「社員教育」という言葉を聞くと、いわゆる「社員研修」をイメージする方も多いのではないでしょうか。しかし、社員教育にはその目的ごとに、さまざまな種類があります。そこで今回は「社員教育の目的」「社員教育の種類・カリキュラム」「オンラインで社員教育するときの注意点」などを解説します。
社員教育とは、企業が社員に対して必要な知識・スキル・考え方を教示することです。基本的には、社員教育は企業が主導となって進めます。では、その目的とは何なのでしょうか。今回は代表的な「3つの目的」にスポットをあてて説明します。
技能や知識を教える前に、従業員たちが同じ方向を向いて働けるようにすることが肝心です。目標や仕事の価値観が共通していれば、そのぶんだけ社員が一致団結して高いモチベーションを維持して働けるからです。そのため、社員教育では「事業でどう社会・顧客へ貢献したいのか」という企業の考え方・理念を浸透させることが大切でしょう。
職種ごとに必要となる知識・スキルも大切ですが、まず社会人としての基本的な能力を身につけることが必要です。例えば、名刺の渡し方・あいさつの仕方・ビジネスライティングの方法など、社会人としての教養を身につけることも社員教育の役目だといえます。主にこうした基礎的な教育は、新卒社員の入社時に行うことが多いです。
少子高齢化の時代を迎え、労働人口が減っていくことが見込まれています。採用難による企業の人材不足も、今後ますます加速することでしょう。そうなったときに、社員一人ひとりの生産性を高めることが、1つの解決策になります。社員教育には、社員の生産性を高め、企業として長く繁栄していこうという目的もあるのです。
内閣府のアンケート調査によれば、2019年2月時点で約7割の企業が「人手不足」または「やや人手不足」と答えています(※参考1)。終身雇用制の崩壊によって、今後さらに人材の流動性が高まるともいわれています。だからこそ、社員教育によって社員の生産性を高める必要性があるのです。
また、社員教育の効果については次のようなデータもあります。内閣府の調査によると、平均的に人的資本投資額が1%上がると、労働生産性が0.6%上がる可能性が示唆されています(※参考2)。人的資本への投資は、企業の労働生産力により、その比率は変化する傾向にはあるものの、有効だと言えるでしょう。(※参考2)。以上から、社員教育は生産性の向上に効果的だといえるでしょう。
※参考1:第1章 日本経済の現状と課題 第3節|内閣府
※参考2:第2章 人生100年時代の人材と働き方|内閣府
社員教育には、実務の現場で行う「OJT(On-The-Job Training)」と、実務を離れて行う「OFF-JT(Off-the-Job Training)」の2種類あります。今回はOJTと、OFF-JTのうち集合研修・e-ラーニングについてメリット・デメリットを紹介します。それぞれ社員教育の目的に合わせて、最適なものを組み合わせることが大切です。
Off-JTについて詳しくは「Off-JTで効果を出すポイントとは?外資系と日系企業の"違い"から見る人材育成の秘策」で解説しております。
同じ部署の先輩・上司が、実務に関するノウハウを教示します。メリットは、教えるのが現場の人間ということもあり、実務に即した内容を学べることです。一方で、教え方が属人的になってしまうため、習熟度にバラツキが出るというデメリットもあるでしょう。教える内容をできるだけ可視化し、計画を立てて進めると効果的です。
専門の講師が、セミナーやワークショップを通じて知識・スキルを教示する育成手法です。職種・業界に関する知識については、自社の社員が講師になるケースもあります。ただ、ビジネスマナー・ストレスケア・資格取得をはじめ自社でまかなえない知識については外部の講師に依頼することが一般的です。集合研修のメリットは、専門的な知識・スキルを体系立てて学べることです。一方でデメリットは、同じ場所・同じ時間に参加者が集まる必要があり、高頻度での開催が難しいことです。足りない部分は「e-ラーニング」も使って補うとよいでしょう。
PCやスマホ、タブレット上で、動画・教材を見ながら学ぶ手法です。メリットは、インターネット環境があればどこでも利用できるため、スキマ時間を有効に使えることです。デメリットは、研修のような臨場感がないため、集中力が持続できないケースもあることです。集中力を持って取り組むためには、定期的に学習内容に関するテストを行ったり、学習管理システム(LMS)を導入して個人の進捗状況・習熟度を管理したりするとよいでしょう。
eラーニングについて詳しくは、「eラーニングの効果を高めるには?企業研修に活用する際のポイントを解説!」もあわせてご覧ください。
《一緒に読みたい記事》人材育成の手法とは? 正しい進め方・オンライン研修の活用法もご紹介!
