「余剰人員」とは、組織において必ずしも必要とされていない従業員のことをいいます。適材適所に人材を配置したつもりでも、余剰人員は出てきてしまうものです。近年、終身雇用の崩壊とともに余剰人員の存在が取り沙汰され、社会問題にもなっています。実際のところ、余剰人員の活用に頭を悩ませている企業も少なくないでしょう。
ただ、たとえ今期待される成果が出ていないとしても、縁があって仲間になった従業員です。いきなり「解雇」の判断をくだすのは、早計かもしれません。活かし方によっては、再び輝きを取り戻す人材がいるのも事実です。当記事では、従業員本人のためにも組織のためにも、「余剰人員の活性化に向けた施策」を真摯に検討します。
一概に「余剰人員」といっても、働きぶりや課題はさまざまです。まずは、ニュースや新聞などでも話題になる「4つのタイプ」を紹介するともに、そうした余剰人員が生まれた背景・周囲への影響についても説明します。
ローパフォーマーとは、パフォーマンスの水準が著しく低い従業員のことをいいます。
「パレートの法則(※)」では、「組織において上位2割が優秀な成果を挙げ、6割が平均的な成果で、下位2割が成果・生産性とも劣る」とありますが、この下位2割にあたるのがローパフォーマーです。採用したときは優秀に見えたものの、いざ働いてもらうと期待を下回っているというケースがよくあります。また「任せられる業務が限られるので、周囲の負担が重くなる」「報酬が成果に見合わない」など、会社への影響も少なくありません。
ただ、人材がローパフォーマー化する原因が、本人だけにあるとは限りません。例えば、事業再編でもともと在籍していた部署がなくなり、まったくノウハウの活かせない部署に配置転換になった可能性もあります。また、上司のマネジメントスタイルと合わず、ストレスで生産性が落ちていったケースも考えられます。ローパフォーマーに対しては、こうした根本原因を取り除くことで、元々のパフォーマンスを取り戻させる手もあるでしょう。
※パレートの法則...イタリアの経済学者であるヴィルフレド・パレート氏が提唱したビジネス理論です。別名で「働きアリの法則」とも呼ばれています。
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やる気のない社員・ローパフォーマーを変える方法とは? 【人事・上司必読!】
フリーライダーとは、仕事への意欲がなく成績も良くないが、成果に見合わない報酬を得る従業員のことです。
本来は経済学や社会学において「ただ乗りする人」を意味する言葉でしたが、近年ではビジネス用語としても用いられるようになってきています。フリーライダーとなっている従業員の特徴としては、「他の従業員が挙げた成果を、自分の成果のように振る舞う」「ラクしたいがために、簡単な作業をわざと時間をかけて行う」「面倒な仕事はすべて他の従業員に押しつける」などが挙げられます。これによって周囲がやる気をなくしてしまい、フリーライダーが増えてしまう......という悪循環を生んでしまう可能性もあります。
フリーライダーという言葉自体は、最近になってよく聞かれるようになりましたが、そのような従業員が急に生まれたというわけではありません。高度経済成長期、日本の企業は財政的にも余裕があったため、従業員を生涯雇い続ける「終身雇用」が当たり前でした。このときからフリーライダーはすでに存在していましたが、企業に余裕があったぶん、あえてメスを入れるまでもなかったのでしょう。しかし今は先行き不透明な社会情勢から、組織体制や人件費の見直しが進み、フリーライダーの問題が顕在化してきたのです。
モンスター社員(問題社員)の定義は会社によっても異なりますが、共通しているのは「言動に問題があり、他の社員に迷惑をかける社員」ということです。具体的には、「他の従業員に攻撃的な言葉を投げかける」「よくパワハラまがいのことをする」「無断欠席を繰り返す」「仕事をすぐサボる」などの特徴が挙げられます。モンスター社員からの攻撃が原因で優秀な人材が退職することもあり、組織全体へ悪影響がもたらされることも多いです。
