若手社員の早期離職が、今や社会的な問題となっています。
マンパワーグループの調査(※)によれば、約4割もの若手社員が「1~3年程度で離職を考えている」という事実が浮き彫りになったのです。若手社員の早期離職は、入社後の育成方法とも密接に関わり合っています。実際、教育環境が整っていないことで、若手社員の貢献意欲や愛社心を低下させてしまう例も少なくありません。
そこで今回は、キャリア教育の第一人者である初見康行氏(多摩大学 准教授)をお招きし、「変化の時代における若手人材の効果的な育成方法」について詳しくお話を伺いました。「若手社員の育成では、何よりマインドへの働きかけが必要」と語る初見准教授。スキルではなくマインドが重要と語る、その真意とは何なのでしょうか。
ちなみに本稿は、前半で「若手社員の基本的な育成手法やポイント」を解説したうえで、後半で初見准教授による若手社員の育成論を紹介します。若手社員の育成について基礎から応用まで理解できる【特別版】となっていますので、ぜひ最後までお付き合いください。
※参考:入社2年目までの若手社員の本音、「今の会社で定年まで働きたい」は3割未満。早期離職を防ぐために知るべきこととは?|マンパワーグループ
そもそもなぜ若手社員の育成が必要なのでしょうか。ここでは、大きく3つの観点から重要性を解説します。
若手社員に必要なスキルを身につけさせることで、早期の戦力化を図ることも育成の重要な目的です。例えば、名刺の渡し方やメールの書き方といったビジネススキルを研修で教えたり、業務に関する専門知識をOJTで教示したりします。若手社員の独り立ちをなるべく早めることで、早期に業績の向上につなげやすくなるでしょう。
若手社員の育成が行き届いた会社は、対外的な評価も上がりやすいものです。例えば、「明るくあいさつができる」「メールの文面が丁寧」「言葉遣いが誠実」といった若手社員が多いと、顧客からの印象も良くなりやすいでしょう。特に新入社員に関しては、学生から社会人になる過渡期にあり、文化の違いに戸惑いやすい時期です。そのため、育成を通じて早期にビジネスパーソンとしてのマインドセットを形成することで、本人の自信にもつながります。
若手社員の離職理由として、「人間関係が悪かった・合わなかった」という声がよく聞かれます。その点、OJTを通じて先輩社員と若手社員が普段からコミュニケーションを深めておくことで、良好な関係を築くことが可能です。また、若手社員に対して手厚く教育を施すことで、「会社から期待を受けている」「自分を大切にしてもらえている」という社員の満足感にもつながります。結果として、若手社員の定着化も図りやすくなるでしょう。
「若手社員の育成に力を注ぎたいけれど、なかなかうまくいかない」という企業も少なくありません。
ここでは、若手社員の育成が難航してしまう4つの原因について解説します。
育成施策を考える際には、社員の価値観やキャリアビジョンに適した内容にする必要があります。ただ、現在は働き方の多様化やワークライフバランスの浸透、景気の低迷などから、若手社員の労働観も多様化しており、社員一人ひとりの価値観を把握できていない企業も少なくありません。特に現在の若手社員は「ミレニアル世代」とも称され、上司・管理職の年代とは明らかに異なる労働観を持っている場合もあります。そのため、社員のキャリア観に合わせて従来の育成方法をアップデートしなければならず、苦労している企業も珍しくないでしょう。
育成方法を検討する際には、当然ながらベースとなる育成方針を策定する必要があります。ただ、社会の変化が激しい現代においては、事業の展開を先読みすることも難しく、社員に身につけさせるべき能力・スキルは日々変動しているのが現状です。そのため、なかなか育成の方向性を決めきれない企業も少なくありません。育成方針が決まっていないと、施策が単発でなんとなく行われてしまい、うまく効果につながらなくなってしまいます。
管理職や教育担当の指導力が不足し、育成が思うように進まないケースもあります。企業によっては優秀な成績を収めた社員を、若手社員の指導役に据えることもあるでしょう。ただ、プレイヤーとして優れた能力を持っていても、指導者として活躍できるとは限りません。コーチングやフィードバックなど、育成担当者には多様なスキルが求められます。これらが不足していると、教育を受ける側である若手社員の不満にもつながりかねません。
