VUCA、人生100年、シンギュラリティ等、世界の不確実で急速な変化が続く中で、受け身ではなく、自分の意志で学び続け、変化し続ける能力が個人・企業双方にとって重要性を増しています。
2020年2月19日に法政大学の田中研之輔教授より【プロティアン・キャリア(変幻自在なキャリア)】、マンパワーグループ株式会社シニアコンサルタントの難波猛より【Learnability(学び続ける能力)】について、講演を行いました。
登壇者:難波猛(マンパワーグループ株式会社ライトマネジメント事業部シニアコンサルタント)
株式会社PHP研究所、株式会社太陽企画を経て、2007年に株式会社ライトマネジメントジャパン(現マンパワーグループ株式会社)入社。提案営業、研修講師、人事コンサルタント、タレントマネジメント事業部部長として、日系、外資系企業を問わず2000名以上のキャリア開発施策、人員施策プロフェクトにおけるコンサルティング、管理者トレーニング・キャリア研修等を100社以上担当。セミナー講師、官公庁事業におけるプロジェクト責任者も歴任。
<著書>
『「働かないおじさん問題」のトリセツ』
『雇用調整の考え方と進め方』
『ネガティブフィードバック』
『「働かないおじさん」は、なぜ「働けない」のか?』
現代のようにVUCA(変動性が高く不確実で、複雑かつ曖昧)な時代かつ人口減少に突入した日本では、単純に生産性向上や経済的成功を求めるだけでなく、様々な変化に対応しながら納得度や心理的な幸福感を持ちながら働くことができるかが重要になってきます。
その際に大きなキーワードとなるのが、「変わること」と「学ぶこと」です。変化と学習を、"自分の意志""自分の選択"で行うことが特に重要となります。RPA等AIの進化により、特に管理業務やバックオフィス部門は大幅な自動化、効率化、省人化が加速しています。
そうした中でキャリアを描くには、人だからこそ発揮できる能力が必要になってきます。周囲から必要とされる人物であり続けられるように、戦略的に自分のスキルを成長させ適応しようとする学習意欲と能力。それが【ラーナビリティ(学び続ける力)】です。
環境変化が激しい現在、手持ちのスキルは必ず陳腐化していきます。だからこそ、学び続けること、それ自体がスキルであるという考え方です。
「ワールドエコノミックフォーラム(通称ダボス会議)」で発表された【The future-of-jobs-2018】というレポートに、『2022年にトレンドになると予想されるスキル』が紹介されています。そのランキングの2位が【Active learning and learning strategies(積極的な学習、学習戦略)】でした。
学習戦略とは、社員が自分で長期的なキャリアや社会の変化を予測し、会社と話し合い、会社も社員の成長を支援することで実現できます。社員と会社が一緒に行う作業になります。
大切なのは、会社の都合だけでなく、自分がどのようなキャリアを歩んでいくかというプランニングと、それを組織の方向性とすり合わせるコミュニケーションです。
会社と自分がWin-Winであれば会社に高い貢献をしながら一緒に働くし、そうでなければフリーで働くというように、学び続ける人材はキャリアの選択肢を増やすことができます。
漫画家の水木しげるさんの「幸福論(角川文庫)」に『しないではいられないことをし続けなさい』という言葉がありますが、これはラーナビリティを発揮し続けるために必要な考えだと思います。
まずは本人の「やりたいこと(WILL)」が必要です。本気でやりたいことがあれば学び続けることに抵抗感が無く学習効果も継続性も高くなり、最終的にはマネタイズに繋がるのです。
組織側がやりがちなのは逆のアプローチです。「会社がやってほしいこと(MUST)」が先で、そのスキルを身に付けてもらうために教育しますというのでは、学習効果は悪くなります。
これからの企業には、本人の「好きなこと」や「やりたいこと」を理解し、それを起点にした学びを進めることが必要になるのです。
1on1やキャリア研修などを通じて一人一人の「好き」「やりたい」に火を付ける作業さえできれば、学びと変化はどんどん起こっていくので、今日を機に取り組んでもらえればと思います。
※参考:ラーナビリティ(学習意欲)とは|マンパワーグループ
※参考:あなたのラーナビリティを診断しませんか?|マンパワーグループ
登壇者:田中研之輔(法政大学教授・一般社団法人 プロティアン・キャリア協会 代表理事)
一橋大学大学院社会学研究科を経て、日本学術振興会特別研究員(SPD: 東京大学)に。
メルボルン大学、UC.バークレー校で客員研究員を4年間務めた後、2008年4月に法政大学キャリアデザイン学部に着任。博士(社会学)。ライフキャリア論、組織エスノグラフィーを専門とする。2008年 地域社会学会奨励賞受賞、2016年 法政大学ベストティーチャー賞受賞、2018年 日本の人事部「HRアワード:書籍部門」入賞など受賞歴も多数。著書25冊。社外顧問19社歴任。日経ビジネス他連載多数。
<田中教授新刊>
『プロティアンー70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』(2019.8)
『ビジトレー今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』(2020.6)
Amazon著書リスト: http://ur0.work/JYXz
