2020年は歴史的な一年でした。業界や業種問わず、すべてのビジネスパーソンが「変化」に向き合いました。そう、コロナ・パンデミックが、私たちの「あたりまえ」の働き方を一つひとつ破壊していったワークシフトの年になりました。
緊急事態宣言が発令され、オフィスでの対面ワークができなくなりました。その間は、通勤もなくなりました。経済活動をとめるわけにはいきません。そこで問われたのが「変化対応力」です。
既存事業から早急にピボットとして、売り上げを伸ばした企業。既存事業からの脱却ができずに、経営難に陥った企業。ビジネスシーンの二極化も深刻化しました。
言うなれば、破壊を創造の機会としてとらえ、これまでの「あたりまえ」から脱却していくことが組織と個人、それぞれに求められたのです。
変化に対応した一つの成果がテレワークの浸透ですね。Zoom、Teams、Slack、Chatwork、Facebook、LINE、etc. オンラインでのコミュニケーションを円滑にさせる様々なデジタルツールを駆使して、私たちはオンラインでビジネスを続けてきました。テレワークでも十分にビジネスをまわしていくことができる、と判断した経営者は、オフィスを縮小化させ、賃料コストをさげる判断に至りました。現状はテレワークとオフィスワークを適宜、取り入れながらのハイブリッド・ワーク・スタイルが主流となってきました。
もちろん、「変化対応力」は組織だけではなく、働く個々人にも求められました。テレワークでのスタイルを確立し、ネット環境整備にいち早く取り組み、個人としての生産性をあげた人もいれば、テレワークへの不満や不安ばかりを募らせ、目の前の変化においてきぼりをくらった人もみてきました。
2021年の働き方は、政府・経済・社会の三つの歴史的モーメントがインターセクトする一年になります。政府による「働き方改革」の実施、経済界による日本型雇用の制度転換、コロナパンデミックの長期的影響、いずれのモーメントにせよ、「変化対応力」が引き続き問われます。
この間、いつからでもキャリアを開発していくことができる、と私は確信を持って伝え続けてきました。最新のキャリア理論であるプロティアン・キャリアという考え方が、そのことを証明しているからです。プロティアンとは、変幻自在という意味です。いかなる環境においても、社会的ニーズや目の前の問題状況を把握し、自らを進化させていくキャリア論です。
(プロティアンの基礎理解については、HRカフェの下記のまとめを参考にしてみてください)
※参考:【保存版】キャリア開発とは?必要性・手法・メリットを一挙紹介!
そして、これからのキャリア開発は、次の三つの組織内ブレーキ要因を打開していく問題解決型の取り組みでなくてはなりません。
22歳から30歳ぐらいまでのファーストキャリア形成期のビジネスパーソンは、これから長年働いていくことへのキャリア展望が不透明なものとなり悩みを抱えています。
30歳から55歳ぐらいまでのミドルシニアキャリア形成期には、組織内キャリアに依存することで、自ら主体的に働くことが難しくなります。
55歳から定年までは、役職定年を迎え、賃金も減少し、働くことへのモチベーション低下に陥る人が少なくありません。
これらの変化への組織内ブレーキを乗り越える具体的な取り組みとして私が提唱しているのが、プロティアン型キャリア開発です。
業界、業種、年齢、性別にかかわらず、自ら主体的にキャリア形成をしていくビジネスパーソンを増やしていくために、キャリア自律型の働き方を支援する人事施策が不可欠です。そのために、ボストン大学のダグラス・ホール教授が提唱したプロティアン・キャリア論を、現代版のプロティアン・キャリア論へとアップデートしました。具体的には、心理的成功・アイデンティティ・アダプタビリティといった基礎視点を継承しつつも、キャリア資本論・戦略的視点・キャリア開発実践方法を新たに取り入れました。
そうすることで、企業現場で実践できるプロティアン型のキャリア開発を構築してきました。現在、複数の企業現場でこのキャリア自律型のプログラムを実施しています。そこでの経験的知見をもとに断言できるのは、組織に依存するキャリアは変化に弱く、自律型のプロティアン・キャリアは変化対応力を高め続けるということです。
迅速にテレワークを導入し、ここの生産性を高めていったのも、プロティアン人材でした。プロティアン人材は、目の前の問題の要因を分析し、自ら主体的に、問題解決に取り組みます。組織に依存している組織内人材は、変化への初動が遅れます。また、対面ワークからテレワークにシフトした時に、主体性が発揮できずに、キャリア迷子になっているのも実は組織内人材なのです。
2021年、企業がそれぞれにとりむくべきことは、キャリア自律型人材の育成です。キャリア自律型人材の必要性は、これまでにも長年言われてきたことでもあります。ただし、私たちは、コロナ・パンデミックという大きな逆境に直面したのです。大きな逆境は、転換へのチャンスです。
この数十年の間に、失墜した日本企業のグローバルシーンでのプレゼンスを取り戻すには、方法は一つしかありません。プロティアン型のキャリア開発を展開し、組織自体の「変化対応力」を総体として高めていくことなのです。それは、組織内キャリアからプロティアン・キャリアへのチェンジを意味します。
大きな変化に対峙した2020年の経験をもとに、2021年は、自ら主体的に考え、個々の生産性を高めながら、組織の生産性も向上させていく。主体的な個人と進化する組織によるプロティアン型のキャリア開発を基軸に、日本企業の飛躍の一年にしていきましょう。
一般社団法人プロティアン・キャリア協会 代表理事/UC. Berkeley元客員研究員 University of Melbourne元客員研究員 日本学術振興会特別研究員SPD 東京大学 /博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。
専門はキャリア論、組織論。社外取締役・社外顧問を23社歴任。著書25冊。『辞める研修 辞めない研修–新人育成の組織エスノグラフィー』『先生は教えてくれない就活のトリセツ』『ルポ不法移民』『丼家の経営』『都市に刻む軌跡』『走らないトヨタ』、訳書に『ボディ&ソウル』『ストリートのコード』など。ソフトバンクアカデミア外部一期生。専門社会調査士。新刊『プロティアン―70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本論』。最新刊に『ビジトレ−今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』 日経ビジネス 日経STYLE他メディア多数連載