
「年上の部下にはどのようにフィードバックをするべきか」、「若手に厳しいことを言うと辞めてしまうのでは」といった悩みは民間企業での様子をイメージされがちですが、実は公務員の管理職にとっても重要な課題です。
今回は当社の提供するプログラム「ネガティブフィードバック研修」を国家公務員(管理職員)向けの講演会形式で導入された機関にお話を伺いました。
インタビューにご協力いただいたのは、「人事院」様です。インタビューでは、人材局 研修推進課にて全府省の職員を対象とした研修の企画・運営に取り組む藤原様、小川様、新倉様に登場いただき、研修講師を務めたシニアコンサルタント 難波を交えて、「ネガティブフィードバック研修」を検討された理由、研修やその前後の様子など、詳しくお聞かせいただきました。
――今回、「ネガティブフィードバック研修」を導入いただいた背景には、どのような理由があったのでしょうか。
藤原様:現在、私たち研修推進課では、若年層の働き方やキャリア意識の変化、複雑化・高度化する行政課題への対応、そして民間企業などの多様な経験や知見を持つ人材の確保などが課題となっています。こうした背景のもと、マネジメント能力の向上やキャリア形成支援、各府省のオンボーディング支援、女性職員の活躍推進に注力しています。その一環として実施しているのが「パーソネル・マネジメント・セミナー」であり、今回の「ネガティブフィードバック研修」もそのセミナーのテーマとして取り上げました。
このセミナーは、管理職がマネジメントの知識や理論、ノウハウに広く触れ、マネジメント能力を高めるきっかけとなることを目的としています。また、オンライン配信で、地方機関まで含めた幅広い管理職層が対象となりますので、「管理職が課題と感じていることは何か」と考えたときに、部下の成長という観点から非常に重要であるにもかかわらず、多くの管理職が苦手に思っているであろう「ネガティブフィードバック」をテーマにしようと考えました。難波様の著書を拝読したところ、方法論だけではなく、その目的や必要性も含め、マインドといいますか、心の整理の仕方まで言及されていたため、受講者にとって非常に納得できる内容になるのではないかという期待もありました。
――難波さんは、講師の依頼を受け、ヒアリングをする中でどのようなことを感じ、研修に反映させていったのですか。
難波:「メンバーの抱える問題やギャップに対し、管理職が耳の痛いフィードバックをすることを躊躇する」状況は官民共通していますね。一方で、もちろん違いもあります。民間企業は近年、キャリア自律やジョブ型雇用の考え方がかなり浸透していて、「自分自身の働く場所を自分で選ぶ」中でのコミュニケーションが主になってきています。しかし国家公務員は「定期的なジョブローテーションがある」、「出口施策(降格・降給・ポストオフ・退職勧奨・早期退職)が少ない」働き方になっている。管理職はともすると「言っても意味がない」、つまり「ネガティブフィードバックを行うインセンティブが少ない」という感情を持ってしまいかねません。
そこで研修ではまず「民間企業と国家公務員は違う」と他人事化されないように、「組織運営における必要性」や「本人にとっての気付きの機会提供」など、フィードバックが官民問わず必要な理由を説明し、その上でチェックインとしてお互いに「困っていること」を共有して、みなさんに自分事と認識してもらいました。
藤原様:研修などで民間企業の事例を取り上げると、どうしても「公務と民間では状況が違う」といった声が聞かれることがあり、どうしたら自分事として受け入れてもらえるかという点は気にかけています。今回、事前の打合せでは丁寧にお話を聞いていただき、その上で研修全体の流れをご提案いただきましたので、講義をお任せすることに対して、研修受講者の刺激となる学びの多い研修になるだろうという安心感がありました。難波様は私たちの課題感も公務の状況も十分に理解してくださっていましたし、講義の内容も理論と実践(事例)を交えた自然と納得感が得られる構成であったと感じました。また、オンライン配信ではありましたが、学んだことをその後の業務に活かすことができるよう、可能な限り双方向コミュニケーションを図っていただくことをお願いしまして、実際にチャットでの活発なやり取りなどでご対応いただくことができました。
難波:お打ち合わせの中では、「国家公務員は真面目でシャイなタイプが多いので、チャットでの発言を遠慮するのではないか」というご懸念もありましたが、実際には数百件は下らないほどの発言がどんどん連なっていきましたね。それまで1人で抱え込んでいた方々が、話のできる場を得られたという勢いを感じました。
小川様:全国の地方機関まで含む各府省から集まった、通常はまったくバラバラの業務に就いている受講者ですから、困りごと自体もバラバラで、共通項が見えないこともあるのではないか……と心配しましたが、講義中、実際に流れてくるチャットの内容には意外と共通点があり、受講者同士で共感を得られていることを感じました。次々に寄せられる生の声を目にして「このテーマで間違っていなかった」と、ある意味自信に繋がりましたね。
――「全国の地方機関まで含む各府省から」とのことで、研修には非常に多数の受講者が参加してくださった旨うかがっております。募集の際のご様子などを伺えますか。
藤原様:これまで本府省勤務者のみを対象としていた中、今回は地方機関まで対象を拡大しましたところ、募集開始から1週間で当初の定員950名に達してしまいました。予想以上の反響に驚き、嬉しい悲鳴を上げながらマンパワーグループの担当者様へご相談したところ、公開方法と期間を限定する形でアーカイブ配信を実施できることになりました。最終的に、オンライン研修とアーカイブ配信を合わせて約1,500名が受講され、修了要件であるアンケートに回答いただきました。ただ、登録数は2,500名近くに及びましたので、視聴のみの受講者もある程度いたのではないかと見ています。
――実際に「ネガティブフィードバック研修」を導入してみて、どのような効果をお感じですか。
