若手社員の離職に悩んでいる企業が、年々増えています。事実、厚生労働省の調査によれば、新卒で入社した社員のうち高卒者の39.2%、大卒者の32%が入社3年以内に離職していることが分かりました。
そんななか、若手の流出を防ぐ対策として今見直しが進んでいるのが「新入社員研修」です。慣例的に行われがちな新入社員研修ですが、実はポイントを押さえて実施すれば、離職防止として大きな効果を発揮するのです。そこで今回は、「新入社員研修のメリットと効果的な研修内容・ポイント」について、分かりやすく紹介します。
※本稿は、「新卒社員」向け研修を中心に、「中途社員」向けの研修ノウハウも網羅した内容となっています。
※参考:新規学卒就職者の離職状況(平成28年3月卒業者の状況)を公表します|厚生労働省
新入社員研修とは、入社したばかりの社員を対象に行われる階層別の研修のことです。新卒社員向けの場合は、学生から社会人への意識の切り替えや、ビジネスにおける基本知識・スキルの習得を目的に行われます。中途社員向けの場合は、会社や業界に対する理解や、専門的な業務スキルの習得をメインに行われることが一般的です。
期間については、会社によって大きく異なるのが現状です。1~3ヶ月のあいだに短期間で集中して行う場合もあれば、1~3年かけて長期的に行う場合もあります。場所については、社内の会議室や社外のホールで講義・ワークショップを行ったり、e-ラーニングを使って自主学習させたりするケースが多いです。実務の現場を知るために、社内見学や工場見学を行う会社や、チームワークを養うため合宿を行う会社もあります。どんな研修をどれくらいの期間実施するかは、新しく入ってくる社員のレベルに応じて決めることが大切だと言えるでしょう。
企業が新入社員研修を行う目的について、大きく4つの観点から紹介します。
まずは、新入社員に自分の働く会社が「どんな事業を行っているのか」「どんな業界に属しているのか」を理解してもらう必要があります。企業には市場でのポジショニングがあり、強みに合わせた経営戦略をとっていることが多いです。そのため、企業や業界、事業への理解を深めてもらうことで、自社の立ち位置を理解してもらえるようになります。自社の戦略や立ち位置が分かっていた方が、配属後の実務も進めやすくなるでしょう。
新卒社員の場合は、まだ学生の気分が抜け切れていないことも考えられます。学生の場合は自分中心の考え方でも生活できますが、社会人になるとそうはいきません。そのため、社会人としてのマインドセットを行う意味でも、新入社員研修は必要です。ビジネスマナーや就業規則を教えることで、社会人としての基礎を養いましょう。
配属される部署にもよりますが、専門的な業務スキルが必要なこともあります。例えば、商社なら貿易関係の法律や商品の扱い方、書類の読み方やビジネス英語などです。こうした専門知識・スキルを、講義と実践形式で教えることもあります。専門知識の基礎を事前に身につけておけば、現場での早期戦力化も期待できるでしょう。
若手社員が離職する大きな原因は、仕事や職場との"ミスマッチ"です。実際に配属されてから、「こんな仕事だと思っていなかった......」とギャップを感じ、退職してしまう社員もいます。そのため、社員が入社したばかりの段階で、会社や事業、仕事の実情を正しく伝え、配属後のミスマッチを未然に防ぐことが大切なのです。
また、新入社員研修を通じて先輩や同期社員との絆が深まり、コミュニティーができることもあります。気軽に相談できる先輩や、困ったときに励まし合える同期社員の存在はかけがえのないものです。新入社員に社内でのネットワークを広げてもらい、いざというときに頼れる関係を築いてもらう意味もあり、離職防止につながります。
「若手人材の早期離職を防ぐには?離職防止の効果的な"7つ"の対策を紹介!」で詳しく解説しております。
毎年、新入社員研修のカリキュラムをどうしようかと迷っている企業も多いかもしれません。
そこで今回は、研修カリキュラムに盛り込むべき必須内容を8つに絞って紹介します。
自社の経営戦略や商品・サービスについて知ることで、新入社員が実務をより進めやすくなります。そのため、企業理念・事業内容・社内風土・社史・経営方針などを、経営者や事業責任者から説明すると効果的でしょう。
ビジネスマナーは社会人の土台となる必須スキルで、顧客と対等に会話するうえでも必要です。そのため、あいさつの仕方・名刺の渡し方・身だしなみ・電話応対・ビジネスライティングなどの内容を盛り込むとよいでしょう。
実務ではPCや社用携帯、資料作成用の業務ソフトなど、情報機器に触れる機会は数多くあります。そのため、PCの操作方法・WordやExcelの使い方・メールの作成方法・インターネットの活用法などの内容も必要です。
