

「キャリアは会社が決めるもの」という時代は終わりつつあります。従業員一人ひとりが自分のキャリアに主体的に向き合う「キャリア自律」が求められる今、その土台となるフレームワークとして注目されているのが「Will Can Must(ウィル・キャン・マスト)」です。自分が「したいこと」「できること」「すべきこと」を整理することで、進むべきキャリアの方向性が見えてきます。企業の役割は、従業員のキャリアを一方的に設計することではなく、本人が自分のWill Can Mustに気づき、行動できる環境を整えることです。本記事では、Will Can Mustの基本的な意味から、企業として取り組める支援策まで、分かりやすく解説します。
「Will Can Must」は、主にキャリアプランを設計するときに使われるフレームワークです。
3つ合わせて使用することで効果を発揮しますので、ここでそれぞれどのような意味を示すのか紹介します。
「Will」は、仕事において「自分がしたいこと」です。夢や憧れ、願望、志向性とも言い換えられます。例えば、「スポーツに関わる仕事がしたい」「クリエイティブな職種に就きたい」といった希望が挙げられるでしょう。仕事でWillを十分に満たすことができれば、労力を惜しまず努力でき、高いモチベーションにもつながります。
「Can」は、仕事において「自分のできること」です。職業上活かせるスキルや能力、知識、資格とも言い換えられます。例えば、「アポイント獲得からクロージングまでひとりで完結できる」「PCソフトで設計図面を描ける」などの専門スキルのほか、「課題解決力」や「協調性」といったポータブルスキル(どの業界でも活かせる能力)も含まれます。仕事でCanを十分活かすことができれば、高い成果やパフォーマンスを挙げることも可能です。
「Must」は、仕事において「すべきこと・しなければいけないこと」です。周囲からの期待や役割、義務とも言い換えられます。例えば、「管理職として部下の育成を担う」「業績目標を必ず達成する」などが挙げられるでしょう。Mustがあることで、組織や同僚からの期待を感じられるため、高い貢献性や愛社精神にもつながります。
「Will Can Must」はそれぞれに円を描き、重なる部分がその人材にとって最も満足度の高い領域だと言われています。企業としてキャリア開発を支援する際には、人材一人ひとりに「Will Can Must」の円を考えてもらい、重なる領域を探していくことが大切です。これによって適材適所の配置を行い、従業員の活躍度を高められます。
「Will Can Must」は、3つの円の重なる領域を広げていくことが重要です。もしも3つの要素で足りない部分があった場合、業務上どのような影響があるのでしょうか。3つそれぞれの要素について、簡潔に説明します。
「Will=したいこと」が満たされていないということは、職場で「Must」が優先され、義務感で働いているケースが考えられます。そうなると、もちろん十分なモチベーションは得られません。また「Can」だけが満たされていると、「仕事はできるけど退屈」という状態もあり得ます。最悪の場合は退職につながる可能性もあるでしょう。企業としては従業員の希望を正しく把握し、人事配置や業務の割り当てを考えることが重要です。
Willが満たされない状態が続くと、仕事への活力や熱意が失われ、ワークエンゲージメントの低下にも直結します。エンゲージメント向上の観点からも、従業員のWillを把握し応える仕組みづくりは経営上の優先課題といえるでしょう。詳しくは「今注目のワークエンゲージメントとは?高めるための方法・施策をわかりやすく解説!」をあわせてご覧ください。
「Can=できること」が活かせていないということは、身の丈以上の仕事に無理に向き合っている可能性があります。そうなると、思ったような成果が伴わず、人材がローパフォーマー化してしまうケースも少なくありません。周りからの評価も当然上がらず、処遇も伴わないため、本人が強い葛藤とストレスを感じることもあるでしょう。企業としては、従業員のスキルを客観的に見極めて、適性の活かせる業務へ就かせる配慮が必要です。
※ローパフォーマーについては、「ローパフォーマー対応3つのポイント」で詳しく解説しています。ぜひご一読ください。
「Must=すべきこと」が不足しているということは、周囲からの期待が本人に伝わっていないケースが考えられます。期待や役割が与えられない状態だと、本人は「何のために仕事をしているのだろう」と疑問に感じ、モチベーションを喪失してしまう可能性もあるでしょう。周囲の役に立っているという実感(自己有用感)を高めてもらうためにも、企業側は従業員に対して、期待や役割をはっきり言語化して伝える努力が欠かせません。
