「あなたの会社は、女性が活躍しやすい職場環境ですか?」
――そんな質問をされたとき、どう答えるでしょうか。胸を張って肯定できる人は、現状あまり多くないようです。日本経済新聞社が行ったアンケート調査によれば、「自社の女性活躍が進んだ実感がある」と答えた女性の割合は、わずか2割にとどまりました。「ライフイベントのあとも働き続けたい」「ハイパフォーマーとして活躍したい」と望む女性の声が多いなか、なかなか実績が伴わないのが現状。今、企業に変革が求められています。
そこで今回は、社内の女性活躍を推進するために役立つ、知識とノウハウを紹介します。「女性の活躍を阻む壁」や「女性活躍を推進するための手法」などをデータに基づいて解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
日本全体で見たとき、女性の活躍はどれくらい進んでいるのでしょうか。
「就業率」「勤続年数」「管理職の割合」「正社員比率」という4つの指標から、女性活躍の現状を分析します。
生産年齢人口(15歳~64歳)における女性の就業率は、1986年には「53.1%」と約半分でしたが、2016年には「66%」まで上昇しています。特に子育て期(25歳~44歳)の就業率向上が著しく、同期間で15.6ポイントも上昇しました。労働力人口(15歳以上)に占める女性の割合も、2017年で「43.7%」と右肩上がりに伸びています。
この背景には、女性に対する職業観の変化があると言われています。「(女性は)子供が大きくなったら再び職業をもつ方がよい」「子供ができても、ずっと職業を続ける方がよい」という2つの考え方のうち、1992年には男女ともに前者の割合が勝っていました。つまり「子どもが大きくなるまで、女性は家庭に入る方がよい」と考える人が多かったのです。しかし、2004年に割合が逆転。男女ともに「子供ができても、ずっと職業を続ける方がよい」の割合が増えました。女性の就業継続への意欲と男性のあと押しが、女性の就業率増加を支えています。
※参考:女性の活躍の推進のための対策について|厚生労働省(PDF)
※参考:第1節 働く女性の活躍の現状と課題|内閣府 男女共同参画局
ただ、女性の勤続年数を見ると、その水準がまだまだ低いことがうかがえます。女性一般労働者(短時間勤務ではない労働者)の勤続年数は平均9.4年で、男性の平均勤続年数13.5年に比べてかなり短いです(2017年)。女性は25歳~45歳の間で労働力率(※2)が下がる(M字カーブを描く)ことを考えると、結婚や出産を機に退職を選んでいる女性が多いことも分かります。勤続年数の増加については、今後の重要課題と言えそうです。
※参考:女性の活躍の推進のための対策について|厚生労働省(PDF)
※2: 労働力率=15歳以上の人口に占める「労働力人口(働いている人+失業中の人)」の割合を指します。
また、管理職の割合も男性に比べて高くありません。管理職に占める女性の割合は、13.2%(2017年)。これは国際的に見ても著しく低く、アメリカ43.8%、イギリス36.0%、フランス32.9%と先進国のなかで比べても低いことが分かります。管理職における女性の割合を増やすことについても、この国の課題だと言えるでしょう。
※参考:女性の活躍の推進のための対策について|厚生労働省(PDF)
正社員比率も、高いとは言えません。現状、女性の正規社員比率(※2)は44%で、男性が78.8%なので男性が圧倒的に高いです(2018年)。ちなみに同調査では、正規社員にならない理由を「正規の職員・従業員の仕事がないから」と答えた女性が149万人もいました。この人数は、男性で同じ回答をした人数147万人より多いという結果です。つまり「不本意ながら非正規社員を選んでいる」人数は、女性の方が多いということになります。女性が"希望どおりに"正社員として働き続けられるような仕組みづくりも、日本の大きな課題です。
※参考:I 働く女性の状況|厚生労働省(PDF)
※参考:第1節 就業をめぐる状況|内閣府 男女共同参画局
※2:正規社員比率は、「100-非正規社員比率(%)」で計算
この国における女性活躍の現状を踏まえ、政府も「女性活躍推進法」という法律を定めて、それに基づいた支援を行っています。企業による取り組みを紹介する前に、まずは国の取り組みについて大まかに説明します。
