近年は少子高齢化が進んでおり、多くの企業が「思うように人材を採用できない」と頭を悩ませています。そのような状況のなかで退職者が増えてしまうと、採用活動に多大なコストと時間がかかったり、リーダー候補が育たず後継者難に陥ったりと、企業に深刻なダメージが及びます。企業としては人事制度の見直しや職場環境の改善といったリテンション施策を考え、従業員が離職を選択しないような組織を作らなければいけません。
その際、何よりも優先して取り組むべきは、退職者の"本音"を理解することです。彼ら退職者は、一度は自社を選んで入社したにもかかわらず、何らかの理由で自社を去る選択をしています。その退職理由こそが、自社が抱える課題の解明と有効なリテンション施策立案のカギになり得るのです。そこでこの記事では、退職者から真の退職理由を引き出すことの重要性と、その手法についてわかりやすく解説します。
※リテンションについて詳しく知りたい方は、『【保存版】社員の定着率を上げるリテンション手法"7選"!』の記事もあわせてお読みください。
退職者インタビュー実施事例をダウンロードする|離職率低減に役立つ"退職者のホンネ"の聞き出し方
大前提として、退職理由には「本音」と「建前」があります。退職者は必ずしも人事や上司に対して、本音の退職理由を伝えてくれるとは限りません。本章では、退職者が本当の退職理由を隠してしまう背景について解説します。
退職の意思を上司へ報告する際、あえて退職理由を正直に伝えていない退職者も多くいます。例えば、本当の退職理由が「組織内の人間関係が悪いから」だったにもかかわらず、「理想のキャリアをかなえたいから」と伝えるようなケースです。また、「給与が低い」「残業が多すぎる」といった職場へのさまざまな不満を抱えていたとしても、本当の退職理由は隠し、「新しい転職先が決まったから」とだけ伝える退職者も珍しくありません。
退職者が本音を隠す背景には、上司や企業に対する遠慮があります。例えば、「人間関係が悪い」「上司のマネジメントに不満がある」という退職理由を上司へそのまま伝えると、相手を傷つける恐れがあります。また、本当の退職理由を伝えることで"自社批判"のように受け取られてしまう可能性もあるでしょう。こうしたリスクを冒してまで本音を伝えるよりも、円満に退職をするために真意を隠すという人もいるのです。
しかも、退職理由がひとつだけという人は珍しく、複数の不満や不安が重なっているケースがほとんどです。多くの要因がまじり合っている場合、相手に納得してもらえる形で退職理由を説明するのは困難と言えます。また、特定の年代や役職にとっては深刻な悩みであっても、ほかの立場から見れば理解しがたい退職理由もあるでしょう。そのため、退職者のなかには「説明してもわかってもらえない」と考え、あえて本音を隠してしまう人もいます。
このように企業が退職者の本音を把握するのは、非常に難しいのが実態です。しかし、退職者の本当の退職理由を理解できていないと、企業は誤ったアプローチで自社の人事制度や職場環境を変革しかねません。だからこそ、退職者の心理に深く寄り添いつつ、真意を理解しようと努めることが、定着率の改善に向けた出発点と言えます。
退職者から本当の退職理由を引き出すことで、企業にどのような利点があるのでしょうか。
本章では、企業が退職者一人ひとりの退職理由を正しく理解するメリットについて解説します。
企業が退職者の退職理由を正しく知ることで、まず自社の改善点を推察することができます。
例えば、「給与が見合っていない」「頑張りが報われない」といった退職理由が多く聞かれる場合、人事評価制度に問題点が潜んでいる可能性があります。また、「もっと仕事で社会貢献できると思っていた」「思ったより仕事が単調でやりがいが感じられなかった」という退職理由が挙げられた場合は、期待していた職務と実際の仕事内容にミスマッチが生じている事態も考えられるでしょう。
こうして客観的に課題を浮き彫りにすることで、改善に向けたアクションを取りやすくなります。
自社の改善点を正しく把握できれば、最適なリテンション施策を実行しやすくなります。
例えば、人事評価制度に不公平感がある場合は、プロセス評価の仕組みを取り入れたり、成果に応じたインセンティブを導入したりすることも可能です。また、残業時間に問題がある場合には、デジタルツールの導入や時短勤務・テレワークの推進、要員配置の見直しといった施策を実行することで、状況の改善につなげられる可能性があります。
こうしたリテンション施策を速やかに実行することで、退職の要因がひとつずつ取り除かれ、従業員エンゲージメントの向上が期待できます。結果的に従業員の退職を防止しやすくなり、定着率の向上を目指せるでしょう。
退職者のなかには、職場への不満を誰にも打ち明けられず退職することに、もどかしさやストレスを感じている人もいます。その点、企業側が退職理由について対話する場を設けることで、退職者の精神的なケアを図ることが可能です。やむを得ず退職を選択した従業員に対して、企業として原因を理解しようと最大限に努め、最後まで退職者に寄り添う姿勢を示すのです。このように真摯な姿勢で誠実に退職者と向き合うことで、わだかまりが解消され、退職後も良好な関係を築きやすくなるでしょう。
近年は退職者を「アルムナイ(※OB・OGの意味)」と呼び、社外のビジネスパートナーとして関係を継続する企業も少なくありません。また、出戻り制度を設けて、アルムナイを再雇用する企業も増えています。今後は雇用の流動化でさらなる採用難が予想されるため、退職者も貴重な人材候補になり得ます。その意味で、退職者に本音を話してもらうための場を用意し、不満をすこしでも解消しておくことは非常に有意義と言えるでしょう。
退職者から本音を引き出すのは一筋縄ではいかないため、コミュニケーション方法に十分な工夫が必要です。
本章では、退職者から退職理由を引き出すためのポイントについて解説します。
