企業が成長するためのカギは、組織を管理する「マネージャー」が握っているといっても過言ではありません。では、そもそも「マネジメント」の意味や「マネージャー」の役割とは何なのでしょうか。今回は、マネジメントに関して知っておくべき知識を網羅的に紹介します。マネジメント能力の伸ばし方についても解説していますので、「自らマネジメントに挑戦したい」「経営者としてマネージャーを育てたい」という方も、必見です。
マネジメントとは、組織の目標やビジョンを達成するため、管理や指導を行うことです。マネジメントの役割を実際に担う人のことを、マネージャーと呼びます。そもそもマネジメントという言葉は、オーストリアの経営・社会学者ピーター・ドラッカーによって提唱された言葉です。ドラッカー氏は1973年発表の著書『マネジメント』のなかで、マネジメントという言葉を「組織に成果をあげさせるための道具、機能、機関」と定義づけています。
ここではマネジメントの役割と種類、マネージャーの仕事について、ドラッカー氏の学説を踏まえて紹介します。
◆組織のミッションを達成する
マネジメントで目指すべき最大の目的は、「組織目標の達成」です。企業であれば、業績目標やビジョンの達成が挙げられます。リソースを有効活用し、リスクを管理して、目標の達成を目指すのがマネジメントの役割です。
◆働く人を活かす
組織に在籍する人を活用するのも、マネジメントの役割です。企業でいうなら、従業員が生産性高く働ける環境を整え、なおかつ従業員が仕事を通じて「自己実現」できるよう指導・管理することも大切な使命だといえます。
◆社会に貢献する
ドラッカー氏によれば、企業は社会のためにある存在で、社会貢献が求められるといいます。つまり、企業が本業を通じて社会にとっての利益を生み出せるよう促すことも、マネジメントの重要な役割だといえるでしょう。
◆最高経営者(トップマネジメント)
最高責任者とは、組織において最上部で意志決定を行う存在のことです。企業においては、会長や社長、取締役、専務などが該当します。強力なリーダーシップを発揮し、組織の基本方針や経営計画の立案を行う役割です。
◆中間管理職(ミドルマネジメント)
中間管理職とは、最高経営者と現場のリーダー(監督者)を結ぶ存在のことです。企業においては、支社長や部長などが挙げられます。最高経営者の決定を下層部に伝え、逆に下層部から現場の意見を拾い上げて上層部に伝える役目があります。
◆監督者(ローアーマネジメント)
監督者とは、現場で指揮をとるリーダーのことです。企業においては、チームリーダーや係長、チーフなどが該当します。上層部の意志決定を現場に伝えながら、自らプレイヤーとしても業務を手がけるポジションです。
◆目標の設定
部下の適性を見極め、適切な目標を決めさせるのもマネージャーの仕事です。従業員が目標に向かって業務を行えるよう支援することで、個々のスキルアップを図ることができ、延いては組織全体の成長も促進できます。
◆部下の動機づけ
部下とコミュニケーションをとり、仕事へのやる気をアップさせることも大切です。上司が励ます・褒めるなどの行動をとることで、部下はモチベーションを高め、より高いパフォーマンスをあげることができます。
◆適切な指導
指導とは、部下を育成し、スキルや知識を習得させることです。上司が部下に対して直接ノウハウを伝授することはもちろんですが、一人ひとりが自己研鑽できるよう部下に啓蒙することで、組織全体の能力を伸ばせます。
◆フィードバック
部下の業務や成果を正確に評価し、アドバイスすることも大切な仕事です。フィードバックを通じて、部下に組織内での役割を再認識させることができ、同時にスキルアップやモチベーションの向上も図ることができます。
「フィードバックの意味・やり方を分かりやすく解説!効果を出すコツとは?」をあわせてご覧ください。
続いては、実際にマネジメントを遂行するうえで必要なスキル・能力について、4つのポイントから紹介します。
