配置転換とは、同一の企業内で職種や勤務地を変えることをいいます。配置転換は社員のモチベーションに大きく関わるため、「効果的に行う方法が知りたい」という方も多いかもしれません。また、通達や運用の方法を間違えると訴訟にまで発展することもあるため、法律に関する正しい知識も必要不可欠です。そこで今回は、配置転換の目的や効果的に実施する方法、法律的に不当なケースや正しい手順などについて分かりやすく解説します。
配置転換とは、同一の企業内で職種や勤務地を変更することをいいます。配転(はいてん)と略されることもあり、出向・転籍・昇格などと並ぶ人事異動のひとつです。企業は使用者として、社員に対する「配転命令権」を有しています。条件としては、就業規則や労働契約に配置転換に関する明記があり、社員にも周知させていることです(※労働契約法第7条)。ただし、職権乱用に当たる場合には配置転換が無効になるため、注意が必要でしょう。
配置転換とは、どのような目的で行われるのでしょうか。ここでは、大きく4つの観点から解説します。
社員ごとにスキルレベルは異なり、合う仕事・合わない仕事があります。適性の低い部署に社員を配属させた場合、当然高いパフォーマンスは期待できません。そのため、企業として社員の職種や部署を変え、適材適所を図ることも配置転換の目的です。社員一人ひとりに適した仕事を任せることで、組織全体の生産性も高められます。
社員はずっと同じ環境で働いていると、停滞感を覚えモチベーションが下がる場合もあります。そのため、配置転換で社員の活躍の場を新天地へ移すことにより、気持ちを一新して業務に臨んでもらうことが可能です。また受け入れ部署としても新たなメンバーを迎え入れることにより、交流が促進されて活性化が期待できるでしょう。
配置転換によって社員に今までとは違う業務に挑戦してもらうことで、新たなスキルの習得を促す目的もあります。特に日本では新入社員に対して2~3年でジョブローテーションを行い、広範な能力を習得させる企業も少なくありません。定期的な配置転換を行うことで、多角的な視点を持つジェネラリストを養成しやすくなります。
現在は社会や経済の変化が目まぐるしく、企業として柔軟に事業戦略を刷新する必要に迫られています。その際、事業戦略に基づいて人材の配置を変更するケースも珍しくありません。例えば、DXにまつわる新事業部を創設する際は、テクノロジーに強い人材やプロジェクトマネジメント経験の豊富な人材を各部署から集めることになります。このように経営戦略に連動させて配置転換を行うことで、企業としての成長につなげやすくなるでしょう。
配置転換とは、どのような流れで行うべきなのでしょうか。
ここでは、一般的な手順について「3つ」のステップに分けて解説します。
内示とは、配置転換の対象となった社員に対して、配置転換の事実を内々に通知することをいいます。正式な発表である「辞令」の前に伝達することになるため、本人以外に情報が漏れることは望ましくありません。そのため、ほかの社員の目につかない会議室で上司が本人へ直接伝えたり、メールの文面で通知したりすることが一般的です。
内示を出すタイミングは、転勤の有無や業務の引き継ぎ期間なども配慮して決める必要があります。転居が発生する場合には、社員の引っ越しにかかる期間も想定し、早めに通知することが大切です。ちなみに独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査(※)によれば、本人への通知時期に関して、転居を伴わない場合は「1か月より前」が29.4%、「4週間(1か月)程度前」が20.7%、「2週間程度前」が17.2%となっています。転居を伴う場合には「1か月より前」が34.2%、「4週間(1か月)程度前」が33.7%と、早めに通知する企業も多いです。
※参考:調査シリーズ No.5労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査 ―労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅱ)―第3章 配置転換・出向・転籍について|独立行政法人労働政策研究・研修機構(PDF)
辞令とは、配置転換について正式に社内へ発表する決定通知(またはその文書)のことをいいます。企業は配転命令権を有しているため、辞令そのものは社員の同意がなくても交付することが可能です。辞令の発表方式については、特に法律で決まっているわけではありません。そのため、イントラネットや社内報に掲載したり、社外向けにホームページで公表したりと企業独自の手法で行われます。ちなみに本人への通知方法に関しても特に決まりはなく、「文書を作成して直接手渡しする」「メール文面で伝える」などの方法で行われることが一般的です。
辞令を伝えたあとは、社員に新しい部署へ異動してもらい、新天地での仕事を開始してもらいます。社員のなかには、異動後に新しい人間関係の中でストレスを抱えたり、なかなか業務を覚えられず不安になったりする人も少なくありません。そのため、企業として異動後の社員を親身になってフォローし、活躍を見守ることが大切です。
配置転換は内容次第では無効となり、最悪の場合は訴訟につながることもあります。不当な配置転換とは、どのレベルを指すのでしょうか。ここでは、過去の判例も踏まえて不当な配置転換のボーダーラインについて解説します。
日本では労働者の解雇が厳しく規制されている一方で、企業内における配置転換は効力が肯定されやすいという側面があります。以下の条件を満たす場合には、企業は社員の同意なしに配置転換を命じることが可能です。
[1]就業規則や労働契約に「配置転換を命じることができる」という趣旨の記載がある
[2]上記の記載内容に基づいて、実際に配置転換が頻繁に行われている
