目まぐるしく変わる社会情勢のなか、企業としても時代の流れに臨機応変に対応していく必要があります。そこで注目されているのが、自ら考え、判断し、行動できる「自律型人材」の存在です。今回は、今後ますます世の中から求められるであろう「自律型人材」の育成方法や育成のポイントについて、分かりやすく紹介します。
自律型人材とは、自らの価値観に基づいて考え、判断・行動して成果を出せる人材のことを言います。上司から細かく指示を受けなくても、自分の役割を理解し、やるべき業務を見つけて遂行できるのが特徴です。また、素早く決断して自分の意見を発信できるので、チーム内で強いリーダーシップを発揮することもできます。だからこそ自律型人材が多い企業は、組織としての行動スピードも速くなり、スムーズに成長へつなげられるのです。
ただ一見すると、自律型人材は「好き勝手に仕事を進めてしまう人」にも思えるかもしれません。ですが、決してそうではありません。自律型人材の特徴は、企業の経営戦略・ビジョンを理解し、それに合わせて行動できることです。つまり、企業の求める役割を遂行してくれるため、企業にとって非常に有意義な存在だと言えます。
では、なぜ今「自律型人材」の必要性が増しているのでしょうか。その理由を3つの観点から紹介します。
消費者ニーズの多様化や国際競争の激化、IT技術の進化など、経済は日々刻々と移り変わっています。企業が永続的に成長するには、時代の動きへ柔軟に対応するほかありません。その点、自律型人材は環境に合わせて、判断・行動できる能力を持っています。つまり、自律型人材が多いほど企業は変化に順応でき、いつの時代でも成長しやすくなるということです。だからこそ、さまざまな企業で自律型人材を育成する必要性が高まっています。
自律型人材が求められる背景には、雇用スタイルの変化もあります。日本では従来、会社主導で教育を施しながら、従業員に総合的なスキルを身につけさせる「メンバーシップ型」の雇用が主流でした。ですが、今は職種に特化した能力が求められる「ジョブ型」雇用が広まりつつあります。ジョブ型雇用ではスキルが専門的になるため、あくまで自己研さんが基本です。そのため、自らの力で学び、成長できる自律型人材が求められています。
ジョブ型について詳しくは「ジョブ型雇用は導入すべき?田中研之輔教授に聞く「日本型雇用におけるキャリア開発の課題」」で解説しております。
フルフレックス制や時短勤務、テレワークなど、近年は働き方が多様化しています。特に在宅勤務の導入は、ニューノーマルの時代になりますます加速しました。ただ、従業員一人ひとりが異なる働き方をしている分、企業としては管理が難しくなっているのも実情です。その点、自律型人材が増えれば、従業員が自分で判断して仕事を進めてくれます。いわゆる「指示待ち」の人材が減ることで、企業としても組織運営がしやすくなるのです。
では、「自律型人材」を育てるためには、企業としてどのような取り組みが必要なのでしょうか。
ここでは大きく7つの育成手法について、紹介します。
自律型人材の育成を成功させるポイントや具体的な取り組み方法についてはこちらで解説しています。あわせてご覧ください。
お役立ち資料|社員の"キャリア不安"に効くキャリアデザイン研修の重要性と正しい進め方とは?
自律型人材とは、企業の進むべき方向性を理解し、それに沿って行動できる人材を指します。つまり、大前提として、企業のトップが従業員に向けて「経営戦略」や「ビジョン」を明確に発信することが重要です。また自律型人材と一概に言っても、求められる能力や考え方は企業によっても異なります。だからこそ、「特にリーダーシップを重視する」「学習への意欲を重視する」など、理想の人材像についても従業員に伝えておくことが大切でしょう。企業が組織としての方向性を示すことで、それを指針として従業員にも成長を促せるようになります。
自律型人材を育てるためには、まず必要な能力や考え方、ロールモデルなどを従業員に学んでもらう必要があります。人材育成の専門企業が提供している「キャリア開発研修」「キャリアデザイン研修」は非常に効果的です。研修では、「自分に期待される役割は何か」「このようなケースではどう判断・行動すればよいか」などを、モデルケースを踏まえて学べます。また、自身の強みや適性について従業員に理解してもらう場としても有効です。従業員に普段の業務を見つめ直してもらう意味でも、こうしたOff-JTの活用をおすすめします。
≪一緒に読みたい記事≫【保存版】キャリア開発とは?必要性・手法・メリットを一挙紹介!
