「5年・10年先を見据えて、早いうちから次世代リーダーの育成に着手したい」という企業も多いかもしれません。ただ、いざ育成するとなると候補者の人選基準が定まらなかったり、現場の協力が得られなかったりとさまざまな壁が立ちはだかります。結果として問題が先送りにされ、十分に育成が進まないことも珍しくありません。
そこで今回は、キャリア教育の第一人者である初見康行氏(多摩大学 准教授)をお招きし、「次世代リーダーの効果的な育成方法」について詳しくお話を伺いました。「次世代リーダーの育成では、本人の自覚を醸成させることが最優先」と語る、初見准教授。その言葉の真意とは何なのか、記事の後半にてじっくりとお聞きします。
ちなみに本稿は、前半で「次世代リーダーの定義や育成方法・ポイント」について解説したうえで、後半で初見准教授による「次世代リーダー向けの効果的なキャリアデザイン研修の実施方法」を紹介します。次世代リーダー育成について基礎から応用まで理解できる【特別版】となっていますので、ぜひ最後までお付き合いください。
「次世代リーダー」とは、どのような人材のことを指すのでしょうか。
ここでは、言葉の定義や対象層、世の中における次世代リーダー育成の現状について解説します。
次世代リーダー(経営人材)とは、将来自社の経営者や経営幹部を任せ得る人材のことです。近年は企業競争の国際化や消費者ニーズの多様化など、時代の変化が非常に激しくなっています。そのため、企業の経営層に求められる知識や能力も広範囲に及んでおり、早期から次世代リーダー候補を育てようとする企業が増えているのです。
ちなみに一概に次世代リーダーといっても、想定されるポストは企業によって異なります。経済産業省の調査(※)によれば、次世代リーダー(経営リーダー人材)の想定ポストとして、「事業責任者(66.7%)」、「副社長・専務・常務(64.7%)」、「CEO・COO/社長(58.8%)」などの比率が高い結果となりました。将来どのポジションを任せるかによって次世代リーダーに必要な能力も変わるため、まずは自社で想定ポストを検討することも重要です。
※参考:企業価値向上に向けた経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン|経済産業省(PDF)
どの年代の社員を次世代リーダーとして育成するかについても、企業によって考え方が異なります。産業能率大学の調査(※)によれば、選抜型育成の対象としては「課長クラス(66.4%)」、「一般社員クラス(52.9%)」、「部長クラス(40.0%)」の順に多い結果でした(いずれも2016年調査)。ちなみに一般社員クラスについては、2006年時点の調査では「36.8%」だったため、大幅に比率が増えていることが分かります。また同調査では、従来30代~40代が中心だった次世代リーダーの対象層が、20代~30代に移ってきていることも分かっています。つまり、「対象者が若手のうちから次世代リーダーとして育成しよう」と考える企業が増えていると言えるでしょう。
※参考:次世代リーダー・グローバル⼈材の育成に関する実態調査報告書|産業能率大学(PDF)
世の中では、どのくらい次世代リーダーの育成が進んでいるのでしょうか。実は若手人材の採用難や社内調整の難しさなどが影響し、次世代リーダーの育成が難航している企業も少なくありません。経済産業省の調査(※)によれば、経営人材の確保・育成の状況について「どちらかといえば不安(55.7%)」が多数を占めています。また、経営人材の確保・育成に関してすでに「取り組みをしている」と答えた企業でも、「どちらかといえば不安」「不安」が52.9%となりました。各企業とも、候補者の育成に何らかの課題を感じている状況がうかがえます。
※参考:「経営人材育成」に関する調査結果報告書|経済産業省(PDF)
そもそもなぜ次世代リーダーを早期から育成する必要があるのでしょうか。
ここでは、時代背景も含めて大きく2つの理由を紹介します。
近年は少子高齢化の影響から、社内の年齢構成も「逆ピラミッド化」が進んでいます。そうなると、上層部が定年によって大量離職を迎えた際、経営機能を数少ない若手人材に委ねなければいけない可能性も高いです。また、そのときになって外部から優秀な人材を確保しようと思っても、人口減少が進むなかでは採用も簡単ではありません。そのため、経営にたけた次世代リーダーを、なるべく早いうちから社内で育てておく必要があるのです。