[3]「勤務地や職種を限定する」という内容の雇用契約が結ばれていない
ただし、「業務上の必要性がない」「動機・目的が不当である」「社員に著しい不利益がある」という場合は、権利濫用で配置転換が無効になる可能性があります。それぞれの程度や内容について、以下で詳しく解説します。
過去の判例では、「配転命令に業務上の必要性が存在しない」場合に配転命令が無効になったケースがあります(※1)。ただ、高度な必要性が求められることは珍しく、適正配置や能力開発などの目的であれば認められるケースも少なくありません。過去の判例を見ると、「余人をもっては容易に代え難いといった高度の必要性に限定することは相当ではなく」、「労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化に寄与する」場合については配転命令を肯定できるとされています(最二小判昭61年7月14日※2)。
※参考1:大阪高判平21年1月15日|全基連
※参考2:最二小判昭61年7月14日|全基連
たとえ業務上の必要性があっても、使用者側の動機・目的が不当な場合は配置転換が無効になる可能性があります。過去の判例では、退職勧奨を拒否した社員に対する「嫌がらせ」の場合(大阪地裁平12年8月28日※1)、社長に批判的な社員を本社から「排除」しようとした場合(東京地決平7年3月31日※2)などに無効となりました。
※参考1:【第35回】「退職勧奨に応じなかった、開発業務に従事していた管理職に対する肉体労働への配転命令が、権利の濫用として無効と判断され、元の部署に勤務する地位にあることが認められた事案」|厚生労働省
※参考2:東京地決平7年3月31日|全基連
配置転換によって社員に「通常甘受(かんじゅ)すべき程度を著しく超える不利益」が生じた場合は、配置転換が無効となることもあります。過去の判例では、複数の家族をひとりで看病していた社員に対して転勤を命じた場合(札幌地決平9年7月23日※1)、両親の介護が必要な社員に転勤を命じた場合(札幌地判平18年9月29日※2)などに無効となりました。ただ、配置転換によって社員が単身赴任になったり(最二小判平11年9月17日※3)、保育園への送迎が難しくなったり(最三小判平12年1月28日※4)という程度では、不当と認められていません。
※参考1:札幌地決平9年7月23日|全基連
※参考2:札幌地判平18年9月29日|全基連
※参考3:最二小判平11年9月17日|全基連
※参考4:最三小判平12年1月28日|全基連
配置転換をスムーズかつ効果的に実施するには、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。
ここでは、配置転換を行う際のポイントを大きく4つ紹介します。
配置転換は目的を定め、必要性を明らかにしたうえで行うことが大切です。その際、経営戦略や事業戦略と連動させることでより目標が明確になるでしょう。例えば、「新規事業に力を入れるため」「社内の流動化によって組織の風通しを良くするため」といった内容です。目的が明確であれば、成果の評価もしやすく、改善も図りやすくなります。また業務上の必要性が明らかになることで、社員とのトラブルも未然に防ぎやすくなるでしょう。
配置転換によって社員のモチベーションを高めるためには、できるだけ本人の希望に沿った配置にすることも重要です。人事配置を決める際には社員一人ひとりの意見をヒアリングし、キャリアプランや価値観を理解しておく姿勢も求められるでしょう。また、社員が受け入れ先から温かく迎え入れてもらえるかどうかも、配置転換の成否を決めます。そのため、人事が各部署の管理職に話を聞き、必要な人材像を把握しておくことも大切です。
配置転換の内容によっては、「なぜ自分なのだろうか」「能力不足だから異動になったのだろうか」と社員に不安を感じさせてしまうケースもあります。そのため、通達の際は配置転換になった理由・目的も含めて本人に伝えることが重要です。「異動後の部署でどれくらい期待されているのか」「どんな能力が生かせると判断したのか」を前向きに伝えることで、本人の納得感を高め、配置転換先でのモチベーション向上を図ることができるでしょう。
配置転換のリスクとして、配置転換後に社員の意欲が下がってしまい、予期せぬ退職につながってしまうことです。配置転換に対する社員の納得感を高めるためには、社員に挙手制で異動先を選んでもらう「公募型」の異動制度を取り入れることもひとつの方法でしょう。例えば、社員が自分の希望部署に強みや経歴を売り込める「社内FA制度」が挙げられます。社員に自律的にキャリアを決めさせることで、配置転換後の意欲向上にもつなげやすいでしょう。
配置転換をより効果的に実施するためには、異動後の社員を入念にフォローし、新部署での活躍を支援することが重要です。例えば、新天地で明確なキャリア展望を描いてもらえるよう、キャリアデザインの場を設ける施策が挙げられます。社員に新組織で期待される役割や目標・発揮できる強みを認識させることで、より一層の活躍を促せるでしょう。そこで当社では、年代別のキャリアデザイン研修をはじめ、人材の動機づけにつながるような豊富な研修を実施しています。ぜひ配置転換前後の人材育成をご検討の際には、お気軽にお問い合わせください。
配置転換においては、対象となった社員の"納得感"を高めてあげることで、配置転換後のモチベーションをより向上させることが可能です。ただ、社員の納得度を高めるには、人事や上司側が言葉遣いも含めた正しい「伝え方」を知っておく必要があります。そこで今回、配置転換をはじめ人事決定の通達時における正しいコミュニケーション方法をお役立ち資料にまとめました。無料でダウンロード可能ですので、ぜひお気軽にご活用ください。