終身雇用が限界を迎え、ジョブ型雇用が注目を集めることにより、「キャリア自律」の必要性が声高に叫ばれています。このような中、多くの企業が自社の人材育成方針に沿って、若手社員のキャリア開発に力を入れています。しかし、中には若手社員の離職を懸念し、キャリア開発に後ろ向きな企業も存在します。
「ウチの会社でキャリア研修なんてしたら、若手が皆辞めちゃいますよ」「キャリアを考えさせたら、今よりもっといい仕事を探しに行っちゃうじゃないですか」
といった否定的な意見が見られます。このような課題にどう対処すべきか、具体的な事例を通して検討します。
なぜ若手・中堅社員は会社を去るのか?
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A社では、新卒採用後の若手社員の離職率が約30%にも上っていました。離職理由として、「他にやりたいことが見つかった」、「もっと成長できる仕事に就きたい」という声が多く、これは若手社員のキャリアに対する不満から来ていることが明らかでした。
このような状況を踏まえ、A社の上層部へ年度ごとに報告が行われていましたが、問題は人事制度にあるのではなく、個々の社員の思考に起因しているとの見解でした。これに対し、人事担当者は学卒者には同期同士の交流会を企画したり、メンター制度で数年年次が上の先輩とのコミュニケーションの場を持つなど、若手社員のコミュニティ構築に力を入れていました。具体的には、新卒社員向けの交流会や先輩社員とのメンター制度を通じて、社員間の接点を増やす取り組みを行っていましたが、これ以上の施策を打ち出すことは困難と感じていました。特に、早期離職を選択する社員たちは、大手有名企業であるA社とは異なるタイプのベンチャー企業やスタートアップへ転職していることが多く、これは彼らが現在の仕事内容に対して満足していない、または会社への帰属意識が低いことを示唆しています。そのため、人事担当者は、社員が社外のキャリアを探ることなく、次のジョブローテーションまで企業に留まるよう努めることが最善策だと考えていました。
弊社はA社で見られる若手社員の離職の主な理由は、以下の点に課題があると推察しました。
つまり、継続的に上司が部下のキャリア支援に関わることで、若手社員は現在の仕事に意味を見出せるのではないかと考えたのです。そこで、若手社員が現在の仕事に意味を見出せるよう、上司による継続的なキャリア支援の重要性を提案しました。
人事担当者は、「特に若手社員にキャリアを考えさせることはあまり良いことだと思っていなかったが、上司が部下の成長を支援するというのは良く理解できる」と、この提案に賛同され、上層部に予算申請をすることになりました。しかし、結果的には承認が下りませんでした。人事部門として、キャリア面談シートを作ったり、ジョブポスティング制度を作ったりして社内キャリアの選択肢を広げることが先だというのが理由でした。
こちらは社員数1,000名の企業で、新卒社員の採用は30~40名程度、入社3年以内の離職率はA社と同様に約30%でした。ITエンジニアの採用が主で、2020年3月以降はほぼ全社員が在宅勤務となる中、以前から課題となっていた上司部下のコミュニケーションの低下に拍車がかかり、社員サーベイでもそれが顕著に表れるようになってきました。このような状況下、「会社から評価されているかどうかも分からず、自分のキャリアが不安になった」や「このまま他の会社を見ずに年を取ってしまうことに危機感を抱いた」といった理由での退職者が増えてきました、人事担当者は、リモートワークに起因するコミュニケーション不足によりキャリアへの不安感が高まり、退職の選択へと駆り立てられたのではないかとの見立てをしていました。
B社についてもA社と同様、ジョブローテーションで社員の育成を図る考え方でしたが、実際は部門が社員を抱えたがる傾向があり、優秀な若手社員ほど部署異動が無く、同じ部署で大きな職務内容の変更も無いことから、キャリアに対する行き詰まり感を感じやすくなっていました。社内のキャリアパスについて考える目的でキャリアシートを作ることになっていたものの、運用は形骸化していて有効に機能していませんでした。
B社でも当初、キャリアをテーマにした取り組みには前向きではありませんでした。ITエンジニアはコロナ禍でも売り手市場で、より良い条件での転職がしやすく、出来るだけ今アサインされているプロジェクトに没頭してもらい、1名でも抜けることが無いようにしたいとのお考えでした。
B社に対してもA社と同様、上司向け部下キャリア研修、世代別キャリアデザイン研修、キャリア面談の仕組みづくりをご紹介しましたが、特に上司から部下へのコミュニケーション手法についてはより具体的な面談手法についても盛り込んだ内容をご提案しました。B社上層部もその必要性を認識され、早速この取り組みを始めることになりました。
