計術とは」で解説しておりますので、あわせてご覧ください。
ミドルシニア社員にありがちなのが、昇格や昇進が止まったことを背景に、「自分は組織から必要とされていない」と思い込んでしまうことです。ただ、ミドルシニア社員は会社の成長を支えてきた立役者であり、豊富なノウハウを蓄積しているケースも珍しくありません。そのため、会社側としては本人に「どんな役割を期待しているのか」「どのくらい高く評価しているのか」を言語化して伝えるべきです。周囲から必要とされていることに気づけば、本人も仕事へのモチベーションを高めることができ、新しい挑戦への原動力も得られるでしょう。
その他のモチベーション向上施策について詳しくは「シニア社員のモチベーション向上に効く"3つ"の秘策とは?」をあわせてご覧ください。
ミドルシニア社員の気力低下を招く原因として、仕事の「やらされ感」が挙げられます。自分の希望していない部署で、与えられた業務に毎日取り組み続けるのではモチベーションも上がりません。そのため、企業側としては社員本人に「選ばせる」仕組みを設けることが重要です。例えば、人材を必要とする部署が募集をかけ、希望者が自ら手を挙げて応募する「社内公募制度」があります。また、自らの経歴や能力を希望部署に売り込む「社内FA制度」も一例です。このように自己申告制の異動制度を設けることで、本人への動機づけが期待できます。
ミドルシニア社員になると、ひと通りの業務を経験してしまい、社内で「仲間とプロジェクトを成し遂げる楽しさ」や「専門性を活かす喜び」を味わえなくなっているケースがあります。そのため、本業以外で取り組む「副業・兼業」によって、再び「仕事が楽しい」という感覚を取り戻してもらうのもひとつの手段です。副業・兼業には、社外で新たなネットワークを築けたり、専門外の知識や能力を身につけられたりというメリットもあります。社外で培った資産を社内業務でも活かしてもらうことで、ミドルシニア社員の再活躍を図ることが可能です。
社内のポストに限りがある場合は、ミドルシニア社員に「社外」で活躍の場を与えてあげることもひとつの方法です。一例として、期限付きで在籍出向を行うという施策があります。自社の業界とは違う企業に社員を出向させることで、自社では得られない知識やノウハウの習得を促せるでしょう。ちなみに出向と聞くと、自社には戻ってこられない「片道切符」のイメージがあり、社員から心理的な抵抗を抱かれがちです。ただ、数年や数ヶ月の期限を決めて行うことで能力開発の側面が強くなるため、ミドルシニア社員の不安も軽減しやすいでしょう。
ミドルシニア社員は今までの豊富な経験がある分、自分の価値観に縛られ、業務で創造力を発揮しにくくなるケースもあります。そのため、リカレント教育によって成長を促すのも有効です。リカレント教育とは、人生のなかで教育と就労を繰り返す教育制度のことで、「学び直し」とも呼ばれています。例えば、ミドルシニア向けに開講されている大学や大学院のゼミに参加したり、資格取得に向けたスクールに通ったりというのが挙げられます。ミドル・シニア社員に新たな視点を養ってもらうことで、業務でのパフォーマンス向上が期待できます。
停滞感を覚えているミドルシニア社員は、自己有能感を失っている場合もあります。そのため、一度社外に出て、さまざまな社会活動で自信を取り戻してもらうことも有効です。その一例として「プロボノ活動」があります。プロボノ活動とは、職務上の専門スキルを活かして取り組むボランティア活動のことです。例えば、地域福祉を目的としたNPO法人に参加してもらい、プロジェクトでこれまでの経験によって培ったスキルを発揮してもらいます。「自分の経験が社会に役立つ」という実感をミドルシニア社員に味わってもらうことで、社内での再起にもつながりやすいでしょう。
その他のミドルシニア人材を活躍させる方法については、こちらのお役立ち資料で解説しております。
お役立ち資料:ミドルシニア人材を活躍させる効果的な手法とは?