組織を運営するうえで、課題にぶつかることがあります。その際、現状を冷静に把握し、解決の道筋を示す能力もマネジメントには必須です。また、組織や部下の目標を決めるときも、組織の現状や部下の適性を見極める必要があります。誰もが納得できるようロジカルに仮説を立て、目標を立てられる能力も求められるでしょう。
プロジェクトには、締め切りがつきものです。その際、人・モノ・カネのリソースをうまく運用して、スケジュールどおりに案件を完遂させる能力が必要になります。「誰が・いつまでに・何をすべきか」を計画し、業務を部下へ割り振り、進捗を把握する能力です。マネージャーの指示が的確なら、プロジェクトも円滑に進みます。
問題が起こったとき、マネージャーは組織の責任者として決断をくだす必要があります。マネージャーが迷っていると、部下も不安になってしまうものです。だからこそリーダーシップを活かして、適切に意志決定できる能力も求められるでしょう。部下に対して迅速に指針を示すことで、組織は求心力を失わずに業務を行えます。
部下の適性を見極め、能力を引き出す力も必要になります。具体的には、部下に対して業務上のアドバイスや指導を行う「コーチング」、部下の成果に対して適切な評価をくだす「アセスメント」、部下に評価を伝えて変革を促す「フィードバック」などです。マネージャーの指導によって、組織全体のスキル・意欲を底上げできます。
ちなみに最近では、ハラスメントを意識するあまり、相手にとって望ましくない内容をフィードバックすること(ネガティブフィードバック)に苦手意識をもつマネージャーが増えています。たとえ被評価者にとって好ましくない内容でも、相手の尊厳を損なわないように伝える能力もマネージャーには求められているのです。
ネガティブフィードバックを上手に実践するポイントをこちらのEbookで解説しています。
あわせてご覧ください。
お役立ち資料:現場のパフォーマンスを高めるネガティブフィードバックとは?
労働政策研究・研修機構の調査によれば、企業が管理職の登用・育成に対して感じる問題点は「管理職候補者の能力・資質にムラがある」という回答が最多(全体の49.1%)でした。管理職のマネジメント能力向上は、企業にとって最大の課題のひとつだといえます。それでは、マネジメント能力を実際に伸ばすにはどうしたらよいのでしょうか。能力向上の方法について、まずはマネージャー本人が取り組むべきメソッドから紹介します。
※参考: 平成30年版 労働経済の分析 第3章 働き方の多様化に応じた「きめ細かな雇用管理」の推進に向けて|厚生労働省(PDF)
状況分析・課題解決の能力を身につけるには、さまざま思考法で論理的思考力を鍛えることが大切です。
代表例として、「So What?」が挙げられます。「So What?」とは、手元にある情報に対して「だから何?」と問いかけ続け、結論を導き出す作業です。例えば、「業績が前月から10億円下がった」という事実に対して「So What?(だから何?)」を投げかけて、「人件費が増えている」→「コスト管理を見直さないといけない」、「商品が売れていない」→「競合商品を見直して付加価値をつけるべき」という対策が見えるまで解釈を深めていきます。これによって、事実を単に事実で終わらせず、課題やその解決策を導き出すレッスンになるでしょう。
また、「MECE(ミーシー)」を意識して考えるクセをつけることも有効です。「MECE」とは「重なりがなく、漏れがない」という意味の概念で、情報を分かりやすく分類してまとめるのに役立ちます。例えば、「自社の顧客」を分解すると、「男性・女性」に分けられ、さらに「男性」を分解すると「10代・20代・30代・40代・50代・60代」などと分けられます。こうして物事を細かい要素に分けていくことで、どこに課題が潜んでいるかを突き止めやすくなり、対策も考えやすくなるでしょう。
プロジェクトをスケジュールどおり円滑に進めるには、プロジェクトの関係者が何を考え、どう動いているのかを常に理解できている必要があります。そのうえで有効なのが、「ポジションチェンジ」の考え方です。
