株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師 前川孝雄氏
私が営むFeelWorksでは、創業から15年以上「上司力」にこだわり続け、日本を代表する大手企業を中心に400以上の企業・団体で「上司力®研修」を開講してきました。さらに広くそのコンセプトを伝えるべく、約40冊の書籍発行、講演や連載も多数実施してきました。その営みが認知され、「上司力」はFeelWorksの登録商標となっています。今回から3回にわたり、部下全員が活躍する上司力の要点をお伝えしていきます。
私は上司力を次のように定義しています。「部下一人ひとりの持ち味を踏まえて仕事を任せ、育て活かし、共通の目的に向かう組織の力を高め、個人では達成できない結果を導きだす力。」
人材育成において、日々部下のマネジメントにあたる上司の役割が要と考えています。上司にとっては、自分が動くことが仕事ではありません。人を動かし組織を動かすこと、すなわち上司の働きかけでチームメンバー全員が活躍し、連携することでチームが一丸となり、個人の力だけでは成し得ない大きな成果を生み出すこと。これが上司の仕事の神髄なのです。
上司は、部下本人の意欲と可能性を信じ、その持ち味を十分開花できるようバックアップすることに徹すること。すなわち「管理職」ではなく「支援職」であると自覚しましょう。上司の本来の役割は、部下に指示命令をして従わせることではなく、部下が自律的に働ける環境を整え、一人ひとりが働きがいを感じながら成長・活躍する伴走者だと心得えることが大切です。
私は、人が仕事を通して成長するには、3つのステップがあると考えています。
➤第1ステップ「任される」...これには、①上司から仕事の目的をしっかりと伝えられ、②「あなただからこそ任せたい」と動機づけられ、③その上で部下自身が仕事の見通しと目標を自らの意思で表明し、④上司に目標とプロセスを提案して相談の上承認を得る、というプロセスを含みます。
➤第2ステップ「やり遂げる」...任された仕事の主体者は部下自身ですから、その達成責任も部下が担うものです。難しい局面が出てきても、途中で投げ出させてはいけません。部下自身が創意工夫し、周囲を巻き込む努力を重ねながら、自分で最後までやり遂げられるよう、良き相談相手になることが大切です。
➤第3ステップ「振り返る」...仕事は、さまざまな環境要因の影響から、立てた目標の達成が見通し通りにいかない場合もあります。しかしこの評価を受ける期間はあくまで節目です。仕事の成果や部下の成長・活躍はその後も期待できるもの。ゆえに上司と共に振り返ることが、次なる挽回や飛躍へとつながります。
この部下にとっての「3つのステップ」を上司側から見ると、「任せる」「応援する」「内省させる」という3つの支援になります。上司は部下を育て活かすために、「3つのステップ」全てに関わる必要があるのです。
➤任せる...多くの企業・団体で「上司力®研修」を開講して感じるのは、上司の多くが、第1段階の「任せる」ことにつまづく傾向です。部下本人の実力より少し重い仕事を任せるのは勇気がいるからです。自分は本当に任せきれているかどうか、ぜひ振り返ってください。
➤応援する...次に、部下が任された仕事をやり遂げるためには、上司は「応援」し続けることです。仕事のプロセスでは、アクシデントが次々と起こるもの。そこでは、自分がやったほうが早いという考えが頭をよぎるかもしれませんが、決して部下の仕事を奪ってはいけません。任された仕事で主体性を発揮するのは部下自身です。本人が打開策を考え行動できるよう導きましょう。部下が経験値の浅い仕事に悩んでいるときにも、安易に答えを教えることは避けましょう。仕事の主体者は、あくまでも部下自身。本人自ら進め方や軌道修正に気づけるよう質問を投げかけたり、適切な人脈を紹介するなど、サポートすることです。
➤内省させる...そして節目には、部下がやり遂げた仕事を有効に振り返れるよう、上司は部下に「内省させる」ことです。見通し以上の結果が出た場合に、単に「今期は上出来だったね」と伝えるだけでは、部下は学びを逃してしまいかねません。「期初にあなたの役割を確認し、一緒に目標を決めたね。目標達成までのプロセスにはいろいろあったと思うけれど、まず自分自身で振り返ってほしい。今期の仕事について、どう思っている?」などと問いかけましょう。内省させる上で重要な視点は、一定期間の期末評価はあくまでも一時期の断面を表したものに過ぎないこと。部下の成長は続きます。成功要因や失敗要因を学習材料と自覚させて、次のチャレンジへどう向かっていくかを、部下に考えさせ腹落ちさせることが大切です。
部下が育つ「3つのステップ」と上司の「3つの支援」がうまく噛み合うことができれば、部下はモチベーションを向上させながら成長し続けられるはずです。
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連載【第1回】のまとめとして、上司にとって不可欠な視点に触れておきましょう。