モンスター社員が生まれた背景としては、社内におけるさまざまな要因が考えられます。例えば、上司が部下を攻撃してもお咎めなしの社風では、「人に暴言を発しても許されるんだ」と部下が信じ、攻撃的な従業員が育ってしまうでしょう。また、身の丈以上の職務を任され、過度なストレスが引き金となって問題行動を起こしてしまうケースもあります。問題社員に対しては上司が積極的に注意・警告を与え、改善を促す努力が必要です。ただ、ハイパフォーマーとのコミュニケーションを好み、ローパフォーマーを放任している上司が多く見られます。そこに対して最初にメスを入れるべきだと言えるでしょう。
労働意欲が低く、能率の高くない中高年社員の存在を問題視する企業もあります。一般的に余剰人員に数えられる中高年層は、「仕事を部下に丸投げする」「部下に相談されても取り合わない」「休憩や外出が多い」などの特徴があるようです。また世間では、部下に仕事を任せて自分はラクをする中高年層を「働かないおじさん」、朝出社して就業時間中はどこかへ姿を消す中高年層を「妖精さん」という俗称で呼ぶこともあるようです。
ちなみにエン・ジャパンの調査によると、「社内失業者(社内において仕事をしていない従業員)がいる・社内失業者がいる可能性がある」と答えた企業に社内失業者の年齢を聞くと、61%が「50代」と答えました。多くの企業が、社内に中高年層の余剰人員を抱えていることが分かります。また、中高年層は一般的に、年功序列によって高い収入を得ていることが多いです。そのため、報酬と働きが見合わない社員がいることに、企業は苦心しているのでしょう。
こうした余剰人員とされる中高年層は、社内環境や人事制度が原因で生まれる場合もあります。例えば、「年功序列に沿って管理職を任された結果、専門的な知識・スキルを実務で活かせていない」「社内にもグループ会社にもポストが空いておらず、ずっと同じポジションのまま」といった背景から、モチベーションが下がってしまったケースもあるのです。今一度こうした人材の強みを把握し、適材適所の配置を行うことが大切だといえます。
それでは、こうした余剰人員を活性化させるには、どのような方法があるのでしょうか。大きく分けて4つの手法を紹介します。また、それぞれの手法には運用するうえで注意すべきポイントもあるため、留意が必要です。
最初の手法は、対象となる従業員のスキルアップを図り、再び第一線で活躍できるように支援することです。具体的には、社内外の研修やセミナー、外部の資格講習、OJTなどを活用して、能力開発を行います。大切なのは、まず本人とじっくり面談をして、なりたい姿や目標を再設定すること。というのも、余剰人員とされる人たちは、現状に甘んじて目標を見失っているケースもあるからです。目標を決めたら、長期的な能力開発のプランを立てます。一度きりではなく継続した能力開発を行うことも、モチベーションを維持するうえで大切です。
<運用ポイント>
◆具体的で実現可能な目標を立てること。
目標が抽象的だと、やる気を維持するのが難しくなってしまいます。目標は「○○月までに○○の資格を取る」「○○月までに営業成績○○万円を達成する」と、具体的に決めることが大切です。かつ、その目標は実現可能で、現状よりも少し難易度が高い内容だと、挑戦する意欲が燃えてより効果的なスキルアップを図れるでしょう。
◆本人だけでなく、上司の考えも変容させること。
本人がせっかく目標と計画を立てても、周囲の協力がなければ頓挫してしまう可能性もあります。そのため、対象者の上司にも意識の変容を促し、対象者の能力開発を積極的に支えてもらうことが大切でしょう。
※参考:ローパフォーマーの行動変容を促す3つの観点|マンパワーグループ
対象者の職種・部署・勤務地などを変えることで、パフォーマンスに改善が見られることもあります。というのも、そもそも余剰人員になってしまった原因が、「事業再編によって専門性の活かせない部署に配属された」「プレイヤーとして好成績を収めていたのに、管理職を任された」など、職種や役職のミスマッチにあるケースも多いからです。配置転換や異動によって"適材適所"を実現することで、対象者が再起することも大いにあります。