ちなみに研修・e-ラーニングには、どんなカリキュラムがあるのでしょうか。具体的に紹介します。それぞれ階層別・課題別に分かれていることが多いので、対象者の役割や育成の目的に合わせて選ぶと効果的です。
「eラーニング版キャリア開発」のラインナップや特徴をご紹介した資料もご覧ください。
資料ダウンロード eラーニング版キャリア開発
※下記はあくまで一例で、企業によってさらに多くの研修・講座テーマがあります。
<階層別>
◆新入社員(新卒)
・社会人マナー(身だしなみ・表情・あいさつ・言葉遣い・名刺交換など)
・電話対応
・企業理念や事業内容などの企業理解
・メールの書き方(ビジネスライティング)
・コンプライアンス
・情報セキュリティ
◆中堅社員(リーダー・面接者 候補)
・リーダーシップの養成
・チーム内で信頼度を高めるコミュニケーションの取り方
・メンターとしての役割理解(※メンター:新人のお世話役として助言・指導を行う役割)
・面接官としての心得や質問例
・ストレスマネジメント
◆管理職
・管理職の役割と使命
・チームビルディング
・育成、指導スキルの習得(指導計画の立て方・効果的なフィードバック方法など)
・部下のパフォーマンスを向上させるコーチング
・自律型人材の育成方法
※詳しくは「管理職研修はどんな内容を実施すべき?管理職に求められる役割と合わせて解説!」をご覧ください。
<課題別>
◆ローパフォーマー(成果が伸び悩んでいる社員)の再活性化に向けた研修
・自己理解
・職業観や事業環境の理解
・キャリアカウンセリング
◆シニア・ミドル層(40代~60代の社員)の活性化に向けた研修
・ミドル、シニア層を取り巻く環境の理解
・これまでのキャリアの棚卸し
・期待される役割、求められる組織貢献の理解
◆女性の活躍を推進するための研修
・ライフイベントの乗り越え方
・育児休暇から復帰した際のキャリアカウンセリング
・女性リーダー育成
◆マネジメントを学ぶための講座
・チームマネジメント
・リーダーシップの養成
・経営戦略のケーススタディ
◆コンプライアンスを学ぶための講座
・CSRに対する理解
・個人情報保護法について
・ダイバーシティを推進する方法
◆ビジネススキルを学ぶための講座
・ホウ/レン/ソウとは何か
・敬語の使い方
・ビジネスマナーの基本
◆PCスキルを学ぶための講座
・Word、Excel、PowerPointの基本的な使い方
・Windows10の操作方法
・Illustrator、Photoshopの使い方
◆語学力を上げるための講座
・TOEICのスコアアップ術
・英会話
・ビジネス中国語 など
上記で紹介したように、社員教育の方法はさまざまです。これらを選ぶときに注意すべき点を2つ紹介します。
社員教育の出発点は、理想の人材像を明確にすることです。まず「この職種には、○○のスキル・知識が必要」と共通認識を持つところから始めます。そして、現状を調査し、今足りていない能力を見極めましょう。理想と現実のギャップが分かれば、それを埋められるような内容の育成カリキュラムを組み、実行することが大切です。
どの手法にも、デメリットはあります。それらを補う形で、複数の手法を組み合わせることが大切です。例えば、「e-ラーニングで各人が予習する」→「集合研修を受けて理解を深める」→「OJTで実践する」と、実務に活かすまでの流れをイメージしてかけ合わせます。こうして数種類の育成手法を組み合わせることをブレンディッド・ラーニング(Blended-Learning)といい、より効果的な社員教育を行うための重要なポイントです。
最近では、在宅ワークの浸透からオンライン上での社員教育も流行しています。ここでは「オンラインの手法を使うメリット」「オンラインの手法の注意点」などについて、紹介します。
PC・スマホ・タブレットを使って、インターネット上で行う社員教育のことをいいます。具体的には、研修をインターネット上で視聴する「オンライン研修」、動画・教材を見て自主的に学習する「e-ラーニング」があります。オンライン研修には2種類あり、リアルタイムに講義を行うタイプと、録画した講義を配信するタイプです。
インターネット環境さえあれば好きな場所で利用できるため、特定の場所へ集まる手間が省けます。また、e-ラーニングや録画するタイプのオンライン研修なら時間の制約もないため、スキマ時間の有効活用にも最適です。
◆インターネット環境の悪い場所では使いにくい。
当たり前ではありますが、インターネット環境が劣悪だと、逆に不便になることもあります。例えば、リアルタイムに講義を行うオンライン研修で、ネットがうまくつながらず中断してしまうケースです。そのため、オンラインの手法を取り入れる際は、まず社内のネットワーク環境を万全に整備しておくことが必須といえるでしょう。
◆受動的になりやすい。
オンライン上の手法は集合研修のように臨場感がないため、ともすれば"流し見"で終わってしまうケースもあります。そのため、「受講前に目的を確認する」「受講後にテストをする」「別途ワークショップを開催する」「すぐ質問に答えられる社員をそばに配置する」といった方法で、習熟度を高める工夫をするとよいでしょう。
社員教育は、企業の生産性を高めるうえで欠かせない人事戦略です。とはいえ、最適な手法を選ぶのは簡単なことではありません。ぜひ外部のプロフェッショナルも活用しながら、効果的なカリキュラムを設計してみてはいかがでしょうか。
「自ら考え⇒判断⇒行動」できる自律的人材の育成、経営戦略を実行するうえで必要な人材の階層別育成、階層やキャリアといった枠にとらわれず、企業が業績向上を実現するために取り組む必要のある人材育成課題など、「人」と「組織」の問題を解くご支援をいたします。