企業では人材育成の観点から、上司から部下に対する「フィードバック」が日常的に行われています。ただ、なかには「この伝え方で大丈夫だろうか?」「本人の成長につながっているだろうか?」と疑問に感じている、上司の方もいるかもしれません。そこで今回は、「フィードバックにおける2つの方向性」「フィードバックのやり方や効果を出すポイント」を分かりやすく紹介します。ぜひ普段の業務と照らし合わせながら、お読みください。
フィードバックとは、相手の行動に対して改善点や評価を伝え、軌道修正を促すことを言います。企業では評価面談や1on1ミーティング、プロジェクトの振り返りなどの際に、上司から部下に対して行われることが多いです。上司は部下の行動を正しく評価し、客観的な視点でアドバイスすることで、成長を促す目的があります。部下の側はフィードバックを受けることで、次回からミスを防ぎ、パフォーマンスを向上させることが可能です。「1on1ミーティングで何を話すべき?効果を高めるためのテーマ・ポイントを解説!」もあわせてご覧ください。
もともとフィードバックとは、「フィードバック制御」という制御工学の分野から生まれた言葉です。フィードバック制御とは、出力の目標値と実際の出力値を比べて、2つが一致するように改善する制御方法を意味します。「目標に向けてズレを改善させる」という点では、業務におけるフィードバックと同じと言えるかもしれません。
フィードバックには、主にポジティブ・ネガティブという2つの方向性があります。
相手や状況によって使い分けが必要なので、それぞれの効果と注意点についてここで紹介します。
ポジティブフィードバックとは、相手の行動について「良い点」を評価し、肯定的な言葉で成長を促すフィードバック方法です。上司側としては、「まずは部下の努力をねぎらいたい」「部下に自信をつけさせたい」という狙いでフィードバックを行います。前向きな内容なので、褒められた相手に前向きな気持ちになってもらえることが多いです。部下には自己肯定感を強め、高いモチベーションで次の業務へ臨んでもらうことができるでしょう。
ネガティブフィードバックとは、相手の行動について「改善すべき点」を指摘し、成長を促すフィードバック方法です。上司側としては、「現状維持ではなく、さらに上のパフォーマンスを期待したい」「冷静に課題を分析するスキルを身につけてほしい」という狙いで行います。相手によっては精神的なダメージになることも多いため、語気や言葉遣いなど、伝え方には十分注意するようにしましょう。
伝え方の一例としては、「あなたの成長のために、あえて厳しいことも伝えるね」と会話の主語を"相手"にして、励ましの文脈で部下のやる気を醸成するようにします。行動に改善が見られたら、ポジティブフィードバックで称賛することも大切です。「正しく指摘する」→「改善できたら称賛する」を繰り返すことで部下の意識改革を促進できることもあるため、ぜひ参考にしてみてください。
正しい「ネガティブフィードバック」によって部下への指導の悩みを解決する
⇒解説資料のダウンロードはこちら
フィードバックを行うことで、相手にどのような影響があるのでしょうか。
フィードバックの効果について、大きく4つ紹介します。
フィードバックの目的は、行動のズレを修正することにあります。例えば、部下が間違った方向に努力していたら、それを適宜指摘し、行動を改善させることが大切です。管理職としては、チームメンバー一人ひとりが目標に向けて正しく取り組めるように軌道修正していくことで、組織全体の生産性を高めることができるでしょう。
フィードバックは、業務への意欲を高める効果もあります。というのも、上司からの反応がないと、「放置されている」と感じる部下も多いからです。上司が部下に対して「しっかり見ている」と伝える意味でも、定期的なフィードバックは必要でしょう。また、単純に称賛の言葉を送ることで、部下のやる気に火をつける効果もあります。
キャリア開発の視点でいうと、部下ひとりで必要な能力をすべて身につけるのは難しいものです。熟練した先輩からアドバイスをもらうことで初めて、気づけることもあります。だからこそ、部下が困っている際に上司の助言は有意義です。フィードバックで方法論やノウハウを教えることで、相手のスキルアップも支援できるでしょう。
