近年はDXの活発化や市場のグローバル化をはじめ、社会が急速に変化しています。それに伴って、従業員一人ひとりに新たなスキルの習得を促し、成長をあと押しする「リスキリング(学び直し)」の機運が高まっている状況です。しかし、従業員本人が旧来の価値観や過去の成功体験に縛られたままでは、学び直しはスムーズに進みません。そこで必要なのが、思い切って古い知識や考え方を捨て去る「アンラーニング(学習棄却)」です。時代に合わせてスキルや知識の取捨選択をすることで、新しい学びをより受容しやすくなります。
そこで今回は、アンラーニングの定義や重要性、推進のポイントについてわかりやすく解説します。調査(※)をもとに、企業全体におけるアンラーニングの取り組み状況も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
※参考:調査レポート:日本企業でリスキリング/アンラーニングが進まない大きな要因は従業員の"キャリア意識"の低さにあり
そもそもアンラーニングとは、どのような意味を持つ言葉なのでしょうか。
本章では、アンラーニングの定義やリスキリングとの関係性について解説します。
アンラーニング(学習棄却)とは、新しい学びを得やすくするために、あえて古くなったスキルや考え方を捨てることです。具体的には、過去に身につけた業務上のノウハウや知識、価値観などのなかから、必要なものを取捨選択し、現状にそぐわないものは使用を停止させたり、内容のアップデートを図ったりします。
現在はVUCA時代とも呼ばれ、人は常に目まぐるしい変化にさらされています。こうした社会の変動に柔軟に適応するためには、今までの自分に固執し続けない柔軟な姿勢が必要です。アンラーニングは、スキル・知識の陳腐化やマインドの硬直化に陥らないための取り組みでもあるため、"学びほぐし"とも呼ばれています。
アンラーニングは、多くの場合「リスキリング」とセットで語られます。
リスキリングとは、時代の変化に対応するために、業務を進めるうえで必要となる新たなスキルを学び直すことです。近年DXが活発化し、AIやデジタルツールの活用が進むなかで、重要性が叫ばれるようになりました。
アンラーニングとリスキリングを比べると、アンラーニングはスキルの「棄却」、リスキリングはスキルの「習得」に主眼が置かれるという特徴があります。しかし、両者は比較対象というよりも、地続きの概念です。
というのも、リスキリングで何か新しいことを身につけようとするとき、過去の成功体験や自己流のノウハウは学びの阻害要因となることがあります。その際、まずはアンラーニングで自身のスキルが陳腐化していることを自覚し、古くなったスキルを特定しておくことで、新たな知識やノウハウをより吸収しやすくなるのです。
リスキリングの効果を高めるためには、アンラーニングと同時に取り組むことが不可欠と言えるでしょう。
※リスキリングについてさらに詳しく知りたい方は、『リスキリング(リスキル)とは?注目されている背景や具体的な育成施策を解説!』の記事もあわせてご覧ください。
アンラーニングは、近年の社会情勢のなかでより重要性が増してきている状況です。
本章では、アンラーニングが重要視されている背景・理由について解説します。
企業は近年、テクノロジーの台頭や市場の国際化、感染症の流行など、組織の構造が根本から塗り替えられるような変化に日々直面しています。こうした急激な変化が起こった際、従業員一人ひとりが旧来の価値観にとらわれたままでは、組織として柔軟に適応できません。
その点、アンラーニングに対して積極的な組織であれば、スムーズな意識改革につながりやすく、経営方針や事業戦略の変化にも対応しやすくなります。組織の機動力が高まることで、時代に応じた働き方やイノベーションを創出でき、継続的な事業成長を期待できるでしょう。
※意識改革の手法や流れについて詳しく知りたい方は、『【保存版】意識改革を成功させる"5つ"の必須ポイントとは?』の記事もあわせてご覧ください。
変化の激しい時代においては、デジタルツールによって業務フローが大きく変わったり、職務そのものが消滅したりすることも珍しくありません。従業員にとっては、今まで通用していたはずのスキルや知識が通用しなくなると、モチベーションの低下につながることもあります。特に成功体験を多く積み重ねてきた中堅・ミドルシニア層の従業員にとって、スキルの陳腐化による心理的なダメージは著しく、そのまま不活性化に陥りかねません。
