人材の流動性や多様性が高まっている中で、組織開発が注目されています。組織開発は、従来の人材開発とどこが違い、どのような特徴があるのでしょうか。今回は、組織開発び定義と目的を明確にした後、組織開発の実践プロセスと人事部門の役割について解説します。
まずは、組織開発の概要について確認しましょう。従来の人材開発との違いについて、開発対象の違いに着目して見ていきます。
組織開発とはOD(Organization Developmentの略)とも呼ばれる、人材開発やリテンションの一手法です。組織に属する人同士の関係性に働きかけることで、組織全体に経営のミッション・ビジョン・バリューの浸透、組織に対する貢献意欲をアップ、引いては組織全体の底上げまでを目指します。組織開発の目的を端的にまとめると以下の3点です。
ここまでの内容では、従来の人材開発との違いが分かりにくいかもしれません。注目するポイントは、人材開発と組織開発が、それぞれ何を対象としているのか、という点です。
人材開発の対象は、あくまでも「従業員個人」です。新入社員や中堅社員・管理職などに対してそれぞれ研修を行い、個人の力を伸ばす方向へ働きかけるのが、人材開発のやり方です。例えば、新入社員を早期に戦力化したい、という場合、人材開発では新人研修を手厚くすることを第一に考えます。さらに、職場でのOJT(On the Job Teachnig)を強化する施策もプラスして、新入社員を「鍛えよう」とする方向になるのではないでしょうか。しかし、組織開発では、従業員個人を鍛えるよりも、組織内での「関係性」に注目します。
先ほどの新入社員の例を組織開発の手法で検討するなら、新入社員と職場の上司や先輩社員との「関係性」に注目した対策が検討されます。例えば、常日ごろから一緒に仕事をしている先輩社員の教え方がその新人社員に合っているでしょうか。また、上司との関係があまりうまくいっていない可能性もあります。
組織開発では、このように「人と人との関係性」に注目して、問題解決を図ります。具体的な方法としては、あまりスムーズではない関係性には話し合いの場を設ける、組織メンバー全員のディスカッションを促すなどがあります。組織内の関係性が改善することで、新人社員は自身の成長プロセスに即した指示や教育が受けられるように。一方、上司や先輩社員も、新人社員の心情を理解できるようになり、より効果的なコミュニケーションが取れるようになります。
組織開発を実践するための方法については、多くの人がさまざまな形を考えています。ここでは、組織開発を実践するための基本プロセスとして、以下の4プロセスを挙げました。
それぞれのプロセスについて、具体的に何をするのか解説します。
どんな会社でも、必ず経営理念は制定しているのではないでしょうか。そして、経営理念を実現するために、どのような将来設計(Vision)を掲げ、価値(Value)を生み出すためにどのような仕事(Mission)があるかが重要です。組織開発の出発点では、まず、すでに定まっているMVVより、組織開発の目的とゴールを設定します。仮に会社の目標が「利益30%アップ」と決まっている場合を検討してみましょう。組織が営業部門である場合、自部門で「営業の成約率を月〇%」アップすることを組織としての目的・ゴールとして定めた、と考えてください。
次に必要なステップは、現状を把握するためのサーベイを実施して、自組織にどのような課題があるかを抽出することです。人材開発の場合は、従業員個人の研修や努力目標となりますが、組織開発では、人と人との関係性に着目するため、単純に課題は見出せません。そこで、組織メンバー全体へのインタビューや調査によって、関係性のどこに問題があるかを抽出することが重要になります。組織開発では、調査の結果見えてきた問題点が、解決すべき課題です。
課題が見えてきたら、課題の見立てが合っているかどうかの検証に入ります。その際、組織内で一斉に課題解決に向けてスタートすると、課題がずれていた場合に大きな手戻りが発生します。抽出した課題の解決を図るために、組織開発では、まずスモールスタートで少人数から課題に取り組み始めます。少人数で試す場合、効果検証も簡単で、すぐに次善の策を練ることも可能です。少人数で何度も試して効果を検証し、その結果をフィードバックして課題の精度を高める、というプロセスによって、少ない工数で大きな効果を得られます。
試験的に何度か課題に取り組み、確かな効果が出るようになったら、その結果を組織内に共有して全体展開します。課題の内容が全社に関わる場合は、全社展開をして大きな効果を得られるように目指すことが、基本プロセスの最終段階です。このようにして、組織全体にMVVを浸透させつつ、組織内の関係性が良くなることで、組織メンバーのモチベーションも向上します。
組織開発を導入して基本プロセスを実践していくためには、人事部門が積極的に動く必要があります。具体的に、どのような施策が必要になるのかについて見ていきましょう。
組織開発の実践には、人事部門が各組織と積極的に関わり、話し合いをスムーズに進める旗振り役となるよう期待されます。その役割を果たすために、人事部門の担当者は、以下の能力が必要です。
これらの能力を修得するため、人事担当者自身が組織開発に関する勉強や、研修・セミナーによる情報収集を行いましょう。組織開発の方法論を身に付け、各部門で初めて組織開発に取り組む場合に、話し合いの設計を共同で進めて、方法論をレクチャーします。最終的には組織自身で、最終的なゴールを設定して話し合いを進められるようにサポートします。組織内での話し合いでは、ファシリテーターとしての役割を求められる場合もあるでしょう。話し合いを活性化させるためのブレインストーミング、話し合った結果を要約し、整理をする能力はファシリテーションに活かせる能力です。また、コーチングの技術は、話し合う相手自身が答えを見つけられるように促すのに役立ちます。
組織開発では、各種サーベイ(調査)も非常に重要な要素です。年1回だけ行う従来の社員満足度調査では、あくまでも個人の感想に限られた内容でした。社員満足度調査では、職場環境、処遇・福利厚生などに対する充足度が測定でき、不満解消には使えます。一方、人との関係性に着目する「エンゲージメントサーベイ」では、社員と組織の双方向性に関する質問項目が並びます。エンゲージメントサーベイで見出した課題を改善すると、不満の解消に留まらず、個人のモチベーション向上や生産性の向上なども可能です。
このように、サーベイの内容次第で抽出できる課題が変化し、施策内容もその結果も変わってきます。このことをよく理解した人事担当者が各種サーベイの実行を推進することで、組織開発の品質向上が期待できます。
組織全体に浸透させたいMVVについては、経営陣との綿密な話し合いが必要です。経営陣への取材も、人事部門の重要なミッションです。経営陣から経営理念について丹念に確認した後は、その内容を各部門にフィットした形でどういう施策にするかを考えます。その際、経営陣からMVVのコアとなる考え方を聞いた人事部門が各部門の相談に乗ることで、MVVを大きく外すことなく、各部門独自の課題設定が可能になります。
組織開発は、「人と人との関係性」を対象として強化する、という人材マネージメントの一手法です。従来の人材開発が「人」を対象として強化する考え方とは違い、関係性を対象とするため、現状がどうなっているのかを把握する各種サーベイが重要になります。組織開発を進めるに当たっては、人事部門がより主体的に関わっていく必要があります。まずは組織開発に関するセミナーや研修に参加し、その有用性や具体的な手法について学んでみてはいかがでしょうか。
参考:経済産業省 主催 経営競争力強化に向けた人材マネジメント研究会
「自ら考え⇒判断⇒行動」できる自律的人材の育成、経営戦略を実行するうえで必要な人材の階層別育成、階層やキャリアといった枠にとらわれず、企業が業績向上を実現するために取り組む必要のある人材育成課題など、「人」と「組織」の問題を解くご支援をいたします。