企業にとって、優秀な従業員に長く活躍してもらうことは大きなプラスになります。その意味で、育休に入る従業員がスムーズに復帰できるように支援することは、非常に大切です。ただ、育休から復帰する従業員がどんな不安・悩みを抱えているのか、詳しく知らない人事担当者もいるかもしれません。そこで今回は、「育休の意味や復帰率」「育休から復帰する従業員が会社に望むこと」を紹介し、企業として行うべき支援策を分かりやすく解説します。
育休とは「育児休業」の略称で、「育児・介護休業法」によって定められた、育児を行う従業員のための休業制度です。同法では、1歳に満たない子どもを養育する男女の労働者(※1条件あり)は、会社に申し出ることで子どもが1歳になるまで休業できると定めています。ただし、1歳になるまでに子どもを保育所に入れることができなかった場合は、1歳6ヶ月まで休業を延長でき、それでも保育所への入所が難しかった場合はさらに最長2歳まで休業を延長することが可能です(平成29年10月1日に施行された改正法より可能になりました)。
「育児・介護休業法」によれば、育休とは、企業が育児を行う労働者の雇用を継続できるように努め、仕事と家庭との両立を図れるよう労働者を支援するためにあるとされています。
ちなみに混同しやすい言葉に「育児休暇」があります。育児休暇とは、従業員が育児のために取る休暇を意味し、法律上の定めはありません。育児のために有給休暇や特別休暇を取得すれば、それも「育児休暇」になります。
※1:「期間の定めのある労働契約で働く従業員」(契約社員・派遣社員など)は、育休を取得するための条件が細かく決まっています。詳しくは、育児休業や介護休業を 有期雇用労働者について - 厚生労働省(PDF)をご確認ください。
※参考:育児・介護休業法のあらまし06この法律の目的|厚生労働省(PDF)
:育児・介護休業法について スライド1|厚生労働省(PDF)
厚生労働省の調査(※参考1)によれば、平成29年4月1日~平成30年3月31日に育児休業を終え、復帰予定だった女性のうち実際に復職した人の割合は89.5%でした。つまり、育休からの復帰率は89.5%で、残り10.5%の女性は退職を選んでいます。また、男性の場合を見てみると、同期間の復帰率は95%で、残りの5%は退職を選んでいます。ちなみに正規職員やパートなどの雇用形態で数字は異なるものの、第一子出産後も就業を継続する女性の割合は年々増えています。
育休後も就業を継続する女性が増えている背景には、「共働き」に対する理解の浸透があります。内閣府の調査(※参考2)によれば、「夫が働き、妻が家庭を守る」という夫婦の分担意識に対して反対する割合は増加傾向にあり、平成28年には「反対」が「賛成」を上回る結果となりました。また、共働き夫婦の世帯数は全国に1188万世帯(平成29年)あり、増加の傾向にあります。
※参考1:平成30年度雇用均等基本調査(確報)事業所調査|厚生労働省(PDF)
※参考2:男女共同参画白書(概要版) 平成30年版|内閣府 男女共同参画局
育休からの復帰者を迎える前に、まず企業として"法律上"最低限整えておかなければいけないことがあります。ここでは「育児・介護休業法」の内容に即して、企業が必ず準備しておくべきことを紹介します。
◆短時間勤務制度
育児・介護休業法では、育休からの復帰者に対する「短時間勤務制度」の設置が義務づけられています。具体的には、3歳未満または小学校入学前の子どもを育てている従業員(一定の条件を満たす必要あり)が、原則1日6時間の時短勤務を行えるようにする制度です。時短勤務の設置は任意ではなく"義務"なので注意が必要です。
◆所定外労働・時間外労働・深夜残業の制限
同法では、3歳未満または小学校入学前の子どもを育てている従業員(一定の条件あり)から請求があった場合、所定外労働(1日8時間/週40時間を超える労働)をさせてはいけないと定められています。また、小学校入学前の子どもを養育する従業員から請求があれば、1ヶ月24時間・1年150時間を超える時間外労働をさせてはいけません。かつ、午後10時から午前5時までの深夜帯の労働もさせてはいけないと決められています。
◆子の看護休暇
小学校入学前の従業員から申し出があった場合は、年次有給休暇とは別に、1年につき5日間(子どもが2人なら10日間)、病気やけがをした子どもの看護・予防接種・健康診断のために休暇を取得させる必要があります。こうした「子の看護休暇」は有給休暇とは別に設置が義務づけられているので、注意が必要です。
育児・介護休業法の第10条では、企業が従業員に対して、育休の申出・取得を理由とする解雇・不利益な取扱い(※1)をしてはいけないと定められています。同時に、上司や同僚が職場において、妊娠・出産・育児休業を理由に就業環境を害する行為(ハラスメント)をしないように、企業として防止措置を講じなければいけません。具体的な防止措置としては、パンフレットや社内報による従業員への周知、ハラスメントを行った者に対する懲戒規定の追加、ハラスメントに関する相談窓口の設置などが挙げられます。
※1:不利益な取扱いとは、「降格させる」「減給する・賞与で不利益な算定を行う」「人事考課において不利益な評価を行う」などの行為が含まれます。育休の申出・取得を理由としたこれらの行為は、すべて"違法"です。
※参考:平成28年改正法の概要|厚生労働省(PDF)
:職場における 妊娠・出産・育児休業・介護休業等に 関するハラスメント対策や セクシュアルハラスメント対策は 事業主の義務です!!|厚生労働省(PDF)
