上司と部下がわかり合えない背景には、個人の性格やバックグラウンドの違いなど、いくつかの要因があります。そのうちのひとつが、上司と部下の年代差による"世代間ギャップ"です。社員の年代によって過ごしてきた時代背景や経済状況は違うため、どうしても価値観に差異が出てしまい、考え方の衝突が生まれることもあります。しかし、上司・部下間の雰囲気が悪化すると、組織全体のモチベーションや成果にも悪影響を及ぼしかねません。
そこで今回は、世代間ギャップの定義や各世代の特徴についてわかりやすく解説します。また、世代間の対立を克服するためのポイントも紹介しますので、ぜひ上司・部下の関係改善に向けて参考にしてください。
年下上司と年上部下のコミュニケーション不全を解消する方法について、以下のお役立ち資料で解説しています。ぜひご活用ください。
お役立ち資料|年上部下・年下上司はなぜわかり合えないのか?~世代間のコミュニケーション不全を乗り越える"3つ"の解決策~
世代間ギャップとは、育ってきた時代や社会情勢の違いによって、考え方やスキルに差が出ることをいいます。
例えば、アナログなコミュニケーションが当たり前だった「団塊世代」と、生まれたときからデジタルツールが一般化していた「Z世代」では、ITリテラシーに大きな差があります。また、日本経済の成長が約束されていた「バブル世代」と、社会全体が停滞感に包まれていた「就職氷河期世代」では、就職先選びの基準も異なるでしょう。
このように世代によって、その人の"価値基準"は大きく変わります。そのため、上司・部下の年代が違う場合には、それがお互いに対するわかり合えなさにつながってしまうこともあるのです。上司・部下が世代間ギャップを解消するためには、お互いの育ってきた時代の特徴や価値観を理解し、歩み寄ろうと努めることが欠かせません。
日本では、現在どのような世代の人材が就労しているのでしょうか。
本章では、主な世代の名称とそれぞれの時代背景、考え方の特徴について解説します。
バブル世代は、バブル景気の時期に就職を迎えた世代で、2023年時点で53~58歳の年代を指します。バブル景気とは、1990年前後に政府の円高政策で株式・不動産市場が活性化し、歴史的な好景気に沸いた出来事です。
バブル世代の人材は、多くが高度経済成長の絶頂期に生まれ育ち、好景気のなかで就職しました。そのため、消費欲がほかの世代より強い傾向にあります。また、終身雇用・年功序列・新卒一括採用という日本の雇用文化が定着した時代でもあったため、愛社精神が強いのも特徴です。社内での昇格・昇給がキャリアの目標となっている人材が多く、「出世するためであれば、長時間労働でさえいとわない」という価値観の人も珍しくありません。
就職氷河期世代とは、バブル経済が弾けた直後の就職難を経験した世代で、2023年時点で39~52歳の年代です。バブル経済後の日本では、景気が一気に冷え込んだことで、有効求人倍率が0.49倍(※1998年7~9月期)を記録するほどの就職難に見舞われました。こうした背景から、就職氷河期世代はロスジェネ世代とも呼ばれます。
就職氷河期世代の特徴は、バブル世代と比較すると、行動が堅実で慎重なことです。消費をなるべく抑え、貯蓄に回そうとする傾向があります。また、できるだけ安定した職業を目指すために、資格取得に取り組もうとするのもこの世代の特徴です。加えて、バブル経済崩壊後は、企業が徐々に年功序列から成果主義へと移行しつつある時代でした。そのため、就職氷河期世代の人材は仕事に対してストイックで、粘り強い一面も持っています。
ミレニアル世代とは、2000年代以降に就職した世代で、2023年時点で28~43歳の年代です。ミレニアル世代という名称はアメリカで生まれ、千年紀を意味する「ミレニアム」が語源とされています。ミレニアル世代は、詰め込み型の義務教育が緩和された「ゆとり世代(1987~2004年)」とも大部分が重複するのが特徴です。
ミレニアル世代は、長時間労働で出世を目指すよりも、ワークライフバランスを重視する傾向にあります。また、核家族化の影響もあって、他者との関わりにストレスを感じやすいのも特徴的です。加えて、若いころにバブル崩壊やリーマンショックを経験しているため、転職や再就職に対して抵抗感がない世代ともいわれています。
Z世代とは、アメリカで提唱された「Generation Z」に由来しており、2023年時点で13~27歳の年代を指します。