定期的なフィードバックによって、上司と部下がコミュニケーションを取る機会も増えます。それによって、お互いの信頼関係がさらに深まり、ひいてはチーム全体の雰囲気が良くなる効果も期待できるでしょう。また、上司への信頼が高まることで、部下のエンゲージメント(会社への貢献性・愛社精神)も自然と高まっていきます。
「デンソーの人事が語る|フィードバックで組織の成長を最大化するには?」 も合わせてご覧ください。
⇒録画セミナーを見る
フィードバックは、話の流れを意識することで、相手へスムーズに理解を促せます。
ここでは、フィードバックに使われる具体的なフレームワークを3つ紹介します。
「SBI型」は、Situation(相手の置かれていた状況)→Behavior(相手の取った行動)→Impact(それによって生じた影響)の順にフィードバックしていく方法です。物事の原因と結果を分かりやすく伝えられるため、相手にも納得してもらいやすい手法と言えます。また、ネガティブ・ポジティブどちらにも使えるのも特徴です。
【例】
◆ポジティブフィードバックの場合
S:「今朝のチームミーティングのことだけどね」
B:「○○さん、『5分前には会議室に集合しておくように』ってチームメンバー全員に伝えてくれたよね」
I:「おかげで時間ピッタリにミーティングを始められたので、すごく助かったよ。メンバーへの積極的な声がけは、次回もぜひ続けてほしいと思う」
◆ネガティブフィードバックの場合
S:「今日の競合プレゼンのことだけどね」
B:「先方に資料を配布するタイミングが、少し早すぎたかもしれない」
I:「先方がずっと手元の資料を読んでしまって、こちらのプレゼンに集中できていなかったみたい。次回からは、スライド中盤の指示された箇所で配布してもらえるとうれしいな」
「FEED型」は、Fact(相手の取った行動)→Example(その行動を指摘する理由)→Effect(その行動による影響)→Different(次回への代替案・改善策)の順に説明していくフィードバック方法です。相手の行動から次回の改善策まで一連の流れで伝えられるのが特徴で、相手に行動変容を促しやすい伝え方だと言えるでしょう。
【例】
F:「今日、イベント開催までのスケジュールを立ててくれたよね」
E:「日程を直してもらえればもっとスムーズに準備を進められると思って、呼んだんだ」
E:「この時期は業者も繁忙期だから、今のスケジュールだと設営までに資材が届かないかもしれないよ」
D:「次回からは資材の発注を最優先して、できるだけスケジュールにバッファを持たせるようにしようか」
KPT型は、エンジニアの開発現場で1週間の振り返りによく使われる手法で、「Keep(今後も続けるべきこと)」→「Problem(今抱えている課題)」→「Try(改善すべきこと)」の順で伝えるフレームワークです。上司と部下がコミュニケーションを取りながら進めていくことが多く、会話を通じて部下に自発的な行動改善を促せます。
【例】
上司:「商談用に作ってくれた資料だけど、自分ではどこがうまくいったと思う?」
部下:「伝えたい内容の濃淡を、うまくつけられた気がします」
上司:「そうだよね。1スライドを1メッセージに絞って作れていたし、統計データを挿入してくれていたのも分かりやすかった。先方の反応も良かったから、ぜひ次回も続けて欲しいな。逆に改善点はある?」(Keep)
部下:「ちょっと作るのに時間がかかりすぎたかもしれません......」
上司:「一生懸命作り込んでくれたのはうれしかったけど、提出がすこし遅かったよね。もし次回から締め切りに遅れそうだったら、前日には一度連絡をもらってもいいかな?」(Problem・Try)
部下:「分かりました。次回から改善するようにします」
フィードバックは伝え方やタイミング、シチュエーションによって効果が変わることも多いです。
そこで、フィードバックの効果を最大化させるためのポイントを7つ紹介します。
