越境学習とは、企業や部署の垣根を越えて、新しい学びを得る手法のことです。社員の自律性を養ったり、能力開発につなげたりするため、社員の越境学習を推奨したいと考えている企業も多いかもしれません。そこで本稿では、「越境学習のメリット」や「越境学習の手法・成功のポイント」などについて分かりやすく解説します。
越境学習とは、所属している企業や部署という枠を越えて、外部で新たな学びを得ることをいいます。越境学習を行う際には、本人は今の組織に籍を置いたままで、短期または長期にわたって別の業務やプロジェクトへ参加することが一般的です。具体的な手法としては、NPOや地方自治体で社会貢献活動に取り組む「プロボノ」、他業界の人材と交流を深める「異業種勉強会」、本業以外の仕事をかけ持ちする「副業・兼業」などが挙げられます。
越境学習の最大の目的は、あえて自分の慣れ親しんだ場所から離れ、異なる文化・価値観に触れることです。考え方の異なる人たちと働くことで、多様な視点を養えることもあります。また、今までとは違う業務に取り組むことで自分の意外な強みを発見できたり、社会への新しい貢献方法に気づけたりすることもあるでしょう。企業としては、社員にこうした新たな学びを促し、本人のモチベーション向上や能力開発につなげることが可能です。
越境学習はなぜ今注目を集めているのでしょうか。時代的な背景も含めて、注目の理由について解説します。
現在はVUCA(※)といわれ、先読みの難しい時代が続いています。こうした状況においては、企業としていかに社会の変化に敏感になり、柔軟に成長していけるかが重要です。当然ながら、企業が成長するには社員一人ひとりの成長が欠かせません。ただ、社内だけで社員の能力開発を図ろうとしても、手法に限界があり社員の視野も狭くなります。そこで、あえて社員に"社外"へ目を向けさせ、多様な価値観や能力を身につけさせようというのが越境学習です。社員に社外から新鮮な学びを得させることで、企業全体のアップデートにもつながります。
※VUCA:「Volatility(変動的)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧さ)」の頭文字をつなげたもの
現在日本では右肩上がりの経済成長が期待できなくなり、社員の終身雇用を維持できなくなる企業も増えてきています。そうなると、企業が主導で社員のキャリア形成を行っていくことは難しくなるでしょう。必然的に社員一人ひとりが自ら学習し、能力開発し、自身のキャリアを形成していく「キャリア自律」を体現する必要があります。こうした背景から導入され始めているのが、越境学習です。越境学習を通じて、社員は外部の世界で主体的に学びを得ようと努力します。結果として、自律的に自分の可能性を切り開いていく力が身につくのです。
キャリア自律については「若手とミドルの「キャリア自律」は違う?専門家に聞く"年代別"の支援策とは」をあわせてご覧ください。
現在は少子高齢化から、若手人材の採用が難しくなり、社員の高齢化が進んでいる企業も珍しくありません。こうしたなか、中高年層により一層の活躍を促すことは企業として急務と言えます。ただ、中高年層は経験が豊富にある分、「自分のできる範囲だけでしか働きたくない」「これ以上の成長は望まない」という人も少なくありません。そこで注目されているのが、越境学習です。越境学習で外部の世界に触れることで、中高年層はより大きな市場のなかで新たな刺激を受けられます。結果として、さらなる成長に向けて努力できるようになるのです。
その他の中高年層の活性化の施策については「【専門家に聞く】ミドル・シニア人材を活躍させる"3つ"の鉄則とは?」で詳しく解説しております。
社員の越境学習を推奨することで、企業としてはどのような利点があるのでしょうか。
ここでは、大きく3つのメリットについて解説します。
越境学習のメリットは、社員に自分自身の適性や価値観を再認識させることができる点です。例えば、本人が専門領域とは違うプロジェクトへ参加することで、社内では発揮できなかった"意外な強み"に気づける可能性があります。逆に自分の得意分野だと思っていたことが、社外では通用せずに葛藤するかもしれません。企業としては、このように社員に深い自己理解を促すことで、本人のさらなる能力開発や成長につなげることが可能です。
越境学習によって社員が新たな視点を獲得でき、社内でイノベーションが起きやすくなる点もメリットです。というのも、社外のプロジェクトに参加すると、自社内でのルールや仕事の進め方が実は当たり前ではなかったことに気づけます。社員は外部で多様な価値観やアイデアに触れ、「自社にも取り入れたい」という想いを抱くようになるでしょう。企業としては、社員にこうした新たな視点を自社へ持ち帰ってもらうことで、組織の体質改善や新規事業の創出につなげることが可能です。その結果、自社の停滞を防ぎ、継続的な成長を図れるでしょう。
事業の責任者や経営幹部を任せられる、「次世代リーダー」を育成できることも越境学習のメリットです。
というのも、リーダー適性の高い人材を育てるには、新規事業の立ち上げや責任あるポジションへの抜てきなど、いくつもの修羅場体験を積ませる必要があります。ただ、自社のポジションは限られており、なかなか有意義な場を与えられないケースも多いでしょう。そこでリーダー候補者に外部のプロジェクトへ参加させれば、自社では得られない経験を積ませることが可能です。結果として、リーダーとしての素養を習得させることができます。中長期的に見れば、次世代リーダー候補を多く育てておくことで、後継者難を防ぐことにもつながるでしょう。
「次世代リーダーの育成はなぜ難しい?専門家の考える効果的な施策・ポイントとは」もあわせてご一読ください。
越境学習には、具体的にどのような方法があるのでしょうか。
