バーンアウトシンドローム(燃え尽き症候群)とは、突然燃え尽きたように労働意欲を失ってしまう状態のことです。力を出し尽くすと聞くとミドル・シニア世代のイメージがありますが、実は若手も含め、幅広い年代で発症する可能性があります。誰もがなり得る状態だからこそ、企業は十分な予防策を整えておくことが大切です。
そこで今回は、バーンアウトシンドロームの定義やなりやすい人の特徴、主な予防策について解説します。また、従業員がバーンアウトシンドロームになった際の対処法も紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
そもそもバーンアウトシンドロームとは、どのような状態のことをいうのでしょうか。
本章では、バーンアウトシンドロームの定義や症状、ボアアウトとの違いについて解説します。
バーンアウトシンドロームとは、一生懸命に働いてきた人が突然、燃え尽きたかのように意欲を失ってしまい、社会に適応できなくなる症状を指します。朝起きるのが難しくなったり、職場へ行く意欲がなくなったり、対人関係を極度に避けるようになったりするのが特徴です。バーンアウトシンドロームという言葉は、1974年に精神心理学者のフロイデンバーガー氏によって初めて使われ、日本では「燃え尽き症候群」とも呼ばれています。
バーンアウトシンドロームの主な症状としては、3つ(※)が挙げられます。具体的には、感情を出し尽くして疲れ切ってしまう「情緒的消耗感」、他人に対して思いやりのない紋切り型の対応をしてしまう「脱人格化」、仕事における目標意識やモチベーションを急激に失ってしまう「個人的達成感の低下」です。従業員にこうした症状が見られないか、人事や上司は日ごろからチェックし、必要であれば速やかにケアするよう心がけましょう。
※参考:バーンアウト (燃え尽き症候群) ヒューマンサービス職のストレス|独立行政法人 労働政策研究・研修機構(PDF)
バーンアウトシンドロームとよく似た症状に、「ボアアウト(退屈症候群)」があります。ボアアウトとは、仕事における物足りなさが引き金となり、疲労や倦怠感、不眠などに悩まされる状態のことです。特に業務内容が単調すぎたり、仕事量が少なすぎたり、他人とのコミュニケーションが極度に少なかったりする人が陥りやすい症状といわれています。一方のバーンアウトシンドロームは、業務量が多すぎたり、高すぎる目標を追い続けたりすることによる心労が主な原因です。両者とも症状そのものは似ていますが、原因は真逆と言えるでしょう。
バーンアウトシンドロームは、どのような人が特になりやすいのでしょうか。
本章では、バーンアウトシンドロームに陥りやすい人の特徴について解説します。
バーンアウトシンドロームになりやすい人の特徴は、理想が高いゆえに、現実とのギャップにストレスを感じていることです。例えば、「高い業績目標を達成したいのに、スキルが伴わずなかなか届かない」「顧客の役に立ちたいのに、お叱りばかり受けている」「一生懸命働いているのに、周囲から思ったような評価を得られない」などが挙げられます。こうした強い葛藤が心理的な負荷になり、急に目標意識を喪失することも珍しくありません。
業務上の量的・質的に過大な負荷も、バーンアウトシンドロームの引き金となることがあります。具体的には、与えられた業務量が多すぎたり、残業時間が過度に長くなっていたり、スキル以上のミッションが与えられていたりするケースです。疲労感が極限まで蓄積された結果、メンタルバランスを急激に崩してしまう人も数多くいます。
自律性のない職場環境で働く人材ほど、バーンアウトシンドロームになりやすい傾向にあるといわれています。具体的には、スケジュールや業務の進め方を上司から強制され、自分ではコントロールできないような環境です。その場合、仕事の充実感よりも押し付けられた徒労感が強く残り、従業員の心理的な負荷になってしまいます。
従業員がバーンアウトシンドロームになった際には、復帰を急がせず、段階を経た緩やかな職場復帰を支援することが大切です。本章では、従業員がバーンアウトシンドロームになった際に取るべき対処法を紹介します。
バーンアウトシンドロームになると、文章を読んでも頭に入ってこなかったり、ひとつのことをじっくり考える余裕がなくなったりします。業務が手につかない状態のため、まずは本人に十分な休養時間を確保させることが不可欠です。仕事や職場との間に心理的な距離を置かせることで、リラックス状態を取り戻させましょう。
本人に心理的な余裕が生まれたら、職場復帰の準備段階としてカウンセリングを実施します。人事が本人と対話しながら、バーンアウトシンドロームの引き金となった出来事や乗り越える方法、いざというときの相談相手などを整理します。本人が社内の人間には本音が言いづらい場合は、社外のカウンセラーを手配するのも有効でしょう。「職場へ戻っても安心して働けそう」というマインドを、本人に取り戻させることが重要です。