フィードバックの内容が抽象的だと、相手にうまく伝わらない恐れがあります。そのため、できるだけ具体的に伝え、相手に改善策をイメージさせることが大切です。例えば、営業用の資料を部下に直してもらいたいとき、単純に「資料をもっと分かりやすく作って」とだけ伝えると改善のイメージが持てません。「フォントを工夫したり、大事なことから先に書いたりしてみてはどう?」と具体的な方が、部下も行動に移しやすいでしょう。
行動から時間がたつと、人は細かいことまで覚えていない場合もあります。あまりに遠い過去の行動について指摘をされても、相手は実感が伴わず、有効な学びにつながりません。だからこそ、上司は頻繁に部下とコミュニケーションを取る習慣をつけておき、できるだけ相手の行動から日が浅いうちにフィードバックをしましょう。
よくありがちな失敗が、相手の「性格」や「人格」に対してフィードバックを行ってしまうことです。例えば、「そういう○○な性格はすぐ直したほうがいいよ」と言われても、人はそう簡単に変われませんし、生き方そのものを否定されている気にもなります。そのため、フィードバックは相手の「行動」に対して行うようにしましょう。フィードバックを受けた相手も、行動なら意識の持ちようで変えることができ、効果も実感しやすいです。
フィードバックの内容が"机上の空論"に陥っていると、相手も改善する意欲が湧きません。そのため、指摘の内容は、実現可能なものにすべきです。また、フィードバックの相手によってスキルレベルが違うため、実現できることも変わります。部下の年次や経験に合わせてアドバイスすることで、改善にもつなげやすいでしょう。
一方的な考え方の押しつけは、相手の不満を募らせてしまいます。そのため、フィードバックしたあとには、できるだけ相手に理解できたか・納得したかを確認することが大切です。例えば、「今の話分かったかな?」「次にどう行動すればいいか分かる?」と確認を入れましょう。もしも相手が腹落ちしてなかった場合には、質問してくれるはずです。正しく改善を促すには、相互コミュニケーションで相手の気持ちをくみ取る姿勢が欠かせません。
フィードバックは、少なからず相手に心理的なストレスを与えてしまうものです。特にネガティブフィードバックの場合は、相手が「叱られる」「否定される」と思い、萎縮してしまうケースもあるかもしれません。だからこそ、部下へ精神的な負荷をかけないためにも、必要以上に強い語調や高圧的な態度は避けるようにしましょう。
また、フィードバックは決して「恥をかかせること」が目的ではありません。そのため、あえて全員の前で指導するようなシチュエーションも避けるべきです。フィードバックを行うときは「1対1」を心がけ、できるだけ相手がリラックスして話を聞ける場所にしましょう。そうすることで、相手に無理なく行動変容を促せます。
誰からフィードバックされるかで、受け手の心境は変わります。例えば、信頼できる上司からの指摘であれば、部下も「この人は自分のために言ってくれている」と思えるでしょう。逆に信頼関係ができていないと、「何を言われるのだろう......」と身構えてしまう可能性もあります。そのため、上司は普段からできるだけ部下とコミュニケーションを取り、いつでもアドバイスできる・何でも相談してもらえる関係を築いておくことが大切です。
※録画セミナー「デンソーの人事が語る|フィードバックで組織の成長を最大化するには?」 も合わせてご覧ください。
フィードバックを効果的に行うためには、マネジメント層が自身の役割について正しく知っておく必要があります。そのため、外部の研修サービスを活用して、管理職のフィードバックスキルを磨いておくことも大切です。当社でも「評価面談研修/フィードバックスキル向上研修」や「低業績者を抱える上司向けネガティブフィードバック研修」を通じて、さまざまな企業の管理職育成をご支援しています。eラーニング版をご利用になる企業が増えています。管理職のフィードバックスキル向上にお役立ちできる研修サービスですので、ぜひ現状に課題をお持ちの場合は、お気軽にお問い合わせください。
その他の管理職研修について知りたい方は、「管理職研修はどんな内容を実施すべき?管理職に求められる役割と合わせて解説!」をご覧ください。