「テレワークを導入してから、社員の成果にバラつきが出始めた」
「先の読めない社会情勢のなか、社員のモチベーションも下がっている気がする」
このように、人材マネジメントの"新たな課題"にお悩みの方も多いのではないでしょうか。New Normal時代を迎えた今、人材マネジメントではいかに社員に自律的な行動・成長を促せるかがポイントとなっています。
そこで今回は、株式会社サイバーエージェントで常務執行役員CHOを務める曽山哲人氏に、「主体的な社員を育てる秘策」についてお聞きしました。本稿は「人材マネジメントの基本」や「日本型雇用の課題」から分かりやすく解説する【特別版】でお届けします。
人材マネジメントとは、経営戦略の実現に向けて人材を活用する仕組みのことです。具体的には、人材の採用から育成、評価、昇格、処遇、配置、休職、退出といった人事領域の取り組みを指します。人材マネジメントを適切に行うことで、人材のパフォーマンスを最大限に向上させ、企業としての競争力を高めることが可能です。人材マネジメントを企業理念やビジョンと連動させることで、企業独自の強みを形成することもできるでしょう。
人材マネジメントは、どのような目的で行われるのでしょうか。ここでは大きく3つの目的を紹介します。
ひとつは、優秀な人材を確保し、定着させることです。例えば、新卒採用や中途採用の仕組みを整えることで、外部から優秀な人材の獲得につなげられます。また評価制度や処遇・福利厚生を改善することで、社員一人ひとりのエンゲージメント(企業への愛着や思い入れ)を向上させ、定着率を伸ばすことも可能になるでしょう。
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限られた人材リソースを有効活用することも、人材マネジメントの目的です。例えば、研修やOJTなどの育成手法を充実させることで、社員のパフォーマンスを最大化させることができます。また、人材一人ひとりの能力を見極め、適材適所の人員配置を行うことで、組織としての生産性を向上させることも可能になるでしょう。
人材マネジメントの最終的な目的は、経営戦略の実現にあります。例えば、採用活動によって理念に合致する人材を獲得したり、人材育成によって経営戦略に必要な人材を養成したりすることが可能です。このように人材マネジメントを通じて経営戦略を実現し続けることで、企業として持続的に成長することができるでしょう。
人材マネジメントは国によって特色があり、日本では「終身雇用」や「年功序列」に代表される手法が慣例となってきました。ここでは、そんな「日本型人材マネジメント」の特徴を「雇用・評価・育成・総合」という4つの側面に分け、欧米型の人材マネジメントと比較しながら紹介します。
まず雇用においては、卒業予定の学生を年度ごとに一括で採用する「新卒一括採用」が主流です。一度に大量採用を行うことで、採用コストの削減や安定的な雇用を図りやすいことが大きなメリットだと言えます。また、業績悪化による廃業・倒産がない限り、人材を定年まで雇用しつづける「終身雇用制度」も特徴のひとつです。メリットとしては、社員の帰属意識を醸成しやすく、長期間かけて人材育成に取り組めることが挙げられます。
一方の欧米型人材マネジメントは、新卒採用と中途採用を現場のニーズに合わせて使い分けるのが特徴です。採用においては「ジョブ型雇用」が一般的で、職務記述書で具体的な職務・労働時間・勤務地などを規定したうえで採用します。転職・再就職が当たり前な欧米だからこそ、こうした柔軟な雇用制度が主流だと言えるでしょう。
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評価・報酬制度に関しては「年功序列型」が一般的で、年齢や年次によって給与や役職が上がっていきます。年功序列は人事評価をスムーズに行いやすく、人材の定着率向上につなげやすいのがメリットと言えるでしょう。
一方の欧米型人材マネジメントでは、成果主義の傾向が強く、貢献度に応じて評価が変わります。年齢や年次にかかわらず成果に応じて報酬や評価が上がっていくため、人材のモチベーションを高めやすいのが特徴です。
人材育成については、企業主導によって一律の教育が行われることが一般的です。新卒採用の社員をさまざまな部署へジョブローテーションさせ、OJTによって幅広い経験を積ませることで、ジェネラリストを育成します。
一方の欧米型人材マネジメントでは、キャリア開発の主導権を持つのは人材自身です。ジョブ型雇用では専門性が問われるため、人材自ら専門的な知識・スキルを身につけ、スペシャリストとして市場価値を高めます。
