連載第1回で述べたように、Z世代の若手社員の安易な早期離職を防ぎ育てていくには、若手が抱いているキャリア自律意識を、地に足付いたキャリア形成へと導くことが大切です。そのためには、部下が日々「働きがい」と「成長実感」を得ることのできる鍛錬職場への改革が必要です。
そこで、連載の第2回では、これを実現するために上司が取り組むことが望まれる、「若手を育てるマネジメントループ」の実践について解説していきましょう。
この「ループ」は、「リアリティショックを緩和する」→「組織の論理をキャリアに翻訳する」→「仕事を通じた成長実感をつくる」という3つのステップから成るものです。若手を育てる必須のフレームであり、任せる仕事を徐々にレベルアップしていく中で、ぐるぐる循環させながら継続的に回していくことが求められるものです。これを一人ひとりの若手部下に適用していくことで、日々働きがいと成長が実感できる職場づくりにつながるのです。
では、なぜ今、若手社員に対する入社直後からの上司によるきめ細かい対応が、より重要になっているのでしょうか。まずこの点に触れておきましょう。
これまで、新入社員の定着を図るには、内定式や新入社員研修から育んでいく"同期意識"が必須と考えられてきました。同期入社の社員同士の絆が強まることで、離職を踏みとどまる効果を期待できたからです。同じ部署や部門に同期を複数人配属することも、悩み相談や支え合うことを想定していたからです。
もちろん、同期の絆はZ世代の若手社員に対しても一定の離職防止効果があるでしょう。ただ、その効果は薄れつつあるというのが私の見立てです。理由は2つあります。
1つ目は、SNSに慣れ親しんだ若者たちは、会社を辞めても常につながっており、いつでも悩み相談ができるからです。むしろ転職した元同期たちから社外の事情を知り、焦りを募らせる要因にもなってきています。SNS世代の早期離職防止に、同期の絆は効きにくいのです。
2つ目が、ジョブ型雇用の広がりや人材流動化によって、"〇〇年新卒入社組"といった年功序列型の階層が組織内から薄れつつあるからです。大企業や公務員であっても、重要ポストへの即戦力の中途採用が増えています。これまでは入社20年目以降くらいから徐々に昇進格差が生まれたものですが、早期化も進みつつあります。つまり、入社早々のタイミングで同期意識を高めても、早々に同列ではなくなる矛盾を抱えてしまうのです。
そのため、安易な早期離職防止には、上司が担うマネジメントの占める比重が高まっていると言えるのです。「働きがい」と「成長実感」という若手部下の気持ちに寄り添うことが重要ですから、「若手を育てるマネジメントループ」も、任せた仕事を若手部下自身がどう受け止めるかをベースにしています。
上司が、自分自身と、共にチーム内で若手の育成やOJT指導役を任せる先輩社員をも巻き込んで、どのように若手社員を育成していくか。その点もイメージしながら、以下「ループ」を構成する3つのステップを読み進めてください。
新入社員を迎えた上司が取り組む第1のステップは、「リアリティショックを緩和する」ことです。少子化の環境下で、かつSNSに慣れ親しんできたZ世代には、世代間ギャップや理想と現実とのギャップの受け止めと解消が、とても重要な課題になっています。
上司としては、若手社員に少しでも早く仕事を教え、アドバイスしたくなるところですが、まずは本人のキャリア希望など気持ちを傾聴することです。それが新入社員であればなおさらです。1on1ミーティングの機会を設定し、本人が抱く不安感やリアリティショックの内容を丁寧に受け止めます。
代表的な若手の不安の第一は、仕事の知識や技術をきちんと習得できるか否か、仕事ができるようになれるかどうか。不安の第二は、上司・先輩と円滑なコミュニケーションが保てるか否か、世代間ギャップの違和感です。若手に不安や悩みを遠慮せず相談するように促しつつ、定期ミーティングや日報交換など頻繁に意思疎通できる機会をつくることも必要です。
また、若手部下が抱いた、職場の人材育成方針や顧客対応姿勢などに対する違和感など、より根源的なショックは、慎重に受け止め対応する必要があります。成長欲求や社会貢献意識の高いZ世代の若手が、会社への疑念を持った場合、大きなモチベーション低下や離職につながるリスクも高まります。
上司による若手のリアリティショックの受け止め方と対応次第では、これらを適切に緩和し、逆に成長のバネにつなげることも可能です。若手の思いや理想を丁寧に聴き取りながら、働きがいへとつなげる対話が大切なのです。
報連相の「翻訳」例
「周りから承認され、働きがいをつくる武器」
次いで第2のステップは、「組織の論理をキャリアに翻訳する」ことです。終身雇用や年功序列を期待できない時代、真面目な若手ほど市場価値の高いプロに成長したいと願う傾向が強まっています。組織の論理として仕事を指示するだけでは、動機づけされにくいのです。