Z世代の大きな特徴は、デジタルネイティブであることです。生まれたときから当たり前のようにインターネットやスマートフォン、PCなどがあったため、ITスキル・リテラシーが高い傾向にあります。また、SNSを日常的に使用していることから、他者からの評価や評判を意識しやすく、承認欲求が強いのも特徴です。加えて、多様性を尊重するよう教育を受けてきたため、自分らしさを大事にでき、自分の主義主張を貫ける世代でもあります。
「世代間ギャップ」を解決する3つの策
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上司・部下間では、特に仕事やキャリアに対する価値観について、顕著な世代間ギャップが生じがちです。
本章では、上司・部下間における具体的な世代間ギャップの内容について解説します。
キャリアにおける成功の尺度は、世代ごとに違いがあります。例えば、バブル世代が就職した時代は、社名や肩書、給与額など、外見上わかりやすい指標が重視される傾向にありました。そのため、現在もバブル世代のなかには、「大企業に勤めること」「社内で昇進すること」を、キャリアの目標に据えている人も少なくありません。
しかし、近年は経済が不安定になり、価値観が多様化するなかでキャリアの成功尺度も変容しています。例えば、「社会に貢献できること」「気の合う仲間と楽しく働けること」を最優先に考える若年層も増えている状況です。
心理学者のエドガー・シャイン氏は、社名や肩書などの客観的な指標を「外的キャリア」、働きがいや生きがいなどの精神的な指標を「内的キャリア」として区別しました。外的キャリア志向・内的キャリア志向の強さは、世代によって差があります。上司はそれを理解したうえで、部下とコミュニケーションを取る必要があるでしょう。
※上司・部下間の効果的なキャリア面談のやり方について、詳しくはWebセミナー『上司起点でキャリア意識を高める』で解説しています。アーカイブを無料で視聴できますので、お気軽にご活用ください。
※管理職が部下のキャリア支援方法について学べる研修として、『キャリア開発支援講座eラーニング』があります。ぜひあわせてご検討ください。
※外的キャリアと内的キャリアの違いについて詳しく知りたい方は、『部下のキャリア支援を成功させるために押さえておきたい「外的キャリア」と「内的キャリア」』の記事もご覧ください。
仕事に対する熱量やコミットメント(関与の度合い)も、世代によって違いが生まれやすい要素です。例えば、経済が右肩上がりに成長していた時代には、「成果を出すには長時間労働もいとわない」「出世のためには人一倍努力すべき」といった価値観が浸透していました。しかし、近年は働き方改革やデジタルツールの流通によって、単純な労働時間の長さよりも、タイムパフォーマンス(時間対効果)が重視されるようになってきています。
公益財団法人 日本生産性本部が新入社員を対象に実施したアンケート調査(※2019年度)によれば、「人並み以上に働きたいか」という設問に対し、「人並みで十分」と答えた人材は63.5%で、過去50年の調査のなかで最高値を記録しました。一方で「人並み以上に働きたい」と答えた人材は29.0%で、過去最低値となっています。
仕事に対する熱量についても、上司が部下へ一方的な価値観を押し付けないよう、配慮が求められるでしょう。
※参考:平成31年度 新入社員「働くことの意識」調査結果|公益財団法人 日本生産性本部(PDF)
「一社に長く勤めるべきか」どうかも、世代間で違いが生まれやすいテーマです。特にバブル世代は終身雇用で一社に勤め上げることが通例でしたが、現在はVUCA時代ともいわれ、たとえ大企業であっても基盤が揺らぐリスクがあります。今や若年層にとって、社会の状況に合わせて転職することは当たり前になっているのです。
実際、マンパワーグループが入社2年目までの人材を対象にアンケート調査(※)を実施したところ、7割以上が「現在の会社で定年まで働きたくない」と回答しました。また、「定年まで働きたくない」と答えた人材の約5割が、入社1~3年程度で離職を考えているという結果も出ています。
こうした世代ごとのキャリアに対する考え方についても、上司は正しく理解しておく必要があるでしょう。
※参考:入社2年目までの若手社員の本音、「今の会社で定年まで働きたい」は3割未満。早期離職を防ぐために知るべきこととは?|マンパワーグループ