ポジションチェンジとは、「相手の立場」「第三者の立場」で物事を考えることです。例えば、部下にスケジュールどおり仕事を完遂してもらうには、「部下」の立場で考える必要があります。「明日の午後には一度上司からチェックバックをもらいたいだろうから、予定を空けておこう」「作業が遅れていることを本人からは言い出しづらいだろうから、上司の自分から確認を入れよう」と、相手の立場・想いを想定して行動するのです。相手は、もちろん部下だけではありません。経営層や発注先の業者、顧客など、プロジェクトに関係するすべての人の立場で考えるクセをつけておけば、プロジェクトをよりスムーズに進められるようになるでしょう。
意志決定力を伸ばすには、物事を判断する明確な軸を持つことが大切です。判断基準を自分のなかに設けるという意味で、「ディズニーストラテジー」という考え方がとても参考になります。
ディズニーストラテジーとは、ビジネスコンサルタントのロバート・ディルツ氏が、ウォルト・ディズニー氏の成功体験を分析して得た考え方です。具体的には、「ドリーマー/夢想家」、「リアリスト/現実家」、「クリティック/批評家」という3つの視点を自分のなかに持ち、意志決定します。ドリーマーはワクワクしながらアイデアを膨らませる役割、リアリストはアイデアに優先順位をつけて現実的な計画を立てる役割、クリティックは一つひとつのアイデア・計画を批判して問題点を洗い出す役割です。この3者を自分のなかで常に意識することで、理想論や思いつきのアイデアだけに偏ることなく、冷静に判断をくだせるようになるでしょう。
マネージャーが判断に迷い、部下が不安になってしまう場面がよく見られます。これを防ぐためにマネージャーが意識すべきは、「完璧を求めすぎないこと」です。時間をじっくりかけて精度100%の決定をするのではなく、70%の勝算があるならそれを実行に移してみることが大切です。そうすれば、考えすぎて手遅れになってしまったという事態も防げます。あくまで精神論ではありますが、参考にしてみてください。
部下を適切に指導し、評価するためには、普段から部下とコミュニケーションをとる場を設けることが大切です。
そのひとつとして、週1回や月2回などの頻度で「1on1ミーティング」を実施することが有効でしょう。「1on1ミーティング」とは、上司と部下がマンツーマンで行うミーティングのことです。部下の抱えている悩みに対して上司が相談に乗り、一緒に解決方法を考える場として、さまざまな企業が取り入れています。ここで普段から部下の話を聞くことで、部下がどんな能力・志向性を持っているのかを分析できます。部下の人となりや適性が分かれば、適切な評価を行ったり、指導方法を考えたりしやすくなるでしょう。1on1ミーティングの効果を高めるためのポイントを詳しく知りたい方は「1on1ミーティングで何を話すべき?効果を高めるためのテーマ・ポイントを解説!」をご覧ください。
また、部下とコミュニケーションをとる際に、相手が緊張して心を開けなくなるケースもあります。その際は、「ペーシング」という手段が効果的です。ペーシングとは、会話のトーンやスピード、言葉の使い方を相手に合わせることをいいます。「相手と同じ言葉を使う」「相手の趣味に関する話題を振る」「話す速度を同じにする」などの工夫を通じて、部下が安心し、気軽に話してくれるようになることも多いです。
マネージャーのマネジメント能力を伸ばすには、本人の自己変革に頼るだけでなく、企業として支援する姿勢も大切です。ここでは、マネージャーの能力を向上させるために、企業が取り組むべき支援方法を紹介します。
マネジメント能力を総合的に伸ばす場として、研修の専門企業が開催する「マネジメント研修」が有効です。マネジメント研修では、マネージャーとしての心構え、労務管理の知識、コーチングのコツなど、幅広いスキルと知識を学べます。また、「現場のリーダー向け」「マネージャー候補の人材向け」「ローパフォーマー(成績の伸び悩む社員)を持つマネージャー向け」など、マネージャーの階層や課題によって研修の内容もさまざまです。研修内容に迷った際は、まずは専門企業に一度相談してみることをおすすめします。
