企業にとって、後継者の育成は喫緊の課題です。万が一経営上重要なポストに空席が生じてしまうと、急に事業が立ち行かなくなるリスクがあります。特に近年は少子高齢化が加速しており、後継者不在で廃業を余儀なくされる企業も珍しくありません。そこで注目を集めているのが、「サクセッションプラン」です。次世代リーダーの候補者を早期から選抜し、育成することで、変動の激しい時代にも持続的な事業成長を目指せます。
そこで今回は、サクセッションプランの定義や重要性が高まっている背景についてわかりやすく解説します。また、サクセッションプランの作り方も一連の流れで紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
サクセッションプランとは、「後継者育成計画」とも呼ばれ、経営上欠かせないポストの候補者をあらかじめ選定し、育成・管理しておく取り組みのことです。具体的には、経営戦略の見直しから重要なポストの決定、人材要件の洗い出し、候補者のアセスメント(評価・査定)、次世代リーダーとしての能力開発、人事評価制度の最適化、組織へ定着させるためのリテンション施策までの一連のプロセス全体を指します。
サクセッションプランに取り組む際は、短期的ではなく、5年後・10年後の経営戦略を見据えた長期的な視点が不可欠です。企業として早期にサクセッションプランを策定・実施しておくことで、人材不足が深刻化するなかにおいても後継者不在による事業の停滞を防ぎやすくなり、持続的な成長を望めるようになります。
※次世代リーダーの育成方法について詳しく知りたい方は、『次世代リーダーの育成はなぜ難しい?専門家の考える効果的な施策・ポイントとは』の記事もあわせてご覧ください。
社会情勢の変化に伴って、サクセッションプランの重要性は年々増している状況です。
そこで本章では、サクセッションプランの必要性が高まっている背景・理由について解説します。
サクセッションプランの主眼は、人事が"戦略人事"として、機動力高く経営層と関わることにあります。戦略人事とは、人事が経営戦略と連動した人事戦略を立案し、人的資源の価値を最大化させることです。
特に近年は、市場の国際化やDXの活発化、感染症の流行をはじめ、事業環境が目まぐるしく変動しています。企業が変化に即応するためには、経営戦略と人事戦略を密接に連携させ、事業に必要な人材を早期から育成することが欠かせません。中核人材の育成が事前に計画的に実施され、適切な訓練が行われていることで、組織の安定性と持続可能性が保たれていきます。つまり、経営層と人事部門が協力し合ってサクセッションプランを早めに準備することで、企業として変化に強い組織を目指せるようになるでしょう。
近年は少子高齢化が深刻化しているのに加え、ベビーブーム世代の退職に拍車がかかっています。その結果、企業の後継者問題が顕在化している状況です。
企業のなかには経営状況そのものは順調であっても、後継者が不在という理由でやむを得ず黒字廃業を迎えてしまうケースもあります。日本政策金融公庫総合研究所の調査(※)によれば、中小企業のうち後継者が決定している企業はわずか「10.5%」で、廃業を予定している企業は「57.4%」にものぼるのが実情です。
こうした後継者問題の対策として、サクセッションプランが注目を集めています。サクセッションプランを早期に策定しておけば、次世代リーダーの選抜・育成を着実に進めることが可能です。企業としての技術や雇用を次世代へつなぐためにも、サクセッションプランの策定は重要と言えるでしょう。
※参考:中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)|日本政策金融公庫総合研究所(PDF)
サクセッションプランは、ステークホルダーの一角である"投資家"の目線でも注目を集めています。
というのも、現代のように先行きが不透明なVUCA時代においては、たとえ業績好調な企業であっても経営状況や事業ポートフォリオが一変する可能性は否定できません。そのため、投資先を選ぶ判断軸として、「いかに短期的に業績を上げているか」よりも「いかに企業として持続的に成長できるか」が重要視されつつあるのです。
その際に判断材料となるのが、財務諸表で示される定量的な財務情報ではなく、定性的な"非財務情報"です。非財務情報とは、経営戦略やガバナンス体制、人事戦略、人材の活用状況などの情報を指します。非財務情報を見れば、「変化を見据えて事業戦略が練られているか」「変化に耐え得るだけの人的資産があるか」など、企業の持続的な成長可能性を読み取ることが可能です。特に後継者育成計画(サクセッションプラン)には、「変化に備えて次世代リーダーの育成が進んでいるか」が色濃く表れるため、投資家にとって貴重な判断要素と言えます。
このように投資における非財務情報の重要性が高まるなか、アメリカでは上場企業に対して人的資本情報の開示が義務化されました。日本でも、2021年6月に上場企業向けのガイドラインである「ガバナンスコード(※1)」が改訂され、人的資本にまつわる情報を適切に開示する必要性が説かれました。さらに経済産業省が2022年に発表した『人材版伊藤レポート2.0』(※2)では、投資家を含むステークホルダーに対して、企業が人材戦略や人事施策などの人的資本情報について具体的に発信し、誠実に対話することの重要性が明言されています。
つまり、企業が非財務情報の代表格であるサクセッションプランを策定・開示することで、投資先としての信頼性は高まります。ステークホルダーとの良好な関係を築くうえで、サクセッションプランは非常に重要なのです。