プレゼンテーションスキルは、プロジェクト内で同僚や上司に想いを伝えるにも、顧客へ商品を提案するにも役立ちます。そのため、「テーマに沿って自分の意見をプレゼンする」といった内容の研修も効果的でしょう。
ロジカルシンキングは、業務で問題が発生した際、論理的に解決法を導き出すのに役立ちます。「論理的思考のフレームワークを学ぶ講義」「テーマに沿って討論し合うワークショップ」などで身につけるのが最適です。
実務では業務をひとりで完結させることはほぼなく、関係会社や同僚など多くの人と関わります。そのなかでチームワークは大いに役立つため、「チームごとにビジョンメイキングする」といった研修を盛り込むのも有効です。
情報漏えいや過度な残業などは、企業の根底を揺るがす問題になりかねません。そのため、研修でも就業規則・機密情報の取り扱い・コンプライアンスなどをはじめ、情報リテラシーや労務関係の座学も盛り込みましょう。
実務に必要な知識・スキルを基礎だけでも身につけておくと、新入社員が配属後スムーズに実務に臨めます。例えば、営業なら架電方法・商談の流れ・見積書の作り方などを研修内容に盛り込むと、より効果的でしょう。
上述したカリキュラムを、どのような形式で伝えるのがよいのでしょうか。
4つの手法に分けて、それぞれの特徴と合わせて紹介します。
座学とは、講義形式で行われる研修のことです。一度に全員が同じ内容を学べるので、とても効率の良い研修スタイルだと言えます。特に「企業や事業内容の理解」「労務関係・コンプライアンス」といった知識系の内容を教えるのに最適です。実践にはやや不向きなので、グループワークやロールプレイングも合わせて行いましょう。
グループワークとは、数人でグループを作り、そのなかで討論や創作を行う研修です。チームメンバーと協力し、ときに意見を戦わせながら作業を進めるので、「チームワーク」「ロジカルシンキング」などを学ぶのに適しています。グループごとに意見を発表し合うことで、「プレゼンテーション」の能力も習得できるでしょう。
ロールプレイングとは、実務を再現する模擬練習のことです。机上の知識だけでなく、体験を通じてスキルを身につけられるので、より習熟度を高められます。例えば、営業で言うと「商談」や「架電」などを教えるのに最適です。新入社員の実演に対して、指導役が丁寧にフィードバックすることでよりスキルアップが見込めます。
OJT(On-The-Job-Training)とは、実務のなかで業務に必要なスキルを学ぶ研修スタイルです。実際の配属先で上司や先輩から指導してもらえるため、より実務に即したノウハウを身につけられます。集合研修のカリキュラムをOJTの担当者にあらかじめ伝えておくことで、指導内容をリンクでき、相乗効果を生み出せるでしょう。
ここからは、実際に新入社員研修のカリキュラムを決めるプロセスを、4つのステップに分けて紹介します。
研修の内容は、新入社員のレベルによって変わります。例えば、採用面接の時点で「英語に強い人」を採用していれば、語学力の研修は必要ありませんし、中途入社の場合は「ビジネスマナー」をあらためて身につける必要はありません。まずは新入社員が「今どんな能力を身につけているのか」「逆にどんな知識・スキルを身につける必要があるのか」を把握することが大切です。足りていない能力を補えるようなカリキュラムを考えましょう。
同時に「経営層と現場の管理職が新入社員に期待する能力」もヒアリングしましょう。例えば、「実務でWordやExcelの使い方は教えないので、身につけておいてほしい」となれば、新入社員研修で補う必要があります。
また、全体での研修が終わったあとに、現場の社員がOJTを担当してくれるのが一般的です。現場社員が教える内容と集合研修の内容がかぶってしまうと、時間のロスになってしまうため、OJTの内容も細かく聞いておきます。
「STEP1・2」の内容を踏まえて、カリキュラムを組んでいきましょう。具体的には、研修の目的とゴール・研修の内容・タイムスケジュール・実施期間・場所・講師・教材・習熟度の測り方などを決める必要があります。また、現場の社員が集合研修で講義をしてくれる場合もあるので、予定を事前に押さえておくことが大切です。
カリキュラムに沿って、実際に新入社員研修を行います。実施後も、新入社員にアンケートを記入してもらい、改善点や意見を集めておくと、次回に活かしやすいです。新入社員が配属されたあとも、現場の管理職や社員にヒアリングしながら、「身につけておくべきだった能力」「さらに強化すべき講義」などを確かめます。そして、その改善点を次回の新入社員研修に活かすようにしましょう。PDCAを回しながら改善を重ねることが大切です。
