ビジネスの環境を激変させた新型コロナウイルス感染症。その影響は今後どうなるのか、依然その正確な予測が難しい状況にありますが、これからの将来を展望するにあたり、我々がビジネスにおいて求められるものは何かについて考えてみたいと思います。
当サイト「HRカフェ」では、法政大学田中研之輔教授が2020年12月14日付「【2021年大予想】プロティアン型キャリア開発による生産性向上が鍵」において、「変化対応力」を挙げています。変化対応していく必要性について、田中教授は2020年を振り返り、「破壊を創造の機会としてとらえ、これまでの『あたりまえ』から脱却していくことが組織と個人、それぞれに求められた」と説明されています。
これまでの歴史が証明するように、「想定外」のことはこれからも起き続けるでしょう。新型コロナウイルスだけでなく、東日本大震災や同時多発テロなど、「思ってもいなかったこと」が実際に起きた訳です。コロナを乗り越えれば凪のような日々がやってくるかと言えば、答えは否です。その先も予想もつかないような荒波が押し寄せることになります。環境変化を物ともせずその時々の条件、状況に合わせてイノベーションを起こし、リソースを巧みに操り、ビジネスを成功に導く為に「変化対応力」を身につけることが必要です。
では、組織が変化対応力を身につけ、ビジネスの推進力にしていくためにはどうしたら良いか。そのポイントを3点挙げたいと思います。
異質を認めるとは、ビジネスの場面において直面する性質が異なるものを幅広く認め、受け入れることを指しています。従業員だけではなく、ビジネスモデル、業務プロセス、価値観など、あらゆるものが含まれます。
敢えてここでは、「ダイバーシティ」というキーワードを取り上げましょう。このキーワードが最初に日本に持ち込まれたのは、2000年の日経連(当時)「ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会」と見られます。それから20年以上が経過しましたが、日本企業においてどれだけ人に関する多様性が認められる就業環境が形成されたでしょうか。
ダイバーシティは性別、人種、国籍、宗教、年齢、学歴、職歴などを超えた多様性を活かすという趣旨で使われますが、日本ではダイバーシティ=女性活躍とのみ受け止めている傾向がまだ強いように感じます。では、敢えて女性活躍に絞って見た時、日本でどれだけ浸透したか。政府は「2020年女性管理職3割」の目標を掲げ、2016年には女性活躍推進法を施行して目標の達成を後押ししようとしましたが、令和元年度雇用均等基本調査でも女性管理職比率は11.9%。結果として女性活躍は進んでいないのです。
これには、日本人特有の保守性が影響している可能性があります。四方を海に囲まれた島国故、外からの干渉が少なく、視野が狭くなり他人に対する許容度も狭くなる、所謂「島国根性」があるという説です。組織において改革や刷新を議論する時に、変化に抵抗し「総論賛成、各論反対」となりやすいのは、自分と異なる意見や手法を排他的に捉えるきらいがあるからではないでしょうか。
変化に柔軟に対応するためには、「自分が掛けているメガネには、色が付いていないだろうか」と常に自問自答し、異質のものを拒んでいないかを検証することが大切です。色メガネは、ものの見方を歪めます。自身の先入観や偏見に対峙し、物事を正確に見つめようとした時、価値ある異質を受け入れることが出来るようになるのです。
そして、異質にこそ変化の荒波を乗り越える原動力が隠れています。「あたりまえから脱却する」には、自社ビジネスを、自組織を、自分のキャリアを変えていくことが出来る有用性あるものを、異質を一つひとつ検証していく中で見つけ、認め、受け入れ、変化していくことが必要です。「前例が無い」、「自社にはそぐわない」、「当社には無理」・・・2年前、在宅勤務と聞いて多くの人が抱いた印象ではないでしょうか。今までの当たり前や常識を疑う能力が問われているのです。
一つの手法として、異質のものに直面しそれを受け入れられないと感じた時に、「なぜ認められないか」を紙に書き出すことをお勧めします。思っていることを紙に書くことで言語化し、客観視し、認められない理由にフォーカスするのです。この「書く」プロセスを経ることによって、自分の思考が目に見えるようになり、自分の思考の特徴に気付くことが可能になります。先ずは自分を知るということです。
どんなに環境変化が劇的であろうと、目的地無き航海はあり得ません。自社は、自組織はどこに向かうべきなのか、それを知らずして目の前の変化に対処することは出来ません。
ビジネスにおいて航海の羅針盤となるのが、自社の「ビジョン」です。我々はどこに向かおうとしているのか、向かうにあたって大切なことは何か、何を実現したいと考えているのか、それらを明らかにして初めて船出が出来ます。なぜこのように申し上げるのか。それは明確なビジョンを示さずに、目の前の激変を手段だけで乗り越えようとする企業が意外に多いからです。ビジョンは企業トップの人間性を表します。トップの考えや理念に共感し、「この人についていこう」と心から思えて初めて、変化を乗り越える原動力が生まれます。「人は理屈で理解するが、行動は感情によって為される」、これは弊社が実施する研修で使われるフレーズの一つですが、人は気持ちが伴わないと、「変化する」という敢えてエネルギーが要る行動を取らないのです。よって、組織を構成する個々人の共感を呼び覚ますビジョンが求められます。