キャリア開発において、従業員の「Will Can Must」を満たしてあげるにはどうすればよいでしょうか。
ここでは企業ができる支援方法について、7つ紹介します。
キャリアデザイン研修とは、人材一人ひとりが自分の強みと役割を理解し、今後のキャリアについて計画を立てるための研修です。キャリアデザイン研修では、「自己診断による強みの理解」や「周囲からの期待・役割の理解」に軸足が置かれることが多く、自分の「Will」「Can」「Must」を再認識できる場になっています。あらためて自分の得意領域や進みたい道を明らかにすることで、人材が自発的に業務との向き合い方を変えていくことが可能です。企業としては、従業員の自己理解とモチベーション向上のために、ぜひ活用したい研修のひとつです。
≪一緒に読みたい記事≫キャリアデザイン研修の効果とは?効果を最大化させる"4つ"のポイント
1on1ミーティングとは、上司と部下が1対1で行う、定期的な面談のことです。上司から人事評価を伝える「キャリア面談」とは違い、1on1ミーティングはフランクなコミュニケーションが基本で、悩みの相談やアドバイスを行います。上司は部下に対し、「うまくいかなかったのは何が原因だと思う?」「どうすれば次は成功できる?」など、自発的な解決を促進するのがポイントです。これにより部下のキャリア開発を助け、「Can(できること)」を伸ばす支援ができます。また将来の進路について話し合い、部下に「Will(したいこと)」や「Must(すべきこと)」を再認識してもらうことも多いです。こうした面談を週1回・月1回などで取り入れることで、従業員の成長を促せます。
1on1にWill Can Mustの観点を取り入れる際は、以下のような問いかけが効果的です。
「今の業務の中で、もっと時間をかけたいと思う仕事はありますか?」
「どんな仕事をしているとき、時間を忘れて取り組めますか?」
「周りのメンバーからよく頼られることは何ですか?」
「これまでの経験の中で、自分らしく力を発揮できたと感じた場面はありますか?」
「今期、組織として優先したいことと、あなたの役割の関係を一緒に確認しませんか?」
「私からあなたへの期待を改めて共有してもいいですか?」
詳しくは「1on1ミーティングで何を話すべき?効果を高めるためのテーマ・ポイントを解説!」をあわせてご覧ください。
360度評価とは、上司や同僚、部下をはじめ多方面の人から、チェック形式で業務態度・能力を評価してもらう制度です。日常業務はどうしても上司からの評価が中心になるので、ほかの従業員から意見を聞く機会はほとんどありません。そこで360度評価を実施すれば、人材一人ひとりが他人からどう評価されているかを知ることができます。「Can(できること)」は、意外にも自分の認識と周囲からの見られ方にギャップがあることも多いものです。周囲から客観的に評価を得ることで、あらためて自分の隠れた強み・能力・適性に気づくことができるでしょう。
従業員へ業務を割り振る際、どうしても「Must(すべきこと)」を優先している企業も多いかもしれません。ただ、そうなると仕事への義務感が強くなってしまい、従業員の意欲を下げてしまうケースもあります。「ほかの会社ならやりたいことができるかも」と部下が考え、思わぬ人材の流出にもつながりかねません。だからこそ、できるだけ人材一人ひとりの「Will(したいこと)」をヒアリングし、それを優先できるような業務の割り当てをすべきでしょう。そのためには、普段から上司が面談を通じて、部下の希望を聞いておくことが大切です。
人事評価制度は、「どのような人材を評価するか」という企業の判断軸になります。これがブレていたり、一部の人だけが評価される仕組みになったりしていると、従業員の成長抑止につながりかねません。いま一度、人材一人ひとりに期待すること(Must)や必要な能力(Can)を定義し、評価方法を設計し直すことも有効でしょう。設計し直すポイントに関しては「評価制度の見直し方法・ポイントを解説!」をご一読ください。
ちなみに評価方法のひとつとして、「MBO(目標管理制度)」があります。これは組織全体の目標とリンクさせる形で、従業員一人ひとりに個人目標を立ててもらう手法です。従業員自らが「Must(会社から期待されること)」や「Will(なりたい姿)」を考えるのがポイントで、周囲からの期待が伝わりやすく、かつ本人に自発的な努力を促せます。ぜひ新しい人事評価制度を導入する際には、評価方法の例として参考にしてみてください。
≪一緒に読みたい記事≫目標管理制度(MBO)とは?意外と知らない正しい運用方法を紹介!
