こんにちは。前回は、「越境学習とは何か?」について、その定義と概略についてご紹介いたしました。なんとなく理解はできたが、それはいったいどのような効果が期待できるのか?あるいは企業はどんな風に越境学習をとらえればいいのだろう?そんな風に思われたかもしれません。そこで今回は、越境学習の効果について、ご紹介していきたいと思います。
越境学習には、具体的にはどのような効果が期待できるのでしょうか?
筆者は大きく分けて、図のように分類されると思っています。(図2a)
(図2a)
まず、越境学習の効果は大きく分けて、技術面と思考面に分けられます。技術面は、「コンサルテーション」と「プロジェクト・マネジメント」に分けられます。「コンサルテーション」というとやや特殊に感じるかもしれませんが、通常のビジネスの中で、誰かの相談に乗ることや、問題解決に直面することはたくさんあります。越境する経験は、普段接している組織や環境、文化や文脈とは異なるため、聞く力や問題を解決する力が普段以上に重要となります。
また「プロジェクト・マネジメント」も重要です。越境学習には一人で越境する、チームで越境するケースがあります。一人で行っても、越境先の人たちと何をどのような方法で取り組むのかについて明確にする必要があります。そこで重要になるのがプロジェクト・マネジメントなのです。
これらは難しく感じるかもしれませんが、特別なスキルではなく、学生など若者のサークルやご高齢の地域活動などでもグループで何かをなすために普通に行われていることです。そうした環境で自ら工夫してみることが生きた学習になります。
思考面については、「越境先からの学び」「自己のスキルの棚卸」の二つがあります。
「越境先からの学び」は、文字通り、越境先からどのようなことが学べるか?です。今の越境先は、ベンチャーやNPO、自治体などに出向くことが多いですが、自分の普段の仕事とは異なる世界で、そのものの見方は何か?そこに向き合っている人はどのような思考で実践しているのか?という点は、新しい視点をもたらせてくれます。
また、最後になりましたが、本来は越境の前にすべきともいえる「自己のスキルの棚卸」です。通常、越境学習は"物見遊山"ではなく、「越境先を何らかで支援する」形で行くことが多く、その方が(ただ越境するだけよりも)学びも多くなります。そうした「支援」を前提とした越境において重要なのは、自分は何ができるのか?どんなことで役に立てるのか?どのようなことが強くまた弱みは何なのか?を整理しておく必要があります。これは顕在化したスキルだけでなく、仕事の向き合い方や自身の性格的な特徴などポータブルスキルも整理しておくとよいと思います。
これは人材育成全般に言えることかもしれませんが、人材育成は、育成後の人材をどのように組織で活躍してもらうか、言い換えれば、経営戦略の中に人材育成の結果をビルトインすることが大切になります。
越境学習をしたものが、越境先から何を持ち帰り、持ち帰った先の組織でどのようにその経験を活かすのかをデザインすることが求められます。筆者はこれを「越境学習のミツバチ効果」と呼んでいます。働きバチが巣からでて(越境し)、何かを収穫して巣に持ち帰る様を比喩したものです。(図2b)
(図2b)
越境学習の効果の項でお話ししたように、越境には自身のスキルなどを持ち出しつつ、越境先やその経験自体から学んだ成果をいかに本業に活かせるかが重要です。わかりやすい例でいえば、新規事業の企画者が、ベンチャー企業に越境して、事業の拡大の支援をしつつその経営手法や考え方を学ぶとした場合、その結果を本業の新規事業に活かすということです。技術者や経営者の考えやスキルと、自社の新規事業を比較し、その優位性や不足している点などを見る目を養うことで、企業の新規事業の政策に新しい知識が増えることになります。別の例でいえば、SDGsに取り組む企業が、そのパートナー先となりうる可能性のあるNPO等の現場支援に出向くことで、課題の本質や団体マネジメントを経験すれば、会社に戻ってどのような点でNPO等の外部団体とパートナーシップを築くかの大きなヒントになるでしょう。
また、筆者が行っている越境学習プログラムでは、副業を解禁している企業が、副業先を選ぶ形で参加されるケースもあります。
前回ご紹介しましたように、企業においては通常の組織で成果を上げることと並行して、小さなプロジェクトを実践してトライ&エラーを行う働き方が増えています。こうした働き方の変化は、リーダーシップ像も変化させてきました。
図は、環境変化と組織構造により、そこで発揮される主なリーダーシップ像を描いたものです。ここで見ると、変化が激しい時代で組織構造がよりフラットになる場合、個人が自身の職務に関してリーダーシップを発揮するスタイルが求められます。
例えば、企業内でのプロジェクトの現場でも、多くはその専門スキルや経験のある人が登用されます。異なるスキルや経験を共有(シェア)し、個々人が自身の職務や知見にリーダーシップを発揮しなければ、プロジェクトを期間内で成果を上げることができません。
越境経験のある人材こそ、自身や所属する組織の利益の代弁者になるのではなく、プロジェクトを自身のリーダーシップを発揮して働く、「シェアードリーダーシップ」が期待されます。そしてそうした人材が有機的に成果を上げていく社内プロジェクトをたくさん立ち上げて、そこに参加していく「社内副業」のような働き方も大手企業はじめ採用され始めています。
変化の激しい時代だからこそ、多様な人材がチームとなり成果を上げていく組織づくりに、この越境人材はますます必要とされていくと想定されるのです。
今回は、越境学習の効果や変化するリーダーシップについても触れました。最後に、以前筆者が行いました「公開型越境学習プログラム」でのエピソードを紹介します。
ある講座で、社会人方たちが集まってチームを組み地域の中小企業の経営計画づくりを行う越境学習プログラムを実施しました。そこに集まったのは、経営学博士号や公認会計士、大手広告会社のマーケターやビジネスモデルづくりのコンサルタントなど、錚々たるメンバー。私は思わず、彼らになぜこの講座を受けたのかと聞きました。するとほぼ全員から「講師(筆者)の知識ではなく、自分の知識の実践経験が欲しい」と言われ、なるほどと納得しました。彼らは十分な知識(講師以上?)がありながら、その実践経験の場が欲しかったということでした。どのようなプロフェッショナルでさえ、当然最初はビギナーであり、チャレンジした経験より学ぶことは多くあります。その意味では、ファーストステップは何事も「越境学習」ということも言えるかもしれません。
現在、多くの企業が様々な越境学習と呼べるような取り組みを行っています。次回は企業がどんな風に越境学習を取り入れていくのかについて、事例も見ながらご紹介したいと思います。
経営革新等認定支援機関
中小企業診断士
大手電子機器メーカーにて、ロジスティクス、経営企画、新規事業開発、事業戦略、子会社支援等に従事する傍ら、2010年よりプロボノ活動に参加。理事として100件以上のプロジェクトに携わる。
2014年に同社を退職し、スモールビジネス支援とPBL(Project Based Learning)手法を織り交ぜた「プロボノ験修」を行う、ナレッジワーカーズインスティテュート株式会社を設立、代表取締役就任。
研修事業の傍ら、大手・中小のコンサルティング、自治体や商工会議所などのイベントセッション・ファシリテーターを務めるなど多方面で活躍。
パラレルキャリアの紹介等で自治体主催セミナーでの講演やメディアなどの出演も多数
京都市出身。