「坊主憎けりゃ、袈裟まで憎い」
日本には、こんな「確かに、そうそう!」ということわざがありますね。人間が、こんな風になってしまう生き物だってこと、みんな、経験的に体感的に知っています。どれだけ「正しい」指摘でも、あの人に言われると受け入れられない。同じことでも、ある人に言われると「我がこと」として受け入れられる。そんな経験、誰しもありますよね。
ひとは必ずしも「正しいこと」で動くのではなく、「誰が」言うかで動く。そんな言い古されたことを、多くのチームを検証し理論として提示してくれたのが、元マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授。同大学に組織学習センターを創始したシステム理論の大家です。ただ「この成功循環モデル」、知っている人は多くても自分自身のチームマネジメントで使えている方は少ないのでは?その背景と必要なことを探ります。
まず「成功循環モデル」をおさらいしておきましょう。
ダニエル・キムは、チームのパフォーマンスを左右する背後に「どんなシステムが回っているか?」を端的に抽出・検証してくれました。以下のような図で表現されます。
ビジネスに限らず「チーム」であるからには、「チームの目的」が必ずあります。その目的に到達しようと努力する過程に、マイルストーンとしての「目標」があります。目標にどんな水準で到達したか?これが「結果の質」。私たちは、この「結果の質」をより望ましいものにしようと日々職場で奮闘している訳です。
成功循環モデルの重要点の一つ目は、
です。もちろん他力本願な「外部環境の変化・影響」を除いてですが。当たり前のことですが、一方で「結果につながる行動とは何か?」「行動がより良くなるとはどういうことか?」を日々の行動レベルで具体的にしていくことは中々難しいことです。さらには、一人の「結果につながるより良い行動」を「チーム全員が行動できる」状態にしていくことはなおさら難しいことです。
難しい理由は様々ありますが「人」に焦点を当てると大きく以下2点がポイントです。
1点目は、「無意識も含めて為されている行動を詳細に観察・分析・言語化」する難しさ。この難しさを乗り越えようとする取り組みが「ナレッジマネジメント」です。
もう1点は、「どれだけ正しそうな行動でも、人は素直に行動を変えられるとは限らない」難しさ。誰にでも多かれ少なかれ経験があるのではないでしょうか?「その通りかもしれないけれど、あなたには言われたくない」なんて感情が湧いた経験。これが「思考の質」です。一方で、傍目に見ると一見無理な要望や理不尽な要望に対しても「この仲間の為なら、損得抜きでやってやろう!」なんて感情が湧いて、多少無理してでも行動していくなんてこともあるのが人間です。つまり、「その人がどのように受け止めるか?」という「思考の質」の変化によって「行動の質」の変化は影響を受けるということです。
そして、成功循環モデルの重要点の2つ目が以下になります。
つまり、自分の行動に影響を与える「相手」との「関係性」によって、「思考の質」はポジティブにもネガティブにもなるということ。冒頭の「坊主憎けりゃ~」ですね。ここで言う「関係の質が良い」とは、単に仲良しだということではなく、「心理的に安全である」「共通の目的をありありと共有・共感している」「感謝や敬意が根底にある」「仲間としての連帯感を感じている」「自分が相手に貢献できていると感じられる」といったことが重なって生まれる状態のことです。
さらに、成功循環モデルの重要点の3つ目は、
という点です。「関係の質」が良くなってくると、チームメンバーの「思考の質」に献身や貢献といった良い変化が生まれ、その結果「行動の質」が挑戦する方向に向かったりスピードが上がったりし、その結果「結果の質」が向上し、みんなでその「結果」を喜ぶことでさらに「関係の質」が向上するというのがグッドスパイラルの例。
一方でよく見るバッドスパイラルの例は、業績という「結果の質」が崩れ始めた結果、メンバー相互に指摘や非難が増え始めて「関係の質」が低下し、「関係の質」が低下することでさらに非難やネガティブな受け止め、疑心暗鬼といった「思考の質」の低下が起こり、その結果「こんなことやっても無駄だ」といった思考のゆえに「行動の質」が低下し、その結果「結果の質」がさらに低下、「ほら見たことか」といった雰囲気からさらに「犯人捜し」が始まり「関係の質」を悪化させていく、、、というもの。
マネージャーは、自分が率いるチームがどちらのスパイラルに向かう兆しをはらんでいるかを観察し、グッドスパイラルに向かうよう「具体的に手を打つ」必要があります。
さて、「成功循環モデル」を理解するとグッドスパイラルに向かうよう「具体的に手を打つ」必要があることは分かるのですが、みなさんの職場では実際のところどこまで実現できているでしょうか?以下は、ProFuture株式会社の運営するHR総研から発表された調査結果(2019年11月15日)。
「社内のコミュニケーションに課題があると思うか?」
70%以上が「社内のコミュニケーションに課題がある」と思っています。
そして、大企業ほどその傾向が高い。なぜでしょうか?
コミュニケーションに課題がある、すなわち「関係の質」「思考の質」に課題があると感じている人は多いのですが、そのコミュニケーションの当事者は「課題がある」と答えている人自身でもあります。なぜ、課題を感じているのに変えることができないのでしょうか?
