Z世代といわれる若手部下を持つ上司の皆さんの多くが、モチベーション低下や早期離職に頭を悩ませていることと思います。ただでさえ、ハラスメント防止や働き方改革でマネジメントの難度が上がる中、若手のメンタル不調に陥ることを防ぎ、やる気にさせるにはどうすればよいものか。こんなにも若手に優しく働きやすい環境になってきた会社で、自分はこれだけマネジメントに苦心しているのに、なぜ彼らが辞めるのか理解に苦しみ、どう育てればよいものか戸惑うことも多いことでしょう。
巷では、Z世代(注)の台頭や価値観の差異に関する話題に事欠かず、自分たちが若手だった頃と時代が違うと頭では十分に分かっているはず。とはいえ、日々のマネジメントにどう活かせばよいものか、不安がよぎることが多いのではないでしょうか。
そこで、3回に渡る本連載では、若手社員の早期離職の背景を押さえ、さらに現場でどう接すればよいか、明らかにしていきます。ここで紹介する育成マネジメントを身に付けることで、安易な早期離職を激減できるはずです。
ただし、もはや離職防止一辺倒が通用する時代でもありません。場合によっては、「この早期離職はやむを得ない」という判断も必要です。その点も含め、Z世代の育成とキャリア支援の今後のあり方を、考察していきましょう。
(注)Z世代とは、概ね1990年代中期から2010年代初期に生まれた世代を指す。生まれた時からインターネット利用が可能な、最初のデジタルネイティブ世代でもある。
企業が頭を抱える若手社員の早期離職問題。厚生労働省の調査では、この30年あまり大卒の新入社員の離職率は「3年3割」で、高止まりのままです。ただし、その中身は様変わりしています。
リクルートワークス研究所の2020年の分析によると、ここ10年ほどでの大企業(1000人以上)の早期離職率上昇が際立つのです。2009年卒の20.5%から2017年卒は26.5%に上昇。一方、中堅企業(500~999人)では、リーマンショック後の2011年卒の28%強から2017年卒の30%弱へと横ばいです(【図表1】参照)。
大企業400社以上で「上司力®研修」を開講してきた私が営む会社の現場感覚では、大企業の早期離職傾向は加速しています。それも銀行、保険、製造業、電気・ガス・インフラ系企業など、さらには公務員も含め、これまで離職率が低かった大組織ほど深刻化していると感じます。
その兆候を示すのが、就職と同時に転職サイトに登録する新入社員の急増です。入社した4月に、パーソルキャリアが運営する転職サービスdoda に登録した新社会人の数は、2023年に過去最多を更新。2011年比で約30倍まで爆発的に増加しているのです。40代以上の上司世代には、理解し難い現象かもしれません。
転職サービスの変化も影響しています。かつては、職場の人間関係や待遇への不満から会社を辞めたい人が転職活動を始め、サービスを利用するのが一般的でした。しかし、近年では、今すぐ転職するつもりはなくとも、とりあえず転職サイトにレジュメを登録し、企業からスカウトが来るのを待つ仕組みになっています。つまり、常に自分の市場価値を測るバロメーター・健康診断的にサービスを利用するように変わってきたのです。
若者のキャリア意識は、この10年で大きく変わりました。就職の決め手は自らが成長できるか否か。終身雇用や年功序列が崩壊しつつある今、社内だけでなく社外でもプロとして通用するようになるキャリア形成が関心事なのです。安定した大企業に就職しても、常に自分の市場価値と転職可能性の探索が不可欠。真面目で優秀層ほど顕著な傾向です。
呼応して、早期離職の原因も一変しました。かつては、極端な長時間労働や過剰ノルマ、残業代・給与等の賃金不払、ハラスメント行為などが蔓延する「きついブラック企業」と見なされることが、離職の引き金でした。もちろんこうしたブラック企業に若手が定着しない傾向は変わりません。ただ、働き方改革関連法やパワハラ防止法も施行され、ブラック企業は減少。法令順守意識の高い大企業は、ホワイト企業に変貌しました。
ただ皮肉なことに、若者が敬遠するのがホワイトすぎる企業、「ぬるいホワイト企業」なのです。残業も少なく休暇も取りやすく、給与・福利厚生などの待遇も良好。ハラスメントの心配もなく、先輩や上司も優しい。こうした一見申し分ない環境に、成長意欲の強い優秀な若者は不安を募らせます。ぬるま湯環境では、市場価値の低い「ゆでガエル人材」になってしまうリスクを感じるからです。
これに対し、早期に重要な仕事を任されるスタートアップ企業や、ハードな外資系企業は魅力的に映ります。猛烈に働くことで、確かな成果や手応えが得られ、働きがいや成長を日々実感できるからです。