藤原様:チャットに受講者からの意見が次々と投稿され、言葉があふれていく様子を見て、正直驚きました。その反応を見て、業務も環境も異なる各府省の管理職職員が同じように悩んでいることを知り、今回のテーマを設定して良かったと思いましたし、チャットを通じて相互に学び、刺激を与えあう状況にオンライン研修の可能性も感じました。
小川様:研修終了後に実施したアンケートには、前向きな声が多く見られました。「日頃、何となくモヤモヤしていたものの後回しになりがちだったテーマがストレートに研修内容になっていたのが良かった」「『短期的には嫌われても中長期的には信頼される』というお話があり、相手のためにも自分のためにも頑張ってみようと思いました」、「部下指導のやり方に悩んでいましたが、大変具体的でわかりやすく実践的な研修でした。早速、取り組みたいと思います」など、日頃の悩みに対して解決に繋がるヒントを見つけた職員も多かったようですし、チャットに流れる受講者のコメントに共感ややる気を感じた職員も多く見られました。
受講者からは「広く職場に伝えたい」「全管理職が受講すべき」といった声も聞かれ、公務全体への波及にも期待が持てると感じました。私たちが1回の研修で伝えることができる相手や内容は限られますが、その1回が確実に意味を持っていると信じることができました。
難波:終了後には拍手のリアクション(受講者がクリックすると、画面上で拍手マークが表示される)が何百件も流れ続け、それまでの「クールな官僚集団」というイメージとは異なる、「日々悩みを抱えながら職務を全うしているビジネスパーソン」として親近感を覚えました。特に「自分よりベテランまたは年上のメンバーへのフィードバック」に悩んでいる傾向は顕著でしたね。
――ネガティブフィードバックについて課題を抱えている人事担当者へ、課題解決のためのアドバイスやメッセージをいただけますか
藤原様:部下にネガティブなことを伝えるのは、必要性は分かっていても、できればやりたくないと思うものですし、課題に感じている管理職の方も多いと思います。職員の成長や組織の活性化のためにも、人事担当者としても、管理職だけでなく、フィードバックを受ける部下職員に対しても、研修等の機会を通じて理解を深めてもらうような取り組み、サポートが必要だと考えています。
難波:「言いにくいこと」を伝えられず、社員の成長や組織風土が停滞している会社は多いですし、その事に悩んでいる管理職も多いものです。フィードバックは本人に気付きの機会を提供し未来の成長を促す「フィードフォワード」な取り組みなので、人事が管理職を支援しながら、組織内で対話しやすい仕組みを増やしてみて欲しいですね。
例えば民間企業などでは、フィードバック研修の3ヶ月後に任意のフォローアップセッションを開催して、少人数でお互いの取り組みの事例共有をすることもあります。「そういうやり方があるんだ」、「やっぱり難しいね、でもこういうやり方もあるかも」という情報交換や、ネットワーキングにもつながります。
――これから、国家公務員の働き方やキャリア形成に関する支援についてどのように取り組んでいきたいですか?
新倉様:人材教育に長く関わってきた中で、人が働く上でのやる気、モチベーションは「幸福感」と繋がっていると感じています。例えば幸福感がある人はモチベーションも上げられて仕事も前向きに取り組める一方で、幸福感がなく、モチベーションが上がらない状態で仕事をするのでつらい、大変だ……という例を、これまでにもたくさん見てきました。
今、キャリア相談を受ける立場になって強く感じるのは、「多様な価値観や働き方を望む職員が増えている中で、制度がそれぞれの幸福の条件に追いつくのは難しい」という現状です。さまざまな府省の職員から相談を受けるものの、各省によって制度が違うため、一概に「この制度を使ってみては」という提案がしにくくなっている。相談を受ける中でも「そういう考え方は確かにあるし、知識としてはわかったけれども、自省庁の制度や環境の中では許されないと思う」という話をよく耳にします。そのことから、「制度や職場環境の中でどれだけ自分自身にフィットする働き方を選び取って行けるかが幸福感に繋がっていくのでは」と考えています。各省の制度の違いに配慮し、相談者から出てくる言葉を深く聞き、その職員個人にとってベストな解を一緒に探していくことで「幸福感」に繋げられるよう、挑戦し続けていきたいです。
難波:おっしゃる通り自由度や自律性、要は「自分で選ぶことができるか」は大きな要因であると思います。国家公務員としての業務が定められている中ですから、選択肢が限られる面も当然あると思います。ただ「自分がこの仕事を通じて何をしたいのか」を考える機会を設け、「なんらかを選ぶことができる」、もしくは「選ぶ意思があることを上司や人事に伝えられる」環境を提供するだけでも、「自分で選んで、今ここにいるんだ」と納得できる感覚を持てて、エンゲージメントや幸福感も高まるのではないかと。
藤原様:官民問わず、人材確保は大きな課題となっています。自律的なキャリア形成を支援することは、個々の職員のやりがいや主体的に職務に従事する意欲を生み、人材育成はもとより組織の活性化や人材確保の観点からも重要ですし、そのためのマネジメント能力も管理職にとっては、今や必須のスキルになっています。このような観点から、各府省の取組を制度面・運用面からしっかり支援していくことが人事院の使命だと考えています。もちろん、簡単なことではありませんし、試行錯誤もありますが、一歩一歩着実に取組を進めてまいります。
――皆さまの支援が力となって、国家公務員の皆さまにモチベーション高く仕事へ取り組んでいただくことができるよう、これからも当社の強みを生かして、サポートに努めてまいります。本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
機関名:人事院
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※掲載内容は取材当時のものです。