近年は市場の国際化が進み、競合は国内だけにとどまりません。経営層はグローバル展開も視野に入れながら、事業戦略を練る必要があります。こうした背景から、経営層に求められる知識やスキルも年々広範囲化しているのが実情です。ただ、国際競争を戦い抜くための能力を、経営者候補に一朝一夕で身につけさせるのは至難の業と言えるでしょう。だからこそ、できるだけ早期から次世代リーダーの育成に着手しておく必要があるのです。
多くの企業が次世代リーダーの育成に難航してしまうのは、なぜなのでしょうか。
ここでは、大きく4つの理由について解説します。
次世代リーダーを選ぶ際には、人事や経営層が対象者の能力を慎重に見極める必要があります。ただ、「プレイヤーとしての成績を重視すべき」「マネジメント力を最優先にしたい」など、選ぶ側の立場によって選抜の基準が異なるケースも珍しくありません。結果として選考が進まず、なかなか育成に着手できない場合もあります。
次世代リーダーを育成するには、育てるための環境や制度が整っていなければいけません。例えば、候補者を事業責任者のポジションに挑戦させたり、子会社の社長に抜てきしたりして経験を積ませる方法があります。ただ、そもそも育成のためのポストに空きがなければ、必要な実績を積ませることも難しくなるでしょう。また、育成に向けて十分なOff-JTを実施したい場合、企業によっては予算や日程の確保が難しいという問題もあります。
次世代リーダーの育成には、数ヶ月から数年間という長い年月がかかるものです。また、どんな育成の施策を実行しても、定量的に効果を測るのが難しいという問題もあります。経営者からすれば、成果が見込めるか分からない長期的な施策よりも、目先の業績を短期的に伸ばす施策に目が向きがちです。結果として、次世代リーダーの育成が社内で最優先の経営課題とはなりにくく、だんだんと先送りになってしまうケースも少なくありません。
次世代リーダーの育成に関して、現場のコンセンサスを得るのが難しいという課題もあります。例えば、経営層が優秀な社員を次世代リーダー候補に抜てきしようとしても、現場の管理職がどうしても手放したくないケースもあるでしょう。そうなると、候補者に他部門で多様な経験を積ませることができなくなってしまいます。また、候補者に対する評価が人事と現場で食い違っており、選抜に当たって意見がぶつかることも珍しくありません。
次世代リーダーをスムーズに育成するためには、どのような流れで行えばよいのでしょうか。
ここでは、4つのステップに分けてプロセスを紹介します。
まずはどのような人材を次世代リーダーとするのか、要件を明確にすることから始まります。具体的には、「必要なスキルや能力」、「実績・職歴」、「期待される役割」を明らかにしましょう。その際、経営戦略や長期ビジョンとも連携させながら、次世代リーダーを育成する「目的」も言語化しておくことが大切です。選抜基準や育成のゴールがハッキリしていれば、各部署にもメッセージを発信しやすく、全社に協力してもらいやすくなります。
続いては次世代リーダーの要件に基づいて、社内・社外から育成候補を選抜します。その際、各部署から反発されたり、対象者が引き留めにあったりという可能性もあるでしょう。そのため、現場の管理職とは密に連携をとり、同意を得ておくことが大切です。また、人材の評価が人事・経営者側に共有されていないと、正しく候補者の選抜もできません。だからこそ、アセスメントツールを活用し、人材の評価を可視化しておくことも重要です。
次は選抜された候補者に対して、個別に育成施策を企画・実行します。主な施策としては、あえて候補者に困難な挑戦を促す「タフ・アサインメント」が挙げられるでしょう。例えば、新規事業立ち上げのプロジェクトリーダーを任せたり、子会社のトップに就かせたりという方法です。いわゆる"修羅場"をくぐり抜けさせることで、リーダーとしての覚悟や度胸の習得を促せます。ちなみに、候補者によって強み・課題・価値観はさまざまです。そのため、人材一人ひとりのスキルやマインドを正しく把握して、最適な育成施策を検討するようにしましょう。