ここからは、企業が独自の努力として育休復帰者のために取り組むべき支援策について説明します。ベビーシッターサービス「キッズライン社」のアンケート調査によれば、育休からの復帰について「不安があった」と答えた女性の割合は96.1%にものぼり、ほとんどの人が職場復帰に不安を示しているのです。そこでまずは、実際に育休から復帰する人たちが、どんなことを企業に求めているのか、同アンケート調査をもとに紹介します。
無理なく保育園の送り迎えができるかどうかは、子どもを育てる従業員にとって最大の関心事です。なかには、「時短で働いているものの、仕事が残ってしまい保育園の時間に間に合わないことがある」と悩む人もいます。企業としては、出社時間を遅めに設定する・残業をさせないようにするといった支援が必要になるでしょう。
子どもが病気やけがになったときは、看病のために急きょお休みが必要になることもあります。また、37.5度以上の熱がある子どもを預からない保育園も多く、その場合は保護者が迎えにいかなければいけません。こうした従業員の突発的な休みや退社に対応できるよう、業務量やシフトを調整することも、企業の役目だといえます。
育児や家事と両立しながら仕事をするのは、とても大変なことです。ただ、周囲にこうした苦労を話せる相手がいないと、育休復帰者が一人でストレスを抱え込んでしまうかもしれません。そのため、「上司が業務のなかで積極的に相談に乗るようにする」「復帰者との面談の機会を随時設ける」といった支援も必要になるでしょう。
育休復帰者の大きな悩みとして、「キャリア形成」への不安が挙げられます。実際、「時短で働くため、任される業務の質が下がらないか」「育休を経ることで、積み上げたキャリア・ポジションが無駄にならないか」を不安に感じる人も多いです。企業としては、復帰者が無理なくキャリア形成できるような制度も整えるべきでしょう。
今まで紹介してきた「育休復帰者の不安」を踏まえて、企業が取り組むべき5つの支援策について説明します。
復帰者が不安なことをすぐ相談できるよう、上司が定期的に面談することが大切です。できるだけ復帰前から上司が電話やWeb会議ツールなどで相談に乗り、復帰にあたっての本人の不安や疑問を解消しておくことが望ましいでしょう。本人が復帰した後も、上司が復帰者とマンツーマンで行う「1on1ミーティング」で、悩みや不安を聞くことも有効です。困ったときに、すぐ本人から相談してもらえる関係を築いておくことが重要だといえます。1on1ミーティングのテーマや効果を高めるためのポイントは「1on1ミーティングで何を話すべき?効果を高めるためのテーマ・ポイントを解説!」をご覧ください。
育休から復帰した従業員は子育てと仕事を両立しているため、子どもの病気やけがで急きょ休みになることもあります。その際に周囲がサポートできるように、体制を整えておくことが大切です。例えば、1つの業務をメイン担当・サブ担当の2人で進める「ジョブ・シェアリング」や、上司を常にメールのCCに入れておくなど、緊急時にすぐ業務を代われるような工夫が必要でしょう。これにより、復帰者の精神的な不安も緩和できます。
時短勤務で働く従業員にとって、できるだけ業務を効率化できるように、仕事の進め方を見直しておくことは大切です。例えば、復帰者がスピーディに仕事を覚えられるように「業務マニュアル」を作っておく、チーム内で誰が何の業務を担当しているかを可視化できる社内システムを導入する、といった対策が効果的です。生産性の高い職場環境であれば、時短勤務で働く復帰者も無理なく仕事を進められます。
育休からの復帰者が、子どもの看病でどうしても出社できないケースもあります。そうしたときのために、時間や場所に縛られない柔軟な勤務制度を用意しておくことも重要です。例えば、1週間のうち日数を決めて在宅ワークを認めることもひとつでしょう。最近ではWeb会議ツールも発達しているので、在宅ワークでも打ち合わせに無理なく参加できます。他のチームメンバーの負担にならない範囲で、柔軟な働き方を認めることが大切です。
育休からの復帰者に多い悩みが、「育休を経ることでキャリア形成に支障が出るかもしれない」というものです。そうした不安を解消する意味でも、復帰者と今後のキャリアについて話し合う場を設ける必要があります。目標の決め方やキャリアアップの流れ、昇給の基準など、面談を通じて復帰者に伝えておくことが大切でしょう。
また、復帰者が自らキャリアプランを立てやすいように、外部の研修を取り入れるのも有効です。研修サービスの専門企業が提供している研修のなかには、育休復帰者向けの研修もあります。研修では、ライフステージに合わせた目標の立て方、ライフイベントの乗り越え方など、復帰者が知りたい内容が網羅されていることが多いです。企業としてこうした研修を導入することで、育休復帰者のキャリア形成を支援できます。
※参考:女性活躍推進研修|マンパワーグループ ライトマネジメント
復帰者が安心して働き続けられる環境を作ることは、社内のワーク・ライフ・バランスを推進することにもつながります。働きやすい環境を作ることで、従業員のエンゲージメント(「企業に貢献したい」という想い)が高まる可能性もあるでしょう。ぜひ一度、育休復帰者への支援策を社内で検討してみてはいかがでしょうか。
ライトマネジメントでは、現場や企業の状況・テーマに合わせた施策・研修を提供しています。女性活躍推進施策から産休前の準備支援プログラム、退職予定者のインタビューまで様々なソリューションでご支援いたします。