役職定年制とは、一定の年齢で役職から外れる制度のことをいいます。役職定年者のモチベーション低下を招いてしまうことも多いため、何らかの対策を検討中の企業も多いかもしれません。役職定年後の中高年層を再び活躍させる方法としては、どのようなものがあるのでしょうか。そこで今回は役職定年制のメリットや実情、役職定年後の社員を活性化させる方法などについて分かりやすく解説します。
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役職定年制とは、ある一定の年齢に達した社員が、課長・部長などの役職から退く制度のことです。
役職定年制が浸透した背景には、定年の延長があります。1986年に「60歳定年」が企業の努力義務になり、1994年には60歳未満の定年が禁止されました。その流れの中で、人件費の抑制や組織の若返りなどを図るために役職定年制が広がったとされています。独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査によれば、役職定年制の導入率は2019年時点で「28.1%」(※1)となっています。役職を降りる年齢については一般的に「50代前半~中盤」で、2017年の調査では「平均54.0歳」(※2)という結果でした。
※参考1:役職定年制度の導入状況とその仕組み 8章|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(PDF)
※参考2:65歳定年時代における組織と個人のキャリアの調整と社会的支援|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(PDF)※平成27年度
役職定年制を導入することで、企業にはどのような利点があるのでしょうか。
ここでは時代背景も踏まえて、大きく2つのメリットを紹介します。
日本では終身雇用という前提のもと、年齢とともに賃金・役職が上がっていく年功序列が通例となっていました。ただ、日本の企業では降格人事を行うことが珍しく、長い間同じ社員がポストに居座ってしまうことになります。ピラミッド型の組織構造では役職に限りがあるため、社内の流動化が促されません。結果として「管理職になろうとしてもなれない」という若手社員からの不満が寄せられ、優秀な社員の離職につながるケースもあります。その点、役職定年制によって組織の新陳代謝・若返りを図り、新しい感性を経営に取り入れることが可能です。
現在は人生100年時代といわれ、人材の働く年数は延びています。2021年からは70歳までの就業確保が企業の努力義務となったため、社員には定年後の職業人生をより入念に設計させる必要があるでしょう。しかし、管理職の重い責任を背負わせ、多忙な業務に就かせたままでは定年後に目を向けさせることは難しいです。その点、役職定年制で社員が役職を離れることで、定年後の働き方を考えるための時間と余裕を与えられます。「定年までの準備期間」を設けることで、社員のキャリアシフトを促しやすくなる点も役職定年制のメリットです。
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役職定年制によって、社員の役割やモチベーションはどのように変化するのでしょうか。
ここでは、各種データを参照しながら、役職定年後の社員の変化について解説します。
役職定年後に仕事内容や役割が変わることも珍しくありません。独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査(※)によれば、役職を降りたあとの主な仕事・役割は「所属部署の主要な業務」が52.8%で、仕事が変わらない人が約半数でした。一方で「社員の補助・応援」が20.3%、「部下マネジメント等の管理業務」が10.8%、「所属部署の後輩社員の教育」が5.4%など、役職定年者に補助・サポート業務を任せるケースも多いようです。
※参考:65歳定年時代における組織と個人のキャリアの調整と社会的支援|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(PDF)
役職定年に伴って、配置転換が行われることもあります。公益財団法人 ダイヤ高齢社会研究財団の調査(※)によれば、役職定年の際に「異動があった」は32.8%、「異動はなかった」は67.2%となりました。役職定年者の7割近くが同部署で働いている一方、3割以上の人が別の部署で異なる業務を任されていることになります。
※参考:50代・60代の働き方に関する調査 報告書|公益財団法人 ダイヤ高齢社会研究財団(PDF)
