定年を迎える社員に対して、「定年後の生活をできるだけ充実させてあげたい」と考える企業も多いと思います。
現在は「高年齢者雇用安定法」で65歳までの雇用機会が確保されていますが、社員のなかには他社への再就職や完全なリタイアを望む人もいるかもしれません。場合によっては、夢をかなえるために独立開業を選択する社員もいます。企業にとっても、人件費の負担や組織の若返りなどの観点から、再雇用がベストではないケースもあるでしょう。定年後の選択は、再就職や再雇用、起業などがありますが、どれが企業・社員の両者にとって最適なのでしょうか。
そこで今回は、定年退職者に最適なセカンドキャリアを選択してもらうための方法について解説します。具体的には、「定年退職者に与えられる選択肢の種類」や「それぞれのメリット・デメリット」、「定年退職者のセカンドキャリア選択を支えるために企業としてできること」について紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
そもそも定年退職者に対して提供できる、定年後の選択肢にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、「継続雇用」「再就職」「独立」「リタイア」という4つの選択肢に分けて、それぞれの特徴について解説します。
継続雇用とは、定年退職後も再雇用・勤務延長などの方法で社員を雇用し続けることです。平成25年に「高年齢者雇用安定法」が改正されたことで、希望者全員に対して65歳までの雇用機会を確保することが企業に義務付けられました。その結果、今ではほとんどの企業が、「65歳までの継続雇用制度」を導入しています(※1)。
ちなみに継続雇用には2つの方法があり、社員に一度定年退職してもらった上で再び雇用する「再雇用」と、退職の手続きなしでそのまま雇用し続ける「勤務延長」です。人事院の調査(※2)によれば、継続雇用制度を導入している企業のうち91%が「再雇用制度のみ」を実施しており、定年後の継続雇用では再雇用が一般的です。
定年退職者にとって再雇用のメリットは、ゼロから仕事を探す手間がないことです。基本的には慣れ親しんだ職場でそのまま働けるため、精神的な安心も得やすいでしょう。ただ、デメリットとして定年前と雇用条件が変わるケースもあります。厚生労働省の調査(※3)では、約6割の企業が再雇用時に嘱託・契約社員で人材を雇用しており、賃金水準も定年前の平均7~8割まで下がります。場合によっては、条件に不満を感じる社員もいるかもしれません。定年退職者に再雇用を勧める際には、このように一長一短があることも伝えることが大切です。
再就職とは、社員に定年退職してもらい、別の企業で新たに就職してもらう方法です。再就職の方法としては、ハローワークやシルバー人材センター、シニア向けの人材紹介、転職サイトなどの活用が挙げられるでしょう。
再就職を選ぶことで、定年退職者にとってはさまざまなメリットがあります。例えば、自分の意思で仕事を選び直せる点です。「資格を生かせる仕事がしたい」「自分の好きな業界に挑戦したい」という人にとっては、新たな挑戦へ踏み出せるチャンスになるでしょう。また、今までの職場を離れて人間関係を一新できることも、再就職の特徴です。新しい職場で別のコミュニティを形成できるため、人生により広がりが生まれるかもしれません。
一方、デメリットもあります。例えば、必ずしも希望に合う求人があるとは限らないことです。60代を対象にした求人は数が限られており、求人があったとしても賃金水準が折り合わない場合もあります。また、退職後にブランクが空くことで働く感覚が鈍ってしまい、ますます就職が難しくなるというケースもあるかもしれません。
定年退職者のなかには、一度退職してから起業する人もいるかもしれません。例えば、自分の知見やノウハウを生かして会社・店舗を設立したり、農業や漁業などに挑戦したりする人もいます。また、今までと近しい業務をフリーランスとして続ける人もいるでしょう。必ずしも定年前と同じ水準の収入が得られるかは分かりません。ただ、定年後の再就職と同じように、自分の希望を生かして新たな分野に挑戦できるのが最大のメリットです。
定年退職者のなかには、完全に仕事から離れることを望む人もいます。リタイアによって今までの疲れを癒やしたり、趣味に打ち込んだりすることも可能です。場合によっては、地域の社会貢献活動に取り組む人もいるでしょう。一方で、年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金)の受給開始が「65歳」からなので、無収入の期間が生まれることになります。そのため、定年退職者は何らかの方法で生活基盤を安定させておく必要があるでしょう。
