70歳までの雇用確保が企業の努力義務となった今、シニア社員の存在は重要性を増しています。今後さらに少子高齢化が顕著になることを考えると、シニア社員の活躍が組織全体のパフォーマンスを左右するといっても過言ではありません。しかし、役職定年や再雇用などをきっかけに、意欲が低下してしまうシニア社員も多くいます。組織をマネジメントする管理職にとって、部下であるシニア社員の意欲向上は喫緊の課題といえるでしょう。
そこで今回は、シニア社員の意欲低下を解決するために、管理職にできる対策について解説します。また、シニア社員に関する各社の現状や、シニア社員の意欲低下を招く原因も紹介しますので、参考にしてください。
ミドルシニアの意欲低下を解決するには?進めるための具体的なステップを紹介!
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シニア社員の意欲低下に悩む企業は、決して少なくないのが実情です。マンパワーグループが人事担当者を対象にアンケート(※1)を実施したところ、「55歳以上の社員に対する課題は何か」という質問に対し、最も多かった回答は「仕事へのモチベーションが上がらない/低下している」(17.3%)でした。
また、経団連が会員企業向けに実施したアンケート調査(※2)によれば、高齢社員(60~64歳)のモチベーションに関する課題について、「大いに感じている」という回答が22.5%、「やや感じている」という回答が56.1%となっています。合計すると約8割もの企業が、シニア社員の意欲低下について危機感を抱いている状況です。
こうした現状からも、シニア社員の意欲向上は企業活動における重点課題のひとつになっていることが分かります。
※1:55歳以上の社員における最大の課題は「モチベーション低下」人事担当者に聞いた課題と対策とは|マンパワーグループ
※2:2022年人事・労務に関する トップ・マネジメント調査結果|一般社団法人 日本経済団体連合会(PDF)
シニア社員の意欲低下を放置してしまうと、組織全体へと影響が及びます。
例えば、若手・中堅社員がシニア社員の消極的な様子を見て、「自分もこの会社にいたら同じようになるのだろうか」と不安に感じ、士気が下がってしまう事態が考えられます。加えて、シニア社員が周囲のメンバーと深く関わろうとしなければ、本来伝承されるはずだったスキルやノウハウが共有されなくなってしまうのも問題です。
また、当然ながらシニア社員本人にとっても、自身の意欲が上がらないことは大きなストレスです。意欲低下の原因や解決策が分からないまま悩んでしまい、不本意ながら退職という道を選んでしまうケースもあります。
シニア社員は、本来豊富な経験・スキルを備えた即戦力人材です。逆に、シニア社員を活性化させることができれば、貴重な能力を発揮してもらえるため、組織にとってこれ以上ない好影響が見込めます。だからこそ、シニア社員をマネジメントする管理職にとって、シニア社員の意欲向上は重要度の高い課題なのです。組織のパフォーマンスや士気を高めるためにも、シニア社員の意欲が下がる原因を知り、十分な対策を施す必要があるでしょう。
そもそもシニア社員は、なぜ意欲が下がってしまうのでしょうか。
本章では、シニア社員の意欲が低下してしまう原因について解説します。
役職定年をきっかけに、仕事に対して後ろ向きになってしまうシニア社員は少なくありません。役職定年を迎えると、シニア社員は部長や課長などの肩書を失い、任される業務量も減ることになります。組織の中核ポストから離れることで、周囲から相談される機会も減り、組織での関係性が希薄になってしまいがちです。結果として、「自分は企業から期待されていない」「周囲から必要とされていない」と思い込み、疎外感を覚えてしまいます。このように自身の役割が見えなくなってしまうことで、目標意識を失い、意欲が低下するケースもあるのです。
※役職定年制について詳しく知りたい方は、『役職定年制の実態とは?役職定年後の社員を活性化させる"7つ"の方法』の記事もご覧ください。
近年はVUCA時代ともいわれ、社会の先読みが難しい状況です。そのようななか、自身の担当業務がITツールやAIに置き換えられ、スキルの陳腐化に陥ってしまうシニア社員もいるでしょう。シニア社員は経験が長いからこそ、スキルが通用しなくなった際の精神的なダメージも大きくなります。「自分が長年やってきたことは無駄だった」「今さら新しいことを習得しても間に合わない」と感じ、自己有用感や意欲が低下してしまうのです。
近年は少子高齢化で若手人材が不足し、70歳までの雇用確保が企業の努力義務となりました。仮にシニア社員が現在55歳だとすると、70歳まであと15年間もの在職期間があります。さらに最近は健康寿命が延びていることから、人生100年時代ともいわれるようになりました。シニア社員のなかには、現役期間が今までより延びたことに対し、ネガティブに捉える人もいます。「定年以降も働き続ける気力がない」「キャリアの見通しが立たないなか働くのは苦痛」など、将来への漠然とした不安から意欲減退へとつながってしまう場合もあるでしょう。