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判断力を養うために必要なのは、「経験」の連続です。「問題にぶつかる」→「自分で考えてみる」→「行動する」→「改善する」を繰り返すことで、次第に判断基準が養われてきます。そのため、従業員に対して普段から責任のある業務を任せることも大切です。「リーダーとしてプロジェクトをまとめる」「フロントに立って顧客とやりとりする」などの経験を通じて、判断力とともに自信も身につけさせることができるでしょう。重要なのは、たとえ失敗しても周囲が頭ごなしに責めないことです。気兼ねなく挑戦できる風土が、本人の成長を促します。
業務を与えるだけでなく、結果について「一緒に振り返る」場を設けることも重要です。例えば、上司との1on1ミーティングを定期的に実施し、困っていることや課題を本人に考えさせるのも効果的でしょう。この際に大切なのは、決して上司から具体的な答えを与えないことです。「このときはどうすればよかったと思う?」といった問いかけを通じて、従業員に自身で答えを出してもらえるよう誘導します。あくまでも自ら考えさせることで、出来事から「教訓」を導く力を身につけさせることができ、よりスムーズな成長をあと押しできるでしょう。その他の効果を高めるためのポイントは「1on1ミーティングで何を話すべき?効果を高めるためのテーマ・ポイントを解説!」で紹介しています。
人材育成においては、従業員の努力を処遇に反映できるような評価制度も必要です。特に自律型人材の育成では、自ら判断・行動しようとする姿勢そのものを評価する取り組みが重要になります。そのため、目に見える成果だけを重視する評価指標は、最適とは言えません。「(結果にはつながらなくても)自分で判断し、行動しようとした」「結果を出せるように、自己研さんに励んだ」など、プロセスも正しく評価できるような仕組みにするのがベターです。結果として、従業員のモチベーションも維持でき、より多くの挑戦を促せるようになるでしょう。
人事評価制度を整えるポイントは「人事評価への不満にどう対処すべき?評価制度の見直し方法・ポイントを解説!」をあわせてご一読ください。
日本では、数年おきにジョブローテーションを実施し、会社が主導となって従業員のキャリアを設計する企業も少なくありません。ただ、自律型人材を育成するという観点では、従業員が自らの意志で自由にキャリアを選択できるような異動制度も有効です。例えば、各部署が異動者を公募する「社内公募制度」や、従業員が希望部署に自分を売り込む「社内FA制度」などが挙げられます。こうした異動制度は、従業員一人ひとりに「今後どのような人材になりたいか」を考えるきっかけを与えられるため、主体的な成長を促すことができるでしょう。
自律型人材の特徴として、必要なスキルを自主的に学ぼうとする姿勢が挙げられます。そのため、企業として従業員の自己研さんを支えられるような制度を導入することも大切です。例えば、「e-ラーニング」をはじめとする学習プラットフォームの活用、参考書購入費用の支援、研修・セミナーの受講費免除などが考えられます。なかには、従業員同士が集まって勉強会を開く際の、資金や場を提供している企業もあります。こうした学習支援を通じて、個々のスキルアップを促せるだけでなく、部署の垣根を超えてつながれる社内風土も醸成できるでしょう。eラーニングのメリットや効果を高めるポイントについては「eラーニングの効果を高めるには?企業研修に活用する際のポイントを解説!」をあわせてご一読ください。
最後に、自律型人材の育成を効果的に進めるための、3つのポイントを紹介します。
自律型人材と関係の深い言葉に、「心理的安全性」があります。心理的安全性とは、「思ったことを恐れずに発信できる状態」を指す言葉です。心理的安全性の確保された職場であれば、従業員は自由闊達(かったつ)に意見を交わし、行動に移すことができます。逆にこれがないと、従業員が「何か言ったら叱られるかな・否定されるかな」と考え、発言や行動を控えてしまいかねません。だからこそ自律型人材を育成するうえでも、心理的安全性の確保を優先すべきでしょう。「挑戦を褒める」「失敗を否定しない」という風土を、意識的に醸成させることが大切です。
「経験学習サイクル」とは、組織行動学者のデイヴィッド・A・コルブ氏が提唱した、学習プロセスに関する学説です。具体的には、「経験」→「内省」→「持論化」→「実践」という4つのプロセスを経ることで、より深い学びを得られることを説いています。自律型人材の育成でも、この経験学習サイクルを意識することが大切です。
例えば、「まずは初めての業務に挑戦させる(経験)」→「結果を振り返ってもらう(内省)」→「ほかの場面でも応用できるように理論化させる(概念化)」→「学んだことを活かして新たに行動してもらう(実践)」という流れです。というのも、人は経験を重ねるだけでなく、「教訓」にして初めて判断力が養われます。だからこそ、経験学習サイクルを従業員にも普段から意識させることで、よりスムーズな成長を促すことができるでしょう。
従業員の自律性を養うためには、マネジメントを担う管理職のマネジメント能力も欠かせません。というのも、もしも部下が失敗したとき、上司が的確にアドバイスして軌道修正する必要があるからです。そのため、マネジメント力向上の研修を通じて、管理職にフィードバックやコーチングの正しいスキルを習得してもらうことも重要だと言えるでしょう。指導に長けた管理職を増やすことも、自律型人材を育成するための重要な取り組みです。
「管理職研修はどんな内容を実施すべき?管理職に求められる役割と合わせて解説!」をあわせてご覧ください。
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自律型人材を育成することで、企業としても「生産性の向上」や「新規アイデアの創出」といった数多くのメリットが得られます。そのため、将来に向けた"投資"として、積極的に自律型人材の育成を進めておくことが大切だと言えるでしょう。自律型人材の育成ノウハウについては、人材教育の専門家を頼ることも非常に有効です。キャリアデザイン研修をはじめ外部の研修サービスも活用しながら、効果的に育成することをおすすめします。