役職定年によって、社員の意欲はどう変わるのでしょうか。独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査(※)によれば、役職を降りたあとに仕事に対する意欲が「下がった」は59.2%、「変わらない」は35.4%となりました。ちなみに同調査によると、「会社に尽くそうとする意欲」も「下がった」が59.2%、「変わらない」が35.4%となっています。役職定年後に、モチベーションや貢献意欲が下がってしまう社員も多いようです。
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※参考:65歳定年時代における組織と個人のキャリアの調整と社会的支援|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(PDF)
役職定年後に社員のモチベーションが下がってしまう理由とは、何なのでしょうか。
各調査の結果によれば、大きく4つの原因が考えられます。
役職定年によって役職手当がなくなったり、基本給が下がったりする影響で年収が大きく減少することも珍しくありません。実際、公益財団法人 ダイヤ高齢社会研究財団の調査(※)によれば、役職定年制によって9割以上の人が年収減になり、約4割の人が「年収50%未満」になっています。結果として「同じ業務なのに給与が下がるのはおかしい」「生活が安定しなくなる」などの不満が生まれ、意欲が低下してしまう社員もいるでしょう。
※参考:50代・60代の働き方に関する調査 報告書|公益財団法人 ダイヤ高齢社会研究財団(PDF)
役職定年者が今までと同じ部署で働く場合、元部下が新しい上司になる可能性もあります。年下の社員が自分の上司になることによって、自分のプライドが傷つけられたように感じ、居心地の悪さや仕事のやりづらさを感じる役職定年者もいるでしょう。こうした人間関係の悩みから、本人のモチベーションが下がる場合もあります。
役職定年者が異動によって、業務の変更を余儀なくされる場合もあります。また同じ部署であっても、今までの役割と違う補佐的な業務を任されるケースも少なくありません。その際、今までの知識や技術を生かすことができず、「仕事へのやりがいを感じなくなった」「アイデンティティを失ったように感じる」という役職定年者もいるでしょう。また、新たなことを覚えなければいけない大変さから、モチベーションが下がる可能性もあります。
人は会社から期待され、重要な役割を任されることで、モチベーションも高まるものです。その点、役職定年者は役職定年制で肩書きを失うと、重要な会議に出られなくなったり、特定の社内情報にアクセスできなくなったりします。結果として、会社からの期待を損なったように感じてしまい、同時に会社への不信感を抱いてしまう人もいるでしょう。「期待されていない」という思い込みは、役職定年者のモチベーション低下につながります。
役職定年後にモチベーションの低下した社員を、再び活躍させるためにはどうすればよいのでしょうか。
ここでは、役職定年者の活性化を促す方法・施策について解説します。
「シニア社員を活躍させる方法とは?各企業の現状や活性化に向けた課題を解説!」の記事もあわせてご一読ください。
役職定年者のなかには、役職定年によって職業人生の目標を見失う人もいます。そのため、キャリアデザイン研修に参加し、あらためてキャリア設計を促すことが大切です。役職定年者を対象としたキャリアデザイン研修では、会社からの期待や役割を再確認させたうえで、定年後を見据えた人生設計を促せます。役職定年者に新たな目標を見出すよう促すことで、定年後に再雇用した際にも継続して活躍が期待できるでしょう。キャリアデザイン研修の効果や目的については「キャリアデザイン研修の効果とは?効果を最大化させる4つのポイント」で詳しく解説しています。
シニア社員向けキャリアデザイン研修の考え方、50歳からの意識づけ、上司の関わり方、外部のカウセリングの活用といった会社全体の仕組みとしてどのようにシニア社員の意識醸成を実現していくのかについて解説た動画セミナーもご覧ください。
セミナー|再雇用・定年延長も視野に入れたキャリアデザイン研修構築のポイント
会社からの期待が伝わっていないことも、役職定年者のモチベーション低下を招いてしまいます。そのため、役職定年後の社員に対しても企業として変わらず期待をかけ続け、定期的に行動や成果を称賛することが大切です。
その際、大切にしたい考え方が「トータルリワード」です。トータルリワードとは、金銭的な報酬だけでなく、「名誉」「成長」「対人関係」「財務」というさまざまな報酬を与えることをいいます。例えば、「顧客があなたのことを褒めていたよ」と本人に伝えたり(「名誉」)、スキルアップできた部分を褒めたり(「成長」)、職場での居心地が良くなるよう周囲が積極的に話しかけたり(「対人関係」)するのです。たとえ役職定年制によって収入が減少したとしても、"非金銭的な報酬"を本人に与え続けてあげることで、やる気の維持が期待できるでしょう。