そのため、上司にはまず社内的な業績目標の上位にある、顧客や社会への貢献につながるビジョンを語り、部下が担う仕事の意義や目的を腹落ちさせることが求められます。そのうえで、その目的に貢献するプロフェッショナルへと成長するキャリア形成に、任せる仕事がどうつながっていくか、腹落ちさせることです。上司の「意味づけ力」こそが重要なのです。
社会人としての基本マナーや基本ルール、報連相といった、一見外から強制される「組織の論理」とも思えるものも、自分の成長とキャリア形成の基礎だと解釈できれば、意欲的にスキル向上に励むことができます。どんな仕事や経験にも無駄はないことを"翻訳"し、適切に導いていくのが上司の役割なのです。
そして、第3のステップは、「仕事を通じた成長実感をつくる」ことです。「四の五の言わずに、目の前の仕事に取り組め」など、若手のうちは下積みすべきとの論理は、もはや通用しません。日々任せた仕事に成長実感を伴わせられるかが、若手育成の肝になっているのです。
若手部下は、《ステップ②》を経て、自分の中長期のキャリア展望と、顧客や社会への貢献に至る目的に向けて働こうとします。しかし、それらがあまりに遠くにあり、抽象度の高いイメージのままでは、日々のルーティン業務や地道な仕事の繰り返しが、そこに至る成長のプロセスだとは感じられません。
そこで必要となるのが、「小さなキャリアの階段づくり」です。本人が半年後や1年後に到達したいキャリア展望に向けて、四半期後、1か月後、さらに1週間後と、逆算で「小さなキャリアの階段」を刻み、成長へのステップのイメージづくりをサポートするのです。その際、一段ずつの階段を上るための工夫と計画は本人に任せましょう。
そして、節目ごとに自分の仕事を振り返らせ、「ここまで成長できたんだ」という実感をもたらし、自ら次のチャレンジに向かわせるのです。客観的に見て成長していたとしても、本人に実感がなければ焦りや不安は払拭しきれません。上司の伴走と承認によって、初めて実感が伴うのです。たとえ0.1段ずつでも自力で昇ったという手応えを、都度持てるようにすることが大切です。
Z世代の真面目な若手部下ほど、担当する仕事が自身の成長につながっているのかを気にしながら実務に向き合う傾向があるのです。タイパ思考とも相まって、ベテラン上司には若いから焦らなくてもよいのにと感じるかもしれませんが、若手の気持ちを汲み、任せている仕事を通じた成長実感をつくっていくことが欠かせません。
次回連載(最終回)では、人材育成を強みとしてきた日本企業の原点に立ち返り、今後の部下育成を展望する視点について考察を深めていきます。
【第1回】なぜ大企業ほど早期離職が深刻化しているのか?
【第3回】若者を育ててきた日本企業の矜持を取り戻そう
※若手の働きがいを育み成長を促す「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『Z世代の早期離職は上司力で激減できる! 若手社員の「働きがい」と「成長実感」を高める3つのステップ』(FeelWorks、2024年4月)をご参照ください。
人を育て活かす「上司力®」提唱の第一人者。(株)リクルートで『リクナビ』『ケイコとマナブ』『就職ジャーナル』などの編集長を経て、2008年に (株)FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、研修事業と出版事業を営む。「上司力®研修」シリーズ、「ドラマで学ぶ『社会人のビジネスマインド』」、eラーニング「パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」、「50代からの働き方研修」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員サポーター、(一社)ウーマンエンパワー協会 理事等も兼職。30年以上、一貫して働く現場から求められる上司や経営のあり方を探求し続けており、人的資本経営、ダイバーシティマネジメント、リーダーシップ、キャリア支援に詳しい。連載や講演活動も多数。
著書は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks)、『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政)、『本物の「上司力」』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等約40冊。最新刊は『Z世代の早期離職は上司力で激減できる!「働きがい」と「成長実感」を高める3つのステップ”』FeelWorks、2024年4月1日)。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。
https://www.feelworks.jp/