A社については、それから3年が経過しましたが、結果としてキャリア開発に対する取り組みに目立った進展は無く、現在も若手の離職状況に変化は無いとのことです。
一方のB社は、新しい取り組みが始まってまだ1年弱でもあり、効果検証には十分な期間ではないことと、新卒者の採用数が多くないこともあり、離職率の減少は数%に止まっていますが、直近で実施された社員サーベイでは、上司部下のコミュニケーションに改善が見られ、「上司は自分の成長をサポートしてくれる」の項目で数値の改善が見られました。
A社では、会社の上層部にキャリア開発の重要性を認識頂くことが出来なかった点が、最も大きなポイントとなりました。B社では対照的に、上層部も施策の必要性を認識され、ゴーサインを出されました。これにより、若手社員に対するコミュニケーションに変化が現れ、若手社員自身も「この会社でも成長できるかもしれない」と受け止めるようになったのです。キャリア開発は、ともすれば人材開発の一テーマとしてしか取り上げられないこともあるのですが、会社の上層部を巻き込んで、全社の重要課題であるとの認識の下で進めていくことがとても重要です。
「キャリア自律の為に、社員に自分のキャリアを考える機会を提供する」、まさにこのことがキャリア開発の基軸になるものです。しかしそれだけがキャリア開発の全てではありません。対象社員がキャリアに対する理解を深くし、自身のありたい姿を見出し、理想と現実のギャップを認識してそれを埋める具体的取り組みを実行し続けるには、周囲からのサポートが必要です。特に上司が部下のキャリア観をしっかりと認識し、支援する姿勢でコミュニケーションが取れているかどうかは、対象社員の心理状況に大きな影響を与えます。自身のキャリアについて上司との共通理解を得た社員は、「この会社であれば、成長できる」「今の仕事を続けることで、こういった知識やスキルを身につけられる」「チーム内でリーダーシップを発揮することで、将来リーダーのポジションに就くことができる」といった認識を持つようになり、前向きな社内キャリアを思い描くようになります。
つまり、若手社員にはキャリアを考えさせない方が良いのではなく、むしろ逆です。但し、会社が研修だけでなく人事制度を含め、組織として社員のキャリア成長をサポートするという条件付きです。キャリアにはいろいろな選択肢があります。その中で「自分は社内でこのような仕事をして、このような経験を積んで、こうなっていきたい」と自らの意志で選択をしていけばよいのです。
いかがでしょうか。自社に当てはめて考えた時、乗り越えるべき課題やハードルがあるという企業様がおありでしたら、どうぞご遠慮なく弊社にご相談ください。一緒になって課題をどう解決していけるか、考えて参りたいと存じます。
ライトマネジメントのキャリア開発は、企業向け研修のなかでも圧倒的に高い採用実績を誇るソリューションです。
組織内で自分の役割や期待されていること、強みを理解した上で、そのキャリアプランを行動計画に落とし込み、自発的な向上心を磨きます。また、経営環境の変化などにより、期待通りのパフォーマンスを発揮できない方に向けた再活性化プログラムもご用意。20~30代の若年層のほか、40代・50代の中高年層の意識改革・行動変容に幅広く貢献しています。
キャリア開発の具体的な取り組み方法や成功させるポイントついてはこちらのEbookで解説します。あわせてご覧ください。
お役立ち資料|社員の"キャリア不安"に効くキャリアデザイン研修の重要性と正しい進め方とは?
自動車部品商社勤務を経て、2002年2月よりマンパワー・ジャパン株式会社(現マンパワーグループ)にて、派遣社員のキャリアカウンセリング、面接トレーニング、転職支援に携わり、2008年より支店長として営業部門のマネジメントに従事。営業支援部門を経て、現在はキャリア開発を中心とした人材育成、組織人事コンサルティングに従事。
研修では、双方向のコミュニケーションを意識し、受講生に自ら発言して頂ける雰囲気づくりを得意とする。受講生のキャリアの棚卸のみならず、政治経済社会情勢がビジネス領域にどのような影響を与えるか、その環境変化の中で企業はどのように成長し続けているか、また社員に求められる期待役割は何かについて、受講生に気づきの機会を提供することに情熱を注いでいる。
「受講生が自らのありたい姿(キャリアゴール)を発見し、自信をもって前向きな第一歩を踏みせるように支援する」を自らのミッションステートメントとして、日々ファシリテーションの進化に努めている。