私は、この現状を「個々のマネージャーの努力不足」とは捉えていません。個々人はそれぞれに「頑張っている」はず。むしろ、このような状況にならざるを得ない「事業環境・社会環境」のシステムが背後で回っていると捉えます。特にマネジメントのみなさん、日常のご自身のスケジュールを見てみてください。「何にどれくらいの時間を投下していますか?」おそらく、多くのマネージャーの「時間」は、「結果の質」と「行動の質」に関わるアジェンダに大きなシェアで投下されているはず。なぜか?それは私たちの事業環境が過去と比べて大きく変化しているからです。
みなさんの職場では、「生産性向上!」とか「生産性改革!」とかのメッセージが発信されていませんか?日本社会全体として「生産性向上」は声高に叫ばれています。グローバルな事業環境の中で持続的に事業を展開する上で大切なことです。この「生産性」とは、まさに「結果」と「行動」の関係を指しています。より少ない行動で、より多くの結果を出すことが「生産性の向上」です。
そうすると、有限な勤務時間をできるだけ「生産性の向上に直結する」コトガラに投入しようという圧力が発生するのが自然です。さらに、「結果」や「行動」を改善するために「数値化」しようという圧力が働きます。「数値的にモニタリングできることこそ、改善可能」という合意が私たちの中にあるからです。そして、「数値」を目にすると私たちは「課題点」に自然に目が向くようになります。
並行して、非効率な時間を極力無くすために様々なコミュニケーションツール・管理ツール・デバイス等を活用できるようにしてきました。結果、「時間あたりに飛び込んでくる情報の処理量」は20数年前のインターネットが無かった時代に比べると飛躍的に増えています。常に「これをやらねばならない」が満載。つまり「行動」の連続になっています。
さて、この環境変化で「失われているもの」は何か?
それは、「関係の質」「思考の質」をチームメンバー相互で育む「時間」です。過去はさほど「意識しなくても自然に」生まれていた「余白の時間」。それは「雑談」や「ランチ・懇親会」、「喫煙所」などの形で「関係の質・思考の質」を育む時間として無意識に機能していました。しかし、いまは上で述べた通り「気が付くと、失われている時間」となる事業環境なのです。ここで、「成功循環モデル」に立ち返ると、「結果」をより良くせんがために「行動」だけにフォーカスして時間を消費していると、意図せず「関係の質・思考の質」が低下し、その結果皮肉にも「行動の質の低下」⇒「結果の質の低下」を招く、ということが判ります。これが多くの職場で「コミュニケーションに課題がある」と感じる本質ではないでしょうか?
これを解決するためには「意図的・意識的」に「関係の質・思考の質」を向上させる手段と時間投資を実行する必要があります。「関係の質や思考の質は、職場で共に過ごす中で自然に育まれるもの」という認識のままでいるのは、「戦況が変化しているのに新しい武器を持たないまま戦っている」という状態に陥ることを意味します。
とはいえ、シビアに競争している現在の事業環境において、できるだけ多くの時間を「行動の質の改善」に投入し「結果の質を最大化」させたいのはまぎれもない事実。
つまり、どれだけ意図的・意識的であっても「関係の質・思考の質」に充てられる時間は限りがあります。多くの先進的な企業の例を見ていると、せいぜい労働時間の20~30%程度を充てるくらいが妥当な気がします。ということは、その「限られた時間」で「効果的・効率的」に「関係の質・思考の質」を育む手段が必要になります。私たちの提供しているPSAパーソナリティ診断および診断を活用した様々なトレーニングやセッションプログラムは、「限られた時間」で「効果的・効率的」に「関係の質・思考の質」を育むことに有用なものとして設計しています。
戦況が変化したなら、新しい武器を手に入れて戦いましょう!
ライトマネジメント事業部は、組織に求められる人材要件を勘案しながら成果を生む人材を見つけ出し、能力開発を行いながらパフォーマンスを発揮する環境づくりを支援しています。知識や行動、スキル、モチベーションなど行動特性であるコンピテンシーの発揮度合いを判断するアセスメントのみならず、組織診断に活用できるツールも提供しています。
1996年株式会社リクルート入社。7年間、人材総合事業にて創業経営者系企業を中心に中小~上場企業まで300社以上の企業の新卒・中途採用/人材育成プログラム導入/人事評価制度導入などの課題解決に従事。事業戦略・営業戦略を人事戦略に落とし込むスキルを磨く。その後10年間、カーセンサー事業にてメーカー・ディーラー担当ゼネラルマネジャー、カーセンサー東海版 編集長兼版元長、営業戦略ゼネラルマネジャーを歴任。営業戦略の策定/実行、営業行動マネジメント改革/全国展開、ナレッジマネジメント改革、営業マネジャー・リーダーの戦略実行コーチングに従事。営業組織の変革を主導し業績のV字回復に貢献。2013年、リクルートを退職し株式会社イー・ブリッジCに参画。『 「個」の可能性と主体性を引き出すONLY1のソリューションを 』をテーマに、PSAパーソナリティ診断 × コーチング/関係性システムコーチング技術を基盤にした各種トレーニング・セッション提供とエグゼクティブコーチングに従事。