定年後にはいくつかの選択肢がありますが、実際のところはどの働き方が最も多いのでしょうか。厚生労働省の調査(※)によれば、60歳を定年としている企業では、定年到達者のうち85.5%もの人が「継続雇用」をされている状況です。継続雇用の人気が高い一方、14.4%は継続雇用を希望していないのも見逃せません。企業としては、定年退職者一人ひとりの希望に応じた支援策を考える必要があるでしょう。
定年退職者にキャリア選択を促す際は、本人の意思はもちろんですが、企業側のメリット・デメリットも考慮に入れるべきでしょう。そこで、まずは「再雇用」を勧める場合の企業側のメリット・デメリットを紹介します。
◆労働力を確保できる
定年退職者が出てしまうと、空いたポジションに新たに人を採用する必要があります。ただ、少子高齢化が進む今、人材難に悩む企業も少なくありません。その点、再雇用で貴重な人材を確保できることはメリットと言えます。
◆豊富な知見や人脈を活用できる
シニア人材はこれまで幅広い人脈を築き、豊富な知見やノウハウを蓄積している貴重な人材です。こうした人材の持つネットワークやスキルを活用することで、企業の競争力や顧客満足度の向上にもつなげられるでしょう。
◆育成コストを削減できる
新たに人材を雇い入れる場合、ゼロから育成する必要があります。ただ、人材を一人前に育て上げるコストは決して少なくありません。その点、再雇用前の職務内容と同じであれば経験豊富なシニア人材は教育の必要がなく、育成費用も抑えられます。それだけでなく、シニア人材に若手世代の教育担当を任せることで、社内全体のスキルアップを図ることも可能です。
◆世代交代が進まなくなる
シニア人材が会社に残り続けることで、若手人材が委縮したり、裁量のある仕事を任せてもらえなくなったりする可能性もあります。そのため、ほかの人材のキャリア形成も考慮し、業務量のバランスを考えることが重要です。
◆本人の意欲の維持が難しい
再雇用によって給与水準が下がったり、役職から外れたりすることで本人のモチベーションが低下する可能性もあります。そのため、再雇用者向けのインセンティブや評価制度を用意し、動機づけを図る必要があるでしょう。
◆人事制度の再設計が求められる
再雇用者は勤務時間が短くなったり、仕事の裁量が制限されたりすることもあります。そのため、一般社員と同じ評価・報酬制度で管理するのが難しくなる可能性も高いです。そのため、人事制度の再設計も必要になります。
一方で、定年退職者のなかには再雇用を希望せず、「再就職」の道を選択する人も一定数いるでしょう。
ここでは、社員が再就職を選択することで、企業にとってどんなメリット・デメリットがあるのかを解説します。
◆組織の若返りを図れる
今までシニア人材が担っていたポジションが空くことで、若手人材を起用するチャンスが増えます。そのため、若手世代によりチャレンジングな業務・役職を任せることができ、社内のスキルアップを図ることが可能です。
◆人件費の削減につながる
定年前よりも賃金水準が下がるとはいえ、シニア人材を再雇用するためには、相応の給与を支払う必要があるでしょう。そのため、本人が再就職を希望することは、短期的に見れば企業にとって人件費の抑制につながります。
◆本人に新たな可能性を提示できる
「新しい職種に挑戦したい」「資格を生かして働きたい」という理由で、本人が再雇用を希望しないケースもあります。その際は、企業として再就職を支援することで、本人の充実したキャリア形成をあと押しできるでしょう。
◆貴重な技術・人脈が失われる
シニア人材は、豊富な業務ノウハウや顧客とのネットワークを持っている場合も多く、企業にとっては非常に貴重な人材です。そのため、手放してしまうことで業績にネガティブな影響が及ぶケースもあるかもしれません。
◆人手不足になる可能性もある
若手人材はどの企業でも需要が高いため、採用するのが難しい場合もあります。そんななかで優秀なシニア人材まで手放してしまうと、社内の各部門で人手不足になり、社員の業務負担が増えてしまう可能性もあるでしょう。
◆採用・教育コストがかかる
定年退職によって減った人数は、採用によって補わなければいけません。ただ、求人広告の掲載や各種選考には当然ながらコストがかかります。また、新入社員を育て上げるための育成コストも追加でかかってくるでしょう。
定年退職者の選択によって、企業の採用計画や組織構成も少なからず変わってくるものです。だからこそ、企業としては定年退職者に対して早期に働きかけ、本人・企業の双方が納得できるようなキャリアを選択してもらう必要があるでしょう。そこで、定年退職者のキャリア選択を促すために企業としてできる支援策を紹介します。
