人材活用の仕組みを意味する、人材マネジメント。正しい手法やプロセスを用いることで、組織のさらなる成長につなげられます。そこで今回は、「人材マネジメントの意味」や「人材マネジメントの目的やプロセス」、「人材マネジメントを成功させるポイント」など、今知っておくべき情報を分かりやすく網羅的に紹介します。
人材マネジメントとは、企業がビジョンや業績目標の達成を目指し、人材を有効活用する仕組みのことです。具体的には、採用した人材に対して適切な教育を施し、働きに見合った評価・配置を行い、報酬を与えるという一連のプロセスをさします。企業として目指すべきゴールを見据えたうえで、各プロセスを回すことが重要です。
人材マネジメントをうまく行うことで、企業は個々の従業員のパフォーマンスを最大化させ、組織全体の生産性やモチベーションを高められます。それによって企業は、さらに市場での競争力をつけることができるのです。
人材マネジメントは、大きく「採用」「教育」「評価」「報酬」「配置・異動」「休職・復職」という6つの構成要素に分けられます。ここでは、6つの要素それぞれについて意味と効果を解説します。
必要な人材を、外部から雇い入れることです。大切なのは、経営戦略に照らし合わせて、採用すべき人材の要件を決めること。適切な人材を採用することで、企業としての競争力を伸ばすことができ、市場における優位性も高めることができます。また、企業理念に共感できるような人材を雇い入れることで、組織全体のエンゲージメント(その企業に貢献したいという想い)も高められるでしょう。
従業員の職種や役職に合わせて、必要な育成を行うことです。具体的には、社会人としての基礎を学ぶ入社時の研修や、現場でノウハウを学ぶOJT、専門スキルを高めるためのセミナー、資格取得に向けた勉強会などが挙げられます。教育を通じて、従業員一人ひとりのスキルやモチベーションをアップさせることが可能です。
従業員の働きに合わせて、昇給や昇格などの評価を行うことです。大切なのは、職種や役職ごとに納得度の高い評価制度を定めておくこと。そうすることで、従業員一人ひとりのモチベーションをさらに高められます。
従業員の働きに応じて、給与や福利厚生を与えることです。固定給とは別に、目標の達成度合いに応じて支給されるインセンティブもこれに含まれます。成果が正しく反映されるような報酬の基準を決めておくことで、従業員の労働意欲をさらに高めることができ、各人のパフォーマンスを最大化させることにつながるでしょう。
従業員の適性に合わせて、部署異動・職種転換・出向などを行うことです。というのも、最初に配属された部署が従業員にとって最適な場所とは限りません。働きに応じて適材適所の人材配置を行うことで、本人のやる気や能力を伸ばすことができ、組織としての生産性も高められます。
従業員の労務を一時免除すること、そして再び職場へ戻る際に支援を行うことです。具体的には、体調が悪くなった際、出産・育児をはじめライフステージが変化した際などに、適切な休暇を設けます。従業員にとって必要なタイミングで休むことができ、スムーズに復帰できる環境があることは、長く働く可能性を高めることにもなるでしょう。
企業の経営資源は「ヒト・モノ・カネ」だといわれるとおり、「ヒト(人材)」の有効活用については昔から重きが置かれていました。ただ、社会や経済が目まぐるしく変化している今、人材の活用法にさらなる注目が集まっています。ここでは、人材マネジメントが注目されている3つの理由について、時代背景を踏まえて解説します。
日本は少子高齢化を受けて、労働人口が逓減の傾向にあります。そのため、慢性的な人材不足に陥っている企業が多いです。独立行政法人 労働政策研究・研修機構の調査では、自社の正社員について「大いに不足」「やや不足」と答えた企業の割合は59.7%にものぼります(※参照1)。また、東京商工リサーチの調べによれば、2019年1~12月で「人手不足」を理由とする倒産件数は426件。2013年に調査を開始して以来、最多の数字を記録しています(※参照2)。
このような背景から、限られた人材リソースを有効活用するため、従業員の生産性を向上させることが企業の課題になってきました。生産性が高く自律的に働ける人材(自律型人材)を育てることを目的として、人材マネジメントに注目が集まっているのです。
※参照1:「多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査(企業調査・労働者調査)」|独立行政法人 労働政策研究・研修機構