※参考:管理職基礎研修|マンパワーグループ ライトマネジメント
マネジメント能力を伸ばすためには、マネージャー自身が客観的な評価を受け、今足りていない知識・スキルを自覚することが大切です。そこで効果的なのが、部下や同僚がマネージャーに対する評価を行う「360度評価(多面評価)」です。マネージャー本人の自己評価と、周囲からの評価とのズレを明確にすることで、身につけるべき能力も見えてくるでしょう。
ちなみに内閣府のアンケート調査では、こうした多面評価を年に1回のペースで実施する企業が多く、周囲からの評価が低いマネージャーには研修や指導を別途行っている企業もあります。マネージャーに対して評価を行うだけでなく、それに見合った能力開発の手段を提供することも、企業の役割だといえそうです。
※参考:管理職のマネジメント水準を向上させるために必要な支援措置について|内閣府
最近では在宅ワークの普及によって、オンライン・リモートで部下をマネジメントする機会も増えてきました。直接会ってコミュニケーションが取れない分、部署やチームをまとめる難しさを感じる場面も多いかもしれません。そこで、オンライン・リモートでマネジメントを行う際の注意点について、3つのポイントから紹介します。
誰とも会うことなく一人で作業を進めていると、「この仕事は誰かの役に立っているのだろうか?」とふと疑問を覚えてしまうときもあります。仕事の意義が分からなければ、モチベーションも下がってしまうでしょう。そのため、部下に対して仕事を割り振る際には、仕事の意義やチームにおける当人の役割を伝えるとよいです。
また、人は褒められたり何らかの評価をもらったりすることで、承認欲求を満たせます。しかし在宅ワークでは顔を合わせて褒められる機会も少ないため、部下のモチベーションが下がりがちです。そのため、上司はメールや電話などで連絡を取る際、部下に対してしっかりと評価・称賛を伝えることが大切でしょう。結果として、部下に持続的に成果を挙げてもらい、やる気を維持しながら仕事に取り組んでもらうことができます。
周囲に誰もいない環境では、人はどうしても緊張感を保てず、メリハリを持って仕事ができなくなってしまいます。解決策としては、部下に対して目標を明確に決め、業務の進捗を随時報告させるよう努めることです。
目標に関しては「数値」「完成物」といった具体的な内容が好ましいでしょう。というのも、在宅ワークでは休憩時間や就業時間の概念が比較的緩くなってしまい、「労働時間」を厳格に管理するのが難しいです。そのため、時間ではなく「成果」で評価することが大切だといえます。また、部下がスケジュール感を見失ってダラダラと仕事をしてしまわないように、適宜進捗を確認するとよいです。そのほうが、部下としても適度な緊張感を維持しながら業務を進められるでしょう。
人は在宅ワークで仕事につまずいたとき、誰に相談すればよいのか分からないという状況に陥りがちです。そのため、困ったときに上司としてすぐ相談に乗れるように、チームメンバーとは常にコミュニケーションを取れる用意をしておくことが大切でしょう。具体的には、チャットツールを使って気軽にメッセージを交換できるようにしたり、Web会議ツールで週1~2回「1on1ミーティング」を実施したりという施策が有効です。
この際、いわゆる"監視"のような状態に陥ると、逆に緊張から部下のモチベーションを下げかねません。あくまでも部下を信頼していることが前提で、「上司として部下が困ったときすぐに支援できるようにしたい」というスタンスが大切です。離れていてもサポートしてもらえる体制があることは、部下としても頼もしいものです。
「マネジメントに絶対はない」というのは、ドラッカーの言葉です。時流や組織の課題に合わせ、必要とされるマネジメント能力を柔軟に身につけることが大切だといえます。もしマネジメント能力の開発手法に迷ったときは、研修の専門企業をはじめ、外部のプロフェッショナルを頼ることも有効でしょう。