PIP(Performance Improvement Plan)は、成功すれば対象従業員のパフォーマンスが向上・改善し、組織力の底上げに貢献します。しかし一方で、ネガティブなイメージがあるのも事実です。慎重に実施しないと対象従業員に企業側の意図が伝わらず、誤解されたまま受け取られてしまう恐れもあります。PIPを実施するならば、会社が効果を正しく理解したうえで制度を構築し、かつ、上司が適切に指導していくことが求められます。PIPの具体的な進め方や運営方法について紹介します。
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「業績改善プログラム(PIP)上司向けトレーニング」
誤解されることも少なくないPIPについて、本来の定義と目的を紹介します。
PIPとは、「業績改善プログラム(Performance Improvement Plan)」の略語で、特定の従業員に行うプログラムです。一般的には、パフォーマンスや業務態度にやや難のある従業員に対して「本人の成長や業務改善」などの目標を期限付きで設定します。上司は期限内の目標達成のために、適切な注意、指導、支援を行います。つまり、部下育成の一環として実施する業務改善手法のひとつです。
PIPの目的は、本人の能力開発と業績向上・改善です。実現可能な目標を設定し、上司も目標を達成すべく個別に指導します。そのため、本来はローパフォーマーの能力を高める、前向きかつ建設的な手法です。
ただし、PIPによって一定期間上司からの手厚い指導・支援がなされたにもかかわらず、向上・改善が見られなかった場合には、双方のミスマッチ解消のために、リアサインや異動等何らかの処遇見直しを行う可能性があり、場合によっては出向や社外転進を促さざるを得ないケースもあり得ます。PIPはそれらの根拠としての側面があるのも事実ですが、最初からPIPの目的が「降格」や「退職勧奨」などにつなげるために実施されるもの、という誤解もあります。
このようなネガティブな誤解から、対象従業員がPIPと聞いただけで萎縮や反発をすることも懸念されます。そのためPIPというプログラムを実施する場合は前提として、普段の目標管理制度運用においてメリハリのある評価がなされていること、対象従業員との信頼関係が構築されていることが求められます。またPIP実施時において、本人の意欲を刺激する実現可能な目標設定をすることが重要です。
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日本企業でも、近年PIPが注目されてきています。理由として以下が挙げられます。
人材不足や流動化など、企業や人材を取り巻く環境が厳しさを増すなかで、人的資本の重要度が増しています。人的資産を活用しきれないのは企業としての損失です。競争力強化のために従業員のポテンシャルを余すことなく活用しなければならず、ハイパフォーマーを多く作るだけでなくローパフォーマーのパフォーマンス改善も求められます。
多様な働き方が求められる中であっても、企業としては業績や生産性をないがしろにすることはできません。これらの動きに対処するためには、組織全体で効率化を目指す必要があります。ローパフォーマーを対象としたPIPによって、組織全体の作業効率の底上げが可能です。
効果的な育成方法は従業員ごとに異なるものですが、パフォーマンスが低い従業員に対する指導を現場任せにしてしまうと、必ずしもローパフォーマーに適した育成につながらない可能性があります。上司が直接関与するPIPを育成プログラムとして取り入れることで、より俯瞰的で効果的な育成につながります。
PIPという適切なプログラムがないままにローパフォーマーと接してしまうと、上司にその意思がなくとも言葉尻だけでハラスメントと受け取られてしまうリスクが生じます。ローパフォーマーへの指導を、PIPを通じて可視化し、従業員が意図を正しく理解することで、このような認識齟齬を防止します。結果的にコンプライアンス強化につながります。
ただし、極端に高い目標の設定、不合理な降格・減給があるといった誤ったPIPは、逆に法令違反(※)になってしまう可能性があるので注意が必要です。
組織に貢献できていない従業員を放置することは、頑張っている若手やコア人材のモチベーションを下げ、ひいては人材流出の原因にもなりかねません。貢献の高い人材を適切に評価するのはもちろんのこと、改善が必要な人材のパフォーマンス向上にもしっかり手を打つことによって、組織により強い求心力をもたらし、従業員のエンゲージメント向上が期待できます。
PIPはローパフォーマー向けの業務改善施策ですので、本来は対象従業員がいないことが望ましいのですが、それでもPIPを行わざるを得ない場合は、正しい目的・手順で進めます。
大きく、以下の手順で行います。
PIP対象者がこれまでにどのような業務を行っていて、どのような問題が出ているのかを上司と従業員双方で確認し、認識の統一を図ります。
課題がある業務に関して、業務フローやプロセスを可視化します。上司が客観的に不要なフローやプロセスを探すことが可能となり、業務量に偏りがないかもチェックできます。
対象従業員がパフォーマンスを上げるうえでの阻害要因を特定します。課題が特定できたら、その解決のための行動を「対象従業員ができること」と「周囲がサポートできること」の両面から検討します。
面談では、対象従業員に合わせた目標を設置します。その際、「何を期待しているのか」を明示したうえで、ギャップ(期待値に達していない)があることと、目標に達するために必要なことを示します。ギャップを埋めるために必要なことが分かるよう、具体的行動に落とし込むといいでしょう。
また、目標が曖昧だと「達成した/しない」といった基準が不明瞭になるので、定量的な指標の明示が望ましいです。ただし、職場の雰囲気づくりや後輩指導といった定性的な評価も重要ですので、状況に応じてバランス良く目標を設定します。
PIPの実行においては、プログラムの内容以上に上司の役割が重要になります。まず、PIPを遂行していくにあたっては、上司と部下が本音で話しあえる相互の信頼関係が何よりも重要です。面談時は対象従業員に対して誤解が無いように正確な目的を説明しなければなりませんが、お互いが信頼しあい、本音で語ることができる関係でなくては、伝え方や受け取り方にかけ違いが起こってしまうことがあります。
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対象従業員へのフィードバックをする際は、本人のやる気を低下させないよう、高圧的にならずに部下の気質や価値観に応じた伝え方が求められます。双方にとって納得感のあるフィードバックを続けることで、PIPによるパフォーマンスの改善が一時的なものにならないように留意する必要があります。持続的な行動変容へとつなげるためには、上司と対象従業員との間に結果に対する共通認識と、今後の業務や行動への合意形成が欠かせません。
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「ネガティブフィードバック研修」
PIPではパフォーマンス改善という目標を達成するのがベストですが、「目標達成した/しない」という結果だけではなく、改善のプロセスにも注目することが大切です。そのため、PIP実行中は定期的に進捗を確認する体制を整えておきます。また、最終的に目標が達成できなかった場合は、セカンドアクションを再定義するといったことも重要です。目標達成の可否にかかわらず、PIPの実行が対象従業員のパフォーマンス向上につながるよう、常に調整を加えていきましょう。
PIPについて、ネガティブなイメージを持つ人事の方も少なくないかもしれません。しかしPIPのあるべき姿を知り、適切に実行することで、組織と対象従業員が二人三脚で成長していくことができます。ローパフォーマーのスキルや作業効率が上がれば、組織力の底上げに貢献します。
ただし効果的なプログラムを制定し実行していくためには、プログラムの内容だけではなく、主体者である上司が正しく機能することが前提ですし、プログラムの実行中はフォローが欠かせません。
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「業績改善プログラム(PIP)導入コンサルティング」
https://mpg.rightmanagement.jp/tm/consulting/details06.html
(※)労働基準法、労働安全衛生法、労働組合法、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、パワハラ防止法など、様々な法令が存在します。これらの法令を理解しながら進めることが重要です。