従来、マネジメントというのは、上司から部下への一方的なコミュニケーションという側面が色濃くありました。しかし、近年は逆に部下から上司へ積極的に働きかけ、良好な関係を築いていこうとする「ボスマネジメント」が注目を集めています。社員一人ひとりがボスマネジメントに取り組むことによって、部下・上司双方のパフォーマンス向上を図れたり、組織全体の定着率を改善できたりと、さまざまな効果を生み出すことが可能です。
そこで今回は、ボスマネジメントという言葉の定義や、ボスマネジメントに取り組むメリット、ボスマネジメントの具体的な手法についてわかりやすく解説します。また、上司と部下の関係改善に向けて人事が考えるべきポイントについても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
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そもそもボスマネジメントとは、どのような意味を持つ言葉なのでしょうか。
本章では、ボスマネジメントの定義やボスマネジメントが注目されている背景について解説します。
ボスマネジメントとは、部下が自身の想いや目標を成し遂げるために、上司へ積極的に働きかけることです。
例えば、上司に対して自身のキャリアビジョンを積極的に開示したり、上司へ自分の得意な業務・苦手な業務をはっきりと伝えたり、上司へ能動的にサポートやアドバイスを依頼したりする行動が挙げられます。通常のマネジメントとは逆に、部下側が上司(ボス)の行動をコントロールし、マネジメントしようとするのが特徴です。
部下がボスマネジメントに取り組むことで、部下と上司の信頼関係がより強固になり、部下は自分の希望している業務を任されやすくなります。結果的に、社員一人ひとりのモチベーション向上につなげることが可能です。
ボスマネジメントは、もともとアメリカの労働慣行のなかで生まれた言葉です。
アメリカでは、ジョブ型雇用が根付いていることもあり、配属や評価などの決裁権を現場の管理職が握っています。そのため、部下が自分の希望の働き方を実現するには、積極的に上司へ働きかけて味方になってもらうことが不可欠です。むしろ高いパフォーマンスをあげるためには、ボスマネジメントが必須とさえいわれています。
こうしたボスマネジメントの考え方は、労働文化の違う日本にはなじみの薄いものでした。しかし、市場のグローバル化や外資系企業の日本進出、ジョブ型雇用の浸透などを背景に、徐々に日本でも認知されはじめています。
また、特に近年はリモートワークが一般的となり、上司と部下の物理的な距離が離れる場面も増えました。上司と部下のコミュニケーションが希薄になったことで、上司が柔軟に部下の勤務状況を管理したり、正当に部下を評価したりするのが難しくなっています。その結果、部下側に「指示を待つだけでは仕事が円滑に進まない」という危機感が芽生え、部下から能動的に上司を動かすボスマネジメントの重要性が認識されはじめたのです。
社員がボスマネジメントに取り組むことで、企業にとってどのような効果が見込めるのでしょうか。
本章では、ボスマネジメントによって企業が得られる主なメリットについて解説します。
部下がボスマネジメントに取り組むことで、上司からの理解を得やすくなり、自身の望んだ業務や役割を与えてもらいやすくなります。「自分の強みを活かせる業務に取り組みたい」「リーダーのポストに挑戦したい」などの希望を実現しやすくなるため、本人のモチベーションが向上し、パフォーマンスも高まるでしょう。
また、上司側にとっても、ボスマネジメントは効果的です。部下側が自発的に提案や相談をするようになれば、上司が逐一状況を確認する必要がなくなり、負担が軽減されます。部下に対するマネジメントが効率化・最適化されるため、その分ほかの業務に時間を割けるようになり、上司のパフォーマンス向上も期待できるでしょう。
ボスマネジメントに取り組むということは、部下と上司のコミュニケーションが盛んになるということです。結果的に組織全体でのコミュニケーションも活性化して、気兼ねなく発言し合える関係性が生まれやすくなります。
組織内で自分の意見を恐れずに言える状態は、「心理的安全性」が高い状態とも言えます。ボスマネジメントによって心理的安全性が高まれば、社員一人ひとりにとって居心地が良く、のびのびと働ける雰囲気を醸成できるでしょう。
※心理的安全性について詳しく知りたい方は、『心理的安全性を高めるには?効果的な施策を人事・上司それぞれに解説!』の記事もあわせてご覧ください。
部下にとって上司との関係が悪化することは、ストレスの原因にもなってしまいます。マンパワーグループが「勤務先でのストレス」に関する独自のアンケート調査(※1)を実施したところ、若手社員にとってストレスの原因になり得る要素は、1位が「仕事内容(43.9%)」、2位が「上司との関係(43.1%)」という結果でした。