インセンティブとは、個人の業績や成果に対して支払われる、報酬のことです。広義では金銭的な報酬だけでなく、表彰や特別休暇などが含まれることもあります。インセンティブは人事評価制度と同じく、従業員に対して期待や役割(Must)を明確に伝えられる手段です。「このような行動が評価される」と分かれば、従業員も業務に取り組みやすくなります。また、一人ひとりがインセンティブの獲得に向けて努力することで、スキルや能力といった「Can」が大きく伸びることも多いです。能力開発の支援策としても、効果的だと言えるでしょう。
従業員の「Will(したいこと)」を満たすために重要なのが、柔軟な人事異動制度です。一人ひとりが自分の希望する部署や職種に就ける仕組みがあれば、理想のキャリアに近づくことができ、業務への意欲も高められるでしょう。人事異動制度の例として、各部署が異動者を公募する「社内公募制度」や、従業員自ら希望部署へ自分を売り込む「社内FA制度」などがあります。キャリア支援の手法として、導入を検討したいところです。
これら7つの支援策を継続的に機能させるためには、従業員自身が学び続ける意欲と能力、すなわち「ラーナビリティ」を持つことが前提となります。
キャリア開発の具体的な取り組み方法や成功させるポイントついてはこちらのお役立ち資料で解説します。あわせてご覧ください。
お役立ち資料|社員の"キャリア不安"に効くキャリアデザイン研修の重要性と正しい進め方とは?
人材一人ひとりの「Will」「Can」「Must」の輪を大きくし、重なる領域を広げていくことこそ、企業として目指すべきキャリア開発支援の姿です。しかしビジネス環境が急速に変化する今、企業が従業員に提供できるキャリアの「正解ルート」はもはや存在しません。そこで鍵を握るのが、「ラーナビリティ」という概念です。
ラーナビリティとは、継続的に新しいスキルや知識を習得しようとする意欲と能力のことです。高いラーナビリティを持つ人材は、環境や役割が変わっても、自ら「Will(新しくやってみたいこと)」を見つけ、「Can(できること)」を広げ、変化した「Must(期待される役割)」に応えようとします。つまりラーナビリティは、Will Can Mustの3つの輪を自発的に更新し続ける力とも言えます。
あわせて意識したいのが「アンラーニング(学習棄却)」です。時代に合わなくなった成功体験や固定観念を手放し、新しい学びを受け入れる姿勢もラーナビリティの重要な側面です。しかしマンパワーグループとHR総研の共同調査では、重要性を約8割の人事担当者が理解しながらも、約4割が「従業員のキャリア自律意識を高められていない」と回答しており、仕組みづくりと同時に意識変革が課題となっています。
企業としてラーナビリティを高める環境づくりには、学習プラットフォームの導入や書籍・勉強会への費用支援といった仕組み面の整備だけでなく、「学ぶことが評価される」という文化の醸成が不可欠です。上司が自ら学ぶ姿勢を見せる、1on1で「最近学んでいることは?」と問いかけるといった日常的な働きかけも、従業員のラーナビリティを刺激する有効な手段です。Will Can Mustのフレームワークとあわせて、ぜひ組織の学習文化づくりに取り組んでみてください。
≪一緒に読みたい記事≫今注目の「アンラーニング」とは?リスキリングとの関係性や効果的に推進するポイントを解説!
企業として従業員の「Will Can Must」をかなえられるように支援することで、組織全体の生産性を高めることができ、定着率の向上も期待できます。ただ、人材自身が自分の「Will Can Must」に気づいていないケースも珍しくありません。その際は、キャリアデザイン研修をはじめ、外部の研修サービスを活用することが大切です。研修を通じて本人に強みや役割を再認識してもらうことができ、より効果的な人材育成につなげられるでしょう。
ライトマネジメントのキャリア開発は、企業向け研修のなかでも圧倒的に高い採用実績を誇るソリューションです。
組織内で自分の役割や期待されていること、強みを理解した上で、そのキャリアプランを行動計画に落とし込み、自発的な向上心を磨きます。また、経営環境の変化などにより、期待通りのパフォーマンスを発揮できない方に向けた再活性化プログラムもご用意。20~30代の若年層のほか、40代・50代の中高年層の意識改革・行動変容に幅広く貢献しています。