育成の施策はブラッシュアップを重ね、より良いものにする必要があります。そのため、一定期間ごとに育成の効果を振り返り、施策の再検討や選抜基準の見直しを行うことが不可欠です。また、次世代リーダーの候補者本人からすれば、「自分が今どのような評価を受けているのかを知りたい」と考えるでしょう。そのため、候補者に対して成果を適宜フィードバックし、モチベーションを向上させてさらなる成長をあと押しすることも大切です。
次世代リーダーの育成を成功させるために、意識すべきことはあるのでしょうか。
ここでは、大きく4つのポイントについて解説します。
次世代リーダー候補の選抜・育成に当たっては、経営層の協力が欠かせません。例えば、候補者を選抜する際は、目指すべき人材像について経営層と細かくすり合わせる必要があります。また、効果的な育成を行うには昇格基準や評価制度などの人事制度を根本的に変えることになるため、経営層の同意が必要です。だからこそ、人事と経営層が普段から情報を共有し、協力しながら次世代リーダーのプロジェクトを進めることが大切です。具体的には、人材に関する委員会や戦略会議を定期的に設け、進捗の報告や意見交換を行うことが望ましいでしょう。
次世代リーダーというのは、いずれ会社の経営を担う人材です。だからこそ、「現経営層が普段何を考えているのか」「経営者が日々どんな業務を行っているのか」などについて、候補者が理解できるような機会を設けることも有効でしょう。例えば、経営者と候補者がじかに意見交換できるような研修を開催したり、研修後にお互いがフランクに交流できる場をセッティングしたりするのもひとつの方法です。候補者側が経営者のリアルな考え方を学べるのはもちろん、経営者側も候補者と触れ合うことで才覚や適性をより正しく見極めやすくなるでしょう。
次世代リーダーの候補者は、「いつごろ要職に抜てきされるのか」「今後どのような育成が行われるのか」「自分は適任なのか」など、さまざまな不安を抱える可能性があります。そのため、企業として候補者の不安・悩みに寄り添い、疑問を解消してあげることが大切です。例えば、人事や上司が定期的に面談を行って、相談に乗るという方法が挙げられます。本人の不安を払しょくし、自信をつけさせることでより育成の効果も高められるでしょう。
次世代リーダーの育成を行うなかで、適性や業務との兼ね合いなどの問題からやむを得ず"候補外"となってしまう社員もいると思います。こうした人材に対してケアを行うことも、重要な施策です。例えば、候補外の人材へのフォローを目的に表彰制度やビジネスコンテストを実施し、別の場での活躍を支援するという方法もあります。また、選外になった理由を本人に正しくフィードバックし、「何度でも挑戦できる」旨を伝えるのもひとつの対策です。候補者一人ひとりのキャリアを入念にケアすることで、その後の再活躍につなげやすくなるでしょう。
ここまでは、次世代リーダー育成の重要性や方法について解説してきました。ここからは、先日開催された初見康行准教授の特別セミナー『若手リーダーへの効果的なキャリア施策とは』より、次世代リーダーの育成における効果的なキャリアデザイン研修のポイントについて抜粋して紹介します。「調査から分かった育成の秘策」や「研修後の行動を促す方法」など、人事担当の方必見の内容となっていますので、ぜひ参考にしてみてください。
「次世代リーダーの育成において効果的なのは、"自覚"を持たせること」と話す、初見准教授。そもそもなぜ自覚を醸成させることが重要なのでしょうか。ここでは、候補者の意識を高める重要性やポイントを紹介します。
次世代リーダーの育成では、「自分は次世代リーダー候補である」という自覚を本人に持たせることが重要です。というのも、私が公益財団法人 日本生産性本部のプロジェクト(※)で2,300名の社会人を対象にアンケート調査を行った際、面白い結果が出ました。調査では、回答者へ「あなたは現在、所属企業の次世代リーダー候補になっていると思いますか?」という質問を投げかけました。すると、「思います」と答えたグループの方が、そうでないグループ(「思いません」「分かりません」と回答)よりも職務満足や組織コミットメント、エンゲージメント、主観的生産性が高いという結果が出たのです。
※参考:日本企業の人材育成投資の実態と今後の方向性~人材育成に関する日米企業ヒアリング調査およびアンケート調査報告~
