消費者ニーズの多様化や市場の国際化、新型コロナウイルスの流行――。
先読みの難しい社会情勢にあっては、従来の組織体制のまま経営目標を達成するのは至難の業です。そのため、組織改革によって社員のマインドセットを変革し、経営の建て直しを検討している企業も多いのではないでしょうか。ただ、現場からの理解や賛同を得られず、組織改革が成果に結びつかないケースも珍しくありません。
そこで今回は、組織改革を成功させるための手法・ポイントを分かりやすく紹介します。「そもそも組織改革とは」「組織改革で起こりがちな課題とは」という基本的な疑問点から解説しますので、参考にしてください。
組織改革とは、企業が永続的な成長を目指すために、組織の風土や体制を抜本的に変革することです。具体的には、組織文化やビジョン、社員の意識といった「ソフト面」から、人事制度や評価制度、人員配置、就業規則、業務システムなどの「ハード面」まで、必要に応じてさまざまなものを変更します。組織改革は、従来の組織に何らかの課題が見つかったり、外部環境が大きく変化したりしたタイミングで断行されることが一般的です。
組織改革は、具体的にどのような場面で行われるのでしょうか。
ここでは、組織改革が必要なタイミングについて紹介します。
企業を取り巻く環境は、日々目まぐるしく変化しています。例えば、DX(デジタルトランスフォーメーション)の浸透や国による働き方改革の推進、新型コロナウイルスの流行、その他法令の改正などさまざまです。こうした変化の影響を最小限に抑え、かつ自社の利益につなげるためには、従来の組織体制を変更しなければいけないケースもあるでしょう。そこで、社会や経済などの変化に合わせ、全社を挙げての組織改革が必要になります。
企業としてさらなる成長を遂げるため、3ヶ年計画・5ヶ年計画といった「中期経営計画」を立てる機会も多いかもしれません。ただし、経営計画を達成するには、新たな目標に向けて社員のマインドセットを改める必要があります。さらに内面だけでなく、専門的な知識やノウハウといったスキルセットが求められるケースもあるでしょう。そのため、中期経営計画に必要なマインドやスキルを浸透させるため、組織改革を行うこともあります。
業績悪化やコンプライアンスの問題などを受け、企業としてやむを得ず組織再編・雇用調整を行うケースもあるかもしれません。しかし、人員削減に伴って組織にネガティブな影響が生じる場合もあります。例えば、残された社員のモチベーション低下や業務負担の増加、それに伴う優秀な人材の離職などは、企業としても致命的な問題です。そのため、新たな体制で再出発を切れるように、企業文化や人員体制の抜本的な改革が必要になります。
組織改革を実行する際に、さまざまな問題によってプロジェクトが頓挫することも少なくありません。
ここでは、組織改革で起こりがちな3つの課題について解説します。
課題のひとつに、社員から心理的な反発を受け、改革がなかなか推進されないというものがあります。というのも、人には中長期的な利益を得ることより、目先の損失を避けることを選んでしまう傾向があるのです(「プロスペクト理論」と呼びます)(※)。そのため、「今までのやり方を変えるのは面倒だ」「どうせ途中で挫折するだろう」といった抵抗感が生まれ、組織改革が進まなくなってしまいます。こうした心理的な反発を解消するためには、経営者が組織改革の意義やメリットを継続的に発信し、現場の賛同を得ようとする取り組みが欠かせないでしょう。
※参考:感情と経済行動の意思決定 ―プロスペクト理論と神経経済学からの展望― | Japan Marketing Academy (PDF)
経営者と現場をつなぐ「管理職」のリーダーシップ不足も、組織改革の大きな壁です。これについてリーダーシップ論で有名なジョン・コッター氏も、組織改革を阻む8つの原因(「つまずきの石」)のひとつは、「中間管理職のリーダーシップの欠如」であると述べています。管理職の意識をうまく変容できなければ、そもそも現場に改革の内容は浸透しません。そのため、組織改革を行う際は、管理職の意識改革から始める必要があるでしょう。
なかなか意識変容が起こらない場合、そもそも現場に組織改革の内容が正しく伝わっていないというケースもあり得ます。現場の共感を得られていないと、社員から「組織改革に取り組んでも自分たちにメリットがないのではないか」「そもそも何のために取り組むのか分からない」といった反応をされてしまうでしょう。そのため、組織改革に当たってはメッセージの内容だけでなく、「どう発信するか」も含めて十分検討することが必要です。
組織改革を成功させるうえで、大前提となるのが管理職の動機づけです。ミドルマネジメントが組織改革の内容について深く理解し、腹落ちした状態でなければ、部下に自分の言葉でメッセージを発信することはできません。そのため、社員の意識を変えるには、まず管理職の意識改革を行うことが重要です。例えば、ミドルマネジメントに対して、中期経営計画の内容や組織改革のビジョンを理解してもらうための研修を開くことも有効でしょう。
※意識改革について詳しくは「【保存版】意識改革を成功させる"5つ"の必須ポイントとは?」で解説しています。
組織改革を成功させるためには、どのような方法があるのでしょうか。
ここでは、組織改革において必須となる手法・ポイントについて紹介します。