上司との関係悪化をそのまま放置してしまうと、部下側の早期離職につながりかねません。その点、ボスマネジメントによって上司・部下間の関係が良好になれば、社員一人ひとりのストレス緩和を図れます。結果的に部下の組織に対する愛着や満足度(従業員エンゲージメント)も向上し、定着率の改善が期待できるでしょう。
※1参考:上司と部下が職場で感じるギャップを調査!信頼される上司、信頼される部下の人物像とは|マンパワーグループ
※従業員エンゲージメントについて詳しく知りたい方は、『従業員エンゲージメントを向上させるには?"7つ"の効果的な施策を解説!』の記事もあわせてご覧ください。
部下が上司に対してボスマネジメントに取り組む際、具体的にはどのような手法が考えられるのでしょうか。
本章では、ボスマネジメントで効果的な6つの手法について解説します。
上司と関係性を築くうえで特に重要なのが、自己開示です。自分の強みや弱み、キャリアビジョン、理想の働き方などを上司に知ってもらうことで、希望に合った仕事を割り振ってもらいやすくなります。1on1ミーティングやランチミーティングのような場を有効活用して、自分に関する情報を能動的に発信するよう心がけましょう。
上司と信頼関係を築くためには、上司のことを深く知ることも重要です。上司の好みや志向性を正しく知っておくことで、相手の目線に合わせてコミュニケーションでき、距離を縮めやすくなります。日々のやりとりのなかで、上司の大切にしている価値観やキャリアでの目標、普段のワークスタイルなどを理解できるよう努めましょう。
上司とのコミュニケーションを密にすれば、自然と関係性が育まれます。その意味で、上司への報告・連絡・相談を怠らないことも重要です。自分の状況が常に上司に伝わっている状態にしておけば、それに応じて仕事を割り振ってもらえるようになります。また、上司へこまめに相談することで、柔軟に協力を得やすくなるでしょう。
上司には、できることだけでなく、"できないこと"も誠実に伝えることが大切です。例えば、自身の能力や許容量を超えた業務を任されたときは、一度相談する必要があります。過負荷な状態を我慢したとしても、パフォーマンスが上がりません。最悪の場合、心身のストレスからバーンアウトシンドロームのような状態に陥ってしまいます。自分の限界ラインを上司に理解してもらうことで、今後の仕事の割り振りを最適化してもらいやすくなるでしょう。
※バーンアウトシンドロームについて詳しく知りたい方は、『バーンアウトシンドロームになるのはベテランだけじゃない?原因や予防策を解説』の記事もあわせてご覧ください。
上司と信頼関係を築くためには、上司と共通の目標を持つこともポイントと言えます。具体的には、「部署の成果を前年比○○%に高める」「部署内で○○のイベントを開催する」など、組織全体にまつわる目標が好例です。部下と上司が共通のゴールを目指すことで、自然と心理的な距離が近づき、協働しやすい雰囲気が生まれます。
また、上司と共通のミッションに挑むことで、自身の成果やパフォーマンスを上司に評価してもらいやすくなるのもメリットです。まずは上司の目指す理想像を聞き、それに対する貢献意欲を示すことから始めてみましょう。
希望どおりの仕事を任せてもらうには、普段から上司との信頼関係を十分に構築しておく必要があります。これについて、組織行動学の教授であるスティーブン・R・コヴィー博士は、相手との信頼関係を銀行口座にたとえて「信頼口座」と呼びました。信頼口座の残高が高いほど、自分の意見や行動が相手から許容されやすくなります。
ボスマネジメントに取り組む際にも、上司から「この部下になら安心して仕事を任せられる」と思われる存在になることがひとつの目標です。例えば、「提出物の期日は守る」「遅刻をしない」「相手の目を見て話を聞く」「自分に非があるときは心から謝罪する」など、ささいな行動の積み重ねが、信頼残高の増加につながります。自分の主張を通すためには、まずは相手からの信頼を得ることを大切にし、誠実に仕事に取り組むようにしましょう。
部下がボスマネジメントに取り組む際、上司と衝突・対立し、本人たちだけでは関係構築が難航してしまうケースもあります。その際、どちらの味方でもある人事が間に入り、関係構築をサポートすることも重要です。
例えば、上司・部下それぞれと面談して相談に乗ったり、研修の場を用意して円滑なコミュニケーションに必要なスキルセット・マインドセットを習得させたりするのも一案です。必要に応じて人事が"橋渡し役"となることで、上司と部下の信頼関係がスムーズに構築され、ボスマネジメントの成果をさらに高められるでしょう。
ボスマネジメントは、部下と上司が良好な関係を築き、お互いを成長させるための重要な考え方です。まずは上司・部下がコミュニケーションの場を設け、相互理解に努めることから始めましょう。また、部下と上司の関係改善には、人事の役割も非常に大切です。人事が橋渡し役として両者の相談に乗ったり、研修を通じて必要なマインドセット・スキルセットを提供したりすることで、部下・上司間の関係をより良好なものにできます。
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