先の読めない社会情勢のなか、注目を集めているのが「自律型人材」です。自律型人材とは、主体的に成長して成果を出せる人材のことを言います。実際のところ、自律型人材はどのように育成すればよいのでしょうか。
そこで今回は、キャリア研究の第一人者である田中研之輔教授(法政大学キャリアデザイン学部)に、社員のキャリア自律を実現する新しい手法「CX(キャリア・トランスフォーメーション)」について詳しくお話を聞きました。田中教授いわく、自律型人材を育てるには、組織内の"閉鎖的なキャリア"を脱却することがカギなのだそうですが――(詳しくは後半へ)。
本稿では【特別版】として、「そもそも自律型人材とは?」「自律型人材を育てるメリットとは?」という基本的な内容から分かりやすく解説します。
そもそも「自律」という言葉には、「自分の価値観や規範に沿って行動できる」という意味があります。つまり、自律型人材とは、周囲から細かく指示を受けなくても、自ら判断して行動できる人材のことです。経済・社会が激しい変化にさらされている今、経営者が判断に迷うことも少なくありません。ただ、自律型人材の多い企業であれば、人材一人ひとりが変化に対して柔軟に対応できるため、安定して成果を出せるようになるのです。
自律型人材には、具体的にどのような特徴があるのでしょうか。ここでは、大きく3つの特徴を紹介します。
ひとつは、スピーディーに意思決定できることです。目標を達成するために必要なことを自ら考え、迅速に行動へ移せます。強い決断力があるため、周囲を巻き込みながらプロジェクトを成功に導きやすいのが特徴です。決断力のある人材はリーダーシップも発揮しやすいため、管理職になっても周囲からの信頼を集めやすいでしょう。
責任感の強さも、自律型人材の特徴です。というのも、自律型人材は自分の中の確固たる信念や価値観に沿って行動できるからです。つまり、自分で決めた行動だからこそ、最後まで責任を持ってやり抜くことができるのです。目標を達成するまで粘り強く取り組めるため、プロジェクトのリーダーとしても心強い存在になれるでしょう。
自律型人材は、一見すると「自由気ままに行動してしまう人」ともとらえられがちですが、そうではありません。自律型人材の大きな特徴は、周囲からの期待・役割を理解したうえで行動できる点です。経営戦略や組織目標を達成するために、個人として自分がすべきことを考え、期待を果たすために努力できます。自分の仕事にどんな意義があるかを十分に理解しているため、高いモチベーションで業務に取り組めるのも特徴と言えるでしょう。
なぜ今、自律型人材が求められているのでしょうか。ここでは、自律型人材が必要とされる理由を紹介します。
国際競争の激化や消費者ニーズの多様化など、社会は目まぐるしく変化しています。特にAI・IoTといった最新テクノロジーの進化は目覚ましく、スキルの陳腐化も起こりやすいのが現状です。人材には、時代に応じた専門的な知識・スキルの習得が求められています。こうした状況では、従来のように企業が一律の人材育成を行っていても、変化に対応できないでしょう。そこで注目を集めているのが、自律型人材です。自律型人材であれば、会社から指示を受けなくても、世の中で必要とされる知識・スキルを理解して自ら習得することができます。結果として、企業としても外部環境の変化に柔軟に対応できるようになり、安定した成果を挙げやすいのです。
自律型人材が求められる背景には、仕事に対する価値観の多様化もあります。というのも、最近では副業の解禁をはじめ、労働環境が日々変化している状況です。それに伴い、「ワーク・ライフ・バランスを大事にしたい」「社会貢献できる仕事がしたい」など、社員の労働観も多様化しています。そのため、企業が主導で社員のキャリアを決めるのは容易ではありません。その点、自律型人材であれば、自分の価値観に合わせて最適なキャリアを構築できます。結果として、企業としても多様な価値観に対応しやすくなるのです。
New Normal時代において、企業に求められる変化は決して少なくありません。例えば、新型コロナウイルスの流行をきっかけに、各社でリモートワークの導入が進んでいます。ただ、リモートワークではコミュニケーションの機会が大幅に減るため、上司が部下の業務進捗やスケジュールを管理しにくいのが実情です。その点、自律型人材の多い職場であれば、上司から細かく指示を出さなくても部下一人ひとりに自律的に働いてもらえます。結果として、社員のパフォーマンスが下がる心配もなく、組織として高い成果を維持できるようになるのです。
自律型人材を育成することで、企業にどんな利点があるのでしょうか。大きく3つのメリットを紹介します。
自律型人材は上司から細かく指示を受けなくても、自分で判断して業務に取り組めるのが特徴です。つまり、その分管理職の負担も軽減されます。管理職としては、空いた時間でその他の新しい業務に取り組むことも可能です。このようにそれぞれが効率良く成果を出せるようになるため、組織としての生産性も非常に高くなります。
