「社員から人事評価への不満が寄せられており、人事評価制度の見直しを検討している」
という企業も多いかもしれません。人事評価への不満は社員の意欲を低下させ、場合によっては離職率の増加を招くこともあります。そのため、現状に応じて人事評価制度の評価基準や運用方法を改善することが大切です。そこで今回は、人事評価への代表的な不満と人事評価制度の改善方法について解説します。また本稿では「そもそも人事評価とは」「人事評価の目的や方法とは」から分かりやすく説明しますので、参考にしてみてください。
そもそも人事評価とは、どのような仕組みを指すのでしょうか。
ここでは、人事制度の定義や主な指標・評価方法について簡潔に解説します。
人事評価とは、社員の成績や能力、態度などを社内の指標に基づいて評価することをいいます。人事評価は基本的に四半期や1年など一定の期間ごとに行われ、結果は評価面談を通じて本人へ開示されることが一般的です。ちなみに人事評価の基準を明らかにし、運用しやすいようにルール化したものを「人事評価制度」といいます。
また人事制度のなかには、人事評価制度のほかに、給与や賞与を決定する「報酬制度」、役職やミッションを決定する「等級制度」があります。3つの人事制度は連携して運用され、「人事評価の結果をもとに給与額を決める」「等級制度のグレードをもとに賞与額を決める」というように総合的に社員の処遇を決定することが通例です。
人事評価で何を指標とするかは、企業によってさまざまです。代表的な評価指標としては、成果やプロセスに基づく「業績評価」、本人のスキルや知識に基づく「能力評価」、勤務態度や意欲などに基づく「情意評価」が挙げられます。社員の業務内容によって求められる役割は異なるため、階層や職種ごとに指標を調整することも珍しくありません。また、指標に偏りが出て公平性を損なわないよう、複数の指標を組み合わせる企業もあります。
人事評価の手法も、企業によって異なります。例えば、目標の達成度をベースに評価する「目標管理制度(MBO)」、上司や同僚などの他者によって多面的な評価を行う「360度評価」、優秀な社員の行動特性をもとに評価を決める「コンピテンシー評価」などが代表的です。また、近年は人事評価による社員のモチベーション低下を防ぐため、あえてA・B・Cなどのランクをつけない「ノーレイティング」という評価手法を導入する企業もあります。
目標管理制度(MBO)の概要については「目標管理制度(MBO)とは?意外と知らない正しい運用方法を紹介!」で詳しく解説しております。
そもそも人事評価とは、どのような目的で運用されているのでしょうか。
ここでは、人事評価の目的について大きく4つに分けて解説します。
人事評価制度で「このような能力・行動が高く評価される」という指標を明確に定めておけば、昇給や昇格の客観的な尺度になります。そのため、処遇に対する社員の納得度もより高めやすくなるでしょう。その結果、「どうして給与や役職が上がらないのか」といった不満の声も予防でき、社員のモチベーション低下も抑えられます。
人事評価の結果には、社員一人ひとりの「できること」「できないこと」が色濃く表れます。そのため、企業としては人材の強み・弱みを客観的に把握でき、それを人事配置に応用することも可能です。例えば、人材一人ひとりをより能力の発揮しやすい部署・職種へ配属することで、組織全体のパフォーマンス向上を図れるでしょう。
人事評価の指標は、「このような能力・行動特性を身につけてほしい」という企業から社員へのメッセージでもあります。そのため、社員は評価指標を参考にしながら、目標達成に向けて自ら能力開発を図りやすくなるでしょう。上司としても評価結果をもとに部下を指導できるため、一人ひとりのスキル向上を支援しやすくなります。
人事評価は、基本的に企業の経営戦略や企業理念をもとに設計されます。例えば、「経営戦略を遂行するために、どんな能力が必要か」「企業理念を体現するには、どんな行動が適切か」などを評価指標に盛り込むケースも珍しくありません。このように人事評価を通じて、社員に企業としての方向性を周知する目的もあるのです。企業の姿勢や考え方が社員に伝われば、全員が同じ方向を向いて働けるようになり、業績にも好影響が期待できます。
人事評価の基準や結果に対して、社員から不満が寄せられるケースも珍しくありません。
ここでは、人事評価に対する代表的な不満について解説します。
評価基準が不明瞭で分かりにくい場合、社員から不満が寄せられる可能性が高いです。原因としては、「能力・成果・情意のうち何を重視するのかが定まっていない」「評価基準がそもそも明文化されていない」「指標自体はあるが、具体的な行動や能力にひもづいていない」などが考えられます。評価指標があいまいなままでは、何を根拠に評価を決められているのかを社員が理解できず、当然ながら評価結果や処遇にも納得できなくなるでしょう。
「評価基準が現実的ではない」という不満が、社員から挙がる場合もあります。具体的には、「能力的に達成の不可能な行動目標が設定されている」「好景気の際に考案された業績目標が、長年変えられずに運用されている」といったケースです。満たすことの難しい評価基準では、社員のモチベーションも低下してしまいかねません。
評価の指標が一部に偏っていると、社員から不満が挙がることもあります。例えば、「定量的な成果だけが評価され、努力の過程は考慮してもらえない」「どれだけ成果を出しても、年功序列が優先されてしまう」という状況です。たとえ明確な評価基準があっても、指標のバランスが悪いと社員の納得度は下がってしまうでしょう。
人事評価制度と等級制度・報酬制度がうまく連携できていないと、社員の不満につながるケースもあります。例えば、「どれだけ高い評価を得ても昇給しない」「評価が低いにもかかわらず昇格している人がいるのはおかしい」という不満です。昇給や昇格に結び付きにくい人事評価制度では、社員の意欲を高めることは難しいでしょう。