その点、アンラーニングの重要性が組織に浸透していれば、従業員が現状を受け入れ、変化に対して前向きになりやすいのがメリットです。古い考え方に固執することなく、新たなスキルの習得に向き合うようになります。結果としてキャリアの後半戦にさしかかった中堅・ミドルシニア層を活性化でき、組織としての停滞感も防止しやすくなるでしょう。
日本では近年、終身雇用制度が徐々に崩れ、人材の流動化が進んでいます。加えて少子高齢化が深刻化し、恒常的な人材不足も懸念されているのが実情です。企業にとっては、いかに人材を組織に定着させるかが喫緊の課題となっています。
その点、アンラーニングの取り組みは定着率の向上にもポジティブな効果が期待されています。独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査(※)によれば、アンラーニング志向の強い転職者の方が、転職先での組織社会化につながりやすく、組織に対する愛着や定着意欲が高まりやすいという傾向が確認されました。組織社会化とは、新しく組織に加入した人材が、組織に適応していくプロセスのことをいいます。つまり、アンラーニングに前向きに取り組める人材の方が、新しい組織の風土や文化を受け入れやすく、すぐになじみやすいのです。
中途入社者の早期活躍や定着率の向上を図るうえで、組織にアンラーニングを浸透させることは重要です。
※参考:転職と能力発揮・キャリア形成~ミドルエイジの転職から考える~|独立行政法人労働政策研究・研修機構
アンラーニングは、現状としてどの程度普及しているのでしょうか。また、実際に企業がアンラーニングに取り組むうえで、考慮すべき課題や障壁などはあるのでしょうか。
本章では、マンパワーグループが全国の人事責任者および担当者、経営者を対象に実施したアンケート調査(※)を参照しながら、アンラーニング・リスキリングのリアルな取り組み状況や課題点、アンラーニングを推進するうえでのヒントなどについて解説します。
※参考:調査レポート:日本企業でリスキリング/アンラーニングが進まない大きな要因は従業員の"キャリア意識"の低さにあり
アンラーニングは、基本的にリスキリングによる能力開発とセットで実施されます。そこで本調査では、まず「組織としてのリスキリング・アンラーニング推進状況」について尋ねました。
すると、リスキリングの取り組みを進めている企業は全体でわずか24%となり、4社に1社という結果でした。また、アンラーニングを組織として推進している企業にいたっては、全体で9%(10社に1社)、大企業でも17%とまだまだ少数派と言えます。
アンラーニングが思うように進まない大きな原因として、人事と人事以外(経営層・現場)における意識の差が挙げられます。
本調査でアンラーニング未推進企業にアンラーニングの必要性を尋ねたところ、人事担当者の回答は「必要だと思う」が22%、「どちらかといえば必要だと思う」が56%となり、合計で78%にものぼりました。ところが経営層・現場を含めた全体の回答は、アンラーニングを「かなり重視している」が1%未満、「やや重視している」が12%で合計2割にも満たないという結果です。
つまり、人事担当者はアンラーニングの重要性を十分理解しているものの、経営層や現場の理解を得られず、組織としてうまく動けていないというジレンマを抱えていることがわかります。
アンラーニングの推進を阻むもうひとつの要因として、従業員の「キャリア自律」に対する意識の低さもあります。
本調査において各社へ「人材育成全般」を進めるうえでの組織課題を尋ねたところ、最も多かった回答が「従業員のキャリア自律意識を高められていない」(47%)であり、2位が「管理職層のキャリア自律意識を高められていない」(41%)でした。当然ながら、従業員が自身のキャリア形成に前向きでない場合、現状維持の思考に陥りやすく、成長へのモチベーションも湧きません。つまり、前提として従業員のキャリア自律意識を醸成しないことには、アンラーニングやリスキリングといった学び直しの重要性を理解させることは難しいと言えます。