組織改革の際には、まず将来企業の目指すべき姿を定義し、ビジョンにまとめましょう。例えば、「上場を目指し、顧客第一主義を徹底できる企業になる」「世界進出に向けてグローバル経営を強化する」といった内容です。
その際、ビジョンの方向性は社員に共感してもらえるものにすることが大切です。というのも、人は自分がメリットを感じられない物事はうまく自分事化できず、行動にも移せません。そのため、「組織改革に取り組むことで、社員はどんなやりがいを感じられるのか」「組織改革が成功したら、会社としてどんなフェーズに進むことができ、社員はどんな対価を得られるのか」といった社員にとっての利益まで盛り込むようにしましょう。
社員の行動変容を促すためには、「前向きな危機感」を醸成することも重要です。例えば、「組織改革をしなければ業績にどれくらいの影響が及ぶのか」「市場の中でどれほどポジションが揺らぐのか」といった内容が挙げられます。結果として、社員は損失を回避しようとするため、組織改革に意識が向く大きなきっかけになるでしょう。一方で危機感をあおり過ぎると、社員の離反を起こしかねません。そのため、「ピンチはチャンスでもある」という伝え方で、組織改革を成功させることによるプラスの影響やメリットも同時に発信することが大切です。
経営者から組織改革についてのメッセージを発信する際は、さまざまなメディアを活用することが重要です。例えば、全社集会で経営者本人が意義を語ったり、社内報でより親しみやすい内容まで落とし込んで伝えたりという方法が挙げられます。また、「社長ランチ」のように経営者が社員と対面で話せるような場を設け、直接伝える方法も効果的です。経営者からじかに語りかけることで、社員に組織改革の重要性を意識させやすくなります。また、メッセージは一度だけでなく何度も継続して発信することで、社員に行動の習慣化を促しやすいでしょう。
組織改革の内容に合わせて、人事制度や組織体制、業務システムなどを一新することも多いと思います。ただ、仕組みだけを変えてしまうと、社員の気持ちがついてこずにうまく効果につながらないこともあるでしょう。そのため、制度や人員配置などの「ハード」を変える際は、企業文化や社員の意識といった「ソフト」も同時に変えることが大切です。例えば、1on1ミーティングにおいて上司と部下で進捗の振り返りをしたり、問い合わせ窓口を設置して社員からの疑問に答えたりという方法で、社員のマインドセットを整える必要があるでしょう。1on1ミーティングの必要性や効果を高めるための方法は「1on1ミーティングで何を話すべき?効果を高めるためのテーマ・ポイントを解説!」をご覧ください。
組織改革の推進力を高めるには、「頑張ったら報われる」という環境を作り出すことが重要です。そのため、組織改革に前向きな社員に対しては、評価・称賛の機会を設ける工夫も求められます。例えば、組織改革の内容に応じた社内賞を設けて、活躍度の高い社員を表彰するのもひとつの方法です。また、人事評価で加点・優遇できるような制度を導入したり、顧客から称賛のメッセージをもらって担当社員に伝えたりするのも効果的でしょう。推進者が評価される仕組みが整うと、社員が自らの意志で組織改革に取り組めるような風土が生まれます。
組織改革が頓挫する理由のひとつに、「効果が実感できないこと」が挙げられます。というのも、組織改革は数年にわたる長期プロジェクトになるケースも多く、持久力が必要です。その際、社員が頑張りの成果を感じられないと、モチベーションも維持できません。だからこそ、短期的な成果を生み出し、社内で積極的に共有することが大切です。例えば、組織改革の進捗を社内メールで「速報」として送ったり、全社集会の際に大きく取り上げて称賛したりする方法が挙げられます。成果の実感が伴えば、より頑張ろうという社員の意欲も高まるでしょう。
組織改革を成功させるには、社員一人ひとりに組織改革の必要性を伝え、内的な動機に火をつけることが大切です。ただ、経営者から一方的にメッセージを発信するだけでは、現場にメッセージが届きづらい場合もあります。そこで重要なのが、まずは現場のリーダーである管理職に働きかけ、組織改革への意識変容を促すことです。管理職に「変革推進者」となってもらうことで、部下である社員にもスムーズに行動変容を促せるようになります。
管理職の意識を変えようと思っても、人はいきなり変化を受け入れられるわけではありません。だからこそ、組織改革を行う際は、変化を受容するまでの心理的なプロセスやスムーズに意識を変えるための技術を知っておく必要があります。そこで下記のお役立ち資料にて、「管理職を"改革推進者"に変える5つのポイント」というテーマでノウハウを解説しました。無料でダウンロード可能ですので、お気軽にご活用いただければ幸いです。
社員の意識変革への具体的な取り組み方法や成功させるポイントついてはこちらのEbookで解説します。あわせてご覧ください。
管理職の意識を変えるには、マインドセットを変えるための機会を設けることが欠かせません。そこで当社では、管理職に組織改革の当事者意識を持ってもらい、改革の強力な推進者となってもらうための研修「変革推進者研修」を実施しています。管理職人材に自社の中期経営計画を正しく理解してもらい、部下の意識変容に向けた効果的な行動を促すことが可能です。中期経営計画における組織改革を検討の際は、ぜひお問い合わせください。