評価者によって評価結果が変わってしまうと、社員の納得感も低くなってしまいます。特に人事評価においては、評価者もひとりの人間なので、心理状況や評価相手との関係性によって評価結果が変動してしまうことも珍しくありません。例えば、一部の項目に引っ張られてほかの項目も高く評価してしまう「ハロー効果」、嫌われたくないあまりどの社員にも高評価をつけてしまう「寛大化傾向」などが挙げられます。こうした評価者によるエラーをなくすためには、人事評価制度そのものを見直すだけでなく、評価者に対する十分な訓練も必要になるでしょう。
「自己評価よりも低い評価をつけられたが、理由がまったく分からない」といった不満が挙がることもあります。主な原因としては、フィードバックが十分に行われず、評価結果の理由が本人に伝わっていないことが挙げられるでしょう。評価面談で上司から丁寧にフィードバックが実施されないと、部下の納得感も薄まってしまいます。
「デンソーの人事が語る|フィードバックで組織の成長を最大化するには?」 も合わせてご覧ください。
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人事評価への不満を解消するためには、どのような点に気をつけて制度の改善を行えばよいのでしょうか。
ここでは、人事評価制度を見直す際のポイントについて解説します。
人事評価に不満が寄せられる原因として、人事評価制度が企業の実態に即していないことが考えられます。というのも、経済や社会の変動が激しい現在では、経営戦略が短いスパンで大きく変わることも珍しくありません。その際、人事評価制度が旧来のままでは、評価の尺度が企業の目指すべき方向性とかみ合っていない可能性もあります。そのため、まずは自社がどのような経営方針を持ち、どのような人材を必要としているのかを把握することから始めましょう。企業の実態を正確に理解することで、人事評価制度の評価基準も定めやすくなります。
評価基準があいまいでは、評価結果に対する社員の不満も解消できません。そのため、評価基準をできるだけ具体化することも大切です。例えば、業績を指標とする人事評価であれば、定量的な数値まで評価項目に定めるようにします。社員が「このような行動をとれば評価が上がる」と理解できるレベルまで評価項目を細分化できれば、評価結果への納得度も高まるでしょう。また、評価基準は上層部だけが見られるクローズドな状態ではなく、全社に公開することも重要です。評価基準を全社へ浸透させることで、上司も部下に理解を促しやすくなります。
職種や階層によって、評価されるべき行動は変わります。そのため、全社的に同一の評価基準を使うのではなく、職種・階層ごとに指標を細かく調整することも重要です。例えば、営業職の場合は売り上げや成約数といった「業績評価」のウエイトが高くなりますが、事務職であれば差し込み業務への柔軟性や協調性など「情意評価」がメインになることが想定できます。また、管理職はプレイヤーと異なり、組織全体での成果も指標になるはずです。このように社員の役割に照らし合わせて評価基準をアレンジすると、社員側の納得度も高まりやすいでしょう。
特定の評価指標に偏りすぎると、社員から不満が挙がることもあります。そのため、評価項目を見直す際は、複数の指標を組み合わせることも有効です。例えば、定量的な業績だけを評価するのではなく、「目標に対する挑戦度合い」や「バリューの体現度」などを加味するという方法もあります。また、上司による評価だけでは客観性が不足する場合には、同僚や後輩による「360度評価」や、社員同士がお互いに手当を贈り合う「ピアボーナス」を導入するのもひとつの手法です。自社の現状に合わせて、独自の評価指標を作り上げる姿勢が求められます。
評価結果が昇給や昇格に結び付かないと、社員のモチベーションも低下しかねません。だからこそ、人事評価を改善する際には人事制度全体を見直して、等級制度・報酬制度との連携を意識することも大切です。ちなみに評価制度を「絶対評価」にするか「相対評価」にするかによって、報酬額にも変動が生じます。絶対評価にすれば社員の納得度は高まるものの、給与の支給額が増える可能性があるため、給与原資を圧迫しかねません。そのため、報酬制度と無理なく連携させるためには、絶対評価と相対評価の最適な配分比も考えるようにしましょう。
評価結果に対する社員の納得度を高めるためには、評価者である管理職のフィードバック能力を向上させることも大切でしょう。例えば、管理職向けに「評価面談・フィードバック研修」を実施することで、人事評価の正しい伝え方や効果的なアドバイスの方法を習得させることが可能です。また、自社の評価基準をマニュアルにまとめて配布することによって、管理職に人事評価への理解を深めさせる方法もあります。評価面談で管理職が部下の疑問に丁寧かつ正確に答えられるようになれば、社員の人事評価に対する不満も防止しやすくなるでしょう。
効果的なフィードバックの手法・流れについては、お役立ち資料の「現場のパフォーマンスを高めるネガティブフィードバックとは?」にて解説しています。無料でダウンロードが可能ですので、ぜひご活用ください。
人事評価制度を見直す際は、等級制度や報酬制度をはじめ、関連する人事制度を抜本的に改善しなければいけないケースもあります。だからこそ、人事制度の専門企業に相談することもひとつの方法です。専門家のアドバイスを受けることで、人事制度全体のバランスを整え、より効果的な人事評価制度を設計することができるでしょう。
当社では、人材育成・組織開発のパイオニア企業として、人事制度のコンサルティングサービスをご提供しています。企業の経営戦略や事業方針に基づき、評価・報酬・資格等級などの人事制度をトータルに構築することが可能です。現状分析から制度設計、導入準備まで一貫してご支援できますので、人事評価制度を見直す際にはぜひお気軽にお問い合わせください。