※参考1:コーポレートガバナンス・コード ~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~ (改訂案)|金融庁(PDF)
※参考2:人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート2.0~|経済産業省(PDF)
サクセッションプランを策定する際には、どのようなプロセスで進めればいいのでしょうか。
本章では、サクセッションプランの策定方法について、一連の流れを解説します。
まずは、自社の中長期的な経営戦略を整理したうえで、その実現に必要なポスト・職種を明らかにします。その際、該当ポストの人材が果たすべきミッションや業務内容まで明確にすることが重要です。
そのうえで、該当ポストに求められるスキルや行動特性(コンピテンシー)を、成功プロファイルとして設定します。例えば、経営者候補を育成するのであれば、リーダーシップや責任感、戦略的思考、経営理念の理解度、経営の知識、対人スキル、業務遂行に必要なテクニカルスキルなどが挙げられるでしょう。こうして候補者に必要とされる人材要件を細かく洗い出しておくことで、スムーズに対象人材を選抜しやすくなります。
続いては、あらかじめ定めた人材要件をもとに、社内で一定の候補者を集めます。具体的な方法としては、社内公募や現場マネージャーからの推薦、選抜研修などが一例です。
候補者の人数を少数に絞った時点で、アセスメント(評価)を実施します。候補者一人ひとりについて、「適性が合致しているか」「独自の強みは何か」「今後の育成に向けてどのような課題を持っているか」などをチェックしましょう。アセスメントの結果をもとに、サクセッションプランの育成候補者を絞り込み、決定します。
各候補者の強みや課題を踏まえて、6ヵ月~1年というスパンで個々の育成プログラムを立案・実施します。
具体的には、マネジメントスキル向上研修やキャリアデザイン研修などの「Off-JT」、幅広い職種や役職で経験を積ませる「ジョブローテーション」、経営の専門家が1対1で指導する「個別コーチング」などが挙げられます。また、あえて困難でチャレンジングな職務・目標を担わせる「ストレッチアサインメント」を実施するケースも珍しくありません。候補者によって課題は異なるため、育成プログラムの内容も最適化することが大切です。
一定期間が経過したあとは、育成プログラムの成果を確認しましょう。具体的には、スキルの変化を確認するために再度アセスメントを実施したり、上司との1on1ミーティングで候補者に現状をヒアリングしたりします。
計画通りに育成が進んでいるかどうかをチェックし、状況に応じて育成内容を軌道修正することも大切です。また、定期的に本人と今後のキャリアに関する面談をして、モチベーションを管理することも重要と言えます。
サクセッションプランの策定に取り組む際は、具体的にどのようなことを意識すればいいのでしょうか。
本章では、サクセッションプランを策定・実施するポイントについて解説します。
サクセッションプランは、企業として目指すべき姿と現状のギャップを埋めるための人事施策です。企業にとって目指すべき姿とは、例えば中期経営計画のような経営戦略を指します。自社の経営戦略・事業戦略が明らかになっていれば、そこから逆算して必要なポストやあるべきリーダー像などを的確に見極めることが可能です。また、目指すべきビジョンが言語化されていれば、経営層と人事部門、現場が意思疎通を図りやすくなります。
サクセッションプランを策定する際には、事前に自社製品のポジショニングや市場の動向、ビジネス環境の変化などの多様な視点を踏まえて、自社の実現すべき経営戦略を明らかにしておくようにしましょう。
次世代リーダーの育成に効果的な研修手法のひとつとして、「アクションラーニング」があります。アクションラーニングとは、あるテーマについてチーム全員で解決策を導き出し、課題解決力やリーダーシップを養う研修のことです。
アクションラーニングは、現在自社の抱えているリアルな事業課題をテーマとして扱うことが多いため、経営の知見や戦略的思考が身につきやすく、実務への応用も利きやすいのが特徴です。サクセッションプランで成果を高めるには、アクションラーニングをベースとした育成プログラムを組むことがポイントと言えるでしょう。
サクセッションプランは、企業として持続的な成長を実現するための重要な取り組みです。ぜひ経営戦略を見つめ直したうえで、人事戦略と連携させ、早期に次世代リーダーの育成計画を策定するようにしましょう。また、候補者を適切にアセスメントし、効果的な育成プログラムを立案するには、人材育成・組織開発の知見が必要です。そのため、サクセッションプランを策定する際は、社外の専門機関へ依頼することも有効な方法と言えます。
ライトマネジメントでは、人材育成・組織開発のパイオニアとして長年培った知見を活かし、サクセッションプランの策定支援サービスを提供しています。具体的には、事業戦略に基づく成功プロファイルの特定から人材要件の洗い出し、候補者のアセスメント、育成プログラムの企画・実施、成果確認のフォローアップまで一貫したサポートが可能です。育成プログラムに関しては、充実したアクションラーニングプログラム(ALP)や経営のプロによる個別コーチングをはじめ、候補者の課題に応じたカリキュラムを組み上げ、ご提案しています。
サクセッションプランの策定でお悩みの際には、マンパワーグループ株式会社 ライトマネジメント事業部までぜひお気軽にご相談ください。