ビジョンを明らかにしたら、次は「具体化し、落とし込む」ことです。大きな絵を描くことは大切ですが、自組織のメンバー一人ひとりが、「じゃあ、私達は何をすればいいの?」と逡巡していては始まりません。ビジョンを、日々求められる具体的な活動に落とし込みます。海図に現在地を記す、風向、風力を測定する、舵を切る、必要な推進力を算定し、スクリューを回す・・・全員が自身の役割を認識し、行動に移すことで船は前進していくのです。その役割は、ミドルマネジャーにあります。自社がビジョンを実現するために、自組織が貢献できることは何かを考え、それを具体化させます。これを個人に落とし込む時、企業トップ同様にミドルマネジャーの人間性が問われます。企業のビジョンを自分の言葉で言い換えて個人に落とし込むことで、共感を得ることが必要です。
ビジョンを組織に浸透させる。マネジメントの教科書に書かれているようなごく当たり前のことですが、組織の変化対応力を高めるには組織の方向性を定めることが求められます。それには、ビジョンが明確且つ組織の全員に落とし込まれ、社員のベクトルの向きが揃っていることが要件となります。
前掲の田中教授の寄稿では、組織に頼らないキャリア=プロティアン・キャリアが提唱されています。個人は、目の前に迫る変化に対し「問題の要因を分析し、自ら主体的に、問題解決に取り組む」姿勢で、逆境を転機に変えていく必要があるということです。
対極となる組織内キャリアについて、誤解を恐れずに踏み込んで申し上げます。大きい組織に属していればいる程、人は保守的に物事を捉え、変化に対して抵抗し自身の立ち位置を守ろうとしがちになります。その時の思考は、今までの知識や経験に基づく前例主義となります。また、所属する組織の価値(人数や売上規模など)を自分の価値と勘違いするようになります。自分に自信が無い人ほど、組織の力に頼ろうとします。こうした内向きの力は、変化対応力を高めようとする組織においては、むしろ存在自体がマイナスです。
極論を言えば、「組織が無くなってもやっていけるだけの力を身につけているか?」という問いを個人に突き付けることが必要です。明確にはいと答えられる人は、どのような組織からも来て欲しいと思われる人材です。将来に渡って長期的に自身の知識やスキルを磨き続け、向上心を持ち続けてビジネスにおいて自己実現を図っていこう、組織貢献していこう。そのように想い続け、行動し続けることが出来る個人こそがプロティアン人材であると考えます。
終身雇用が終焉を迎え、転職、兼業、副業が今や当たり前の時代となりました。従業員のキャリア育成においてもそのような労働移動やパラレルキャリアを当然とする姿勢で臨み、社員一人ひとりに自身のキャリアを自分の力で考えさせる、そのような取り組みが求められているのではないでしょうか。キャリアを自分事として捉え、自分の意志で行動に移す。キャリア理論の権威でスタンフォード大学のジョン・クランボルツ博士が著書「その幸運は偶然ではないんです!」で述べられているように、「新しい考えや経験にオープンであり続ける」ことが失敗に対する恐れを克服し、成功することにつながる鍵となるのです。
想定外の環境変化にどう対応するか。この問いを、その場その場の対応ではなく、平常時から激変を前提として考えていかなければなりません。変化対応できる組織を作る為に求められるのは、企業トップ、ミドルマネジャー、組織に属する全員が、自身に課せられた期待役割をどのように果たしていけばよいかを考え抜くことです。自身のものの見方を見つめ直し、新しいものを取り込み、企業トップはビジョンを発信し、個人は将来のあるべき姿を想像しながら自身を磨き直す。これにより変化対応力を高めることが出来ると考えます。
「自ら考え⇒判断⇒行動」できる自律的人材の育成、経営戦略を実行するうえで必要な人材の階層別育成、階層やキャリアといった枠にとらわれず、企業が業績向上を実現するために取り組む必要のある人材育成課題など、「人」と「組織」の問題を解くご支援をいたします。
自動車部品商社勤務を経て、2002年2月よりマンパワー・ジャパン株式会社(現マンパワーグループ)にて、派遣社員のキャリアカウンセリング、面接トレーニング、転職支援に携わり、2008年より支店長として営業部門のマネジメントに従事。営業支援部門を経て、現在はキャリア開発を中心とした人材育成、組織人事コンサルティングに従事。
研修では、双方向のコミュニケーションを意識し、受講生に自ら発言して頂ける雰囲気づくりを得意とする。受講生のキャリアの棚卸のみならず、政治経済社会情勢がビジネス領域にどのような影響を与えるか、その環境変化の中で企業はどのように成長し続けているか、また社員に求められる期待役割は何かについて、受講生に気づきの機会を提供することに情熱を注いでいる。
「受講生が自らのありたい姿(キャリアゴール)を発見し、自信をもって前向きな第一歩を踏みせるように支援する」を自らのミッションステートメントとして、日々ファシリテーションの進化に努めている。