自律型人材は、自分の価値観に基づいてアイデアを考え、周囲へ積極的に発信できるのが特徴です。そのため、組織全体としてオリジナリティのあるアイデアが生まれやすくなり、意見交換が活発に行われやすくなります。結果として、自分たちで組織内の課題解決を図ったり、新規事業を生み出したりすることも可能になるでしょう。
自律型人材が増えることで、企業として働き方の多様化に対応しやすくなるのもメリットです。例えば、テレワークでは社員一人ひとりに自律的に働いてもらえるため、管理職の負担や不安も軽減できます。また、時短勤務やフレックスタイムなどの柔軟な勤務制度を導入したとしても、社員にスムーズに順応してもらえるでしょう。
自律型人材を育成するには、どのような方法があるのでしょうか。
ここでは、自律型人材を育てる際のポイントについて紹介します。
ひと言で「自律型人材」と言っても、企業によって経営戦略は異なるため、理想の人材像もさまざまです。そのため、まずは自社にとって必要な自律型人材とはどのような人材なのか、定義することから始めましょう。その際、「スキル」「マインド」という両面から規定することで、より具体的な人材像を設定しやすくなります。経営者・現場間で認識のズレがないように、経営層と管理職クラスで細かく定義をすり合わせることも重要です。
また、自律型人材の理想像について定めたら、それを社内に向けて広報することも大切です。必要とされる人物像が明らかになることで、社員にもより具体的な努力を促せるようになります。ちなみにこうした情報はトップである経営者自ら発信することで、社員にもより強力なメッセージとして伝えることができるでしょう。
社員の自律性を育むためには、積極的に社員へ期待をかけることが大切です。例えば、あえて若手にプロジェクトの責任者を任せたり、よりレベルの高い業務を割り振ったりと「挑戦」の場を与えるようにしましょう。部下に経験を重ねさせることで、能力や自信をつけさせることができます。また、チャレンジングな業務を社員に任せる際には、管理職がある程度の失敗を許容してあげることも重要です。失敗を恐れず挑戦できる環境の方が、部下にも思い切って業務に取り組んでもらいやすくなり、より良質な経験を積んでもらうことができるでしょう。
自律型人材が高く評価されるような人事制度を、あらためて設計することも重要です。例えば、「外部の研修に参加して自己研さんに励む」「高い目標に挑戦する」といった行動は称賛し、人事評価で加点することもひとつの方法でしょう。また、非金銭的なインセンティブを活用することで、社員のモチベーションも高められます。例えば、自律型人材として模範的な活躍をした社員を、全社集会で表彰するという取り組みも効果的でしょう。人事評価制度を見直すポイントは「人事評価への不満にどう対処すべき?評価制度の見直し方法・ポイントを解説!」をご一読ください。
そして、社員の自律性を伸ばすためには、本人の意思が尊重されるような柔軟な異動制度も必要です。例えば、社内公募制度や社内FA制度、社内留学制度など、社員が自らキャリアを選択できるような制度があると望ましいでしょう。社内に幅広いキャリアの選択肢を設けておくことで、社員の離職防止にも効果が期待できます。
社内コミュニケーションの場を積極的に設け、社員に「考えさせる」機会を提供することも大切です。例えば、上司と部下が定期的に「1on1ミーティング」を行い、業務における課題を一緒に振り返るのもひとつの方法でしょう。この際、上司が安易にアドバイスをせず、「このときはどうすればよかったと思う?」といった問いを部下に投げかけることも重要です。「自分で答えを考えさせる」→「フィードバックを受けてもらう」→「次回に活かしてもらう」という繰り返しで部下の判断軸が養われ、徐々に自律的な行動を促せるようになるでしょう。その他の1on1ミーティングの効果を高めるためのポイントは「1on1ミーティングで何を話すべき?効果を高めるためのテーマ・ポイントを解説!」をご覧ください
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自律型人材を育てるためには、社員の自己研さんを支援することも大切です。例えば、社外研修への参加費や関連書籍の購入費を会社が支給したり、自己啓発に利用可能な休暇制度を設けたりするのもひとつの方法でしょう。また、社員に進路や能力開発についていつでも相談してもらえるよう、キャリアに関する相談窓口を設けるのも効果的です。さらに、社員の自主的な勉強会に対して、費用を支給するという支援方法もあります。このように学びのための時間・プラットフォームを提供することで、社員の能力開発に対するやる気も高められるでしょう。
「自律型人材を育成するためには、キャリア・トランスフォーメーション(CX)が不可欠である――」
そう説くのは、キャリア開発の第一人者である田中研之輔教授(法政大学キャリアデザイン学部・博士)です。さて、キャリア・トランスフォーメーションとは一体何なのでしょうか。また、自律型人材を育てるにはどんな手法があるのでしょうか。今回は田中教授の特別セミナー『CX(キャリア・トランスフォーメーション)の重要性』(※)より、次世代の自律型キャリアである「プロティアン・キャリア」の実現方法について解説します。