総合的に言うと、日本型人材マネジメントは「人が辞めない」という前提で設計されています。一度雇用した人材は手厚く扱い、長期的に活用するのが特徴です。「人材を安定的に確保できる」「時間をかけて育成できる」というメリットがある一方、「スペシャリストが育ちにくい」「人件費が高騰しがち」というデメリットもあります。
欧米型人材マネジメントの場合は、人材の転職・再就職によって「人が辞める」前提の制度設計です。「企業の状況に合わせて柔軟に人材を確保できる」「人材の専門性・多様性を育みやすい」というメリットがありつつも、「優秀な人材の確保にコストがかかる」「組織としての一体感が醸成されにくい」というデメリットもあります。
「終身雇用の維持は難しい」という経団連会長の発言(※)に見られるように、最近では日本型人材マネジメントの課題が浮き彫りとなっています。ここでは、日本型人材マネジメントが抱える4つの課題を紹介します。
社会全体の少子高齢化に伴い、企業内の人員構成も高齢化が進んでいる状況です。特に日本型人材マネジメントの場合は終身雇用・年功序列を前提としているため、社内の高齢化によって人件費の高騰が起こってしまいます。
また、社内のポストに限りがあるなかで人材の高齢化が進むと、キャリアが停滞してしまうミドル層も出てきます。最近では、報酬と成果が釣り合わないミドル層を「働かないおじさん」と呼ぶケースも出てきました。長期雇用を前提とした日本型人材マネジメントのもとで、中高年層の不活性化が進んでしまっているのが現状です。
企業の国際競争が激化し、技術革新のスピードが高まる今、将来についての不確実性が年々高まっています。ただ、そもそも終身雇用や年功序列の制度は右肩上がりの経済成長を前提としたものでした。安定した事業成長が見込めない今、従来の制度を維持しようとすると、人件費が重くのしかかってしまう企業も少なくありません。
日本型人材マネジメントの特徴は、企業主導による人材育成や人員配置です。ただ、昨今はワーク・ライフ・バランスの浸透やリモートワークの導入、フレックスタイム制度の採用、副業の解禁などにより、働き方が多様化しています。人材一人ひとりによって仕事の価値観が異なる今、一律でのマネジメントが難しい状況です。そのため、企業が主体になるのではなく、それぞれの人材が主体となってキャリア開発できる体制が求められています。
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日本では、人件費の削減や業務の効率化を図るため、非正規雇用労働者の活用が進んでいます。実際、昭和60年と令和元年を比べると、日本における非正規雇用比率の割合は男性が15.4%、女性が23.9%も増加しています(※)。ただ、正規社員と非正規社員では、エンゲージメントの度合いやキャリアに対する考え方も同じではありません。そのため、企業主導による一律のマネジメント方式では、効果的な人材活用が難しくなっています。
人材マネジメントの成果をより高めるためには、どのような点を意識すればよいのでしょうか。
ここでは、人材マネジメントを成功させるためのポイントについて解説します。
人材マネジメントのゴールは、経営戦略の実現にあります。そのため、採用・評価・処遇といった各施策は単発で行うのではなく、すべて経営戦略と連動させることが大切です。目的が明確になることで、一つひとつの施策の効果をより高めることができるでしょう。また、「企業としてどんな姿を目指すのか」「そのためにどんな人材を必要とするのか」といった人材マネジメントに関する情報は、社員に共有することも重要です。それによって、社員に経営戦略やビジョンを意識してもらうことができ、自発的な努力・成長を促すことにもつながります。
人材マネジメントの手法は、時代に合わせて変化します。実際、少子高齢化や価値観の多様化で日本型人材マネジメントの見直しが進んでいるのが実情です。そのため、外部環境の変化に合わせて柔軟にマネジメント手法を見直す必要があります。また、ジョブ型雇用のような新しい手法を取り入れる際には、一度自社の現状を深く分析することが大切です。というのも、広く流通している制度だからという理由で導入すると、自社の経営状況に合わず失敗する可能性もあります。各手法の長短を理解し、自社に最適なものを選ぶ姿勢が求められるでしょう。
企業主導による一律のキャリア開発は、難しい状況になってきています。そのため、キャリア開発の主導権を各人材に委譲することで、自発的な成長を促すことも大切です。ちなみに自身の役割を理解し、自律的に行動できる人材を自律型人材と言います。自律型人材が増えることで、おのおのが成果に向かって努力できるようになるため、企業としての競争力も高められるでしょう。また自律型人材は、時代の変化に合わせて柔軟に成長できるという特徴があります。そのため、たとえ外部環境が変化しても、企業として安定して業績を伸ばすことが可能です。