こうした結果が出た理由は、「組織から期待されている」という実感が日々の仕事に良い影響を与えたからだと考えています。ちなみに本人へ「あなたは次世代リーダー候補です」と言語化して伝えるかどうかは、関係ありません。あくまで大事なのは、本人がそう思えるかどうかです。次世代リーダーの候補者が組織からの期待を感じられ、「自分は会社にとって重要な存在である」という自覚を持てるような環境をつくることが大事なのです。
次世代リーダーの育成においては、Off-JTのなかでも特にキャリアデザイン研修を実施する企業も少なくありません。ここでは、次世代リーダーの育成に効果的なキャリアデザイン研修の内容・ポイントについて解説します。
キャリアデザイン研修について詳しく知りたい方は、「キャリアデザイン研修の効果とは?効果を最大化させる4つのポイント」の記事も合わせてお読みください。
プロティアン・キャリアとは、心理学者のダグラスT・ホール氏が提唱したキャリア理論のことをいいます。ギリシャ神話に登場する変幻自在の神「プロテウス」に由来しており、時代の変化に合わせて柔軟かつ自律的にキャリアを築いていけるのが特徴です。また「成果の尺度は、地位や給与ではなく心理的な成功」「キャリアの主体は、組織ではなく個人」などの特徴もあります。終身雇用が崩壊し、外部環境が激しく変動している昨今では、企業が社員のキャリアを管理するという前提も崩れつつあるのが実情です。そのため、研修でもプロティアン・キャリアを推進し、「自らキャリアを構築している」という社員の自律感・満足感を高める必要があるでしょう。
プロティアン・キャリアについて詳しくは「「プロティアン・キャリア」は社員のキャリア不安に効く処方箋」をあわせてご覧ください。
次世代リーダーのキャリア意識を高めるには、仕事の意味づけを行うことも大切です。例として、「3人のレンガ職人」というイソップ寓話があります。「あなたは何のためにレンガを積んでいるのですか」と3人の職人に聞いたところ、Aは「仕事だから積んでいるんだ」、Bは「金を稼いでいるんだ」、Cは「後世に残る大聖堂を建てているんだ」と答えました。同じ作業でも、生産性や満足度が大きく異なるのは自明です。次世代リーダー候補に対しては、寓話におけるCの職人のように、仕事を自己表現や能力発揮の場として捉えるよう勧めるべきでしょう。候補者には自分なりの「働く意味」を検討させたうえで、キャリアプランを立てさせることが重要です。
次世代リーダー候補は会社の将来を担う人材のため、キャリアで「自分のしたいこと」だけを考えるわけにはいきません。そのため、研修では候補者に「組織のために何ができるか」を検討させることも大切です。例えば、まずは自社の経営状況や収益構造、ビジョン、今後想定される課題などについて理解を深めさせます。そのうえで、自分のキャリアと組織の成長をどちらも実現できるような、アクションプランを立ててもらうのです。自分と組織の"接点"をうまく見つけさせることで、より鮮明で具体的なキャリアを描かせることができるでしょう。
研修後に「行動」を起こせるかどうかが、キャリアの成否を決めます。そのため、研修には参加者を行動につなげさせる仕組みやプログラムを盛り込むことも効果的です。例えば、私が開催しているキャリアデザイン研修では、必ず研修後にある課題を出します。それは、「研修で考えたこと・感じたことを上司に報告し、フィードバックをもらってください」というものです。具体的な行動計画を上司と話し合わせることで、業務でのパフォーマンスにつなげてもらう狙いがあります。ちなみに次世代リーダー育成において、上司の最も重要な役割は......
※この続きは、セミナー動画にてご覧いただけます。無料で視聴可能ですので、ぜひお気軽にご活用ください。
次世代リーダーを育成するためには、Off-JTを通じて対象者に必要な知識・マインドを身につけさせる必要があります。その際、人材育成の専門企業へ依頼することで、より効果的な研修を実施することができるでしょう。
当社では、次世代リーダーの候補者を対象としたキャリアデザイン研修『CareerRudder』を実施しています。次世代を担う若手社員に組織内での役割を考えさせ、キャリアプラン・行動計画を立てさせることで、次世代リーダーとしてのマインドセットを醸成することが可能です。オンラインでいつでも自由に受講できる、「eラーニング形式」での実施にも対応しています。次世代リーダーの育成にお悩みの際は、ぜひお気軽に当社までご相談ください。