ここでは、大きく6つの手法についてそれぞれの特徴も含めて解説します。
プロボノとは、自分の強みや専門性を生かして地域・社会への貢献活動に取り組むことをいいます。具体的には、数日から数ヶ月のあいだ、NPO法人や地方自治体の一員となって支援業務を行うことが一般的です。例えば、地域振興のプロジェクトを運営したり、災害復興のお手伝いをしたり、学校との交流イベントを企画・開催したりします。地域貢献に参加することで、社員は人の役に立つ喜びを知り、自己肯定感を高められるのが特徴です。
副業・兼業とは、オフの時間を活用して本業以外の仕事に取り組むことをいいます。例えば、ITの知識を生かしてWebサイトを運営したり、趣味の延長でカルチャースクールの講師をしたりとさまざまです。社員は本業とは異なる分野のスキルを培うことができ、楽しみながら能力開発に取り組めます。また副業・兼業によって収入の不安がなくなるため、収入を理由とした退職が減り、企業全体の定着率に好影響が期待できるのも特徴です。
社会人向けの大学院やビジネススクールに通うのも、越境学習のひとつです。例えば、夜間・休日に開講している大学院に通ったり、経営者の養成を専門とするスクールで勉強したりします。社会人としてあらためて学校に通うことで、業務に直結した知識を習得できるのが特徴です。また、同じ志を持った社会人の受講生たちと日々ゼミやワークショップを行うため、社外に人脈を広げられたり、コミュニケーション能力を高められたりします。
異業種勉強会とは、さまざまな業界の人材が集まり、ワークショップや交流会を行うことをいいます。例えば、ひとつのテーマに沿って討論したり、共同で新規ビジネスの企画をしたりするほか、経営者同士が集まって意見交換するなどさまざまです。多種多様な業界・職種の人たちが集まるため、本業でも生かせるような人脈を築けることもあります。また、他社の文化や働き方について話を聞くことで固定観念を崩し、新たな視点を養えるのも魅力です。
留職とは、一定期間のあいだ新興国へ派遣され、現地で社会課題の解決に取り組むことをいいます。官公庁や現地のNPO法人、留職の専門企業が橋渡し役となり、派遣先を紹介してくれることが一般的です。例えば、途上国でシステム開発をしながら現地の人々に技術を教示したり、現地の工場で生産のオペレーションをしたりします。海外で現地の人たちと協業ができるため、グローバルな考え方や高度なリーダーシップを養えるでしょう。
ワーケーションとは、テレワークを活用して、勤務日をはさんで休暇をとりながら観光地やリゾート地で働くことをいいます。例えば、単純にオフィスからホテルに移って仕事をしたり、温泉地の振興プロジェクトを支援したりとさまざまです。普段とは違う場所で働くことで、新たな発想が生まれ、イノベーションにつながる可能性も高まります。また、企業としてワーケーションを導入することで、有休消化率を高め、社員のストレス解消を図れるのも特徴です。
越境学習をうまく成果につなげるためには、どのような点を意識すればよいのでしょうか。
ここでは、越境学習の効果を高めるポイントについて大きく4つ紹介します。
越境学習は企業から強制してしまうと、社員が「なぜ自分なのか」「なぜ厳しい経験を強いられなければいけないのか」と不満を覚えることもあります。そのため、できるだけ社員には自発的に参加させることが大切です。社員自身が自分のキャリアに何らかの課題意識を持ち、越境学習に対して魅力を感じていればいるほど、参加へのモチベーションも高まります。社員に高い意欲で参加させることで、越境学習の成果もより高まるでしょう。
越境学習は、何となく参加してしまうと「良い経験ができた」で終わってしまう可能性があります。そのため、社員には参加の際に志望動機を考えさせ、越境学習の「目的」を明らかにさせることも重要です。例えば、「多様な価値観に触れて発想力を鍛えたい」「国際市場で働いていけるようにグローバルな視点を養いたい」などが挙げられます。参加の目的が明確であれば、社員の意欲も高まり、その後の成長につながりやすくなるでしょう。
越境学習は、参加したまま終わってしまうと、せっかくの学びが業務に生かされない可能性があります。そのため、社員には越境学習の終了後に、別途振り返りや内省の場を設けさせることも重要です。例えば、上司と面談しながらプロジェクトで学んだこと・組織に還元したいことなどを話し合うのもひとつの方法でしょう。「自分は越境学習から何を学んだのか」を社員にはっきりと言語化させることで、その後のアクションを促進できます。
越境学習に参加した社員には、学んだことを部署内や社内で共有させることも大切です。せっかくの教訓をひとりの学びだけでなく"全社の学び"にすることで、組織全体の成長につながります。具体的には、社内報に体験談を掲載させたり、研修で学びを発表させたりという方法が挙げられるでしょう。その際、周囲の社員が「外部の話は自分たちには関係がない」「現状を変えるのは面倒くさい」と考えてしまうと、学びが生かされなくなります。そのため、新しいことを受容する重要性を、普段から社員にメッセージとして発信しておくことも重要です。
越境学習は、若手から中堅、中高年層まで幅広い人材に対して、"働く意味"を再認識させることのできる効果的な育成施策です。社外での経験を通じて「自分のやりたいこと」や「今まで認識できていなかった強み」に気づかせることで、社員一人ひとりのモチベーション向上につなげ、前向きなキャリア形成を支援できるでしょう。
ちなみに越境学習は、キャリアの停滞しがちなミドル・シニア社員に再活躍を促す施策としても注目されています。そこで当社では、越境学習でミドル・シニア社員の活性化を図る方法について、解説しています。以下より無料でダウンロード可能ですので、越境学習の導入をご検討の方はぜひお気軽にご活用ください。