社会経済の先行きが読めない今、「早期退職」という言葉をニュースで聞く機会も増えました。「早期退職」の意味はなんとなく分かるけれど、具体的な制度の内容については知らない方も多いと思います。そこで今回は、早期退職の意味やその必要性、早期退職と「再就職支援」との関係性など、今知っておきたい情報を紹介します。
まずは再就職支援の全体像を知りたい方はこちらの記事もご一読ください。
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雇用調整には幅広い選択肢があり、手続きもさまざまです。雇用調整の正しい意味と、実施するうえで押さえるべきポイントを解説します。
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ここではまず「早期退職」という言葉の意味、早期退職に含まれる「2種類」の制度について、解説します。
早期退職とは、定年(60歳または65歳が多い)を迎える前に会社・組織を退職することです。早期退職のなかには、リストラなどで一時的に自発的な退職を募る「希望退職制度」と、社員が自分で定年を早められる「選択定年制」があります(下記で詳しく解説します)。早期退職と一般的な定年退職を比べると、早期退職のほうが「退職金の割り増し」「再就職先のあっせん(「再就職支援」を含む)」といった優遇措置を受けられることが多いです。
「【保存版】早期退職と希望退職の違いは?運用のポイントも解説!」もあわせてご覧ください。
ニュースなどで耳にすることが多い早期退職は、こちらかもしれません。「希望退職制度」とは、企業が経営悪化や組織の若返りなどを背景にリストラ(整理解雇)を行うとき、臨時で退職希望者を募る人事制度です。あくまで会社の事情で退職者を募るので、「会社都合退職(失業給付金が早く・多めに支払われる)」になります。
ちなみに、東京商工リサーチによると、2024年1月から8月の間に上場企業41社が早期・希望退職者を募集しており、前年同期の28社から大幅に増加しています。対象人数は7,104人と、前年同期の約3.5倍に急増しており、このペースが続けば、3年ぶりに早期退職者が1万人を超える可能性が高まっています。円安を背景に、好業績の企業が積極的な構造改革に踏み切り、不振企業では事業撤退が進んでおり、早期退職の募集は今後も増加すると予想されています。増益を出している企業でも早期退職の募集に踏み切るケースが多く、さまざまな社会情勢を鑑みると、日本ではこの傾向がしばらく続くと考えられます。
※参考:2024年1-8月上場企業「早期・希望退職募集」状況|東京商工リサーチ
定年は一般的に60歳・65歳ですが、それよりも前(40歳・45歳・50歳など)に定年を迎えられる制度を「選択定年制」といいます。臨時的に退職者を募る「希望退職制度」と違って、通年で恒常的に設けられている人事制度です。定年の年齢を自分で選んで退職することになるため、基本的には「自己都合退職」として扱われます。
ちなみに厚生労働省が調査したデータによると、調査対象179社のうち「選択定年制」を導入しているのは過半数の90社。定年の年齢に関しては、40歳が8社、45歳が27社、50歳が36社、55歳が5社、その他の年齢が14社となっています。同調査によると、選択定年制を導入している企業は「退職一時金の優遇(定年退職と同等に扱う・勤続年数による加算など)」「退職年金の優遇」などの優遇措置を設けていることが多いようです。
優遇措置について詳しくは「早期退職優遇制度とは?優遇措置の種類や導入までの流れを分かりやすく解説!」をご一読ください。
※参考:賃金事情等総合調査 / 令和元年賃金事情等総合調査 令和元年退職金、年金及び定年制事情調査|政府統計の相談窓口 e-Stat
すこしネガティブなイメージがある「早期退職」ですが、理由は決して「経営が傾いてしまったときのリストラ」だけではありません。ここでは、早期退職を募る企業の「理由」について、2つのパターンを紹介します。
一般的にイメージする早期退職は、こちらかもしれません。会社の経済状況が悪くなり、事業縮小・営業所の撤退などを余儀なくされて、やむをえず退職者を募るケースです。現在はVUCA(変動性/Volatility、不確実性/Uncertainty、複雑性/Complexity、曖昧性/Ambiguityの頭文字をとったもの)と呼ばれ、社会の先行きを読むのが難しい時代になっています。だからこそ、こうした従来型のリストラで早期退職を募る企業も多いです。
業績的には好調なものの、将来を見据えて早期退職を募るのが「黒字リストラ」です。賃金の高い中高年層の所得を若い層に再配分し、社内の若返りを図る等の目的があります。日本経済新聞の調査によれば、2023年に早期・希望退職を行った上場企業41社のうち、「黒字」だった企業は約5割でした。今後も日本ではデジタル分野に強い人材を採用し、黒字リストラを行うことで、人材の流動性が高まっていくことが見込まれています。
早期退職を募ることで、企業が得られる「メリット・デメリット」とは何なのでしょうか。それぞれについて紹介します。