退職理由をヒアリングするひとつの手法として、退職者に対するアンケート調査(エグジットサーベイ)が挙げられます。また、オンボーディングツールやストレスチェックツールなどで、簡易的に職場への不満を聞き出すのも一案です。こうしたアンケートやツールは、効率的に退職者の回答データを収集したい場合は適しています。
ただし、アンケートやツールは手軽に回答できる分、退職者側に「適当に答えればいい」という心理が働いてしまいかねません。結果的に、本音の退職理由を引き出すのが難しくなってしまうケースもあるのです。
その点、個人面談のように対面形式の場合、退職者側に「誠実に答えよう」というモチベーションが生まれます。また、対話形式であれば、アンケートにはない定性情報も臨機応変に引き出しやすくなるのが利点です。加えて、企業からの感謝の気持ちやねぎらいの言葉も直接伝えられるため、退職者のケアにつながります。退職者から本音を引き出すためには、ツールより対話の方が望ましいと言えるでしょう。
上司が1on1ミーティングのような場を活用し、退職予定者から退職理由をヒアリングするという方法も考えられます。上司と部下が、普段から本音を言い合えるような間柄であれば問題ありません。しかし、上司と部下には上下関係があるため、部下側が気を使ってしまい、素直に退職理由を言えないケースがほとんどです。また、相手が社内の人間というだけで、退職者が周囲へ情報が広がることを恐れ、本音を言えなくなることもあります。
そのため、できるだけ利害関係のない相手が対話することもポイントです。例えば、直属の上司よりは人事部門の方が、人事部門よりは社外のキャリアコンサルタントの方が、退職者との利害関係は薄くなります。特に社外の相手であれば、「何を言っても社内での評判に影響がない」という安心感から、退職者の心理的安全性も高まります。退職者の本音を引き出すには、担当者の人選にも配慮しましょう。
※心理的安全性について詳しく知りたい方は、『心理的安全性を高めるには?効果的な施策を人事・上司それぞれに解説!』の記事もあわせてお読みください。
対話の目的が明確になっていないと、退職者は不安に感じてしまいます。「この会話の内容は何に使われるのだろう」「この調査はどこまで公開されるのだろう」と身構え、本音を言えなくなる場合もあるでしょう。
そのため、退職者に退職理由を聞く際は、目的と情報の開示範囲を明確に決めておく必要があります。そのうえで、本人に必ずその内容を明示しましょう。例えば、「面談内容は職場改善のためだけに活用する」「職場へ引き留める目的ではない」「守秘義務を徹底し、個人に属する情報は一切公開しない」などの内容を本人へ明示しておきます。目的が明らかであれば退職者も安心感を抱きやすくなり、本音を話しやすくなるでしょう。
退職者の本音を引き出すための効果的な手法として、「退職者インタビュー」があります。
本章では、退職者インタビューの定義や役割、実施方法について解説します。
退職者インタビュー実施事例をダウンロードする|離職率低減に役立つ"退職者のホンネ"の聞き出し方
退職者インタビューとは、退職理由や自社の改善点について、退職者と1対1で対話し本音を引き出す面談のことです。「退職面談」や「エグジットインタビュー」とも呼ばれ、欧米では退職者へのケアとして広く実施されています。退職者インタビューは、退職手続きの完了後や退職日の直前などのタイミングで、人事部門の担当者または社外機関のキャリアコンサルタントなどによって実施されることが一般的です。
企業は退職者インタビューを通じて、社内の人間関係やマネジメント体制、給与水準、福利厚生、人事制度などに関する率直な意見を収集できます。退職者インタビューの実施後は、面談記録をレポートとしてまとめ、職種や年齢ごとの退職理由の傾向を分析することも可能です。こうした分析結果を人事制度や福利厚生の改善につなげることで、より従業員にとって働きやすい職場環境を生み出し、離職率の改善につなげられます。
退職者インタビューを実施する際、より高い成果が見込めるのは"社外の第三者"による面談です。
というのも、利害関係のない社外の人間がインタビュアーを担当した方が、退職者が本音で話しやすくなるからです。また、専門機関のキャリアコンサルタントの場合、表情や声のトーン、話の進め方など、退職者から本音を引き出すための高度なスキルを保有しています。そのため、一層スムーズに退職者インタビューを実施できるのです。加えて、社外の専門家のインタビューだからこそ、退職者自身の自己理解も深まり、本人も言語化できていないような退職理由が出てくることもあるでしょう。
より効果的な退職者インタビューを実施したい場合には、社外の専門機関へ依頼することをおすすめします。
マンパワーグループ株式会社 ライトマネジメント事業部では、経験豊富なキャリアカウンセラーによる『退職予定社員向けインタビュー』のサービスを提供しています。ライトマネジメントの退職者インタビューでは、退職者から本音を引き出せるだけでなく、課題や原因を分析したレポートも成果物として受け取ることが可能です。退職者インタビューの実施を検討の際には、ぜひお気軽にご相談ください。
人事部門の業務は多岐にわたるため、退職者へのケアにはなかなか時間を割けないという企業も少なくありません。しかし、退職者の本音には職場環境をより良くするためのヒントが隠されています。特に退職者インタビューは、退職者の退職理由を正しく理解するために高い効果の見込める施策です。「退職者から学ぶ」姿勢を持って定期的に退職者インタビューに取り組むことで、離職率の改善を目指しやすくなるでしょう。
退職者インタビューの具体的な実施方法やコツ、実際の事例については、以下のお役立ち資料で詳しく解説しています。無料でダウンロードが可能ですので、ぜひお気軽にご活用ください。
退職者インタビュー実施事例をダウンロードする|離職率低減に役立つ"退職者のホンネ"の聞き出し方