近年は新型コロナウイルスの影響で不況が長引いており、希望退職を募る企業も増えています。希望退職に慣れている企業は決して多くないため、「過去に経験がなく、募集の方法が分からない」という方もいるのではないでしょうか。希望退職は、社員一人ひとりのキャリア形成に大きな影響を与える施策です。だからこそ、社員からの納得や理解を得るためにも、募集手順や優遇措置について正しく知ったうえで実行することが大切です。
そこで今回は、「希望退職の募集フロー」や「募集要項に含めるべき内容」、「主な優遇措置の種類」などについてわかりやすく解説します。希望退職の募集を滞りなく進めるために、本稿が一助となれば幸いです。
※希望退職の意味や目的、リスクなどについて詳しく知りたい方は、「【保存版】早期退職と希望退職の違いは?運用のポイントも解説!」の記事もあわせてお読みください。
そもそも希望退職とは、どのような施策のことを指すのでしょうか。
ここでは、類似した施策である「早期退職」との違いも含めて解説します。
希望退職とは、企業が時限的に退職者を募集する制度のことです。希望退職を募る目的としては、「経営悪化による将来のリスクを回避したい」「合併や買収などによって生まれた重複部門の人員を整理したい」などが挙げられます。なかには、たとえ黒字であっても、事業構造を転換する為や組織の若返りを目的に希望退職を募集する企業も少なくありません。希望退職者に対しては、退職金の割り増しや再就職支援の提供といった優遇措置を設けることが一般的です。
早期退職とは、社員が定年前に退職できる制度のことをいいます。企業が社員のセカンドキャリアを支援するため、「福利厚生」の一環として設けることも珍しくありません。早期退職も希望退職と同様、退職者には退職金の割り増しや再就職支援、特別休暇などの優遇措置が設けられることが一般的です。ただし、時期を限定して退職者を募る希望退職とは異なり、早期退職は期間を定めることなく"恒常的に"退職者を募集するという特徴があります。
希望退職の募集を始める際には、社員に「募集要項」を開示します。その際、必要な情報が網羅されていなければ、社員の混乱を招きかねません。ここでは、希望退職の募集要項に必ず含めるべき内容について解説します。
募集要項の内容として、まず「募集する退職者の人数」が挙げられます。特に経営の回復を目的にした希望退職の場合は、退職者の母集団を十分に集めることが必要です。そのため、確実な成果を出すためにもあらかじめ募集人数を定めておくことが大切です。希望退職の目的を果たすことができ、予め経営陣の承認を得た予算で実行が可能な人数とします。ちなみに人数を定めずに募集するケースも時折見られますが、会社の将来性に対する社員の不安を助長する可能性があります。そのため、できるだけ人数は明示した方がよいでしょう。
募集対象者の範囲についても、募集要項に明記すべきです。例えば、「令和○○年○○月○○日現在で45歳以上の正社員」のように記載します。募集対象者を絞ることで、想定した層からの応募につながりやすくなるでしょう。ただし、役職や職種まで絞ってしまうと特定の社員へ退職を促している印象を受けるため、注意が必要です。
希望退職の募集期間についても、明記する必要があります。社員にとって希望退職に応募するかどうかは、今後の職業人生を左右する大きな決断です。そのため、あまりに短い募集期間は避けるべきでしょう。社員に今後のキャリアについて考えてもらう意味も含めて、2週間~1カ月間程度の余裕ある募集期間を設けることが一般的です。
社員が希望退職に応募する際のプロセスについても、明記するようにしましょう。応募方法が決まっていないと、社員によって意思表示の手段(口頭や書面など)がバラバラになり、無用な混乱を招きかねません。具体的には、「所属長に申し出て、記名・押印した希望退職専用の退職届を会社へ提出する」といった内容を規定します。
退職日についても、募集要項に明記しておく方が望ましいでしょう。ただし、退職可能な日程は「有給休暇の残日数」や「業務の引き継ぎに要する時間」などによっても変わります。そのため、特定の退職日を指定した上で、「但し業務の引継等の事情により、会社が別の日を指定することがある」などの表現を加え、会社側が変更出来る余地を持たせることも有効です。基本的には1カ月程度の猶予を与え、その期間で業務の引き継ぎと有給休暇の消化を促します。
優遇措置を設けることで、対象者の経済的・精神的な安心にもつながります。そのため、特に具体的な記載が必要です。主な優遇措置としては、以下のような内容が挙げられます。
希望退職者に対しては、通常の退職金に一定の金額を加算する「割り増し退職金」を支給することがほとんどです。主な加算方法としては、「一定の年齢までは年齢や勤続年数に比例して加算の割合を上げる」「定年で退職したと見なして定年退職時の支給率を適用する」などが挙げられます。加算できる金額は退職金の原資や想定している応募者層によっても異なるため、自社の現状に合わせて最適な方法を選ぶようにしましょう。
社員によっては有給休暇が大量に残っており、退職日までに消化しきれない場合もあります。その際は、社員の納得感を高めるためにも、企業として有給休暇を買い取ることも検討に値します。買い取りの単価については、「基本給の1日分換算」「基準内賃金の1日分換算」などから、自社に応じたものを選択しましょう。
