

「特定の社員の言動が、周囲に悪影響を与えている」「それなのに、管理職が指導に踏み切れない」
こうしたご相談が、企業の人事部門から増えています。
本来であれば注意・指導されるべき社員が強く不満を訴え、注意・指導すべき管理職の側が委縮してしまう。この"逆転現象"は、いまや多くの職場で静かに広がっています。
人事としてこの状況を目にすると、「管理職の対応」に目が向きがちです。しかし、問題の根はもう少し深いところにあります。
なぜ管理職は指導をためらうのか。なぜ部下との関係は改善しないのか。本記事では、この構造を整理して解説し、人事として考えたい取り組みをご紹介します。
仕事への不満の吐露、他者への批判、評価への不服、上司への攻撃的な発言――これらは単なる業務遂行能力の問題ではなく、職場全体のモラルや風土を蝕む要因です。
こうした言動の背景には、次のような心理が見られます。
この状態が放置されると、本人の成長が止まるだけでなく、周囲のモチベーション低下、チームの一体感の崩壊、さらには優秀な社員の離職にまでつながりかねません。
人事として見過ごせないのは、問題社員の存在そのものよりも、その言動が放置されていることです。
問題社員への対応の具体的な進め方については、こちらの記事で詳しく解説しています。
職場の問題社員対応、どうする?適切な対話とサポートで組織の生産性を守る方法
では、なぜ問題となる言動に毅然と向き合えない管理職が増えているのでしょうか。人事部門に相談が上がる頃には、すでに管理職自身が疲弊しているケースも少なくありません。その背景には、主に3つの要因があります。
ハラスメントリスクを意識するようになったこと自体は良いのですが、その結果として「指導すべき場面でも何もできない」状態に陥っているとしたら、組織としての機能が十分に働いていないと言えます。
人事の立場から見ると、「なぜ指導が進まないのか」と感じる場面もあるでしょう。しかし、まず問うべきは「管理職が安心して指導できる環境を、会社として整えているか」ではないでしょうか。
ここまで見てきた管理職の躊躇は、別の角度から見ると、組織の「ネガティブフィードバック」機能が壊れている状態とも言えます。
ネガティブフィードバックとは、問題行動や改善点を本人に直接伝え、行動変容を促すコミュニケーションのことです。健全な組織では、以下のサイクルが機能しています。
しかし、管理職が指導を躊躇すると、このサイクルが止まります。
この負のスパイラルが一度始まると、管理職個人の努力だけでは止めにくくなります。

人事が注目すべきは、「なぜあの管理職は指導しないのか」ではなく、「なぜこの組織ではネガティブフィードバックが機能しないのか」という構造的な問いです。では、人事としてこの構造をどう変えればよいのでしょうか。
フィードバック研修を導入された三井化学株式会社の事例インタビュ―記事はこちら
ここまで見てきたとおり、問題の本質は管理職個人の力量ではなく、組織としてネガティブフィードバックが機能していないことにあります。とすれば、人事が取り組むべきは「管理職を責めること」ではなく、「管理職が安心して指導できる環境を整えること」ではないでしょうか。
具体的には、次の4つが柱になります。
「どのような状態になったら、誰が、どの手順で関与するのか」が決まっていないと、管理職は個人の判断で動くしかなく、萎縮の原因になります。基準の明文化は、管理職を守る仕組みでもあります。
個別ケースを管理職一人に抱えさせず、人事が相談窓口として伴走する。指導の記録の残し方、面談の設計など、実務面の支援があるだけで管理職の心理的負担は大きく下がります。管理職が「一人で抱えなくていい」と感じられるだけでも、最初の一歩は踏み出しやすくなるのではないでしょうか。
「何を伝えるか」だけでなく「どう伝えるか」は、自然に身につくものではありません。ネガティブフィードバックの手法は研修を通じて体系的に学ぶことができます。
フィードバック研修を導入された三井化学株式会社の事例インタビュ―記事はこちら 事例インタビュー
評価で課題を指摘しても、その後の改善支援が仕組みになっていなければ、指導は属人的なままです。評価→フィードバック→改善支援→処遇という一連の流れを制度として設計することが、再発防止につながります。
前述の④のように、評価と改善支援を制度としてつなぐ仕組みの一つに、PIP(業績改善プログラム)があります。
PIPには「退職勧奨の手段」というネガティブなイメージが根強くありますが、近年は状況が変わりつつあります。日系企業を中心に、PIPを「期待値とのズレを早期に是正し、パフォーマンス向上につなげる育成型のマネジメント施策」として導入する動きが広がっており、対象もミドルシニア層に限らず、実力を発揮できていない20〜30代の若手にまで拡大しています。
育成型のPIPが機能すると、管理職にとっては「指導の拠り所となる枠組み」ができ、対象社員にとっては「何をどこまで改善すればよいか」が明確になります。本記事で見てきた「指導できない構造」を、制度の力で変えていく選択肢の一つとして検討に値するのではないでしょうか。
ただし、運用を誤ると本来の目的が誤解され、かえって現場の不信を招くことがあります。導入を検討する場合は、目的の明確化と管理職への運用トレーニングをセットで設計することが大切です。
PIPの本来の目的と進め方については、こちらの記事で詳しく解説しています。 PIPは組織力の成長に貢献!適切な指導とコミュニケーションが成功のポイント
なお、この問題は管理職側だけで完結するものではありません。部下が上司との関係を主体的に築く「ボスマネジメント」の姿勢も、健全なフィードバック文化には欠かせない要素です。詳しくはこちらの記事をご覧ください。ボスマネジメントとは?上司との協働をスムーズにする"6つ"の手法
また、指導の場面では「事実を率直に伝えながらも、相手への期待が届く伝え方」が求められます。萎縮からくる機械的な伝え方は、かえって反発や誤解を招きかねません。伝え方を体系的に学ぶ方法は、こちらの録画セミナーで解説しています。録画セミナー|ネガティブフィードバック~嫌われても、きちんと伝える技術~
問題社員への対応は、管理職個人の力量や度胸だけに頼る対応には、限界が見え始めています。
この2つの課題に、人事として向き合うことが求められています。
管理職の覚悟ある関わり、本人の行動変容、そして会社としての支援体制。三者が連動して取り組むことが、これらの課題解決につながり、組織全体の生産性と風土の改善をもたらしていきます。
マンパワーグループでは、ネガティブフィードバック研修やボスマネジメント(被評価者)研修を通じて、管理職と部下の関係性を改善し、健全なフィードバック文化を持つ組織づくりを支援しています。