近年、人材育成や組織開発などの分野で注目を集めているのが、「ワークエンゲージメント」という言葉です。ワークエンゲージメントの高い人材は、仕事に対して熱心に取り組み、組織へのコミットメントも高いという特徴があります。そのため、企業がワークエンゲージメントの向上に取り組むことで、人材の離職率・定着率を改善できたり、パフォーマンスを飛躍的に高められたりとさまざまな効果が期待できるでしょう。
そこで今回は、ワークエンゲージメントの定義や測定方法、重要性などについてわかりやすく解説します。また、従業員のワークエンゲージメントを高める方法・施策も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
そもそもワークエンゲージメントとは、どのような意味を持つ言葉なのでしょうか。
本章では、ワークエンゲージメントの定義や要素、測定する方法などについて解説します。
ワークエンゲージメントとは、自分の仕事に誇りを持って熱心に働き、生き生きとしている心理状態のことです。日本においては、「働きがいを感じている状態」と定義されることもあります。
もともとワークエンゲージメントは、オランダ・ユトレヒト大学の心理学教授であるシャウフェリ氏によって提唱された概念です。シャウフェリ教授によれば、ワークエンゲージメントは一時的な感情の高まりではなく、"持続的な"心理状態であると考えられています。そのため、ワークエンゲージメントの高い人材は、長期的に前向きな感情で働き続けられるのが大きな特徴です。ワークエンゲージメントの高い人材は心の健康状態も良いと考えられるため、従業員のメンタルヘルス対策においても注目を集めています。
ワークエンゲージメントの提唱者であるシャウフェリ教授は、「ワーク・エンゲイジメントは、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力、熱意、没頭によって特徴づけられる」(※)と定義しています。
つまり、活力・熱意・没頭という3つの心理因子を満たしたときに、はじめてワークエンゲージメントが高い状態と言えるのです。ここでいう活力とは「就業中に高いエネルギーや回復力を感じていること」、熱意とは「仕事にやりがいや誇りを持っていること」、没頭とは「仕事に集中して取り組んでいること」をそれぞれ意味しています。
※参考:ワーク・エンゲイジメントに注目した個人と組織の活性化|一般社団法人日本職業・災害医学会(PDF)
ワークエンゲージメントを測定する方法はいくつか存在しますが、最も広く活用されているのはユトレヒト・ワークエンゲージメント尺度(UWES:Utrecht Work Engagement Scale)です。UWESはワークエンゲージメントの提唱者であるシャウフェリ教授らによって開発され、現在は日本を含め23ヵ国以上で使用されています。
UWESでは、「活力」「熱意」「没頭」に関する17項目の質問を従業員に投げかけ、その回答の前向きさによって得点をつけます(※)。
例えば、活力であれば「仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる」「朝に目が覚めると、さあ仕事へ行こう、という気持ちになる」などの質問をし、「全くない:0点」「めったに感じない:2点」「よく感じる:4点」「いつも感じる:6点」などの選択肢から回答してもらいます。これによって社内におけるワークエンゲージメントの水準を知ることができ、他社や他国の数値とも比較をすることが可能です。
※参考:令和元年版 労働経済の分析 第3章 第一節(p179)|厚生労働省(PDF)
ワークエンゲージメントの対極といわれる概念が、「バーンアウト(燃え尽き)」です。バーンアウトとは、仕事に過度なエネルギーを費やした結果、心身ともに疲弊し、仕事への意欲や自信を喪失した状態のことをいいます。日本では、「燃え尽き症候群」という名称でも知られる概念です。ワークエンゲージメントが仕事に対して活動的・肯定的であるのに対して、バーンアウトは仕事に非活動的・否定的であるという大きな違いがあります。
また、ワークエンゲージメントと似た言葉に「ワーカホリズム」があります。ワーカホリズムとは、過度に一生懸命働いている状態のことです。ワーカホリズムは、仕事に対して活動的ではあるものの、「仕事から逃げられない」という強迫観念が根底にあります。仕事に対して否定的な点が、ワークエンゲージメントとの違いです。
※バーンアウトシンドロームについて詳しく知りたい方は、『バーンアウトシンドロームになるのはベテランだけじゃない?原因や予防策を解説』の記事もあわせてご覧ください。
従業員のワークエンゲージメントを高めることで、企業にとってどのような利点があるのでしょうか。本章では、従業員のワークエンゲージメントを高めるメリットについて解説します。
ワークエンゲージメントが高い人材は、仕事のストレスを感じにくい状態なので、睡眠の質が良好になりやすい傾向にあります。そのため、日々の業務に集中しやすくなり、生産性も高くなるのが特徴です。また、ワークエンゲージメントの高い人材ほど、自分の役割以外の仕事にも挑戦したり、積極的に自己研さんしたりと活動的になります。そのため、より高いパフォーマンスを発揮でき、事業全体にも好影響をもたらしてくれるでしょう。
ワークエンゲージメントが高い人材は、仕事に対してより熱心に取り組めるため、顧客に対しても丁寧かつ高品質のサービスを提供できるようになります。こうした人材は、サービスの受け手である消費者や顧客からしても非常に好印象です。結果的に、顧客満足度(Customer Satisfaction)の向上にもつながりやすくなるでしょう。