退職者のほとんどは、希望退職への応募が決まってから転職活動を始めることになります。そのため、退職日までに転職先が決まらない可能性もあるでしょう。だからこそ、転職活動に使える特別休暇を設けたり、一定日数の勤務を免除したりすることもひとつの優遇措置です。転職の準備期間にも配慮することで、社員の納得感につながります。
再就職支援サービスとは、再就職支援会社(人材会社)が希望退職者の再就職をサポートするサービスのことです。具体的には、再就職支援会社がキャリアカウンセリングやファイナンシャルプランニング、各種セミナー、履歴書の添削、面接対策、求人紹介、企業との交渉などをトータルに支援してくれます。特にミドル・シニア層は希望退職の対象になりやすく、年齢の関係で転職が難航してしまうケースも珍しくありません。そのため、企業として再就職支援を導入しておくと、対象者の不安の払拭につながるでしょう。
再就職支援サービスについて詳しく知りたい方は、「今知っておくべき「再就職支援」。メリットや正しい活用方法とは?」の記事もあわせてお読みください。
希望退職の募集時に混乱を招きそうな部分については、あらかじめルールを明記しておくことも大切です。例えば、希望退職を募ることで、会社にとって不可欠な人材が退職してしまうリスクもあります。それを防ぐには、募集要項に「制度の適用は、会社が認めた者に限る」という文言の明記が必要です。
また、募集人数が定員に達した際の対応についても記載しておく必要があります。例えば、「定員に達した時点で募集を終了することがある」といったルールです。企業の状況によっては、目標人数を超過しても適用を認めることが多々あります。そのため、自社の経営状況や組織体制と照らし合わせて、応募の打ち切りタイミングを決めましょう。
早期退職、希望退職の募集時から募集終了後の施策においてどのようにすれば労働紛争を回避できるか、を解説したセミナーも宜しければご覧ください。
録画セミナー|労働判例から見る早期退職、希望退職
希望退職を募集する際には、どのような流れで実施すればよいのでしょうか。
ここでは、希望退職の募集フローを7つのステップに分けて解説します。
まずは希望退職の必要性について、経営陣で認識をすり合わせることからスタートです。経営再建を図る方法としては、固定資産売却、役員報酬削減、派遣社員や外注費の削減、採用中止、賞与の凍結、給与カット等の取り組みを実施することが先決です。その上で、「別の選択肢がないか」「本当に希望退職を募るほど経営危機なのか」などを入念に話し合い、募集を決めることが大切です。
希望退職を募集することが決まったら、細かい募集内容について検討します。具体的には、対象の社員や募集人数、募集期間、優遇措置の種類や水準などを決定します。優遇措置の内容については、会社が社員に提示できる最大限のものとしてどこまで盛り込むことが出来るかを、十二分に検討することが求められます。
社員とのトラブルを未然に防ぐという意味でも、先んじて社員の代表である「労働組合」と協議しておくことも重要です。募集内容について労働組合の合意が取れていれば、その先の募集も滞りなく進めやすくなるでしょう。
雇用削減の一環として希望退職を募集する場合、会社法362条4項の「重要な業務執行」に該当します。そのため、取締役会を設置している会社においては、希望退職の募集について取締役会での正式な決議が必要です。
希望退職の募集が正式に決まれば、社員へ周知します。具体的には、募集要項を書面で配布したり、イントラネットや掲示板で開示したりという方法があります。また、説明会を開き、対象者に口頭で募集の意図や内容を詳しく説明することも重要です。社員としては、「なぜ今募集するのか」「応募したらどうなるのか」などの疑問が湧いてくるのも当然と言えます。だからこそ、企業として真摯に社員と向きあい、説明する姿勢が肝心です。
全体広報だけでは、希望退職の内容が正しく伝わらない場合もあります。そのため、経営陣や管理職が責任を持って、希望退職の対象者と個別に面談することも大切です。面談の際は、希望退職に至った背景や募集の流れなどについて丁寧に説明します。また、割り増し退職金に関しては、具体的な金額も計算・提示しましょう。企業として社員の納得感を高めるために努力することで、自発的な応募を促しやすくなります。
応募期間が過ぎたら、全体の募集を締め切ります。その後、社内の基準に沿って厳正に希望退職の適用対象者を決定します。場合によっては、事業運営に必要な人材から応募があり、企業として非承諾の判断をするケースもあり得ます。適用対象者が正式に決まれば、応募者全員に対して承諾・非承諾の通知を発行します。
希望退職を募集する際は、希望退職の必要性についていま一度社内ですり合わせておくことが大切です。経営層と人事、現場のマネジメント層が一枚岩となって希望退職に向き合うことで、無用な混乱を防ぎ、社員からの納得も得やすくなるでしょう。また、再就職支援サービスや割り増し退職金などの優遇措置も細かく決めておくことが重要です。社員のセカンドキャリアに対する不安を少しでも和らげることで、自発的な応募を促しやすくなります。
当社では、日本型再就職支援サービスのパイオニアとして、希望退職や再就職支援サービスに関するご相談に対応しています。希望制度制度の運用にお困りの際には、当社までお気軽にお問い合わせください。
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