人材不足が企業の悩みのタネとなっている昨今、社員の生産性を高める「人材育成」に注目が集まっています。そこで今回は、「人材育成と能力開発の違い」「人材育成の正しい手法(研修・OJT・ e-ラーニング)や進め方」などを解説します。また、導入が進む「オンライン研修」の種類や活用法も、分かりやすく紹介します。
人材育成とは、社員を「会社の業績に貢献できる人材」に育てるべく、必要な考え方・スキルを長期的に教え続けることです。大切なのは「長期的であること」と、学ぶ内容が「広範囲であること」です。
まず「長期的」に関していうと、人材育成は入社・異動・昇進など、職業人生のさまざまなタイミングで継続して行います。キャリアプランの各フェーズで必要な能力や知識を、その都度習得してもらうイメージです。そのため、人材育成は短期間で効果を出すのではなく、時間をかけて社員のキャリアを豊かにする狙いがあります。
また「広範囲」に関していうと、人材育成で教えることは、その職種における限定的なノウハウだけではありません。例えば、コミュニケーションスキル・ビジネスマナー・リーダーとしての心がまえなど、考え方やマインドセットも重要な項目です。会社に貢献できる人材になってもらうために、さまざまな観点から育成を行います。
能力開発は、今抱えている課題を解消できるよう、技能・知識を伸ばすことです。つまり、人材育成との違いは「短期間」であり、学ぶ内容が「限定的」であることだといえます。例えば、社員が「英語力がない」と感じているのなら語学力を鍛える、「顧客との関係構築に苦手意識がある」なら研修で営業力を伸ばす、というイメージです。一般的に人材開発は、短期的で特定の能力を伸ばすことを目的として行われます。
人材育成とは、どのような目的で行われるのでしょうか。ここでは特に重要な2つに絞って、紹介します。
帝国データバンクの調査によると、2019年に「人手不足」で倒産した企業は185件で、前年から20.9%も増加しました。また2016年に行われた厚生労働省の調査では、入社3年以内に離職した新卒入社者の割合は、高卒で39.2%・大卒で32.0%です。このように企業で早期離職が加速し、人材不足が大きな課題となっているのが現状です。
こうした社員離れを解消するためにも、人材育成は有効でしょう。もちろん、人によって離職理由はさまざまですが、「長期的に育ててくれる風土」「スキルアップを支援してくれる制度」があれば、その企業に魅力を感じることは確かです。人材育成に力を入れることは、会社への魅力づけになり、早期離職を防ぐことにもつながります。
早期離職の防止策について詳しくは、「若手人材の早期離職を防ぐには?離職防止の効果的な"7つ"の対策を紹介!」で解説しております。
※参考:人手不足に対する企業の動向調査(2020年1月)|帝国データバンク
※参考:新規学卒就職者の離職状況(平成28年3月卒業者の状況)を公表します|厚生労働省
上記で述べたように、企業における人手不足が顕著になっています。少子高齢化によって、採用難の傾向も強まっていくでしょう。つまり社員一人ひとりの生産性を高めることが、企業にとっての打開策なのです。人材育成は社員一人ひとりのスキル・考え方を豊かにしていく取り組みなので、組織全体の生産性を高める意味でも大いに役立ちます。
消費者のニーズが多様化している昨今、社員に求められる知識・スキルもまた多様化しています。さらにデジタル技術が日進月歩で進化しており、スキルはすぐ陳腐化しかねません。つまり社員一人ひとりに多様なスキルを身につけさせ、アップデートさせていくことが大切です。その意味でも、人材育成は必要だといえるでしょう。
人材育成の手法を選ぶ前に、まず"準備"が必要です。ここでは、人材育成の進め方とツールを紹介します。
大切なのは、まず社員の現状を見極めることです。社員がどのようなスキル・知識・資格を持っているかを、部署や職種ごとにスキルマップ(※後述)で一覧にまとめます。そして、経営層や現場の責任者が考える組織目標と照らし合わせて、「足りていない能力」を洗い出しましょう。このギャップを埋めることが人材育成の目的であり、育成手法を決める基準になります。
目標を立てるポイントは「人材育成の目標はどう立てる?主な指標や設定の手順、達成のポイントを解説!」をご一読ください。
「今回は不足している○○のスキル・知識を習得させる」という風に、毎回目標を決めます。これに適した手法をその都度選ぶと、人材育成の効果もより高まります。どんなテーマや内容・手法が適しているのかは、人材育成に慣れていないと分からないものです。まず手法選びから、外部の研修企業に相談してみるのも有効でしょう。
スキルマップとは、各社員の持つスキル・知識・資格などをまとめた一覧表です。職種ごとに求められる能力を書き出し、そこに自己評価・上司評価などのポイントをつけていきます。例えば、施工管理であれば「現地調査を行い、現場の様子を正しく把握できる」「宅内配線やワークエリアなど、配線システムについて理解している」などのさまざまな項目に対して、「自己評価5:上司評価7」(10点満点)と点数をつけていくイメージです。評価の仕方や点数については企業ごとに違いますが、これによって今足りていない能力を洗い出すことができます。
※参考:株式会社富士通マーケティング 事業本部の技能レベルの把握|厚生労働省(PDF)
準備が整ったら、次は手法決めです。ここでは、3つの手法とそれぞれのメリット・デメリットを紹介します。
会議室やセミナールームに社員を集め、専門の講師による講義を行う手法です。具体的には、ロジカルシンキング・語学力・メンタルヘルスなど、実務の現場で得られない知識を体系的に学ぶ手法として活用されています。