※2021年2月に開催されたウェビナー『【タナケン×ソヤマン特別セッション】自律型組織に向けたCX(キャリア・トランスフォーメーション)の勧め』の第二部として公開された内容です。
キャリア・トランスフォーメーション(CX)とは、デジタル・トランスフォーメーション(DX)に着想を得た言葉で、キャリアにおける枠組みの変革を意味します。これまで日本では、新卒一括採用・終身雇用を前提として、組織内での異動・昇格という閉鎖的なキャリア開発が行われてきました。ただ、ミドルシニア層が組織内のキャリアに依存してしまったり、ポストオフ(役職定年)後にモチベーションを大きく低下させたりと多くの課題を抱えていたのも事実です。しかも最近では、先の読めない社会情勢によって、終身雇用という大前提も崩れつつあります。
そこで田中教授は「組織内キャリアを脱し、自律型キャリアへ移行せよ」と提言します。会社主導ではなく、人材一人ひとりが自律的にキャリアを選択することの重要性を訴えているのです。この「組織内キャリアからの脱却」「キャリアのオーナーシップを人材へ移行させること」こそ、キャリア・トランスフォーメーションであり、今の日本に求められるキャリア開発の命題とも言えるでしょう。ちなみに、キャリア・トランスフォーメーションによって実現される"自律型"のキャリアモデルを、田中教授は「プロティアン・キャリア」と呼称しています。プロティアン・キャリアについては「「プロティアン・キャリア」は社員のキャリア不安に効く処方箋」で詳しく解説しています。
プロティアン・キャリアとは、「変幻自在のキャリア」の意味であり、ギリシャ神話に登場する変幻自在の神「プロティウス」に由来しています。具体的にどのようなキャリアモデルなのか、ここでは4つの特徴を紹介します。
ひとつは、社会や経済の変化へ柔軟に対応できることです。プロティアン人材(プロティアン・キャリアを身につけた人材)は、自ら必要な学習を行い、自分を外部環境の変化に適応させることができます。また、異動・昇格といった組織内のキャリアにとらわれず、社外も見据えて自分に合うキャリアを選択することが可能です。
人材が自分の働く「動機」や「理由」を理解していることも、プロティアン・キャリアの特徴です。例えば、「今後自分が何をしたいか」「どんなキャリアを積みたいか」「社会にどんなインパクトを与えたいか」などを十分理解しています。こうした深い自己理解があるからこそ、自分に合うキャリアを選択することが可能になるのです。
従来のキャリアであれば、収入や地位などが働く動機となっていました。ですが、プロティアン・キャリアの場合は、心理的な成功を主な目標にします。例えば、「仕事を通じて成長できた」「社会に対して貢献できた」「好きな仕事に夢中になれた」といった満足感を目標にできるため、企業内にとらわれないキャリア構築が可能です。
従来はキャリアと言えば、単純に異動・昇格といった組織内の履歴をイメージすることが一般的でした。ですが、プロティアン・キャリアの場合は、キャリアを「資本の蓄積」と考えます。例えば、スキルや資格、語学、人脈、資産、株式など、培ってきたものすべてをキャリアに上乗せし、自らの市場価値を高めていけるのです。
プロティアン・キャリアを社内で実践し、プロティアン人材を育てるには、どのような方法があるのでしょうか。ここでは、具体的な方法を3つ紹介します。
キャリアに対して受け身の社員は、日々の仕事に「やらされ感」を抱いている可能性があります。そのため、定期的に上司が面談を行い、キャリアの見直し・精査をしてあげることが大切です。「自分が組織に対してすべきこと」を社員に書き出してもらい、より貢献性を感じられるような仕事に取り組んでもらうことも重要でしょう。
人は「フロー状態」と呼ばれる、何かに没頭できる状態を経験することで、成長を実現できます。プロティアン人材を育てるには、社員に日々の仕事でフロー状態を意識させることが大切です。フロー状態に入るためには、人材の能力と業務のレベルが最適なバランスになっている必要があります。能力に見合わない業務に挑戦したり、逆にレベルの低すぎる業務に取り組んだりすると、なかなかフロー状態には入れないので注意が必要でしょう。
業務でスムーズにフロー状態へ入るためには、「学び直しメソッド」を導入することも効果的でしょう。学び直しメソッドとは、「現状を把握する」→「目的を設定する」→「適度な負荷を与える」→「徐々に強度を高める」→「日常的に継続する」を繰り返す学習法です。プロティアン人材を育てるために重要なのは、このメソッドを......
※この続きは、実際のウェビナー動画(無料)をご覧ください
自律型人材を育成するためには、社員に一度自身のキャリアを見つめ直してもらうことが大切です。その際、人材一人ひとりに年代に合わせた「キャリアデザイン研修」を受講してもらうことも有効でしょう。また、効果的な人材育成には、指導する側のスキルも欠かせません。そのため、管理職向けの「コーチング・フィードバック研修」も検討すべきです。当社では、こうした自律型人材の育成に役立つ豊富な研修を提供し、人材育成を支援しています。ぜひ自律型人材の育成に課題を感じた際には、当社までお気軽にお問い合わせください。