「女性活躍推進法」とは、女性の活躍を通じて豊かな社会を実現するために、2016年4月に施行された法律です。この法律では、従業員101名以上の企業は国に対して、「事業主行動計画」を届け出ることが義務づけられています。事業主行動計画とは、企業が自社における女性の採用比率・管理職への登用率・労働時間などを計画・測定し、まとめたものです。国はこの事業主行動計画を見て、実施状況の優良な企業に認定を与えています。
優良な企業に与えられる認定は「えるぼし認定」「プラチナえるぼし認定」と呼ばれ、計画の達成水準によってグレードも上がります。企業は認定マークを自社の商品や広告へ貼り、対外的にアピールすることが可能です。
企業にとっても大きなメリットがあるのが、この認定の特徴です。例えば、求人広告に認定マークを掲載することで、「女性が活躍している会社」であることを求職者へアピールし、優秀な人材の獲得につなげられます。また、女性活躍を推進している上場企業は、経済産業省と東京証券取引所から「なでしこ銘柄」として選定され、株主から有利に投資を受けることも可能です。企業としても、積極的に取得を目指すべき認定と言えるでしょう。
※参考:女性の職業生活における活躍の推進に関する法律の概要|厚生労働省(PDF)
※参考:女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を策定しましょう!|厚生労働省(PDF)
女性の勤続年数や管理職への登用率が伸び悩んでいる理由とは、何なのでしょうか。
女性の活躍を阻んでいる障壁について、大きく4つの観点から解説します。
内閣府の調査によると、育児休業制度を利用して就業を続ける女性は年々増えているものの、第一子の出産とともに退職を選ぶ女性は「46.9%」と依然多い結果になっています。その原因は、産休・育休から復帰した後の不安にあるかもしれません。例えば、「万が一子どもが体調を崩したとき、仕事を代わってもらえる雰囲気がない」「残業が多く、有給も自由に使えない」など、制度や職場風土に不満を抱える女性も多いのです。
※参考:「第1子出産前後の女性の継続就業率」及び出産・育児と女性の就業状況について|内閣府男女共同参画局(PDF)
「育休から復帰して時短勤務で働いているものの、重要な打ち合わせがいつも夕方以降にある」といった悩みを抱える女性もいます。また、「時短では仕事が終わらないので家に持ち帰っている」という女性も少なくありません。これは、職場で長時間労働が前提となっている証しです。せっかく女性が職場復帰を果たしても、子育てと両立できるような状況でなければ意味がありません。また、職場全体に"残業が当たり前"な空気があると、女性は「たとえ育休を取っても復帰できなさそう」とおっくうになってしまいます。社内風土そのものの変革が必要です。
そもそも人事評価に男女差がある場合、女性はキャリアプランを描きづらくなってしまいます。例えば、評価の基準が「仕事の量×質」だった場合どうでしょう。必然的に長時間働く人だけが評価されてしまう職場では、ライフステージの変化を迎える女性は不利になってしまいます。ただでさえ日本は、昔から長時間労働を是とする風土です。たとえ残業しなくても、時短勤務でも高く評価されるような制度へ抜本的に変えていく必要があります。
女性の管理職登用が進んでいないということは、それだけ女性が"お手本"にできる存在が少ないということです。マンパワーグループが女性を対象に行ったアンケート調査(2018年)では、自身の職場を「働きにくい」と感じる理由について、「女性のロールモデルがいない」「女性の上司が少なく、相談しにくい」と答えた人が多く見受けられました。女性の管理職がいないと、必然的に男性の管理職を目標とせざるを得ません。ただ、「男性のようには働けない......」と感じる女性も多く、結果として管理職を諦めざるを得なくなることもあります。
※参考:働く女性の3人に1人が「働きにくさ」を実感。女性管理職の存在が若手人材確保につながる!?|マンパワーグループ
上述のような課題を踏まえたうえで、女性の活躍を推進する施策とはどのようなものでしょうか。
ここでは、大きく"7つ"の手法を紹介します。
女性の管理職を増やすためには、まず何より女性の採用を増やす必要があるでしょう。女性だけに限定して採用することは男女雇用機会均等法に抵触しますが、"一定の条件"を満たせば、女性を優先して採用することもできます。それが「ポジティブ・アクション」です。一般職・総合職などの雇用管理区分ごと、または課長・部長などの役職ごとに、女性の割合が「4割以下」だった場合は女性を有利に採用できます。求人広告にも「女性募集」と表記することができるので、もし採用すべき部署や役職に女性が少ない場合は、非常に有効な手段です。