そもそも現場の業務が忙しすぎると、育成にかける時間的な余裕はなくなってしまいます。現場が人手不足の企業では、十分な研修やOJTを施さないまま若手社員を現場に送り出すケースもあるかもしれません。ただ、体系的にスキルやノウハウを学んでいない状態では、若手社員も自分の仕事に自信を持てず、最悪の場合には早期離職につながりかねないでしょう。育成を行う場合には、現場と協力して十分な時間を確保する必要があります。
若手社員の育成方法には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
ここでは、4つの育成方法とそれぞれのメリットについて解説します。
新入社員研修とは、座学やワークショップで行われる新入社員向けの研修のことです。入社したばかりの若手社員に対して、基本的なビジネスマナーや自社のビジネスモデルを理解させ、社会人としてのマインドセットを促す目的で実施されます。研修内容としては、名刺交換・電話応対・プレゼンテーション・ビジネスライティング・自社の沿革や事業内容・コンプライアンスなどが一般的です。研修は新入社員に対して一斉に行われることが多いため、若手社員同士が横のつながりを築きやすく、人間関係の安心感を育みやすいのもメリットと言えます。
新入社員研修の効果的なプログラム例については、「新入社員研修は"若手の離職"を防ぐ!効果的な研修内容とは?」も合わせてお読みください。
OJT(On-The-Job-Training)は、配属先で先輩社員によって行われる実践教育のことです。若手社員に仕事を経験させながら教育できるため、実務に必要なノウハウをスムーズに身につけさせることができます。またOJTは社員一人ひとりのレベルに応じて進度を変えられるため、無理なくスキルアップを図れるのもメリットでしょう。教育担当がつくことによって、「いつでも相談できる」という若手社員の安心感につながるのも特徴です。
研修やOJTだけではなく、定期的に若手社員と面談をして相談に乗ることも大切な育成手法です。例えば、上司が若手社員と1対1で面談を行う「1on1ミーティング」があります。上司が今後のキャリアに関する悩みを聞き、助言やサポートをすることで若手社員の精神的な安定につなげられるでしょう。1on1ミーティングについての概要や効果を高めるための方法は「1on1ミーティングで何を話すべき?効果を高めるためのテーマ・ポイントを解説!」をご覧ください。
また、上司ではなく人事が若手社員と面談を行う、「フォロー面談」という手法もあります。人間関係の悩みや会社への要望など、配属先の先輩にはなかなか言えない内容も人事が相談に乗ることで、若手社員の不満解消につなげることが可能です。
若手社員は目の前の仕事にある程度慣れると、今後のキャリアについて広い視点で考えられるようになってきます。ただ自社内のキャリアパスが不明瞭では、若手社員が不安になってしまい、退職の原因になりかねません。そのため、入社1~3年目の若手社員に対してキャリアデザイン研修を実施し、将来についてじっくり考えさせることも大切です。キャリアデザイン研修では、自分の強み・希望・組織内での役割を踏まえて今後の行動計画を立てます。社内でのキャリア展望が明確になるため、モチベーションや定着率の向上も期待できるでしょう。
キャリアデザイン研修については、「キャリアデザイン研修の効果とは?効果を最大化させる4つのポイント」もあわせてご覧ください。
若手社員の育成をより効果的に進めるには、どのようなことを意識すればよいのでしょうか。
ここでは、大きく4つのポイントについて解説します。
社員によって労働観や適性、目指しているキャリアビジョンは異なります。そのため、1on1ミーティングやフォロー面談で一人ひとりの希望や適性を把握したうえで、最適な育成を施すことが大切です。例えば、「専門性を伸ばしていきたいタイプ」と「マネジメント層を目指したいタイプ」では、用意すべき研修やキャリアルートも変わります。現場上司と人事が連携し、最適な難易度の業務・将来につながる業務を割り振ることが重要です。