少なからぬ職場で、「仕事の"やらされ感"が強い」「モチベーションが上がらない」という声を聞きます。実は、日本は各種の国際比較調査で「仕事の満足度が低い国」の最下位クラスに分類される不名誉な立場にあります。
それは働く人たちの多くが、往々にして上司から意義の感じられない、あるいは達成困難な目標を一方的に示され、細かな管理によって不本意な仕事を強要されていると感じているからです。その結果、自己効力感を失い、やらされ感と無力感に蝕まれ、仕事の満足度が著しく低下しているのです。
図は、アメリカの心理学者F.ハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」をもとに、私が加筆して「働きがい」と「働きやすさ」の関係を表したものです。ハーズバーグは、職場の労働環境、条件、人間関係、給料等を「衛生要因」としました。いわば「働きやすさ」を整えるものですが、これらをいくら充実させても、働く個々人の不満足は減るものの満足を増やすことは難しいと主張しました。また、一度得た権益に人はすぐに慣れてしまい、これが低下すれば不満を感じます。これに対し、仕事内容そのもの、責任、顧客や同僚・上司からの承認、達成感などを「動機づけ要因」とし、これらが増せば仕事の満足度は高まるとしたのです。つまり「働きがい」が向上するのです。
長時間労働是正や在宅勤務などの働く環境改善や各種休暇の取得促進、給料増額などの働き方改革は「衛生要因」の改善が主。しかし、それに加えて「動機づけ要因」に着目することが大事です。「働く」とは、文字どおり「人のために動く」こと。そして「働きがい」とは「人のために動く喜び」です。顧客満足や社会への貢献をめざす仕事に使命感と責任感を持って主体的に打ち込むことが、価値のある仕事を創り出し、「働きがい」を得ることに結びつきます。
したがって、上司は、部下一人ひとりの「働きがい」-「動機づけ要因」の向上に努めなければなりません。これからの社会では、金銭的な対価や経済的な豊かさよりも心の豊かさ、心の幸せがより重視されると考えられます。そこでは、人のために動くことで人から感謝され、自分自身が喜びを感じるという、一人ひとりの「働きがい」がより大切な意味を持ってくると言えるでしょう。その先には「生きがい」も育まれていくはずです。
※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)https://www.amazon.co.jp/dp/4910629041をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。
現代の管理職を取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。多様な部下をマネジメントし、キャリア形成や育成をしながらリーダーシップを発揮しなければなりません。マンパワ―グループ株式会社ライトマネジメント事業部は、「上司力®研修」はじめ管理職向けに現場で即活かせるソリューションをご提案します。
人を育て活かす「上司力®」提唱の第一人者。(株)リクルートで『リクナビ』『ケイコとマナブ』『就職ジャーナル』などの編集長を経て、2008年に (株)FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、研修事業と出版事業を営む。「上司力®研修」シリーズ、「ドラマで学ぶ『社会人のビジネスマインド』」、eラーニング「パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」、「50代からの働き方研修」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員サポーター、(一社)ウーマンエンパワー協会 理事等も兼職。30年以上、一貫して働く現場から求められる上司や経営のあり方を探求し続けており、人的資本経営、ダイバーシティマネジメント、リーダーシップ、キャリア支援に詳しい。連載や講演活動も多数。
著書は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks)、『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政)、『本物の「上司力」』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等約40冊。最新刊は『Z世代の早期離職は上司力で激減できる!「働きがい」と「成長実感」を高める3つのステップ”』FeelWorks、2024年4月1日)。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。
https://www.feelworks.jp/