上司が部下とのコミュニケーションにおいて、世代間ギャップを乗り越えるにはどうしたらよいのでしょうか。本章では、世代間ギャップに起因する部下との対立を防ぐために、上司が意識すべき点について解説します。
上司が部下と円滑にコミュニケーションを図るには、各世代の特徴を正しく理解することがスタート地点です。
具体的には、部下がどのような社会情勢のなかで育ち、現在どのような悩みを抱え、今後どのようなライフステージを迎えるのかを知る必要があります。まずは1on1ミーティングのような場で、部下の価値観について深く傾聴するところから始めましょう。特に近年は、"年上部下・年下上司"という関係性も増えています。年下上司が年上部下と価値観を共有することで、世代が離れていても、共感をベースに対話できるようになるでしょう。
世代間ギャップが生じた際、上司が「俺の時代はこうだった」「これが会社のルールなんだから」と一方的に価値観を押し付けると、部下が心を閉ざしてしまいます。その際、重要なのが"アサーション"です。
アサーションとは、相手の意見を尊重したうえで、自分の意見を伝えるコミュニケーション手法のことです。例えば、「○○という考え方はすごく大事だね。でも、もっと仕事を進めやすくするために△△も試してみたらどうだろう」というように、部下の意見に共感や同意を示しつつ、自分から代替案を示します。部下の価値観や行動を一度称賛することで、無用な対立や衝突を防ぎ、意見をスムーズに受け入れてもらいやすくなるでしょう。
上司と部下が共通の目標を持つことも、世代間ギャップによる対立を和らげるポイントと言えます。
というのも、上司が部下に指導やアドバイスをする際、「部下側に行動や考え方を変えてほしい」という一方的な願望を抱きがちだからです。しかし、一方的なマネジメントでは、部下からの反発につながりやすくなります。
その点、上司と部下が共通の目標を掲げることで、「チームのためにお互いが変わろう」という一体感を醸成でき、部下に行動変容を促しやすくなるでしょう。年上部下・年下上司という関係性においても、同様です。共通の目標を掲げることで、年上部下に新たな役割意識が芽生え、より本人の行動変容につながりやすくなります。
どのようなアプローチが部下の世代に適しているのかは、実際に試してみないとわかりません。その点、ケーススタディで事前に"NGな行動・OKな行動"を学んでおけば、スムーズに部下とのコミュニケーションに移りやすくなります。「この世代にこのアドバイスはすべきでない」「この年代はこの言葉が行動変容につながりやすい」といった知識が頭に入っていれば、世代間ギャップによる対立も未然に防ぎやすいでしょう。
特に年上部下・年下上司の関係性においては、年下上司が気を使ってしまい、コミュニケーションの手法に迷いがちです。その際、年下上司がケース別の対処法を知っておくことで、より自信を持ってアプローチできます。
ケーススタディは人事が現場へ教示することも可能ですが、研修会社の専門カリキュラムを活用するとさらに効果が高まります。年下上司・年上部下間のコミュニケーション改善に役立つケーススタディ研修をお探しの方は、ぜひ『年上部下へのキャリア開発支援eラーニング|ライトマネジメント』もあわせてご検討ください。
育ってきた時代背景によって、個々の社員のキャリアや働き方における"当たり前"は違っています。だからこそ、上司は世代間の違いを理解し、受容したうえで部下とコミュニケーションを取ることが大切です。また、上司と部下という当事者だけでは、お互いの理解が進まず関係改善につながらないこともあります。その際は、人事が橋渡し役としてお互いの相談に乗り、必要なスキルセットやマインドセットを提供することも重要です。
加えて、近年は終身雇用の崩壊を背景に、年齢によらない人材配置が当たり前になりつつあり、「年下上司-年上部下」という関係性も増え始めています。年下上司-年上部下の関係性においては、お互いに相手に対して気を使いすぎてしまい、コミュニケーション不全に陥りやすいのが特徴です。上司と部下の関係悪化は組織の不活性化につながりかねないため、人事が仲介役としてサポートをして、関係改善に取り組む必要があります。
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