最後に、より効果的な新入社員研修を行うために押さえておくべきポイントを、大きく6つ紹介します。
研修の担当者は狙いを持って講義をしているつもりでも、肝心の新入社員が「この研修には何の意味があるんだろう」と疑問に感じているケースもあります。そのため、研修を受ける新入社員たちに、あらかじめ研修の目的とゴールを伝えておくことが大切です。「この研修ではこのような能力が身につく」と分かれば、新入社員も高いモチベーションを持って研修に参加してくれますし、習熟度もより深いものになるでしょう。
研修の内容は、新入社員が意欲的に参加できるように組み合わせるべきです。例えば、座学が一日中続いてしまうと、せっかくの大事な内容でも新入社員の集中が切れてしまうでしょう。だからこそ、「座学のあとにはワークショップを入れる」「座学で学んだことを活かせるように、ロールプレイングをセットで行う」といった工夫が大切です。手法をバランス良く組み合わせることで、研修にもメリハリが出て、参加者の意欲を維持できます。
研修で教えた内容が新入社員の中で深く定着するかどうかは、現場でのOJTにもかかっています。例えば、OJT担当が新入社員に対して「ここは研修の○○という講義で習った箇所だよね?」という風に、都度確認を入れるようにします。そうすれば、新入社員も自分の中で振り返りの時間を設けることができるでしょう。このように研修担当と現場の社員が連携して、相乗効果を生み出せるような教育体制を築くことが大切です。結果として、現場に配属されたあとのミスマッチも減り、新入社員の早期離職を防ぐことにもつながります。
先行き不透明な時代だからこそ、世の中の動きに合わせて企業の経営方針も大きく変動します。当然ながら、それに伴って社員が身につけておくべき能力も変わってくるものです。そのため、新入社員研修も毎年同じ内容ではなく、時流を捉えたカリキュラムに変更すべきです。マンパワーグループが行った調査でも、自社の研修に満足できない理由として、「内容が古くさい」「世の中の風潮に合っていない」と答える声が多くありました。つまり、時流に合わせた研修内容にすることで、新入社員のモチベーションを上げることにもつながるでしょう。
※参考:正社員の半数が自社の教育・研修制度に不満。必要とされる教育・研修制度とは?|マンパワーグループ
在宅勤務を導入している企業では、新入社員研修をフルリモートで行うこともあるでしょう。その際には、受講者の集中力が続くような時間配分・カリキュラムにすることが大切です。というのも、在宅勤務では受講者の周囲に誰もいない状態なので、緊張感を持って研修に臨んでもらえないことがあります。
具体的な解決策としては、「1コマの研修を90分ではなく、60分に短縮する」といった時間配分の工夫が有効です。時間が限られているほうが、受講者の集中力も高めやすいでしょう。また、「少人数でのワークショップをこまめに取り入れる」ことも効果的です。どうしてもリモート研修では、講義を聴くだけの"インプット"中心になりがちです。そのため、受講者が自分の意見を発信できる"アウトプット型"のカリキュラムを取り入れることで、より参加意識を醸成できます。Web会議システムの仕様上、大人数では会話しづらくなるので、少人数での発表会やワークショップを取り入れるというのがポイントです。リモート研修の内容や仕組み次第で、新入社員の早期離職を防ぐことにもつながるでしょう。
カリキュラムすべてを、自社だけで完結させるのはなかなか難しいものです。事業内容や理念については自社の社員でも教えられますが、ビジネスマナーや社会人としてのマインドセットは、外部のプロ講師の方がより豊富なノウハウを持っています。だからこそ、自社で網羅できない内容については、積極的に外部の研修サービスを活用するのが効果的です。その方がより充実した研修内容になり、新入社員の満足度も高められるでしょう。
※新入社員研修のカリキュラムにお悩みの方は、ぜひライトマネジメントの新入社員研修をご検討ください。
新入社員研修は、社員に長く活躍してもらうための大切な"投資"でもあります。だからこそ、入念に企画し、より充実した研修を目指すべきです。ただ、教育する内容は多岐にわたるため、自社だけでカリキュラムを組むのが難しいこともあるかもしれません。その際は、ぜひ研修サービスを提供する専門企業に一度相談することをおすすめします。研修に人材育成のプロを起用することで、より効果的な研修を行うことができるでしょう。
「業務知識」や「ビジネスマナー」の習得だけでは新人の早期戦力化には不十分です。ライトマネジメントの新入社員研修は、主体性を確立するキャリアデザイン力が身につきます。