◆人件費削減
企業が抱えるコストの1つが、「人件費」です。日本に根付いた年功序列的な賃金体系によって、特に中高年層の人件費は高くなる傾向にあります。そのため、企業は早期退職を募ることで人件費を大きく削減することが可能です。
◆社内の若返り
中高年層の早期退職を募ることで若年層の割合が高まるので、社内の若返りを図れるというメリットもあります。それにより「年功序列」の文化を壊し、「実力主義」の風土を新しく根付かせられるという効果もあるでしょう。
◆既存社員のキャリアアップ
マネジメント層の早期退職を増やすと、当然そのぶんだけ「管理職」のポストが空きます。「実力はあるが、上が詰まっていて昇格できない」という若年層を空いたポストに登用し、キャリアアップを図ることも可能です。
◆離職社員のキャリア形成
辞めていく社員にとって退職は、"第二のキャリア"のきっかけになることもあります。再就職によって新たな業界にチャレンジしたり、退職金を使って起業・出店を叶えたりするケースだってあるでしょう。早期退職を募ることはどうしてもネガティブなイメージを持たれがちですが、「次のステップへ背中を押す」という目的もあるのです。
◆残ってほしい人材まで流出すること
ある程度まで早期退職の「部署」や「年齢」などを絞れますが、誰が早期退職を希望するかは予測できません。優秀な人材が早期退職を希望してしまった場合、会社としては大きな痛手です。もちろん人件費の面ではコストカットになりますが、人材の質が落ちることで、将来的に業績へ影響を及ぼすかもしれません。
◆退職金の割り増し
退職するメリットがなければ、社員は早期退職に応じたいと思いません。そのため「退職金を割り増しで支払う」といった優遇措置がとられるケースが多いです。これが一時的なコストとしてのしかかることも考えられます。
◆組織のモチベーション低下
会社が早期退職を募り始めると、残る社員たちは「経営状態がかなり悪いのではないか?」「この会社に残っても大丈夫なのか?」と不安になることでしょう。こうして組織の士気が下がることも、デメリットの1つです。
会社の一方的な都合で退職者を募る「早期退職」は、運用を間違えると社員とのあいだに大きな軋轢を生み出しかねません。ここでは、会社が"円満な早期離職"を行うために気をつけるべきポイントを、5つ紹介します。
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応募してほしい社員の「条件」を明確にしなければ、会社の意図しない人材が退職してしまいかねません。具体的には、「応募の受付期間(複数回に分けて実施するときはその旨も伝える)」、対象となる社員の「年齢」「部署」「職種」「勤続年数」などを定める必要があります。また、退職の希望を「上司に口頭で伝えるだけで大丈夫」と考える社員もいるでしょう。そのため「書面での応募が必要」といった応募条件も明確にしておくとよいです。
「早期退職に応募すれば、必ず退職できる」という勘違いも少なくありません。ですが、早期退職は社員からの「申し込み」があったとしても、会社の「承諾」がないと法律的な観点で成立しないのです。そのため、早期退職の応募を広報するときには、必ず「会社の承諾(合意)が条件である」という旨を加えるようにしましょう。
「退職金の割り増し」は、辞めていく社員にとって大きなメリットです。この金額をハッキリ決めておかないと、あとあとまで引きずってしまいます。そのため、「退職金の25%相当額を上積みして支給する」というように、明確な金額を決めておくべきです。また、「退職金がいつ支給されるのか」という問い合わせが退職後に寄せられる可能性もあります。退職金の支給日についても明確に決め、合意しておく必要があるでしょう。
早期退職の候補になりやすいのは、中高年層です。社歴の長い人材は重要なポストに就いていたケースも多く、会社にとって重要な情報・ノウハウを持っていることも考えられます。もしも退職者が早期退職を良く思っていなかったら、競合他社へ転職して企業秘密を広める可能性もあるでしょう。そのため、退職時には「競業避止義務」「守秘義務」といった契約を社員と結び、退職後に問題が起こらないよう未然に防いでおく必要があります。
突然の早期退職は、退職する社員に精神的・経済的なショックを与えかねません。退職者をケアするような制度を導入することも、早期退職を行う企業の社会的な責任といえるでしょう。その制度の1つが、「再就職支援」と呼ばれるサービスです。企業に代わって、人材会社が退職者の「再就職先」を探します。再就職支援では、専任のキャリアコンサルタントが退職者との面談、履歴書の添削、面接練習など、再就職を手厚くサポートしてくれます。こうした制度で社員の不安を和らげ、"新たな人生"を後押しすることもできるのです。
早期退職の背景はさまざまで、やむをえず実施するケースもあるでしょう。大切なのは、退職する社員に十分配慮し、円満な退職を目指すことです。具体的な退職者のケアも、一度じっくり検討することをおすすめします。
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