Twitter:https://twitter.com/KennosukeTanaka
私が関わった日経ビジネスの記事で昨年最も読まれたのが「新50代問題」でした。ミドル・シニアの働き方が企業で問題化していると言えます。このミドルシニアの問題は「一時期パフォーマンスが高かったけれど、社会変化のなかで必要性が下がったが変化に対応できず、不良債権化していく問題」と捉えることができます。
私から問題提起したいのは、事業戦略は考えるのに、なぜ、キャリア戦略を考えないのか、という点です。キャリアを戦略的に考えさせると他の会社に逃げてしまう、という捉え方は、間違っています。
これからは、個人が戦略的にキャリアを形成し、その行動が組織のパフォーマンスを高める時代。若手社員は、自らキャリアを形成できる場所と感じたとき、その職場でピークパフォーマンスを出すというデータがあります。企業は本格的にキャリア戦略を考えるべきなのです。
今、企業が真剣に向き合うべきことは、「キャリア自律」です。主語は組織ではなく個人。人事担当者や管理職の人は、それを理解して人事施策や戦略設計をすることが大事であり、「プロティアン・キャリア」とは、そうしたなかで組織と個人がともに成長するための実践術です。成長するために学びが必要であり、プロティアンの要素はラーナビリティとシンクロしていると言えます。
組織内キャリアを前提とした従来型のキャリア論では、キャリアとはひとつの組織で昇進するための尺度でした。それに対して、プロティアン・キャリア論では、組織は本人がキャリア形成をしていく舞台であると考えるのです。主語が組織から個人へと180°転換するわけです。
組織内資源で人材開発を行う企業は、この先もちません。従来は組織にとって個人がフィットしていればよかったですが、これからは組織側が、個人の心理的幸福度を高める施策を打てるかどうかがポイントになってきます。組織成長と個人成長を掛け算していくのがプロティアンという考え方だと理解してください。
※合わせて読みたい記事 「プロティアン・キャリア」は社員のキャリア不安に効く処方箋
プロティアン・キャリアにおいて重要視されているのは「アイデンティティ」と「アダプタビリティ」、つまり自分らしさを大切にしながら、社会変化に柔軟に適合していくことです。学習して必要とされる人材へと進化しなければなりませんが、学習を社内研修で「お勉強の時間」にしてしまっていては身に付きにくく、現場で使えるようになりません。
社員は、個人のスキルと業務の難易度がフィットしていると、楽しく仕事をし、ピークパフォーマンスを出せます。そしてそのことが、若手を定着させること、ミドル・シニアの生産性を向上させることに繋がるのです。つまり、持っているスキルに仕事の難易度が合っているか否か、というキャリア開発戦略会議が重要であり、個人が楽しく働けるような仕組みを考えていく必要があるのです。
最初の質問は「ミドル・シニア層に対して、上司や組織はどう関わればよいか」。
田中教授から、以下のように回答がありました。
「ミドル・シニアの人たちにも、あなたは変わらなければならないと伝えるのが人事の役割。ただ、相手を否定するのではなく、それぞれのキャリア開発を支援していくと考えてください。やればやるだけ効果は出ます。できることからで大丈夫。まずは新しい考え方を伝えていく場面を持ち、少しずつプロティアンな考えをする人材を増やしていく。諦めないことが大事です。必要に応じて社外の人の力も借りましょう。いつからでもキャリア開発は可能なのです。」
続いての質問は、「若手社員の定着率が低いけれど、どうすればよいか」というもの。
田中教授は、人が辞めていく因子として、「労働条件」「給与」「人間関係」の3つを挙げました。
「3つの因子のうち2つが合わさると人は辞めます。改善できるのは労働環境と人間関係。特に人間関係のところはプロティアン・セッションを繰り返して、楽しめる環境を作ることができれば回避できます。辞めたいと思った時点でリテンションをかけても遅いので、日常の中でよりよい関係性を作っていくのがポイントになります。辞めさせないためのリテンションではなく、それぞれのキャリア開発を支援していくマネジメントが若手社員定着の鍵を握っています。」
田中教授から、組織を変えていくために、プロティアンとラーナビリティを誰に仕掛けていくべきなのか、アドバイスがありました。
「すでに自発的にキャリア開発ができている社員は、変化の局面でその都度、成長していきます。逆に、自己のキャリア開発に全く関心がない社員には、1 on 1でのキャリア相談など丁寧なアプローチが必要です。質問にダイレクトに答えるべくあえて優先順位を付けるなら、プロティアンとラーナビリティは「中間層」に向けて取り組むべきです。ラーナビリティとプロティアンを駆動させていけば、ローパフォーマーから改善する人が増えていきます。規模感で言うと30人ずつ、部署ごとに変えていけば成果は出てきます。粘り強く取り組んでいきましょう。個々人のビジネスパフォーマンスは向上し、職場のパフォーマンスも、必ず、改善していきます。」
法政大学 田中教授 特別講演自律的なキャリアデザイン(プロティアン・キャリア)研修をお勧めします。
この研修では法政大学田中教授自ら、プロティアン・キャリア(変幻自在なキャリア)に関する特別講演が実施可能です。自身での経験に基づいたキャリアデザインを語るだけではなく、様々な企業と協力・インタビューして得た知見を余すことなくお伝えします。