ここまでは、ミドルシニア社員を活躍させる重要性や一般的な施策について解説してきました。本章からは、先日開催された野田稔教授のセミナー『期待されるミドルシニアの活躍』より、「ミドルシニア人材を活性化させる鉄則」や「ミドルシニア人材に前向きなマインドセットを促す方法」について抜粋して紹介します。
ミドルシニアの人たちは、年齢を理由に新しい挑戦を諦めているケースもあります。ただ、50代から何かを始めることは決して遅すぎるなんてことはありません。人生100年時代においては、50代は折り返し地点でしかないのです。50代が遅いと感じるのは、きっと65歳という定年を意識するせいだと思います。ですが、今後は70歳までの就業確保が企業に義務付けられますし、75歳や80歳まで元気に活躍している人も少なくありません。
――野田教授は「ある大手企業では、ミドルシニアの活躍を促すために3つのポイントを実践している」と語ります。"3つ"のポイントとは、具体的にどのような内容なのでしょうか。
ミドルシニア人材に関しては、「何か良い仕事を与えてください」という姿勢では何も任せようがありません。そのため、ミドルシニア社員には"待ち"のコミュニケーションではなく、自ら仕事を取りに行くことを促すべきです。企業としても、「あてがいぶち(適当に見計らって渡す)」な仕事の割り振りは避けるべきでしょう。
ミドルシニア社員については、会社という小さな枠の中でチャンスを探させるのは十分ではありません。会社の「外」にも活路を見出すよう助言することが大切です。「外」に出てもらうというのは、決して会社を辞めてもらうという意味ではありません。会社の中にいながら、外のチャンスを取りに行ってもらうのです。例えば、副業・兼業やプロボノ活動によって人脈や依存先を増やしていくことが、社内での本人の存在感につながります。
心の自走ペダルとは、自分から「前に進もう」「新しいことをやってみよう」というポジティブなマインドセットを作ることをいいます。ミドルシニア社員には、こうした自走ペダルを回せるよう促すことが大切でしょう。自走ペダルを回そうと思うときは、たいてい周囲から期待をされているときです。停滞感を覚えているミドルシニア人材の多くは、「期待されてもいないのに頑張れないですよ」とよく口にします。だからこそ、企業としては、ミドルシニア人材に対して「まずは期待をかけてみる」という風土を作っていくことが重要なのです。
――ミドルシニア層に「行動を変えていきましょう」と伝えても、なかなか変わる勇気を持てない人もいます。ミドルシニア人材に変化に対する前向きなマインドセットを促すには、どうすればよいのでしょうか。
ミドルシニア人材は自分の持っている「枠」(役職や能力、所属業界など)に、自分を押し込めてしまう傾向があります。この枠を外すよう本人に促すことが、変化への一歩目を踏み出してもらううえで非常に重要です。
ここで、「枠外し」を体現した実例をひとつ紹介します。ある大手家電メーカーで、プラズマディスプレイの素材研究をしていた研究者がいました。ただ、会社の事業撤退とともに職を失ってしまいます。そこで、会社の人事部長が新しい仕事を探してくれました。すると、製薬メーカーからオファーがあり、まさにその研究者の技術を求めていることが分かったのです。ただ、本人が言ったのは「僕はずっと電機業界でやってきたから、今さら製薬業界では働けません」という言葉でした。彼はこのときまで、自分の「枠」にとらわれていたことになります。
結果的に、彼は可能性を信じて製薬メーカーへの転職を決めることにしました。すると、転職先で今までの研究実績やマネジメントスキルが重宝され、一研究者どころか研究開発本部長にまで昇進できたのです。ミドルシニア社員には、「自分はこうだ」と思い込ませず、幅広い可能性を信じてみるよう促すことが大切と言えます。
「枠」から出ることを、ミドルシニア社員本人に促すだけでは十分ではありません。というのも、部下や同僚などが「あの人は○○な人だ」と決めつけてしまっては、本人が枠にとらわれるのを助長してしまうからです。だからこそ、周囲の人がミドルシニア社員への決めつけをやめ、フラットな視点を持つことも重要だと言えます。
どんな試練でも乗り越えられるという自信を、野田教授は「自己信頼感」と呼んでいます。自己信頼感の強い人の多くは、過去に人の助けを借りながら修羅場を乗り越えた経験を持っています。そのため、ミドルシニア社員には自分史をひもといてもらい、過去の体験を振り返ってもらうことも効果的です。すると、「このときこんな厳しい局面を乗り越えたな」「あのとき多くの人に協力してもらったな」と気づいてもらえます。その結果、「過去に困難を克服したのだから、これからもきっと乗り越えられる」という自信につながるでしょう。
――ミドルシニア社員に活躍を促すうえで、効果的な施策はあるのでしょうか。それに関して、野田教授は「越境的学習」を挙げます。越境的学習とは一体どんな施策で、どのような効果があるのでしょうか。越境学習が注目されている背景やメリットなどの概要について知りたい方は「越境学習とは?代表的な"6つ"の手法や効果を高めるポイントを解説!」をあわせてご一読ください。
計画的偶発性理論によると、キャリア形成においては、いかに偶然を計画的に手繰り寄せるかが重要とされています。計画的偶発性理論については、「【偶然を味方に】「計画的偶発性理論」を社員のキャリア形成に活かす方法とは?」で詳しく解説しています。
ミドルシニア人材にも、社内にとらわれずさまざまな場でキャリアのチャンスをつかんでもらうことが大切です。その意味でおすすめしたいのが、「越境的学習」です。越境的学習とは、職場以外で学びの場を得ることをいいます。例えば、副業・兼業やプロボノ活動、ボランティア、本格的な趣味、大学や大学院での本格的な学びなどが挙げられるでしょう。一度外に出て活動してもらうことで、「自分はこんなこともできるんだ」という新たな可能性に気づいてもらえるでしょう。ちなみに、越境的学習がうまくいく人には特徴があり......
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ミドルシニアを活性化させるためには、まず本人に自身の経歴を振り返ってもらい、職業人生の再設計を促すことが欠かせません。その際、キャリアデザイン研修をはじめとした社外研修への参加を促すことで、よりじっくりと自身の強み・適性・将来なりたい姿について内省してもらえるでしょう。当社では、「ミドル・シニア活性化研修」や「40代キャリアデザイン研修」「50歳キャリアデザイン研修」をはじめ、豊富な研修サービスでミドルシニアの活躍推進をお手伝いしています。ぜひミドルシニアの活性化をご検討の際には、お気軽に当社までお問い合わせください。