すべての社員が自分の老後について、明確に決定できているわけではありません。なかには定年間近で、「再雇用と再就職のどちらを選ぶべきか」と悩んでいる人もいるでしょう。だからこそ、定年後のセカンドキャリアについて、企業として情報提供の場を設けることが大切です。例えば、50代後半の社員を対象に説明会を開いたり、個別に面談を実施したりという方法があります。キャリア選びの選択肢や再就職の方法、年金の受給額などについてトータルに解説することで、社員にセカンドキャリアに向けた早期の準備を促すことができるでしょう。
セカンドキャリアは人生を左右するため、急に決めきれるものではありません。だからこそ、キャリアについて考える「時間の余裕」を提供することも重要です。例えば、まとまった日数の「特別休暇」を設けるのもひとつの方法でしょう。また、再就職を希望する社員には、余裕を持って就職活動に取り組めるよう時短勤務を適用するという支援もあります。十分な準備期間を設けてあげることが、最良の選択に向けたあと押しにもなるでしょう。
定年後に希望のキャリアに就くには、新たなスキルが必要になることもあります。そのため、企業として定年予定者にスキルアップの機会を提供することも大切です。例えば、資格取得に向けて図書費用を負担したり、試験費用を支給したりするのもよいでしょう。また、社外の研修やセミナーを受講できるよう、資金を提供するのも効果的です。企業として新たな学びを支援することで、再雇用後のモチベーションアップにもつながるでしょう。
キャリアを決めるためには、定年退職者が自分の強みや興味の方向性について理解しておく必要があります。そこで有効なのが、「キャリアデザイン研修」です。キャリアデザイン研修とは、人材がキャリアの棚卸しや自己診断によって自己理解を深め、職業人生を設計し直すための研修のことを言います。キャリアデザインの場を設けることで、シニア人材に働く意味や仕事の価値観に気づいてもらい、最適な選択を促しやすくなるでしょう。
≪一緒に読みたい記事≫キャリアデザイン研修の効果とは?効果を最大化させる4つのポイント|ライトマネジメント
定年退職者が再就職を希望したとしても、自力ではなかなか就職先を見つけられないことも珍しくありません。そのため、企業として定年退職者の再就職を支えるという方法もあります。それが、「再就職支援サービス」の活用です。再就職支援サービスとは、雇用企業が再就職支援会社と契約することによって、退職予定者が自己分析のサポートや求人の紹介、再就職のあっせんなどを受けられるサービスです。もともとは早期退職や希望退職の対象者に対するケアとして浸透しましたが、今では定年退職者に対する恒常的な支援としても活用されています。再就職支援によって仕事探しを手厚く支えることで、退職予定者を安心して送り出すことができるでしょう。
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仮に定年退職者を再雇用することになった場合、一般社員と同じ人事制度を適用するのが難しいこともあります。そのため、再雇用者向けに人事制度を設計し直すことも重要です。例えば、スキルの専門性に応じた報酬制度を導入したり、時短勤務でも正しく評価されるような評価制度を導入したりという方法が挙げられます。
再雇用後にモチベーション低下に陥る人材も珍しくないからこそ、適切な人事制度で意欲向上を図ることが大切でしょう。
「再雇用制度を設計・見直しする際のポイントとは?法律上の注意点についても解説!」もあわせてご覧ください。
シニア社員向けキャリアデザイン研修の考え方、50歳からの意識づけ、上司の関わり方、外部のカウセリングの活用といった会社全体の仕組みとしてどのようにシニア社員の意識醸成を実現していくのかについて解説した動画セミナーもご覧ください。
セミナー|再雇用・定年延長も視野に入れたキャリアデザイン研修構築のポイント
定年退職者に充実したセカンドライフを送ってもらうためには、企業が責任を持ってさまざまな施策で支援することが大切です。その際、外部の専門サービスを活用することで、より手厚い支援を行うことができるでしょう。当社では、退職後の再就職をあっせんする「再就職支援サービス」や、職業人生の設計をお手伝いする「キャリアデザイン研修」、再雇用者向けの人事制度を設計する「役職定年/再雇用制度コンサルティング」などさまざまなサービスを提供しています。定年退職者への支援策をご検討の際には、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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