「社員のキャリア開発が大切だと聞くけれど、何から始めてよいか分からない」と悩んでいる、企業担当者の方も多いことでしょう。そこで今回は、「キャリア開発の定義とは何なのか?」「キャリア開発はなぜ必要なのか?」「キャリア開発の具体的な手法・メリットは?」など、人材育成に役立つ情報を分かりやすく紹介します。「キャリア開発はなぜ効果が出ない?専門家に聞く"3つの課題"と解決策」もあわせてご覧ください。
「キャリア開発」はよく耳にする言葉ですが、どのような意味があるのでしょうか。ここで詳しく解説します。
古くをたどれば、「キャリア」という言葉は、中世ラテン語で「車道」、英語で「足跡」の意味がありました。それが浸透して、今では「経歴・職歴」「職業能力を磨いた過程」など、"仕事で自己実現を目指す道筋"を意味する言葉になったのです。つまり「キャリア開発」とは、中長期的に社員の職業能力を磨き、自己実現を成し遂げることを意味します。ひいては、社員の職業人生をより豊かなものにするという意味合いもあるのです。
※参考:「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書|厚生労働省
もともと日本では「終身雇用」の文化が根付いており、「社内での昇格・昇進=キャリアを伸ばすこと」という考え方がありました。ただ、最近はグローバル化の影響で企業間の競争が激しくなり、大手企業であろうと倒産・解雇の危機にさらされています。終身雇用の伝統は薄れ、「その会社で昇進を目指せば大丈夫」という考えは通用しなくなっているのが現状です。さらに最新IT技術の登場によって、社員が求められるスキルは多様化しています。
こうした背景から、「一人ひとりが適性を活かし、多様なスキル・知識を身につける」必要が出てきました。これが、キャリア開発に注目が集まってきた背景です。これまでは会社が全社員に一律で能力開発を行っていましたが、"個人"に合わせて最適な内容を考えるようになってきています。「このような職業能力を身につけたい」という社員に対して、会社が研修・配置換えなどの個別施策で支援をするという形に変わってきているのです。
企業はキャリア開発によって、どのような人材を育てようとしているのでしょうか。2つの観点から説明します。
「自律型人材」とは、自分の信条・価値観に従ってキャリアを築ける人材のことです。自らキャリアを豊かにできる「自律型人材」が増えることによって、上司の負担は減りますし、企業は多様な価値観から新しい事業を生み出せるでしょう。社員自身の観点から見ても、対社内だけではなく「対外的な価値」を高められるため、自律型人材を育てるメリットは大きいです。自律型人材の育成方法については「自律型人材がなぜ今求められるのか?具体的な"7つ"の育成方法も紹介」で詳しく解説しております。
「プロティアン・キャリア」とは、アメリカの心理学者ダグラス・T・ホール氏によって生み出された考え方で、「環境に合わせて自分自身を柔軟に変化させキャリア形成すること」を意味します。この考え方においては、地位・給与といった従来の客観的な指標ではなく、個人が味わう"充実感"を成功の指標と捉えています。ちなみに「プロティアン」はギリシャ神話に登場し、変幻自在に姿を変えられる神「プロテウス」が由来です。現代は社会経済の先読みが難しい時代だからこそ、環境に合わせて自分を変えていく必要があります。だからこそ、若年層にプロティアン・キャリアを意識づける企業も多いのです。プロティアン・キャリアについて詳しくは「「プロティアン・キャリア」は社員のキャリア不安に効く処方箋」で解説しております。
≪一緒に読みたい記事≫【セミナーレポート】変化と学びの時代「プロティアン・キャリアと ラーナビリティの重要性」
経団連が2020年1月に調査したアンケート結果から、キャリア開発の導入状況を見てみます。この調査によれば、「一部の社員が自律的にキャリアを形成する一方、多くの社員は会社主導」(55.2%)をはじめ、「総じて会社(人事・上司)主導によってキャリア形成が行われている」(18.9%)など合わせて約7割強の企業が"会社主導"でキャリア開発を行っています。また、今後の方針としては「社員本人の自律性を重視したキャリア形成を基本としながら、特定層の社員に対しては、会社が積極的に関与する」(54.4%)が多数で、社員の主体的・自発的なキャリア形成を望む声が多いようです。
また、キャリア開発の手法に関しては、「外部との連携に取り組む(検討中を含む)」(78.2%)が8割近い数字になっています。「基本的に社内で取り組む(検討中を含む)」(15.1%)の割合がかなり少ないことも考えると、企業は外部の企業を積極的に活用し、幅広いスキル・教養を社員に学ばせたいという意向があるようです。
全社的なキャリア形成の取り組みを事例を交えながら、そのポイント、考え方について説明した動画セミナーです。合わせてご利用ください。