ワークエンゲージメントが高い人材ほど、企業の理念や事業方針を深く理解しており、組織に対する愛着や信頼度も高い傾向にあります。「組織に対して貢献したい」という気持ちが強まるため、離職の意思も薄くなるのが特徴です。そのため、従業員のワークエンゲージメントを高めることによって、定着率の向上も期待できます。
ワークエンゲージメントに影響を与える要因は、大きく「仕事の資源」「個人の資源」の2つといわれています。従業員のワークエンゲージメントを高めるためには、2つの資源をどちらも充実させることがポイントです。
本章では、ワークエンゲージメントを高めるうえで欠かせない2つの資源とその内容について解説します。
まず「仕事の資源」とは、企業や上司からの積極的な働きかけのことを指します。
具体的には、上司によるフィードバックやコーチング、仕事における裁量の付与、キャリア開発につながる機会の提供、正当な人事評価などが好例です。こうした仕事の資源が豊富な環境ほど、人材のワークエンゲージメントが高まる傾向にあります。そのため、従業員のワークエンゲージメントを高めるには、職場環境や人事制度を改善し、従業員の頑張りに対して最大限に報いることがひとつの有効なアプローチと言えるでしょう。
「個人の資源(心理的資本)」とは、人材本人のポジティブな心理状態のことを指します。
具体的には、自己効力感や楽観性、レジリエンス(困難から回復する力)、将来に対する希望などが挙げられます。こうした「個人の資源」を養うことによって、本人のワークエンゲージメントを高めることが可能です。そのため、従業員のワークエンゲージメントを向上させるには、普段から一人ひとりの内面をケアして、自己肯定感を高めてあげることも有効と言えるでしょう。
従業員のワークエンゲージメントを高めるために、企業は具体的にどのような手法を実践すればいいのでしょうか。本章では、従業員のワークエンゲージメントを高めるための具体的な方法・施策について解説します。
人事評価に関する公平性が保たれており、成果・能力に見合った報酬を得られる職場ほど、ワークエンゲージメントが高いという特徴があります。そのため、公平な人事評価制度になるよう改善することも重要な施策です。また、管理職や経営層など、評価者側のスキルによって、部下側の評価の受け止め方も変わってきます。そのため、マネジメント力向上研修や評価面談研修のような場を設け、上司側の評価スキルを上げることも有効です。
※人事評価制度の改善方法について詳しく知りたい方は、『人事評価への不満にどう対処すべき?評価制度の見直し方法・ポイントを解説!』の記事もあわせてご覧ください。
フィードバックの機会が多いほど、従業員が成長実感を得られるため、ワークエンゲージメントも高まる傾向にあります。そのため、上司側が意識的にフィードバックの機会を増やすことも、効果的と言えるでしょう。例えば、1on1ミーティングのように定期的なコミュニケーションの場を設けるのも一案です。また、若手人材に対してはメンター制度を設けて、教育係や指導役を配置するのも有効と言えます。普段から周囲が積極的に働きかけ、従業員の自己肯定感や有能感を高めてあげることで、仕事へのモチベーション向上も期待できるでしょう。
※フィードバックの手法について詳しく知りたい方は、『フィードバックの意味・やり方を分かりやすく解説!効果を出すコツとは?』の記事もあわせてご覧ください。
キャリアの展望が明確で、将来に向けて身につけるべき能力が分かっている人材ほど、ワークエンゲージメントが高い傾向にあります。そのため、日常業務とは別に、定期的にキャリアについて考える機会を設けることも重要です。一例として、キャリアデザイン研修が挙げられます。キャリアデザイン研修とは、これまでのキャリアを振り返り、自分の強みや組織内での役割を理解したうえで、新たなキャリアを設計できる場のことです。キャリアデザインの機会を増やすことで、従業員が将来に対して希望を持てるようになり、意欲向上につながります。
※キャリアデザイン研修の進め方について詳しく知りたい方は、お役立ち資料『社員の"キャリア不安"に効くキャリアデザイン研修の重要性と正しい進め方とは?』もあわせてご覧ください。
ジョブ・クラフティングとは、日々の仕事でやりがいを感じられるように、仕事に対する考え方や向き合い方を自己変革することです。例えば、「上司に対して自分からアドバイスを求める(人間関係クラフティング)」、「目標を高くして充実感を高める(作業クラフティング)」、「仕事の社会的な意義について考える(認知クラフティング)」などの取り組みが挙げられます。こうした些細な変化がきっかけとなり、従業員は仕事の面白みに気づけるようになり、ワークエンゲージメントの向上へとつながっていくのです。企業としてはジョブ・クラフティングの意義や有効性、取り組みの例などを研修で伝え、一人ひとりの行動変革を支援することが大切でしょう。
従業員のワークエンゲージメントを高めることで、一人ひとりのパフォーマンスを最大化させ、事業全体の成長につなげられます。人事制度を見直すのはもちろんのこと、キャリアデザインの機会を設けたり、上司のフィードバックスキルを高めたりすることで、従業員一人ひとりの自己肯定感・有能感を育み、ワークエンゲージメントの向上を図ることが大切です。
ライトマネジメントでは、本人向けの「キャリアデザイン研修」や管理職向けの「評価面談研修」をはじめ、ワークエンゲージメントを高めるためのサービスを幅広く提供しています。ワークエンゲージメントの向上に課題をお持ちの際には、ぜひマンパワーグループ株式会社ライトマネジメント事業部までご相談ください。