今の時代は、VUCA(Volatility/変動性、Uncertainty/不確実性、Complexity/複雑性、Ambiguity/曖昧性の頭文字をとったもの)と呼ばれています。というのも、消費者のニーズが多様化しているうえ、テクノロジーは日々進化を続けている状況だからです。時代の先読みは困難で、市場で成功を収めることが一層難しくなっています。
このような背景から、企業が必要とする人材像も変化しています。今まで企業は終身雇用を前提として、幅広い知識・スキルを持つ「ゼネラリスト」の養成に力を入れてきました。しかし、その時代において必要とされる高度な専門スキル・知識を持つ「スペシャリスト」が求められるようになってきたのです。
厚生労働省の調査では、従業員の能力について「ある分野に特化したスペシャリストを重視」と答えた企業は49.0%にのぼり、今後さらに伸びていくことが見込まれています。こうした専門スキルを持つ人材を採用・育成する意味でも、人材マネジメントが注目されています。
※参考:人材マネジメントや従業員の能力に関する企業の考え方について|厚生労働省
最近では、働き方改革の影響もあり、「ワークライフバランス」という言葉が広く浸透しています。残業時間の少なさや休暇の多さに注目して、職場を選ぶ求職者も増えてきました。さらには、在宅ワークや副業など、新しい働き方も広がりつつある状況です。
このように多様化する働き方・労働観を企業として認めることで、従業員のモチベーション維持につなげられます。従業員一人ひとりに合わせた柔軟な働き方を取り入れる意味でも、今企業が自社の人材マネジメントのあり方を見つめ直そうとしているのです。
ここでは、実際に人材マネジメントを行うときのプロセスを紹介します。人材マネジメントは、下記のようなプロセスにおいてPDCAサイクルを回しながら、その都度改善していくことが大切です。
人材マネジメントは、企業が目標を達成するために行う取り組みです。そのため、まずは企業の目指す姿と、その達成を阻んでいる"課題"を洗い出します。例えば、「売上を300億円まで伸ばすためには、営業力が足りていない」「商圏を全国まで広げたいが、各支店を任せるリーダーがいない」「労働環境が良くないため、従業員のモチベーションが低下している」などです。こうした課題に合わせて、手法を細かく考えていきます。
課題が分かったら、それを解決できるような人材の要件を設定します。この際、要件は誰が読んでも同じような人物像を想定できるように、スキル・知識・マインドなどまで具体的に文章化しておくことが大切です。
上記の要件を満たすような人材を、どのような手法で獲得するのかを決めます。例えば、自社に最適な人材がいない場合は、「採用」で外部から雇い入れるのが適切でしょう。また、既存の従業員に知識・スキルを身につけることで要件を満たせる場合は「教育」を行います。労働環境を変えることで従業員の能力やモチベーションが改善される場合は、「報酬・福利厚生」を見直すことになるかもしれません。こうした適切な手法が決まったら、予算やスケジュールを細かく考えていきましょう。
人材マネジメントの内容は、人事や経営層だけが理解していても意味がありません。というのも、現場で働く従業員の協力があってこそ、細部まで行き届いた育成や評価が行えるからです。そのため、詳細な計画が決まったら、各部署とコミュニケーションをとって情報を周知しておくことが大切だといえます。
現場に情報を周知できたら、実行へ移します。大切なのは、実行後に振り返りと改善を行うことです。「手法は適切だったか」「計画に無理はなかったか」「必要な人材像は変化していないか」といった評価と分析を行うことで、さらに精度の高い人材マネジメントができるようになるでしょう。
人材マネジメントは、正しいプロセスを経ることで、より大きな効果を期待できます。ここでは、人材マネジメントを成功させるために大切なポイントを、大きく4つに分けて紹介します。
人材マネジメントは、企業の目標や経営戦略と連動させることで、より大きな成果を挙げられます。そのため、「採用」「評価」といった人材マネジメントの手法単体で考えるのではなく、それらがどんな経営戦略に基づいて行われるのかを常に意識することが大切です。また、社会情勢や市場の動向に応じて、企業の目標は変わってきます。人材マネジメントの内容も、それに合わせて柔軟に変更させていくことが大切だといえるでしょう。
人材マネジメントは、企業が主体となって計画を立てるため、どうしても一方的なコミュニケーションになりがちです。ただ、他人に決められた目標や評価制度では、従業員のモチベーションも上がりません。