企業によっては役職定年者の意思と関係なく、補佐的な業務に就かせるケースもあります。ただ、人は無理やり押しつけられた業務に対して、モチベーションを感じにくいものです。そのため、役職定年者に進路の自己決定を促せるよう、複線的なキャリアコースを設けるのもひとつの方法でしょう。例えば、専門技能を生かして第一線で活躍し続ける「スペシャリストコース」や、後輩社員の指導役に専念する「メンターコース」、経営層や管理職の相談役になる「アドバイザーコース」などを用意します。こうした幅広い選択肢から本人にキャリアを選ばせることで、「自分のことは自分で決められる」という感覚(自己決定感)による意欲向上を図れるでしょう。
部長や課長などの肩書き(呼称)は、本人に役割を自覚させ、アイデンティティを持たせる機能もあります。ただ、役職定年者は役職定年によって肩書きを失うため、誇りを失ったように感じてモチベーションが下がることも珍しくありません。そのため、本人の職務や能力に応じた新たな呼称を設けることも大切です。例えば、教育係の社員には「シニアアドバイザー」、高度な技術やノウハウを持っている社員には「シニアマイスター」などの肩書きを用意します。新たな呼称によって役割意識を醸成させることで、本人のやる気向上が期待できるでしょう。
役職定年者は社内での出世が止まることで、自分の能力に限界が来たと思い込みがちです。ただ、視点を社外に広げることで、自分の新たな可能性に気づけることもあります。そのため、役職定年者には「会社」という枠にとらわれない学び(越境学習)を促すことも重要です。例えば、社外のセミナーや勉強会、地域活動への参加を促します。結果として役職定年者は新しいスキルや知識を身につけたり、逆に自分の強みを再確認したりできるでしょう。社外での学びを社内でも生かせるようにすることで、本人のさらなる活躍につながります。
越境学習についてより詳しく知りたい方は「越境学習とは?代表的な"6つ"の手法や効果を高めるポイントを解説!」をあわせてご一読ください。
役職定年制で新たに管理職となる社員は、役職定年者より年下である場合が大半です。ただ、年下上司は年上の部下である役職定年者に対して、過度に気を使ってしまうこともあります。管理職が役職定年者とのコミュニケーションを煩わしく感じることで、組織の雰囲気が悪くなってしまう可能性も高いです。そのため、マネジメント研修を開催し、年下上司が部下との上手なコミュニケーション方法を学ぶも大切でしょう。管理職のマネジメント力を高めることで、組織内の人間関係も良好になり、役職定年者の意欲向上も図れます。
年下上司と年上部下のコミュニケーション不全を解消する方法
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役職定年者のなかには、役職定年に対する心構えができておらず、急に不安を感じてしまう人もいます。そのため、企業としてミドル・シニア社員に早いうちから情報提供を行い、ポストオフへの準備を促すことも重要です。例えば、役職についている社員を対象に説明会を開き、役職定年後の仕事・賃金の変化、企業年金の受給額などを開示するのもひとつの方法でしょう。また、社員に将来のマネープランを立てさせ、企業として助言することも有効です。社員が早期から役職定年後の人生を思い描くことで、円滑にキャリアシフトを促せます。
役職定年制は多くの利点がある一方で、役職定年者の意欲低下・年下上司の働きづらさなどの課題も生じます。そのため、役職定年制度を設計・見直しするには、能力開発の施策や報酬・評価制度なども合わせて改善することが不可欠です。そこで当社では、人材育成や組織開発に長年携わってきたノウハウを駆使して、役職定年制のコンセプト立案から制度設計まで一貫してご支援しています。社員の納得感を醸成できるよう、資格等級や報酬制度まで考慮した制度設計が可能です。役職定年制の見直しをご検討の際には、ぜひお気軽にご相談ください。
役職定年後の社員は、周囲からの期待を感じられなくなり、キャリアの目標を見失ってしまう傾向にあります。そのため、本人に周囲からの役割を再認識させ、キャリアを再設計できるような専門研修を受講させることもポイントです。当社では、「役職定年者向け研修」「50歳キャリアデザイン研修」「58歳キャリアデザイン研修(定年前)」をはじめ、役職定年者(または役職定年を迎える前の社員)に意識改革を促すさまざまな研修を実施しています。役職定年者の活性化に課題をお持ちの際には、ぜひマンパワーグループ株式会社ライトマネジメント事業部までお気軽にお問い合わせください。