動画セミナー|成功事例から学ぶ自律的キャリアの意識醸成と定着
では、実際にキャリア開発を行うことでどんなメリットがあるのでしょうか。主に3つのポイントを紹介します。
キャリア開発を積極的に行うことで、社員が「自分は大切にされている」「会社が自分の将来のために投資してくれている」と感じるケースも多いです。それによって社員のモチベーションが向上し、組織全体が活性化するというメリットがあります。中長期的に見れば、組織が活性化することで業績の向上も期待できるでしょう。
社員がキャリア開発によって自分の新しい「強み」を見いだすこともあります。例えば、これまで営業として売上が伸び悩んでいた社員が、デジタル分野で専門性を身につけ花開くケースもあるでしょう。こうした社員に異動・社内FA制度(詳しくは後述)を行うことで適材適所に人材を配置でき、業績にも好影響を与えられます。
社員のモチベーションが上がり、強みが活かせるようになれば、会社として生産性が向上します。1人当たりの生産性が伸びれば、少ない人数でも組織を運営できることになるので、人件費も削減できるでしょう。もちろん、業績にも良い影響を与えます。特に今は、少子高齢化から人材不足が叫ばれる時代です。社員一人ひとりの生産性を高めることが、企業としての長期的な継続にもつながっていくのです。
いざキャリア開発を進めるときは、何から始めればよいのでしょう。ここでは、具体的な手法を4つ紹介します。
キャリア開発の具体的な取り組み方法や成功させるポイントついてこちらの資料で解説しています。あわせてご覧ください。
お役立ち資料|社員の"キャリア不安"に効くキャリアデザイン研修の重要性と正しい進め方とは?
「キャリア面談」とは、上司や人事が仕事の悩みなどの相談に乗り、従業員のキャリアの方向性について考えることです。まずはこうした面談から社員一人ひとりの課題を捉えることで、研修・異動などの打ち手もとりやすくなります。また、外部のキャリアカウンセラー(キャリアコンサルタント)にキャリア面談を依頼することで、社員が職場の上下関係へ忖度せずに相談することも可能です。厚生省も「セルフ・キャリアドック」という取り組みで、キャリアコンサルタントによる定期的な面談を推奨しています。
※参考:セルフ・キャリアドックで会社を元気にしましょう!|厚生労働省(PDF)
キャリア面談で課題が明確になれば、それを解決できるような「キャリア研修」を実施します。例えば、リーダー候補の社員には「マネジメント研修」を、成果がなかなか挙げられない社員には「ローパフォーマー向け研修」を、中高年層には「シニア・ミドル活性化研修」を......と課題に応じた研修を実施することで、より自律的な人材を育成できます。特に研修サービスを専門に手がける外部企業は、課題・階層に合わせた多彩なキャリア研修を行っているので、まず相談してみるのも有効でしょう。キャリア研修については「キャリアデザイン研修の効果とは?効果を最大化させる4つのポイント」で詳しく解説しています。
キャリア面談・研修によって強みが分かれば、人事制度によって部署や職種を変えるというのも効果的です。例えば、各部署が職種・人数を社内に公開して人材を募集する「社内公募制度」、希望の部署へ自分の強みを自ら売り込む「社内FA制度」、3年・5年などの周期で定期的に部署を異動させる「ジョブローテーション」などがあります。従業員が柔軟に自らの職種や部署を決められる制度があることで、より自律的な人材を育成できるでしょう。
キャリアの多様性を育むという観点で、本業とは別の仕事(副業・兼業)を認める会社も多いです。厚生省の調査によれば、対象企業の「14.7%」が副業・兼業を認めています(『平成26年度兼業・副業に係る取組み実態調査事業』より)。また、自宅での勤務(在宅ワーク)を認めることで、子育て中の女性社員・遠方在住の社員などのキャリア開発を支える企業も多いです。今後も多様な人事制度で、キャリア開発は進化していくでしょう。
より持続的なキャリア開発を行っていくためには、外部のプロフェッショナルによる面談・研修の活用も有効です。会社が目指すべき姿・社風・社員の現状を照らし合わせたうえで、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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組織内で自分の役割や期待されていること、強みを理解した上で、そのキャリアプランを行動計画に落とし込み、自発的な向上心を磨きます。また、経営環境の変化などにより、期待通りのパフォーマンスを発揮できない方に向けた再活性化プログラムもご用意。20~30代の若年層のほか、40~50代の中高年層の意識改革・行動変容に幅広く貢献しています。