そのため、できるだけ従業員を巻き込みつつ、本人に目標を決めさせることが大切です。従業員一人ひとりが「この目標を達成すれば自分の評価も上がり、会社の成長にもつながる」と納得できれば、労働意欲も高まります。最近では、従業員自身が部署異動の希望を出す「社内FA制度」「自己申告制度」といった人事制度も浸透しています。従業員がより主体的に取り組めるような仕組みにすることで、高い効果を望めるでしょう。
年齢や性別、国籍などによって評価や報酬が大きく変わってしまうと、従業員の反感を買いかねません。人材の多様性を受け入れつつ、公正に評価することが大切です。
また、従業員によっては目に見える成果が出ていなくても、高いポテンシャルを秘めていることもあります。成果だけを見て評価してしまうと、こうした従業員のモチベーションを下げかねないでしょう。そのため、人材の持つポテンシャルも加味できるような、公平な評価制度を導入することも大切だといえます。
現場と協力体制を築くことで、有効に人材マネジメントを行えます。例えば、「どのような基準で評価されるのか」「どれくらいの報酬がもらえるのか」を現場に細かく伝えておけば、従業員の自発的な努力を促進できるでしょう。また、現場のマネジメント層に"必要な人材像"を周知しておくことで、採用や教育もスムーズに進められます。人材マネジメントのプロセスを回す際は、現場と密にコミュニケーションをとりながら進めましょう。
最近はインターネット環境が充実したことで、オンライン上で実施されている人材マネジメントの手法もあります。そこで今回は、オンライン上で行う人材マネジメントについて、それぞれのメリット・注意点を解説します。
オンライン面接とは、Web会議システムやテレビ電話を使って、オンライン上で行う面接のことです。従来のように応募者がわざわざ会社まで出向く必要がないため、企業にとってもスケジュールを調整しやすく、交通費を支給するというコストもありません。手間と経費を削減し、多くの応募者に会うことのできる手法だといえます。
その反面、インターネット環境によって面接の質が変わるというデメリットもあります。電波が乱れると、ノイズや時差が生まれ、思わぬミスコミュニケーションが生まれる危険性もあるでしょう。そのため、応募者に「通信環境の良い場所を選んでもらう」「トラブル時の対応について伝えておく」といった対応が必要です。
オンライン研修とは、インターネット上で開催する研修のことです。あらかじめ録画したものを配信する「録画型」と、リアルタイムに講師が話している様子を配信する「ライブ配信型」があります。主催者側としては会議室を予約・準備する手間が省けて、参加者側も会場へ移動する手間がありません。その点、とても効率の良い研修スタイルだといえます。
ただ、参加者が「PCの前でただ見ているだけ」という状態になりがちで、集中力が維持できない可能性もあります。そのため、オンライン研修を導入するときは、「習熟度チェックのテストを別途実施する」「分からなかった項目についてフィードバックを受けられるようにする」といったサポート体制を整えることが大切でしょう。
e-ラーニングとは、タブレットやPC上で学習できるシステムのことです。システムを導入すれば、社会人マナーから資格取得に必要な専門知識まで、多彩な内容をオンライン上で学べます。一度導入してeラーニングを提供できる環境を整えておけば、従業員は場所を選ばず繰り返し受講できるため、空いた時間にスキルアップを図ることが可能です。
ただ、利用者の自主性に委ねられるぶん、学習状況が従業員によって大きく異なるケースも考えられます。そのため、習熟度を確認するシステムを合わせて導入したり、学習スケジュールを細かく立てたりという工夫が必要です。また、e-ラーニングと合わせてオフラインでのワークショップを開催することで、学習者同士のつながりを深めて学びを共有し合うことも期待できます。
eラーニングについてより詳しく知りたい方は、「eラーニングの効果を高めるには?企業研修に活用する際のポイントを解説!」もあわせてご覧ください。
人材マネジメントの手法は、実際に運用してみながら、時代背景や組織の状況に合わせて柔軟にアレンジしていくことが大切です。どんな育成手法を選ぶべきか迷ったときには、研修サービスの専門企業をはじめ、外部のプロフェッショナルに相談するのも効果的でしょう。
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