若手社員に仕事を任せる際には、あらかじめその業務の「目的」を伝えることも大切です。というのも、若手社員の裁量はまだ大きくなく、日々上司から与えられた業務に取り組むことになります。ただ、仕事の意義が若手社員に伝わっていないと、「何のために働いているのだろう」という疑念を持たせてしまう可能性も高いです。だからこそ、「この業務はプロジェクトの成功に欠かせない」「業務を通じて専門知識の習得につながる」といった意義の伝達が欠かせません。若手社員の意欲を高めることで、成長スピードにもつながりやすくなるでしょう。
若手社員に期待の言葉をかけることも、育成の効果を高める重要なポイントです。というのも、人には「他者からの期待を受けると成果を出しやすくなる」という心理的な傾向があると言われています(「ピグマリオン効果」)。そのため、若手社員に仕事を任せる際には、「君の○○のスキルを信頼してこの仕事を任せるね」といった期待の言葉をかけることが大切です。本人に自信を持たせることで、パフォーマンスの向上も期待できるでしょう。
また、若手社員の育成では、承認欲求を満たすことも重要です。マンパワーグループ(※)のアンケート調査によれば、若手世代がやりがいを感じることとして「仕事の成果を認められること」という回答が最多(37.6%)でした。そのため、成果に対して称賛の言葉をかけることも、本人の成長や意欲向上につながりやすくなります。
※参考:上司と部下が職場で感じるギャップを調査!信頼される上司、信頼される部下の人物像とは|マンパワーグループ
先の読めない時代においては、環境の変化に合わせて自ら柔軟にスキルを身につけられる「キャリア自律」の体現が必要になります。そのため、若手社員の育成においても上司がすべて指示するのではなく、本人に考えさせることが大切です。「自ら考えて行動する」「結果を振り返って改善する」という過程の繰り返しで、自律性は育まれます。また、上司が指示や命令を出しすぎると、若手社員が「やらされ感」を抱いて意欲を失いかねません。そのため、上司や管理職は"フォロー"に徹し、本人から相談を受けたときにサポートすることも大切でしょう。
自律型人材の育成のポイントは「自律型人材がなぜ今求められるのか?具体的な"7つ"の育成方法も紹介」をご一読ください。
ここまでは、若手社員の一般的な育成方法やポイントについて解説してきました。ここからは、先日開催された初見康行准教授の特別セミナー「若手リーダーへの効果的なキャリア施策とは」より、専門家の視点から考える若手社員の育成施策と考え方について抜粋して紹介します。「なぜ若手社員の育成ではマインドセットが重要なのか」「若手社員には次世代リーダー候補の自覚を持たせよ」など、人事担当者の方必見の内容となっています。
「若手社員の育成はまずキャリア意識の形成からスタートすべき」と語る、初見准教授。
ここでは、マインド面の育成がいかに重要かについて解説します。
人生100年時代においては一人ひとりの職業人生も長く、常にさまざまな変化にさらされます。それに合わせて、スキルや考え方も柔軟に変えていかなければいけません。経済産業省の提言(※)に沿って言えば、業務上の専門技能をはじめとする「アプリ」と、社会人基礎力やキャリア意識などの「OS」を常にアップデートし続けなければいけないのです。企業が若手社員の育成に注力する理由は、こうしたアプリ・OSの早期構築にあります。
※参考:社会人基礎力「人生100年時代の社会人基礎力」説明資料(PowerPoint形式:176KB)|経済産業省
ただ、変化が激しい今の時代において、専門的な知識やスキルを常に会社から教え続けるのは至難の業です。理想を言えば、社員一人ひとりに能動的な意思を持たせ、必要な能力を自ら習得させることがベストだと思います。だからこそ、特に「キャリア意識」(マインド面)の育成に注力する必要があるのです。キャリアの方向性が決まることで、自ら必要なスキル・能力を選び取れるようになるためです。また、人は年齢を重ねるにつれて考え方を変えるのが難しくなります。そのため、若いうちにマインドを形成しておくことが肝心と言えるでしょう。
若手社員のキャリア観を育むためには、どのような方法があるのでしょうか。