シニア社員の意欲低下は、目標意識の喪失や自己有用感の低下をはじめ、主に"働きがい"の低下に起因しています。そのため、単純に「給与の金額を上げる」といった外発的動機づけだけで解決できるものではありません。
そこで重要な考え方が、「トータルリワード」です。トータルリワードとは、対人関係や成長機会の充実、金銭面も含めた総合的な報酬で人材の意欲を引き出そうという考え方です。
トータルリワードの報酬は、大きく4つに分類されます。
こうしたさまざまな金銭的・非金銭的報酬がきっかけとなり、シニア社員は目標意識や自己有用感を取り戻し、働きがいを感じられるようになります。特に非金銭的報酬は内発的動機づけと関連しており、外発的動機づけと比べて長期的な意欲の維持につながりやすいのが特徴です。管理職がシニア社員の意欲を継続的に高めるためには、日々のコミュニケーションのなかで、積極的にトータルリワードを実践することがカギと言えるでしょう。
※内発的動機づけについて詳しく知りたい方は、『内発的動機づけはなぜ必要?専門家に聞く「社員の仕事満足度を高める方法」とは?』の記事もご覧ください。
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シニア社員の意欲を高めるには、管理職がトータルリワードや内発的動機づけを意識したうえで、本人との日々のコミュニケーションを変えていくことが大切です。本章では、管理職ができる主な対策について解説します。
シニア社員の意欲を高めるには、本人に役割意識を芽生えさせることも重要です。そのため、日々のやりとりのなかで、本人へ積極的に役割と要望を伝えるようにしましょう。例えば、面談時に「Aさんには組織内でノウハウの共有と伝承を担ってほしい」といった明確な役割を伝えるのも一案です。また、業務のなかで「Aさんの意見をぜひ聞かせてほしいのですが」のように、積極的に要望を出すこともポイントと言えます。シニア社員側も「周囲から頼られ必要とされている」「組織に居場所がある」と感じられ、業務に対する意欲も高まるでしょう。
単純にシニア社員とのコミュニケーション頻度を増やすことは、本人の疎外感を和らげるきっかけになります。そのため、1on1ミーティングを定期的に実施し、相互理解を深めることも有効です。1on1ミーティングを実施する際は、まず管理職側の自己開示から始めることもポイントと言えます。自分の弱みや価値観も率直に伝えることで心理的な距離が縮まり、ベテラン社員側からの自発的なコミュニケーションを促しやすくなるでしょう。
※1on1ミーティングについて詳しく知りたい方は、『1on1ミーティングで何を話すべき?効果を高めるためのテーマ・ポイントを解説!』の記事もご覧ください。
シニア社員の意欲を高めるには、本人の自己有用感を高めることも大切です。その点、できるだけ本人の強みに応じた業務を割り当てることも有効な方法と言えます。業務を割り振る際にも、「Aさんの高い折衝力と提案力を見込んで、この業務をお任せしたいと考えています」と、管理職が割り当ての理由を明確に伝えることも重要です。本人が強みを発揮しやすい業務内容であれば、やりがいを感じやすくなり、意欲の向上が期待できます。
管理職のなかには、シニア社員に気を使ってしまい、フィードバックを避ける人もいます。しかし、シニア社員に成長実感を味わってもらい、意欲を高めるためには、フィードバックの機会を積極的に設けることが重要です。
例えば、「Aさんのおかげでメンバー全員が助かっています」のように称賛の言葉をかけることで、本人の自信回復につながります。また、「Aさんは○○な傾向があるように感じますが、いかがですか」のように、改善点やネガティブな要素も丁寧に伝えることで、成長機会を提供できるでしょう。また、フィードバックの際はシニア社員への敬意を忘れず、言葉遣いや態度で誠意を示すことも肝心です。その結果、「本気で向き合いたい」という管理職側の姿勢がシニア社員にも伝わりやすくなり、本人のモチベーション向上につながりやすくなります。
※フィードバックの手法について詳しく知りたい方は、『フィードバックの意味・やり方を分かりやすく解説!効果を出すコツとは?』の記事もご覧ください。
シニア社員の役割意識や自己有用感を醸成するという意味では、ナレッジ共有の場を設けることも有効です。例えば、勉強会を部署内で開き、シニア社員にノウハウを共有してもらうのも一案です。シニア社員から伝承されたスキルや知識については、管理職やチーム内のメンバーが積極的に業務で実践するよう心がけます。結果としてベテラン社員は「自分の経験が誰かの役に立っている」と強く実感でき、意欲も高まりやすくなるでしょう。
シニア社員にとって、「周囲から必要とされている」という実感はモチベーションの源泉になります。そのため、管理職は日々シニア社員に対して期待を伝えたり、チャレンジを称賛したりと前向きなコミュニケーションを取ることが大切です。働きがいの湧くような環境づくりが、シニア社員の意欲を高める大きなカギになるでしょう。
また、シニア社員本人に対してキャリアデザイン研修のような機会を用意し、自身の役割や働きがいを再発見させることもひとつの対策です。キャリアデザイン研修の実施をご検討の際には、ぜひマンパワーグループ株式会社ライトマネジメント事業部までお気軽にご相談ください。