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それでは、主体的な人材を育てるためには、どのような施策を行えばよいのでしょうか。
ここからは、株式会社サイバーエージェント 常務執行役員CHO・曽山哲人氏による特別セミナー『社員が主体的に動く5つの秘策』(※)およびトークセッションの内容をもとに、「主体的な人材を育てるポイント」について解説します。
※2021年2月に開催されたウェビナー『【タナケン×ソヤマン特別セッション】自律型組織に向けたCX(キャリア・トランスフォーメーション)の勧め』の第一部として公開された内容です。
社員の主体性を高めるためには、本人に明確な個人目標を立ててもらうことが大切です。ただ、物理的に離れているリモートワークでは他の人の様子が見えづらく、個人目標だけではおのおのが自分の目標を達成して終わりになってしまいます。一人ひとりのパフォーマンスをより高めるには、「組織目標」も合わせて設定し、社員に浸透させることが大切です。組織目標があることで、社員の「組織に貢献したい」という想いに火をつけることができ、プラスアルファの主体的な働きや成果を期待できます。
人を動かすためには、短くてインパクトのある「刺さる言葉」を開発することが重要です。例えば、サイバーエージェントでは、「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンを掲げています。これにより、会社の目指す方向や価値観が明らかになり、社員の主体性向上にもつながっています。リモートワークの導入によって、コミュニケーションの時間が減り、画面越しの限られた情報量しか得られない今の状況だからこそ、より短時間で伝わる言葉の重要性が増しているのです。
リモートワークでは、上司が部下の状況を把握しづらいため、新人に仕事を任せるのが不安になるケースも増えています。その結果、実力や信頼のある人材だけが仕事を任されがちです。ただ、それでは若手や新人の抜擢機会が減ってしまい、成長の鈍化につながりかねません。ハードルが高いように見えますが、まずは「期待をかけること」が抜擢です。小さな業務から任せて徐々に経験を積ませることで、主要ポジションへの抜擢につながり、社員の主体性や能力を磨いていくことができるでしょう。
部下に仕事を任せる際には、あえて失敗を許容してあげることも重要です。というのも、新しいことに挑戦するときは、誰でも失敗がつきものです。「失敗から学ぶ」という経験の繰り返しによって、人は成長します。そのため、管理職が部下の失敗を見据えて、先にセーフティネットを張っておくことが大切です。失敗しても問題ない環境があれば、部下としてもチャレンジングな業務に取り組みやすく、主体性も育まれやすいでしょう。
上司があれこれ指示を出してしまうと、部下の主体性は高まりません。そのため、できるだけ部下に「言わせる」工夫をすることが大切です。例えば、業務の目標や進め方、キャリアの方向性についてできるだけ本人の考えを尊重します。本人の言葉を引き出したうえで、上司として「やってみよう」と背中を押すことが重要なのです。部下の意思を知るためには、日ごろから1on1コミュニケーションのような場を設けることも効果的です。
部下を変えるためには、まず指導者となる管理職本人の変革も必要です。なかには「自分のやり方が正しい」と信じている管理職もいますが、そのような人ほど変革が求められます。例えば、管理職向けの研修に参加し、コーチングやフィードバックのスキルを身につけるのもひとつの方法です。実際に曽山氏自身も営業マネージャー時代に、コーチングの研修を受けたことで意識が変わり、チーム全体の成果が上がるようになりました。
社員の主体性が高まらない原因のひとつは、社員が"仕事の意義"に気づけていないことです。「自分がどんな役割を期待されているのか」「仕事を通じてどんな貢献ができるのか」に一人ひとりが気づければ、自然と仕事にも前向きになれるでしょう。ちなみにサイバーエージェントでは、部下に自分の「情熱のありか」に気づいてもらうため、目標設定の際に「P&P(ピーアンドピー)」と呼ばれる効果的なフレームワークを活用しています。「P&P」とは......
※この続きは、ぜひウェビナー動画(無料)をご覧ください。
人材マネジメントの手法は、企業ごとに異なります。まずは自社の現状や経営課題を見極めたうえで、施策を考えることが大切です。その際、採用や人材育成の専門家からアドバイスを受けることで、効果的な施策を展開できるケースも少なくありません。当社では人事制度の設計から人材育成の各種研修まで提供し、人材マネジメントのトータルな支援を行っています。人材マネジメントの改善をご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。