ここでは、初見准教授が挙げる4つのポイントについて紹介します。
プロティアン・キャリアとは、ダグラスT・ホール氏によって提唱されたキャリア理論のことです。ギリシャ神話に登場する変幻自在な神「プロテウス」に由来しており、その名のとおり「時代の変化に合わせて柔軟に変化できるキャリア」を意味します。プロティアン・キャリアの特徴としては、「キャリア形成の主体が組織ではなく『個人』である」「地位や給与ではなく『自身の満足感』を成功の指標とする」などが挙げられます。こうしたプロティアン・キャリアの考え方は、終身雇用が崩壊しつつある今、非常に重要性が増していると言えるでしょう。プロティアン・キャリアについて詳しくは「「プロティアン・キャリア」は社員のキャリア不安に効く処方箋」をあわせてご覧ください。
ちなみに公益財団法人 日本生産性本部のプロジェクト(※)で私が2,300人の社会人を対象に調査を行ったところ、プロティアン志向が高い人はそうでない人よりも、「職務満足」「ジョブ・エンゲージメント」「組織コミットメント」「主観的な生産性」などで高い値が出ました。つまり、プロティアン・キャリアを実践している人の方が、仕事の満足度や生産性が高いのです。「自らキャリアを構築している」という自律的な感覚が、高い満足感につながっているのではないかと私は考えています。
※参考:日本企業の人材育成投資の実態と今後の方向性~人材育成に関する日米企業ヒアリング調査およびアンケート調査報告~
若手社員のなかには、仕事がルーティン化してしまい、目的を見失ってしまう人も少なくありません。そのため、仕事の意味づけをすることもキャリア意識の醸成につながるでしょう。その最適な例として、「3人のレンガ職人」というイソップ寓話があります。3人のレンガ職人に「何をしているのか」と問うと、Aさんは「ただレンガを積んでいる」、Bさんは「金のために働いている」、Cさんは「後世に残る大聖堂を建てている」と答えました。Cさんのように確固たる意義を持つ方が、仕事のモチベーションや生産性が高まるのは間違いありません。だからこそ、若手社員には仕事を「自己表現」や「能力発揮」の場として捉えさせることも重要でしょう。
いくら社員がキャリアの希望を出しても、社内選抜や適性の問題などがあるため100%かなうわけではありません。だからこそ、若手社員には組織から求められている期待・役割を考えさせることも重要でしょう。「自社内の席が限られているなかで、自分の希望をかなえるにはどうすればいいか」を一人ひとりに考えさせるのです。そのためには、自社のビジネスモデルや売り上げ・利益、経営課題などについてあらためて調べさせることも効果的でしょう。「自分も組織も幸せになれるポイント」を見つけさせることで、本人の有意義なキャリア選択につながります。
若手社員に対しては、「自分は次世代リーダー候補である」という自覚を持たせることも大切です。これにも、プロティアン・キャリアと同様に効果の裏づけがあります。2,300人の社会人を対象に調査したところ、次世代リーダーの自覚がある人は、自覚がない人よりも仕事の満足度や生産性が高いことが分かったのです。「組織から期待されている」という実感が、意欲やパフォーマンスの向上につながった可能性があると考えられます。そして、最も驚くべきは、企業から正式に本人へ「君は次世代リーダー候補だ」と伝えることで......
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現在は社会の変動が激しいため、受け身のままでは変化に流されてしまい、自分自身のキャリアを見失ってしまいかねません。そのため、企業として若手社員にいかに「主体的・自律的」なキャリア形成を促せるかが重要です。
そこで当社では、若手人材の自律性を育むキャリアデザイン研修『CareerRudeer』を実施しています。自社内でのキャリア展望や具体的なアクションプランを若手社員に考えさせることで、モチベーションを高め、社内での定着化やパフォーマンスの向上を図ることが可能です。オンラインでいつでも自由に受講できる、「eラーニング形式」での実施にも対応しています。若手社員の育成に課題をお持ちの際には、ぜひお気軽に当社までご相談ください。