また、リスキリングに効果的な施策について尋ねると、「キャリアデザイン研修」「自己理解や役割認識のための研修」など、キャリア自律につながる施策を挙げる人は突出して多いのが実情です。しかし、こうしたソフト面(マインド面)の施策は、「学習ツール(eラーニング・書籍)の提供」「スキル・技能を学ぶ研修プログラムの提供」といったハード面の施策と比べて、実施率が低いという結果も出ています。
つまり、キャリアデザイン研修のようにキャリア自律を推進する施策は効果があると認識されつつも、多くの企業であと回しになって取り組めていないのが現状です。こうしたソフト面における対策の薄さが、アンラーニング推進の足かせになっているとも言えるでしょう。
※調査レポートの全編は、下記ページにて無料でダウンロードが可能です。ぜひお気軽にご活用ください。
調査レポート:日本企業でリスキリング/アンラーニングが進まない大きな要因は従業員の"キャリア意識"の低さにあり
企業がアンラーニングで成果を高めるためには、具体的にどのようなことを意識すればいいのでしょうか。
本章では、アンラーニングを効果的に進めるためのポイントについて解説します。
アンラーニングは、まだまだ認知度の高い取り組みとは言いきれません。アンラーニングについて、人事部はその重要性を強く認識していても、経営層の理解が追いついていないというケースも大いにあります。しかし、経営層の協力なしには、人事施策を機動力高く実行するのは難しいでしょう。
だからこそ、アンラーニングやリスキリングのようなキャリア施策を進める際には、まず経営層に対してその必要性を伝えることが先決です。経営層の深い理解を得て、経営戦略とキャリア施策をうまく連携させることで、組織全体の成果にもつながりやすくなります。また、経営層から現場へメッセージを発信することで、スムーズに従業員の動機付けを図ることも可能です。アンラーニングやリスキリングに着手する際は、人事と経営層が一体になって取り組むことを意識しましょう。
アンラーニングの必要性を従業員に理解させるには、前提としてキャリア自律の意識を持たせる必要があります。
キャリア自律とは、自らのキャリアを主体的に構築しようとする状態のことです。従業員にキャリア自律が浸透すれば、一人ひとりが長期的な視野を持てるようになり、「現状のスキルのままではいずれキャリアが停滞する」「今の価値観のままでは時代の変化に対応できない」といった健全な危機感を抱けるようになります。結果として、アンラーニングやリスキリングへのモチベーションも高まりやすくなるでしょう。
キャリア自律を促す施策として、キャリアデザイン研修が好例です。従業員はキャリアデザイン研修を受講することで、自身の強み・弱みや外的環境の変化、組織からの期待などを再認識し、今後歩むべきキャリアを再設計できます。キャリアデザイン研修でキャリア自律の意識が育まれれば、学び直しへのあと押しにもなるでしょう。
※キャリアデザイン研修について詳しく知りたい方は、『キャリアデザイン研修の効果とは?効果を最大化させる4つのポイント』の記事もあわせてご覧ください。
前提として、アンラーニングは、今まで身につけてきたスキルや積み上げてきたキャリアの"否定"ではありません。あくまでさらなる成長に向けた、前進的なステップと言えます。しかし、どうしても多くの従業員は、自身の成功体験やノウハウを一度手離してしまうことに恐れを感じがちです。
だからこそ、上司が1on1ミーティングのような場を設け、部下の不安に寄り添うことも重要と言えます。上司が部下のキャリア相談に乗ったり、業務上のアドバイスをしたりして精神面をケアすることで、部下はより前向きに成長を目指せるようになるでしょう。
激動の時代においては、定期的なアンラーニングとリスキリングが不可欠です。特にアンラーニングは、従業員が自身の歩んできたキャリアを見つめ直し、さらなる成長を図るための好機と言えます。企業としてアンラーニングをあと押しすることで、その後の学び直しを促進でき、組織全体の成長にもつなげられるでしょう。
また、アンラーニングをスムーズに推進するためには、従業員一人ひとりにキャリア自律の意識を根付かせることが欠かせません。ライトマネジメントでは、年代別・階層別・課題別のキャリアデザイン研修をはじめ、キャリア自律につながる人材サービスを数多く提供しています。キャリア自律やアンラーニングの施策にお悩みの際には、ぜひマンパワーグループ株式会社 ライトマネジメント事業部までご相談ください。