※参考:事業主の皆様へ 女性管理職の中途採用が行いやすくなりました!|厚生労働省(PDF)
女性が体力面で無理なく働けるよう、長時間労働を善としない社風へ変えていく必要があります。例えば、週に何回か「ノー残業デー」を導入し、定時退社を促すのもひとつの手です。また、「事前に計画を立てて有休取得を義務化」「時間・半日ごとの有休取得を推奨」も、効果を挙げやすい手段として多くの企業が取り入れています。そして、女性が体調不良の際に早退・お休みできる、女性向けの休暇制度を作るといった工夫も有効です。
女性が働きやすい環境は、「残業が少ない」「お休みが取りやすい」だけではありません。ライフステージに合わせて柔軟に働き方を変えられる制度も、取り入れるべきでしょう。例えば、育児中は週に何回かまで「在宅勤務」を可能にしたり、コアタイムのない「フルフレックスタイム制度」を導入したりといった施策が挙げられます。始業時間を後ろ倒しできる「スライド勤務制度」を導入している企業もあり、企業ごとに工夫の余地があります。
残業が前提となるような評価制度であれば、育児中の女性が不利になることもあります。性別によって不利になるような評価制度は、変えるべきです。そこで、今さまざまな企業で導入が進んでいるのが、「時間に対する生産性」で評価する仕組みです。たとえ短時間でも、そのなかで十分な成果を挙げれば、高く評価されます。これなら、女性が性差に関係なく評価を受けることができ、昇格や昇給のチャンスを手にする機会も増えるでしょう。
人事評価制度を見直すポイントは「人事評価への不満にどう対処すべき?評価制度の見直し方法・ポイントを解説!」をご一読ください。
産休・育休からの復帰者が無理なく家庭と仕事を両立できる環境も、整えていく必要があります。例えば、育休取得予定の女性と上司が面談を行うことです。できれば妊娠が分かった瞬間から、育休中、復帰の数週間前、復帰して業務に慣れるまでなど、継続的かつ定期的に面談することが望まれます。企業としても面談を通じて本人の進みたいキャリアを知っておくことで、対応を考えやすくなるでしょう。また上司だけでなく、子育てを経験したことのある女性の同僚がランチ会や気軽なミーティングを行い、育休復帰者の相談に乗ってあげることも大切です。
そして、育休復帰者に対しては、業務の面でもサポートが必要です。なぜなら子どもが37度5分以上の熱を出すと、受け入れてくれない保育園もあるからです。そうした「急に休まざるを得ない状況」が発生したときに、周囲の従業員が業務を代わってあげられる体制・仕組みがあれば、女性本人も安心できるはずです。自社内に託児所を設置したり、ベビーシッターと法人契約したりといった取り組みがあるとより良いかもしれません。
<一緒に読みたい記事>【人事必読】育休とは?復帰する社員への支援策を解説!
女性の活躍しやすい環境をつくるには、女性の上司となる管理職への教育も欠かせません。例えば、管理職への研修や勉強会を通して、女性への声がけの仕方や面談方法を教えるのも効果的です。また、妊娠中・育児中の女性への対応をまとめたパンフレットを配るのもよいでしょう。管理職への日ごろからの意識づけが何より大切です。
女性の活躍が進まないのは、女性本人が将来どのようなキャリアを描けばよいか分かっていないことも一因です。そのため、女性向けにキャリア開発の研修を行うことも有効でしょう。マンパワーグループの「女性活躍推進研修」を例に挙げると、研修では「会社から期待される役割」や「ライフイベントとの向き合い方」などを学び、女性本人がマインドセットによってよりモチベーションを高めることができます。女性が"自分らしいキャリア"を進むためには、こうしたキャリアに対する意識づけの研修が非常に効果的です。
※参考:女性活躍推進研修|マンパワーグループ ライトマネジメント
社内の女性活躍を推進することで、従業員の満足度が高まり、対外的な評価も良くなることが多いです。とはいえ、さまざまな施策を自社内で完結させることは難しいかもしれません。だからこそ女性の活躍を推進するための手法に迷ったときは、研修サービスを提供する専門企業のような、外部のプロフェッショナルを頼ることをおすすめします。プロのアドバイスを聞くことで、より効果的な施策を展開できるようになるでしょう。
「女性活躍推進」といっても、決まりきった取り組みでは持続・浸透しません。自社オリジナルにこだわり、大切な社員に生き生き働き、人生を歩んで欲しいとお考えではないでしょうか。ライトマネジメントは貴社の人事戦略や組織風土、お持ちの課題をしっかりとうかがい、貴社にマッチした施策をご提案します。