集合研修を含めたOff-JTについて詳しくは「Off-JTで効果を出すポイントとは?外資系と日系企業の"違い"から見る人材育成の秘策」で解説しております。
<メリット>
◎専門家による講義のため、より信頼性の高い知識・スキルを学べます。
◎グループワークやワークショップを開くことで、参加者間のつながりを深められます。
◎同じ研修を大人数に対して一度に行えるため、効率が良いです。
<デメリット>
▲実務とやや離れた内容の講義もあるため、その都度応用が必要です。
▲専任講師の授業料やセミナールームのレンタル代など、比較的多くのコストがかかります。
▲複数の社員が同じ日・同じ場所に集まらなければいけないため、スケジュールの調整が難しいです。
OJT(On-The-Job training)とは、実務の場で上司・先輩が、直接仕事のノウハウを教えることです。教える内容としては、その職種に必要なスキル・知識・仕事の進め方など、実務に即したものがほとんどです。
<メリット>
◎実務に即した学習内容なので、学んだ知識をすぐに現場で使うことができます。
◎教わる人だけでなく、教える人のスキルアップやマネジメントの上達にもつながります。
◎教える側は社内の人間なので、特別な費用がかかりません。
<デメリット>
▲教え方や教える内容はあくまで上司・先輩次第なので、習熟度にバラツキが出ることもあります。
▲教えられる側の習熟度によって指導内容が変わるので、何かを体系立てて学ぶのには適していません。
▲先輩や上司が仕事の合間を縫って教えることが多いので、実務の妨げになることもあります。
e-ラーニングとは、PCやスマホ・タブレットなどの端末上で動画視聴や教材の閲覧ができるサービスです。利用者が好きな時間に好きな内容を学べることが特徴です。最近はサービス提供会社も増え、学べる内容も豊富になっています。eラーニングについてより詳しく知りたい方は、「eラーニングの効果を高めるには?企業研修に活用する際のポイントを解説!」もあわせてご一読ください。
<メリット>
◎インターネットが使えればいつでも利用できるため、スキマ時間を有効に活用できます。
◎PCやスマホ、タブレットがあれば受講できるため、どこかに移動する手間が省けます。
◎何度も同じ内容を繰り返し視聴できるので、見逃し・聞き逃しも防げます。
<デメリット>
▲あくまで受講するかどうかは自己判断に委ねられるため、途中で放棄してしまう可能性もあります。
▲PC・スマホ・タブレットの支給、e-ラーニングの導入費など、コストがかかります。
▲講義や教材に対して疑問点があっても、その場で質問ができないケースがほとんどです。
ライトマネジメントでは、キャリア開発のテーマを中心に、独学でも内省を深められるeラーニングコースをご用意しています。
ダウンロード|eラーニング版キャリア開発プログラムのご案内
最近、集合研修に代わって増えているのが「オンライン研修」です。その種類や上手な活用法を紹介します。
オンライン研修とは、専門の講師が行う研修を録画・放映し、インターネットを経由して視聴するサービスです。オンライン研修には2つの形式があり、講師の講義をリアルタイムに視聴するタイプと、録画した講義を参加者が好きな時間に視聴するタイプです。どちらもPCやスマホ・タブレットとインターネット環境があれば受講できます(リアルタイムで講義するタイプは、Teams・Skype・Zoomなどのビデオ会話アプリが必要)。在宅ワークの浸透とともに、増えてきている研修スタイルです。
<メリット>
◎会議室やセミナールームを予約する必要がなく、低コストで実施できます。
◎同じ場所に集まる必要はないので、遠方から勤務している人・在宅ワークの人も受講できます。
◎時間の制約がなく、スキマ時間を有効に活用できます(※録画した研修を視聴する場合)。
<デメリット>
▲一堂に集まって行う研修と比べて臨場感がなく、集中力が途切れやすいです。
▲ワークショップやグループディスカッションを行えないため、横のつながりは広がりません。
▲ネットワーク環境が悪いとその都度中断してしまい、思うように進まないこともあります。
便利に見えるオンライン研修ですが、このようにデメリットもあります。大切なのは、オンラインで行う人材育成のデメリットを、うまく集合研修・OJTなどで補うことです。例えば、オンライン研修で専門知識を学んだら、その後に集合研修でワークショップを開き、学んだ内容について意見を交わすことも可能です。また、各人が「e-ラーニング」を使ってスキマ時間に予習しておき、集合研修・オンライン研修でさらに学びを深めることもできます。そして、オンライン研修の後に別途テストを実施し、習熟度を確かめるという手もあるでしょう。
ちなみに2種類以上の育成手法を組み合わせることを、ブレンディッド・ラーニングといいます。オンライン・オフラインの手法をうまくかけ合わせることで、より効果的な人材育成を実現できるでしょう。
会社の目指したい姿に合わせ、最適な人材育成の手法を選ぶことが大切です。選び方については、外部のプロに相談するのも有効でしょう。ぜひ多彩な育成手法を組み合わせ、企業の成長につなげていただければと思います。
「自ら考え⇒判断⇒行動」できる自律的人材の育成、経営戦略を実行するうえで必要な人材の階層別育成、階層やキャリアといった枠にとらわれず、企業が業績向上を実現するために取り組む必要のある人材育成課題など、「人」と「組織」の問題を解くご支援をいたします。