カウンセリングを重ねて、最終的に緩やかな職場復帰を目指します。その際、本人の心理的な負担が大きくならないよう、会社としてサポートしましょう。例えば、職場ではなく図書館やカフェのような場所で体を慣らす「模擬出勤」、出社はするものの仕事はしない「試し出勤」などを取り入れるのも有効です。徐々に本人が出勤できるようになったあとも、人事や上司が業務の見直しやカウンセリングを実施し、ケアする姿勢が求められます。
従業員がバーンアウトシンドロームになってしまわないよう、企業は予防策を講じておくことが重要です。
そこで本章では、バーンアウトシンドロームの主な予防方法について解説します。
従業員のバーンアウトシンドロームを防ぐには、周囲が兆候を見逃さず、速やかにケアすることが大切です。その点において、上司と部下による「1on1ミーティング」を導入することによって、部下の心理的な状況を把握しやすくなります。部下から見ても、いつでも相談に乗ってくれる相手がいることで、より安心して業務に取り組めるでしょう。
※1on1ミーティングの進め方について詳しく知りたい方は、こちらの録画セミナーもご覧ください。
今さら聞けない「キャリア面談」と「1on1」の基本と具体的な進め方
バーンアウトシンドロームを予防するには、人事評価制度を見直し、従業員の頑張りを適切に評価することも重要です。例えば、目標の達成率や成果だけでなく、そこに至る過程も評価する「プロセス評価」が挙げられます。また、従業員同士が感謝を送り合う「ピアボーナス」をはじめ、非金銭的インセンティブを導入するのも有効です。従業員の頑張りを普段から賞賛し、動機づけてあげることが、燃え尽きを防ぐためには大切でしょう。
※人事評価制度の見直し方法について詳しく知りたい方は、『人事評価への不満にどう対処すべき?評価制度の見直し方法・ポイントを解説!』もあわせてご覧ください。
バーンアウトシンドロームになる従業員は、業務過多に陥っている可能性があります。そのため、燃え尽きを防ぐには、心身に無理なく働けるような職場環境をつくることも欠かせません。例えば、一人ひとりのスキルに見合った業務内容になるよう調整したり、ハイブリッドワークのように働き方をフレキシブルに選択できるようにしたり、デジタルツールの導入で生産性アップを図ったり、ノー残業デーを設けたりする方法があります。身体的な負荷のかからない環境づくりは、メンタルヘルスの観点でも特に重要です。
バーンアウトシンドロームになる従業員の多くは、理想と現実のギャップにもがき、キャリアの目標地点を見失っています。そのため、キャリアデザイン研修を実施し、従業員に中長期的なキャリアを設計させることは有効です。キャリアデザイン研修では、従業員がWill(したいこと)-Can(できること)-Must(期待されていること)のフレームワークで、自分の現在地を冷静に見つめ直したうえでキャリアを再設計できます。地に足のついたキャリアを自律的に設計できるため、従業員は目標意識を失うことなく仕事に取り組めるようになるでしょう。
※キャリアデザイン研修の進め方について詳しく知りたい方は、『社員の"キャリア不安"に効くキャリアデザイン研修の重要性と正しい進め方とは?』もあわせてご覧ください。
バーンアウトシンドロームを予防するには、メンタルヘルスに関するマネジメント層のモラルアップが欠かせません。そのため、管理職向けに研修を実施し、部下のメンタルケアに対する理解を促すことも大切です。具体的には、メンタルヘルス不調者への対応方法やハラスメントの防止策、アンガーマネジメントのコツなどを研修で教示します。また、ベテラン社員を"年上部下"として抱える管理職には、役職定年制やローパフォーマーへの対応策などをレクチャーすることも重要です。マネジメント層の意識改革が、部下の働きやすさにつながります。
※役職定年制について詳しく知りたい方は、『役職定年制の実態とは?役職定年後の社員を活性化させる"7つ"の方法』もあわせてご覧ください。
バーンアウトシンドローム(燃え尽き症候群)は、ある日突然仕事への意欲を失ってしまう症状のことを指し、場合によっては優秀な人材の早期退職にもつながります。そのため、企業として1on1ミーティングの活用や人事評価制度の見直しを進め、従業員にとって身体的・精神的な負荷のかかりにくい職場づくりを目指しましょう。
また、バーンアウトシンドロームの原因は年代や階層によって違います。一人ひとりの悩みや課題をヒアリングしたうえで、最適なアプローチを考えることが大切です。ライトマネジメントでは、「若手社員の定着・モチベーション向上研修」や「ミドル・シニア活性化研修」をはじめ、従業員の課題・階層別に豊富な研修サービスを提供しています。バーンアウトシンドロームの予防策を検討の際は、ぜひマンパワーグループ株式会社ライトマネジメント事業部までご相談ください。
参考: