働き方改革に、景気の変動、先行きの読めない社会情勢――。企業はさまざまな要因から、常に意識改革、そして行動の変革を求められています。しかし、「思うように社員の意識改革が進まない」と悩んでいる企業も多いかもしれません。そこで今回は、「企業が意識改革を行う目的やメリット」、「具体的な意識改革の手法」などについて分かりやすく紹介します。自社の意識改革をよりスムーズに進めるために、ぜひ参考にしてみてください。
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意識改革とは、目標へ到達するために「考え方」や「価値観」を大きく変えることを言います。例えば、「残業を減らす」という目標のためには、「長時間労働=善である」という意識を変えることが必要です。「長時間の残業は、生産性を落とす行為である」という風に価値観の基準を変えることで、自然と行動も変わっていきます。意識改革は主に「業績を上げたい」「職場環境を改善したい」といった目標に合わせ、行われることが多いです。
では、企業が意識改革を行う目的とは、具体的に何なのでしょうか。大きく4つの観点から紹介します。
最近で言えば、国によって働き方改革が推進されています。多くの企業が「長時間労働の是正」「有給休暇の取得」など、働き方を変える必要性に迫られています。その際、必要なのが意識改革です。例えば、「残業すれば評価される」「周囲に差をつけるには休みを取るべきではない」といった、長時間労働を是とする従業員の考え方を変える必要があります。意識が変わることで、自然と定時退社や有休取得という行動が伴ってくるのです。
「女性の管理職を増やす」「リーダー候補を育てる」といった、従業員の活躍を推進するうえでも意識改革は役立つでしょう。例えば、管理職を増やすためには、まず従業員本人に「管理職を目指したい」という意識を持ってもらうことが必要です。また、マネジメント層にも「積極的に部下を育てたい」という意識を持ってもらう必要があります。社内全体に共通の目的意識が醸成されることで、従業員の活躍しやすい職場が生まれるのです。
「業績を伸ばしたい」といった企業のパフォーマンス向上にも、まずは意識改革が必要になります。例えば、業績を伸ばすためには、生産性を上げることが大切です。生産性を上げるためには、今まで"当たり前"と考えていた業務のなかから、ムダを洗い出す必要があります。この「当たり前を変えること」が、意識改革です。業務に新しいスタンダードを取り入れることで、効率良く仕事を進められるようになり、業績向上につながります。
企業理念を浸透させるために、意識改革が行われることもあります。誰もが企業理念を意識しながら働くことで、仕事により強い意義を感じられるようになるからです。ただ、理念の内容が従業員の日常業務からかけ離れている場合もあるでしょう。そこで理念の重要性に気づいてもらえるよう、意識改革する必要があるのです。例えば、「企業理念は仕事の地続きにある」という意識が従業員に芽生えれば、自然と理念も社内に浸透していきます。
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意識改革を行うことで、企業にどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。それぞれ紹介します。
◆ワーク・ライフ・バランスの実現
労働時間や休日の取り方に関する意識改革によって、長時間労働の是正や積極的な有給休暇の取得が進みます。結果として、ワーク・ライフ・バランスが改善され、より働きやすい職場に変わることが期待できるでしょう。
◆生産性の向上
仕事内容や業務フローに関する意識改革が進めば、仕事におけるムダが省かれ、より生産性も上がります。また、より効率的なチーム運営の方法も開発されるかもしれません。それに伴い、企業全体の業績向上も期待できます。
◆優秀な人材の確保
従業員にとって働きやすい職場が生まれ、業績も安定すれば、対外的な評価も高まるでしょう。結果的に求職者にとっても魅力的な会社になるため、企業は採用活動を有利に進められ、優秀な人材の獲得にもつながります。
◆従業員のモチベーション低下
一方で意識改革が"強制的"なものになってしまった場合、従業員の反感を買いかねません。従業員のモチベーションが落ちることによって、優秀な人材の流出が進み、さらに負の影響が出る可能性も考えられます。だからこそ、意識改革を行う際は「従業員に目的意識を持ってもらい、自発的な意識改革を促すこと」が大切なのです。
では、実際に意識改革を進める際は、どのような流れで行えばよいのでしょうか。
具体的なプロセスを"4つ"のステップで紹介します。
まずは、意識改革で目指す目標を決めましょう。例えば、「長時間の残業が当たり前になっている」という状況があり、意識改革によってこれを改善するのを目標とします。次に経営層や人事が知らなければいけないのは、「現状」と「理想の姿」です。なぜならその"ギャップ"を埋められる内容が、意識改革の中身になるからです。
まずは現場の調査から現状を知ります。上の例で言えば、「過半数の従業員が週1日は22時まで残業している状態」だったとしましょう。そして、次は理想の状態を決めます。例えば、「毎日20時には社内の全員が退社している状態」にします。すると、「20時退社が当たり前である」という意識を社内に根付かせる必要があることが分かります。
いきなり「働きやすい職場をつくるため、毎日20時までには必ず帰りましょう」と呼びかけても、従業員は戸惑うだけでしょう。「それができないから残業しているんだけど......」という反感を覚えるはずです。だからこそ、経営者は意識改革を行うための「具体的な行動目標」とともに、従業員へメッセージを発する必要があります。
例えば、「毎日のスケジュールを社内システム上で可視化する」「残業は当日正午までに申請するようにする」「夕方5時以降には極力打ち合わせを入れないようにする」などです。そうすれば、従業員も行動へ移しやすくなります。また、従業員の自発性をより高めるために、各部署内でさらに具体的な行動を考えてもらうのも有効です。
具体的な行動目標が決まっても、メンバーレベルの従業員では気を使ってなかなか行動に移せないものです。そのため、まずは経営層や管理職クラスが、率先して行動を起こすようにしましょう。例えば、上司が「定時に帰る」といった見本を自ら示すことができれば、従業員もそれに倣い、安心して行動を変えることができます。
行動に移して1週間や1ヶ月で、いきなり全員の意識が変わるわけではありません。組織風土は長い時間をかけて醸成されるものです。また、意識は目に見えないものなので、効果が出ているか実感しにくいかもしれません。
そのため、現場の従業員たちの行動を適宜観察しながら、意識改革の進捗を確かめましょう。例えば、「20時までに帰る前提で、スケジュールを組めるようになった」「上司への相談は日中に行うようになった」など、従業員に小さな変化が生まれれば意識改革が浸透しつつある証しです。長い目で見つつ、PDCAを回していきましょう。
※組織改革研修の具体的なプログラム例については、「変革推進者研修」をご覧ください。
いざ意識改革を実行しても、うまくいかないことが多いのはなぜでしょうか。
意識改革が失敗する原因について、大きく3つの観点から解説します。
経営層や人事にとって「意識改革が必要」と思える問題でも、現場ではまったく問題視していない場合もあります。こうして温度差がある場合、経営層がいくら旗を振っても、従業員はついて来てくれません。また、現場の従業員同士で問題意識にギャップが生まれることもあります。ある従業員は熱心に意識を変えようとするものの、ほかの従業員が「変えなくてよい」と判断してしまったら、組織全体の意識改革が進むことはありません。
意識改革というのは、大号令のもとで全社的に推進されるケースが多いです。ただ、営業部、商品開発部、経理部など、部門によって業務量も違いますし、組織の風土も異なります。そのため、ある部署だけは積極的に取り組むけれど、ほかの部署がまったくついて来ず、プロジェクト自体が頓挫してしまうというケースもあるでしょう。
「水は低い方に流れる」とはよく言いますが、人は大変な道よりもラクな道を選びたくなるものです。たとえ意識改革が必要だと頭では分かっていても、どうしても「わざわざ頑張るほどではないか」と諦めてしまうケースもあります。従業員がこのように現状維持へ流れてしまっては、全社の意識改革は到底成し遂げられません。
全社員に変革に対する意識を醸成させ、自律的・主体的に動いてもらうにはトップによる強いリーダーシップに加えて、部門長クラスが自社の中期経営計画をしっかりと自身の言葉で部下メンバーに話すことができるかがカギになります。構造改革を円滑に推進するために必要不可欠な意識醸成のプロセスを中心に実際の事例も交えながら解説したセミナーもご覧ください。
では、どのようなことに気をつければ、意識改革はうまくいくのでしょうか。
意識改革を成功させるために押さえておくべきポイントを、5つに絞って紹介します。
人は、理由もないのに行動に移そうとは思いません。たとえ経営層が「意識を変えましょう」と言っても、従業員にとっては"押しつけ"に感じられてしまいます。そのため、大切なのは意識改革が必要な「根拠」までセットで伝えることです。例えば、「コストを削減することで、その分賞与として還元できるから」「逆に残業が減らないと、退職者が増えて一層負担が増えるから」など、従業員が自分事化できる根拠であればより効果的です。
従業員が「やりたくない」「やっても意味がない」と思う内容では、意識改革は進みません。大切なのは、目標に向かって行動するためのやる気を、従業員に起こさせること。つまり「動機づけ」です。例えば、意識改革へ積極的に取り組んだ従業員を表彰したり、自己変革の度合いが大きいほど評価が伸びる評価制度を導入したりという工夫も有効でしょう。従業員が「やってみたい」と思う意識改革であれば、自然と多くの人が取り組みます。
いきなり大きな変化を求めても、能力が伴わずに多くの人が諦めてしまいます。そのため、大切なのはまず現実的な行動目標を決め、スモールスタートでやってみることです。例えば、「コスト削減のためにまずはカラーコピーの回数を抑える」といった内容です。小さな達成感の積み重ねによってモチベーションを保つことで、より大きな目標を到達できるようになります。現場の意見もヒアリングしながら目標を立てると、より良いでしょう。
経営層・人事と従業員の間に温度差があると、「経営層だけが張り切っている」「人事だけが必死になっている」と思われ、従業員の意欲をさらに損ねてしまいます。そのため、大切なのは「全社一丸となって取り組む意義」を伝えることです。例えば、「従業員1人当たりの売り上げが10万円伸びれば、企業として上場を目指せる」というような内容です。いかに意識改革が会社全体の未来に関わるかを、メッセージとして発信することが重要でしょう。
意識改革は、"一日にしてならず"です。今まで培ってきた文化や風土を変えるには、それと同等の時間がかかるのは当然のことだと言えます。結果を見ながら定期的に振り返りを行い、継続的な意識改革を目指しましょう。
意識改革は、一朝一夕で成し遂げられるものではありません。また、実践してもなかなかうまくいかず、自社だけで進めるのが難しいと感じる場面もあると思います。その際は、研修の専門企業をはじめ、外部のプロフェッショナルを頼ることも大切です。人材育成の専門家からアドバイスを受けることで、より効果的でスムーズな意識改革を進めることができるでしょう。
「自ら考え⇒判断⇒行動」できる自律的人材の育成、経営戦略を実行するうえで必要な人材の階層別育成、階層やキャリアといった枠にとらわれず、企業が業績向上を実現するために取り組む必要のある人材育成課題など、「人」と「組織」の問題を解くご支援をいたします。