配置転換を効果的に実施する方法については「配置転換を効果的に行うポイントとは?不当なケースや正しい手順を解説!」をご覧ください。
<運用ポイント>
◆「評価ツール」も同時に活用すること。
異動先を決めようにも、本人が自分の適性に気づいていないケースもあります。その際は、人材の性格・スキル・行動パターンなどを第三者が評価するツール「人材アセスメント」をうまく活用すると効果的です。具体的には、上司や部下、同僚から評価してもらう「360度評価」のほか、研修企業が実施しているカウンセリングやアセスメント研修、Webで行う適性診断などがあります。これらを活用し、対象者の隠れた強みを引き出すことが大切です。
◆異動が「権利濫用」にあたらないようにすること。
従業員が配置転換や異動を快く思わなかった場合、訴訟につながるリスクもあります。違法と見なされないために、まず就業規則に「業務上の必要があれば配置転換・異動を命じることができる」旨を書いておきましょう。そして、配転の基準が合理的であり、人選に妥当性がある(権利濫用でない)ことを対象者に説明すべきです。ちなみに過去の判例には、「社長秘書」として採用したにもかかわらず、「警備職」への配転命令を出したことが権利濫用に当たり、「配転無効」となったケースがあります(平成9年・大阪地裁)。
在籍出向とは、自社(出向元)に籍を置いたまま、従業員を他社(出向先)で勤務させることです。在籍出向のメリットは、雇用関係を維持したまま、自社で学べない知識・スキルを従業員に習得させられることです。在籍出向は一度出向させ、再び自社に戻すことが前提なので、将来的な若手社員の戦力化につながります。また、自社で昇格が難しい中高年層をグループ会社の要職に就けることで、管理職としての経験を積ませることも可能です。
<運用ポイント>
◆「違法」な出向にならないよう気をつけること。
雇用調整を目的とした在籍出向は、裁判になった場合に厳しく見られることが多いです。法令違反や、労働契約法で定められるところの「権利濫用」にあたらないよう、細心の注意が必要でしょう。具体的には、「必ず対象となる従業員の合意を得ること」「出向先での労働条件・出向期間・出向元への復帰条件などを明確にすること」「出向の必要性・人選の妥当性があること」などを確かめて、在籍出向を行うようにしてください。
雇用調整の正しい意味と実施するうえで押さえるべきポイントをこちらのEbookで解説しています。あわせてご覧ください。
お役立ち資料:雇用調整正しく理解していますか?
企業が自社社員の転職や独立を支援することを、「転進支援」といいます。というのも、必ずしも社内に残ることが、余剰人員にとって最適なキャリア形成とは限りません。従業員が外部へ転進して新たなキャリアを築けるようにサポートすることも、企業にとって人材活用のひとつでもあるのです。
転進支援のなかには、さまざまな制度が含まれています。例えば、「定年前に退職したい」という従業員を募ってセカンドキャリアを支援する「早期退職制度」や、退職後の再就職をあっせんする「再就職支援」などがあります。特に再就職支援は、従業員の早期転進を支えるサービスで、退職者が抱える不安を和らげてくれるものです。そのため、人材を送り出す企業が"最後の福利厚生"として導入するケースが多いのです。
<運用ポイント>
◆リストラとは別物であることを、周知すること。
企業が一方的に雇用契約を終わらせる「解雇(リストラ)」と、転進支援は別物です。あくまで転進支援は、従業員の意志を尊重し、自主的な転進をサポートするものです。だからこそ、従業員に転進を無理強いすることは、絶対に避けるべきでしょう。従業員の新しい出発を支える意味でも、円満な合意形成を行うことが大切です。
社内で新たな活躍の場を与えることも、外部への転進を支えることも、どちらも従業員のキャリアステージを応援することにつながります。いずれの方法が適しているかは、余剰人員のタイプによっても違います。まずは対象となる従業員と真摯に話し合い、本人の希望も踏まえてふさわしい活かし方を考えてみてはいかがでしょうか。