リクルートワークス研究所の先述の調査分析によると、大企業を辞めた29歳以下の若手のうち、20.3%が1000人未満の企業へ転職しています。現在の会社に対する不満型転職から、将来キャリアに対する不安型転職へ。この変化を理解する必要があるのです。
でも、安心してください。安易な早期離職を防ぎ、育てる打ち手はあります。真面目な若者はぬるま湯環境への危機感から、SNSなどで隣の芝生が青く見え過ぎ、焦りが先行して、今の仕事の価値に気付けていないかもしれません。
「担う役割に、どんな働きがいやプロへと成長する道筋を見出せるか」
「大組織ならではのスケールの大きな仕事の一翼を担うことで、いかに自分を磨けるか」
「不条理に思える仕事でも、成長の糧に変えられるか」
「残業が少なく、休暇も取った上での短い就業時間であっても、濃い経験値にできるかどうか」
―これらを実感できるか否かは、上司のマネジメント次第なのです。
昔流の飲みにケーションは通用せず、どう関わるか悩ましいのも事実。だからこそワークライフバランスやハラスメントに気を遣うあまり、若手部下に踏み込めない「事なかれ上司」になっていないか。それが今問われているのです。
求められるのは、若手が抱いているキャリア自律意識を、地に足付いたキャリア形成へと導くこと。部下が日々成長を実感できる鍛錬職場への改革です。それは上司力によって実現できることであり、安易な早期離職を激減させることにもつながるものです。
この上司の育成力=「上司力」は、私が営むFeelWorksの登録商標であり、こう定義しています。
「部下一人ひとりの持ち味を踏まえて仕事を任せ、育て活かし、共通の目的に向かう組織力を高め、個人では達成できない結果を導き出す力」。
これは、あらゆる職場の上司に当てはまるものと考えています。ただし、対する部下の世代や立場や置かれた状況、価値観や経験値などに応じて、具体的な育成課題や対応方法が異なることは言うまでもありません。
それでは、果たして、Z世代の若手社員に対し、上司は日々のマネジメントを通しどのように取り組めばよいのでしょうか。連載【第2回】では、その具体的な方法をお伝えしたいと思います。
【第2回】Z世代の「若手を育てるマネジメントループ」とは?
【第3回】若者を育ててきた日本企業の矜持を取り戻そう
※若手の働きがいを育み成長を促す「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『Z世代の早期離職は上司力で激減できる! 若手社員の「働きがい」と「成長実感」を高める3つのステップ』(FeelWorks、2024年4月)をご参照ください。
人を育て活かす「上司力®」提唱の第一人者。(株)リクルートで『リクナビ』『ケイコとマナブ』『就職ジャーナル』などの編集長を経て、2008年に (株)FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、研修事業と出版事業を営む。「上司力®研修」シリーズ、「ドラマで学ぶ『社会人のビジネスマインド』」、eラーニング「パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」、「50代からの働き方研修」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員サポーター、(一社)ウーマンエンパワー協会 理事等も兼職。30年以上、一貫して働く現場から求められる上司や経営のあり方を探求し続けており、人的資本経営、ダイバーシティマネジメント、リーダーシップ、キャリア支援に詳しい。連載や講演活動も多数。
著書は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks)、『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政)、『本物の「上司力」』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等約40冊。最新刊は『Z世代の早期離職は上司力で激減できる!「働きがい」と「成長実感」を高める3つのステップ”』FeelWorks、2024年4月1日)。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。
https://www.feelworks.jp/